文無し
当てが外れた。
そう思っていることがありありと分かる顔で、
詐欺師はテーブルに突っ伏した。
踊り子はすでに何杯目かのワインの追加を注文する。
少年は踊り子を制止しようと試み、
ぎろりと睨まれて沈黙した。
令嬢は事態がよく分かっていない様子で、
あいまいに微笑んでいる。
詐欺師の見立て通り、
令嬢は身分の高い貴族の娘だった。
しかし、現在家出中であり、
かつ、文無しであった。
実家から持ち出した金は
この町に辿り着いた時点で尽きたという。
詐欺師は落胆の長いため息を吐いた。
「お金も無くなって、
これからどうするつもり?」
踊り子がグラスを片手に問う。
「金が無けりゃ飯も食えねぇ。
野宿ができるわけでもねぇだろう?
完全に金が無くなるまで、
どうしてのほほんと旅を続けてんだよ」
八つ当たり気味に詐欺師が説教を繰り出す。
もはや営業用の態度はわずかも残っていない。
しかし令嬢は大して気にした風もなく、
右手を頬に当て、
こまりましたわね、どうしましょう、と
危機感のない返事をした。
踊り子が隣に座る少年を肘でつつき、
声を落として囁く。
「たぶんこの子、
放っておいたら野垂れ死ぬわね」
少年はうなずいて同意を示すと、
令嬢に向かって訊ねた。
「実家は?」
実家、という言葉に反応したのか、
詐欺師が勢いよく体を起こす。
瞳に生気が戻っている。
令嬢はにこやかに答えた。
「水の国の都ですわ」
詐欺師の瞳から再び力が失われ、
しおれるように額をテーブルにつけた。
「水の国の都がどうなったのか、
知っているのか?」
戸惑い気味に少年が問いを重ねる。
「カチカチに凍り付いてしまったとか。
お父様が風邪をお召しにならないかと、
少し心配しておりますのよ」
令嬢の顔は能天気そのもので、
少年は言葉を探し、
探すことを断念したように口を閉ざした。
「親戚ぃとかさぁ、
そぅいうのはぁぃないの?」
ろれつの回らない口で、
追加の酒を注文するついでに踊り子が言う。
詐欺師は再びガバッと身体を起こし、
すがるような瞳で令嬢を見つめる。
令嬢は思案気に中空を見つめると、
あっ、と短く声を上げた。
「山の国に、私の叔母の嫁ぎ先がありますわ」
これを逃せば後がない、
そんな切実さを込めて、
詐欺師は令嬢に詰め寄った。
「オレ達が山の国の、
その親戚の家まで送ってやる。
さあ行こう。
今すぐ行こう。
とっとと行こう」
もはや下心を隠そうともしない詐欺師の態度に、
踊り子はケラケラと笑い声をあげた。




