無明の道
塔の内部は
窓もないにも関わらず
ほのかに明るく、
現実感を奪うような
浮遊感がある。
壁は継ぎ目なく
磨き上げられたような光沢を放ち、
外壁の風化具合とは対照的だった。
天井は高く
見上げれば吸い込まれそうな錯覚を覚える。
壁も仕切りもなく、
たった一つの空間の中央には、
訪れる者を睥睨するように
巨大な風竜王の石像が
入り口を見下ろし、
閉鎖空間でありながら
かすかに風が流れていた。
女王は胸の前で手を握り、
緊張した面持ちで前に進む。
どういう造りか、
位置を変えても風竜王の石像の目は
常に訪問者を捉えているように見える。
詐欺師は油断なく左右に気を配りながら
女王の隣に並んだ。
塔に入ることができるのは
試練を受ける者と護衛一名のみ。
それは塔の中が決して
安全な揺り籠ではないことを示唆している。
女王は石像の正面、
もし石像が動いたならば
その爪、その牙で身を裂かれる位置に立ち、
右手を掲げ、
震える声で言った。
「風竜王よ。
谷の国の守護者よ。
汝の加護を受けんがため、
我は汝の試練に挑まん。
試練の道を開き給え。
汝の加護に値すると証しする
機会を我に与え給え」
女王の祈りに応えて
風竜王の石像の目が
深緑の光を帯び、
塔がかすかに震え始める。
二人の顔に緊張が走った。
詐欺師は周囲を見渡し
膝を軽く曲げて身を低くした。
塔内に吹く風が徐々に強さを増し、
女王の髪を弄ぶ。
そして、
――ゴゴゴゴゴ
重く苦し気な振動と共に
石像はその身を左右に分かち、
地下へと続く階段が現れた。
風は行き場を見つけたように
こぞって地下へと流れていく。
この地下へと続く階段こそが
試練の道。
その奥には
覚悟なき者を拒むような無明の闇が
ぽっかりと口を開けている。
「……行きましょう」
自身に覚悟を促すように
女王がつぶやく。
詐欺師が先導し、
二人は先の見えぬ闇の中に
足を踏み入れた。




