真実
魔物の軍勢が町に迫っている。
その報が届いたとき、
領主はためらいなく
町を捨てる決断をした。
住人に気取られぬよう密かに兵を集め、
速やかに逃亡の手筈を整えた。
だが、
領主が企てたのは
逃亡だけではなかった。
領主は逃亡の前に
自らの領民に対して
略奪を始めたのだ。
財を残せば敵を利する、
その建前の許に行われた略奪は苛烈を極め、
麦の一粒さえ残されることはなく、
逆らう者は容赦なく斬り捨てられた。
もともと領主にとって
領民は税を生み出す装置に過ぎなかった。
この地を離れるなら
領民など死に絶えて構わぬ。
領主とその兵は
持てるだけの財貨と食料を運び出し、
魔物に刃を向けることなく
その姿を消した。
黒騎士たちがこの町を訪れたとき、
人々は木の根をかじり、
雑草をゆでて飢えをしのいでいる有様だった。
「黒騎士様は
我らに食糧を分け与えてくださったのです」
町の状況を把握した黒騎士は
すぐさま食糧を手配し、
病の者には薬を、
怪我人には適切な治療を与えた。
領主に抗い
斬り捨てられて道端に転がる骸は
手厚く葬り祈りを捧げた。
その姿を目の当たりにした住人たちは
黒騎士に対して自ら
支配を受け入れることを伝えた。
「前の領主様は
我らのことを蟻ほども
気に掛けてはくれなかった。
でも
黒騎士様は違った。
黒騎士様が来てから、
我らの生活は楽になった。
幸せになったのです!」
男の言葉を聞いて
少年と令嬢が顔色を失う。
詐欺師が皮肉げに口を歪め、
踊り子が小さく息を吐いた。
「黒騎士様は
我らの話もきちんと聞いてくださる。
私は町の代表として
今は黒騎士様に仕えております。
どうか、
どうかご慈悲を!
黒騎士様は
勇者様の敵ではございません!」
地面に額をこすりつける男の身体は
緊張と恐怖に震えていた。
それはすなわち黒騎士を庇えば
勇者は自分を斬るのではないかと
男が怯えていることを示している。
呆然と男を見下ろす少年に、
「我らからもお願いする」
部屋の入り口から新たな声が掛かった。
「……先に帰っていろと
伝えたのだがな」
黒騎士が苦い声音で入り口の向こうを見る。
そこには豹頭の獣人を先頭に
無数の魔物たちが蠢いていた。




