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サギシ

 王家のプロパガンダによって

 民衆の支持を失った蒼爪公は

 急速にその勢力を失っていく。

 離反者が相次ぎ、

 他の公爵家も

 潮が引くように距離を置いた。

 蒼爪公のあらゆる釈明は

 もはや意味を持たず、

 和解の提案すら一蹴された。

 公都を騎士団に包囲された蒼爪公は

 自ら命を絶ち、

 建国以来の名門は

 ここに絶えた。

 中心を失った五爪公家は

 王家に改めて忠誠を誓い、

 長く谷の国を苦しめた権力闘争は

 幕を閉じることとなった。

 ようやく平和が訪れた安堵に

 国中が包まれる中、

 彼は独り、

 調べ始めた。

 なぜ王家は偽の情報を信じたのか。

 そしてなぜ、

 事後にそれを偽情報だと見抜いたのか。

 なぜ山賊討伐に王室警護隊が派遣されたのか。

 案内役の男の最期の言葉、

 「話が違う」とはどういう意味か。

 そして彼は知る。

 この国の真実を、

 自分自身のどうしようもない愚かさを、

 嫌というほどに。




 案内役の男は蒼爪公の間者だった。

 しかしその正体は見破られ、

 男は懐柔されて蒼爪公を裏切った。

 蒼爪公の企みは逐一報告され、

 王家は山賊の噂が嘘であることも、

 山賊の拠点とされた村が

 ただの山村であることも、

 あらかじめ知っていた。

 知ったうえで

 王は王室警護隊に討伐命令を下した。

 王は長く続く五爪公家との争いに倦み、

 終止符を打つ機会を窺っていた。

 自らの権力欲のために

 無辜の民を虐殺する。

 それほど分かり易い『悪』を

 蒼爪公は自ら差し出した。

 王はすべての証拠をそろえた上で、

 騙されたふりをしたのだ。

 王室警護隊に勅令を下したのは、

 彼らが当地の地理に疎く

 山村が山賊の拠点ではないことを

 気付かれぬためだった。

 彼らは王家と五爪公家の謀略に

 いいように利用されただけだった。

 彼は何も気づかず、

 何の罪もない者を手に掛けた。

 違和感を覚えながら。

 おかしいと感じながら。


 正統の王を守り、

 奸臣を討つ。

 それは幼き日に憧れた

 騎士道物語の英雄の姿だった。

 しかし、

 正統の王などいなかった。

 王とは自らの欲のために

 民を蔑ろにし、

 にもかかわらず

 民の庇護者を騙る

 詐欺師だった。

 貴族とは民を蹂躙して恥じず、

 にもかかわらず

 民を導く高貴なる血統を自称する

 詐欺師だった。

 そして騎士とは、

 そんな詐欺師どもを守り、

 飾りたて、

 偽物をあたかも本物に見せかける

 詐欺師だった。

 自らの信じた道は

 幻だった。

 詐欺師同士が騙し合いをする。

 ただそれだけのことだった。

 正義などどこにもなかった。

 英雄などいなかった。

 彼は、

 詐欺師だった。


 腰の剣を抜き、

 彼は憤りと共に

 石壁に叩きつけた。

 剣は半ばから折れ、

 刃が軽薄な音を立てて

 地面に落ちる。

 折れた剣を放り、

 鎧を脱ぎ捨て、

 勲章を踏み砕いて、

 その日、

 彼は谷の国から姿を消した。

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― 新着の感想 ―
[一言] さぁぁぎぃぃしぃぃぃぃっ! これはきつい…… いくら末姫がかわいくてもしっぽ振れるわけがないですね……
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