算段
黒服たちはまるで、
いくらでも湧いて出るかのように姿を現す。
開け放たれた扉を境界として、
少年は襲い来る黒服たちを斬り伏せる。
踊り子は炎で牽制し、
強引に侵入を試みる者たちを防いでいる。
しかし、
斬られた者はすぐに後方に送られ、
新たな者が前に出る。
一人でも侵入を許せば、
そこで戦いは終わる。
少年の体力は無尽ではなく、
踊り子の魔法も無限ではない。
終わりは、
間近に迫っていた。
「少し時間を稼いで。
大技を使うわ」
踊り子が少年にそう声を掛ける。
「そういうのは早めにやってくれ」
軽口を叩く少年の顔には、
疲労の色が濃く浮かんでいる。
少年はわざと剣を大きく振り、
黒服たちを牽制する。
踊り子は息を整え、
ゆっくりと舞い始める。
「マナよ。
万物の意味の器よ。
変質せしめよ。
我が身をして、
炎界の門となせ」
踊り子を青い燐光が包み、
その身体には複雑な紋様が浮かび上がる。
踊り子を中心に異界の風が渦を巻き、
異質で凶暴な気配が膨れ上がる。
そして、
踊り子が新たな呪を紡ごうと口を開いた、そのとき。
「待て!」
少年の鋭い静止が、踊り子の集中を破る。
異界の風は霧散し、
踊り子を包む燐光も消えた。
踊り子が少年のほうを見やると、
黒服たちが武器を捨て、
投降する姿が目に入った。
「何が、起きたの?」
呆然とする踊り子と少年の前に、
黒服たちをかき分けて、
詐欺師が姿を現した。
「おお、生きてたか。
なによりなにより」
驚き、目を丸くする二人に、
詐欺師は得意げに語った。
「生き延びる算段も無しに
敵に突っ込むのは馬鹿だっつったろ。
お前らには無理そうだったから、
オレがつけてやったんだよ。
その算段ってやつをさ」




