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冷笑

「何のことはねぇ」


 詐欺師は皮肉げに口の端を歪ませる。


「オレは生まれてから今まで、

 ずっと詐欺師だったってだけの話さ」


 面白くもねぇ話だったろ? と

 詐欺師は乾いた笑いを浮かべた。

 重苦しい沈黙が広がる。

 最初に口を開いたのは

 令嬢だった。


「王とは、

 貴族とは、

 そのようなものではありません。

 民なくして国はありえない。

 民を守り、

 秩序を打ち立てることこそ

 王の責務であり、

 貴族の役割なのです」

「どうかな?」


 詐欺師の瞳には

 深い不信と失望がある。


「民のため、

 秩序のため、

 未来のため。

 もっともらしい理由で着飾って

 支配者はいつでも少数者を、

 いや、

 自分たち以外の誰かを

 切り捨てる」


 嘲笑を浮かべる詐欺師を

 令嬢は鋭い視線で睨んだ。


「人々の上に立つ以上、

 大局を見るのは為政者の務め。

 全体を守るために

 厳しい決断をしなければならないことはある」

「それは

 お前たちの無能の責任を

 弱者に押し付けているだけだろう?」

「違うっ!」


 詐欺師の酷薄な冷笑は

 令嬢をひどく苛立たせているようだった。

 めずらしく感情を顕わにした令嬢に

 踊り子と少年は驚きを示した。

 詐欺師はなおも言葉を続ける。


「どれほどの飢饉が起ころうと

 農民が税を免れることはない。

 それなのに

 王が民を守るという責務を

 免れる理由は何だ?

 なぜ私が(・・)犠牲にならねばならないのか、

 その理由をお前たちは犠牲者に説明しない。

 できないからだ。

 犠牲者が犠牲になる合理的な理由などない。

 お前たちは恣意的に生贄を決めている。

 自分たちの都合によって」


 令嬢の顔が紅潮し、

 身体が小刻みに震える。

 火のようなその双眸を

 詐欺師は平然と受け止めている。


「お前たちが守っているのは

 民でも国でもない。

 お前たち自身だ。

 民なくして国はない、

 その通りさ。

 だからお前たちは、

 自分たちの存続に必要な限りにおいて

 民を守る。

 役に立たなければ、

 都合に合わなければ、

 簡単に殺すのさ。

 大したモンだよ。

 民を騙し、

 自分も騙して、

 詐欺を詐欺と気付かせない仕組みを

 お前たちは作ったんだから」

「ちょっと、

 言い過ぎよ!」


 見かねた踊り子が制止の声を上げる。

 詐欺師はおどけたように肩をすくめた。

 令嬢は感情を整えるように深く息を吐く。

 少年は詐欺師に言った。


「俺には女王は、

 そんな支配者とは違うように見える。

 彼女は少なくとも、

 良い王になろうと

 努力しているんじゃないか?」


 詐欺師は鼻を鳴らし、

 冷たく言い放った。


「悪いが

 オレは王だの貴族だのに

 何の期待も抱いちゃいない。

 良い王になるってんなら

 喜ばしいことさ。

 だが、

 賢王だろうが暗君だろうが

 オレには関係のない話だ。

 女王に肩入れするのは構わないが、

 それをオレにまで求めないでもらおうか」


 どちらかと言えば

 少年の前ではある程度

 自身の意見を抑えていた詐欺師が、

 はっきりと少年の言葉を否定したことで、

 少年は言葉の続きを失って口を閉ざした。

 詐欺師は話は終わりと言わんばかりに、

 天幕の入り口を指し示した。


「やるべきことはやってやる。

 だが感情まで押し付けるな。

 女王を風の塔に連れていく。

 オレがするのはそれだけだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、詐欺師も若いなぁ、と。 ふふ♪でもキラいではありませんよ♡
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