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騎士道

 詐欺師は谷の国の

 下級貴族の次男として生まれた。

 所領を持たぬ家の嫡子でない男子が

 選ぶことのできる未来は多くはなく、

 彼は幼い頃から

 騎士となって武功を上げることを

 期待されて育った。

 彼自身もまた、

 騎士道物語の英雄に憧れ、

 貴人に剣を捧げることを夢見て

 研鑽を積む。

 彼は剣に非凡な才能を示し、

 小姓から従騎士を経て、

 十六の若さで騎士となった。


 当時の谷の国は

 建国以来の名家で

 五爪公家と呼ばれる

 五人の公爵たちと、

 王家との対立が先鋭化し、

 激しい暗闘を繰り広げていた。

 王都の夜には血の雨が降ると言われ、

 夜明けには両陣営の誰かが死体となる。

 そのような情勢にあって

 騎士に求められるものは第一に

 『強さ』であったことが、

 若き騎士には幸運となった。

 王家に仕える騎士として

 王都の治安を守り、

 公爵派との戦いで功を重ねた彼は、

 その出自に比してあり得ぬ速さで階梯を昇り、

 二十にして王室警備隊の隊長に任ぜられる。

 正統の王を守り、

 奸臣を討つ。

 それは幼き日に憧れた

 騎士道物語の英雄の姿そのものだった。


 公爵派の刃は

 王のみならず王妃、

 王子王女にも向けられ、

 心休まらぬ日が続く。

 特にまだ幼い末姫は、

 ひりつくような緊張に晒される日々に

 深く心を傷付けられていた。

 王室警護隊長となった彼は

 怯える末姫に、

 笑い話を、

 とんでもない大ホラを、

 そして

 自らがかつて心躍らせた

 騎士道物語を語る。

 美しき姫君の苦難を

 若く忠義な騎士が救い、

 『悪者』は倒され、

 平和が訪れ、

 民の祝福の声の中、

 姫と騎士は結ばれる。

 彼が語るそんなおとぎ話を、

 末姫は目を輝かせて聞いていた。


 王家と公爵家の争いは

 いよいよ激しさを増し、

 その刃は末姫の間近に迫る。

 王の不在を狙い

 末姫を狙った暗殺者は

 王室警護隊によって阻止されたが、

 その戦いの中で

 若い騎士が一人、

 命を落とした。

 王と共に帰還した彼に

 末姫は震える声で問う。


「おまえも、死ぬの?」


 彼は片膝をつき、

 微笑んで答える。


「死にませぬ」

「うそ」


 末姫は信じられぬと

 首を横に振る。

 ならば、と

 彼は立ち上がり、

 腰の剣を抜くと、

 水平に捧げ持ち

 再び膝をついた。


「この剣を貴女様に捧げ、

 今ここで誓いを立てましょう。

 我らは今より貴女様の騎士。

 捧げし剣は我らの誇り。

 我ら

 姫より前に死ぬることなく、

 姫より後に生くることなし」


 彼の後ろに控える

 警護隊の隊士たちが

 一斉に剣を抜き、

 天に掲げて唱和する。


「捧げし剣は我らの誇り。

 我ら

 姫より前に死ぬることなく、

 姫より後に生くることなし!」


 末姫は彼の捧げ持つ剣に手を触れる。

 そして未だ震える声で言った。


「わたくしを、守って。

 わたくしの騎士よ」


 隊士達が「応っ!」と声を上げ、

 彼は「もちろん」と応じた。

 末姫はようやく安どしたように

 彼に微笑みかけたのだった。


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