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試練~詐欺師の場合~

――カツ


 不自然に靴音が途切れ、

 詐欺師はハッと息を飲み

 足を止めた。

 隣にいたはずの気配が

 消えた。

 詐欺師が素早く手を伸ばし、

 しかしその手が空を切る。

 苛立たしげに地面を蹴り、


「何のための護衛だ!」


 詐欺師はそう吐き捨てた。

 闇の向こうを睨む詐欺師の耳に

 声が聞こえる。


『その後、

 お姫様と騎士は

 どうなったの?』


 詐欺師は素早く短剣を抜き、

 声の聞こえた方向に視線を走らせ、


『騎士は生涯お姫様に仕え、

 よくお姫様を助け、

 国をよりよく

 豊かにしたそうですよ』


 新たに聞こえた声に硬直する。

 詐欺師の前に

 淡く自ら光を放つ

 青年の姿が浮かび上がる。


『結婚しないの?』


 不満そうな幼い少女の声。

 青年は困ったように頭を掻いた。

 それはまだ若き日に、

 何も知らずに笑っていられた

 詐欺師自身の姿だった。

 青年は目の前にいるであろう少女に

 優しく微笑み、

 闇に溶けるように消えた。


『わたくしを、守って。

 わたくしの騎士よ』


 再び聞こえた少女の声と共に、

 膝をつき剣を捧げる

 青年の姿が現れる。

 青年は顔を上げ、

 確信に満ちた表情で

『もちろん』と応えた。

 少女の震える心を支えるために、

 自らは決して揺らがぬことを

 示さねばならなかったから。

 詐欺師は青年から目を逸らした。

 青年の輪郭が揺らぎ、

 闇に溶けるように消えた。


『すべて、

 偽りだった!』


 また淡い光と共に

 姿を見せた青年は、

 剣を抜き、

 大きく振りかぶって

 虚空に叩きつける。

 剣は軽薄な音を立てて折れ、

 刃が地面に落ちた。


『何が王、

 何が貴族、

 何が、

 騎士だ!』


 青年は天を仰ぎ

 憤りを叫ぶ。


『ただの詐欺師ではないか!』

「……そうだ」


 詐欺師が重く口を開いた。

 青年は詐欺師に目を向ける。


『守る価値など無かった!

 正当な支配者も!

 高貴なる血筋も!!』

「そうだ」


 青年は糾弾するように詐欺師を睨む。


『剣を捧げた下らぬ誓いも!!』

「――!」


 詐欺師は目を見開き、

 青年を見つめる。

 青年は奇妙に落ち着いた様子で

 詐欺師を見つめ返した。


『何を驚く。

 そう思えばこそ、

 お前は国を出たのではないか』


 そうだ。

 己の信じたすべてが色褪せたからこそ

 詐欺師は剣を捨て国を出た。

 しかし今、

 当時のすべてを否定する青年に

 詐欺師は同意できなかった。

 時間が見える景色を変えた。

 あの時見えなかったものに気付いた。

 詐欺師はどこか呆れたように笑った。


『何を笑う』

「てめえのバカさ加減をさ」


 青年は怪訝そうな目を詐欺師に向ける。

 詐欺師はクククと喉の奥で笑っている。

 詐欺師は少年の言葉を思い出していた。


『あんたは、

 女王を救うだろう?』


 見事に見透かされたものだ。

 失望を言い訳に

 目を逸らしていたものがあった。

 少年の目は

 それをまっすぐに捉えていたのだろう。

 詐欺師は笑いを収め、

 穏やかに言った。


「王も貴族も騎士も、

 ただの詐欺師。

 今でもそう思ってるさ。

 だが」


 闇の中に

 一人の少女の姿が浮かび上がる。


『わたくしを、守って』


 心細げな震える声に

 青年は振り返り、

 半ば呆然と

 少女を見つめる。


「オレがあの時誓ったのは、

 姫を守ることじゃない」


 青年の姿が

 末端から光の粒に変わり、

 風に散る。

 少女はようやく安どしたよう微笑み、

 闇に溶けて消えた。

 詐欺師はふたりがいた闇を見つめ、

 つぶやくように言った。


「あの時オレは、

 貴女(・・)を守りたいと、

 思ったんだ」


 風の流れるはるか先に

 (しるべ)のように小さな光が灯る。

 光は徐々に大きくなり、

 闇を覆い、

 詐欺師の身体をも覆った。

 詐欺師が手をかざし

 眩しそうに目を細める。

 そして、

 世界が白に染まった。

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