令嬢は呟く
――ふぅ
踊り子は軽く息を吐き、
鉄扇についた血を払った。
踊り子の足元には
三体の獣人の死体が転がっている。
踊り子に傷らしい傷はなく、
その身についたものはすべて返り血だった。
踊り子はしばし獣人の死体を見つめると、
何事か呟き、
一節舞った。
獣人の体が青い炎に包まれる。
炎は死体を瞬く間に焼き尽くし、
踊り子は空を見上げた。
「お強いのですね。
びっくりいたしました」
隠れていた令嬢が踊り子に声を掛ける。
目の前で起こった血なまぐさいやり取りに、
令嬢が動揺している様子はない。
踊り子は令嬢の方を振り返り、
心配した様子で言った。
「大丈夫だった?
怖いとか気持ち悪いとかない?」
令嬢はにこやかに微笑んで答える。
「少しも」
踊り子は驚いたような、
呆れたような顔で令嬢を見つめた。
令嬢はスタスタと踊り子に近付き、
その隣に並んだところで、
聞き取れるかどうかという小さな声で囁いた。
「さすが『緋の舞い手』様。
炎も戦いの技も、お美しい」
「今、なんて?」
踊り子の表情が、
驚きと、怖れと、戸惑いが混ざった色に変わる。
しかし令嬢は何事もなかったように、
踊り子の横を通り過ぎた。
「おふたりの戦いも、
もうすぐ終わるご様子。
さ、参りましょう」
一人で歩いていく令嬢の後ろ姿を、
踊り子は呆然と見つめている。
「なぜ、その名を……?」
踊り子のそのつぶやきは、
夜の闇に溶けて消えた。




