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二択

 翌朝、

 女王は自ら軍馬に乗って、

 騎士団の一隊を引き連れ

 風の塔へと向かった。

 風の塔まではおよそ三日。

 少年たちにも馬が与えられ、

 王室警護隊と共に

 女王を守る。

 女王はしばしば

 詐欺師に視線を向けたが、

 詐欺師は不自然なほどに

 女王を見ようとしなかった。

 女王の落胆は

 側で見る者が気を揉むほどに深い。

 踊り子は呆れた目で詐欺師を見つめ、

 大きなため息を吐いた。


 一日目の行程が終わり、

 一行は野営の準備に取り掛かった。

 女王の疲労は激しく、

 今は天幕の中で休んでいる。

 本来であれば

 舗装された道を馬車で移動する身分であろうに、

 臣下に武威を証しせんがために

 女王は無理を重ねている。

 騎士団を引き連れているのも、

 女王を守るためではなく

 女王が女王たるにふさわしいことを

 認めさせるためだろう。

 値踏みする視線は常に

 女王に突き刺さっていた。

 女王の天幕の入り口では

 詐欺師が小声で

 将と話している。

 騎士団に囲まれていることは

 女王の安全を保障しない。

 後ろから刺されることを

 詐欺師は警戒しているようだった。

 将がうなずき

 配下の騎士に命令する。

 命を受けた騎士は

 いずこかへと走り、

 詐欺師は大きく伸びをして

 将に別れを告げると、

 少年のいる天幕に戻った。




「もうあんたは女王と結婚すればいい」


 天幕に入るなり、

 中にいた踊り子が詐欺師に言った。

 詐欺師が半眼で踊り子をにらむ。


「なんでお前がここにいる?

 お前の天幕はここじゃねぇだろ」


 詐欺師の主張はしかし、

 踊り子の隣にいた令嬢にかき消される。


「もう女王と結婚すればよろしい」

「なんなんだそれは!

 何が言いてぇ!」


 詐欺師の苛立ちに顔を背け、

 踊り子と令嬢は少年を見る。

 少年はためらいを表し、

 屈服したように口を開いた。


「……結婚すればいい」

「……お前までか」


 詐欺師が肩を落とし、

 少年はすまなさそうに視線を逸らせた。


「明らかにおかしいでしょうが、

 あんたの女王に対する態度は。

 女王の気持ちは分かり切ってるんだから、

 あとはあんたが応えるだけじゃないの」


 踊り子がまなじりを吊り上げ

 詐欺師に迫る。

 詐欺師は大きく憤りをため息に吐き出した。


「……そういうんじゃないんだよ。

 オレと殿下は」

「ならばどういうものなのでしょう?」


 令嬢が小さく首を傾げる。

 詐欺師は冷たく令嬢を見据えた。


「それを説明する必要はないね」


 令嬢は薄く感情の読めぬ微笑みを浮かべる。

 詐欺師と令嬢の間に奇妙な緊張が生まれた。

 わずかな沈黙が流れ、

 それを破ったのは少年の問いだった。


「女王は支えを必要としている。

 あんたには女王を支えることができるだろう?

 どうしてそれをしない?

 恨んでいるのか?

 彼女を」


 詐欺師は少年に顔を向ける。


「それを知ってどうする?」

「どうもしない。

 ただ、

 あんたらしくないと思っただけだ」


 少年は詐欺師を見つめる。

 詐欺師は小さくため息を吐いた。


「……分かってんだよ。

 八つ当たりだってことは」


 押し切る機会と捉えたのか、

 間髪を入れずに踊り子が言った。


「言え。

 言わないなら女王と結婚しろ」


 何の二択だよ、

 そう苦笑して、

 詐欺師は遠くを見るように

 中空を見上げた。


「聞いても面白いもんじゃないぜ?」

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