依頼
城の庭園をゆっくりと歩きながら、
踊り子は空を見上げていた。
谷底にあるこの都からは
空がずいぶんと遠く見える。
星々の輝きさえ遠いこの場所でも
咲く花があることは、
奇跡と呼ぶにふさわしいのかもしれない。
「このような場所で何を?」
背後から声を掛けられ、
踊り子は振り返る。
そこには
踊り子たちを都に連れてきた
将の姿があった。
「白々しいわね。
用があるのはそちらでしょう?」
「おや、
気付かれておりましたか。
これは参った」
わざとらしい将の様子に
踊り子は鼻を鳴らす。
部屋を監視していた兵を遠ざけ、
踊り子を外に出るよう仕向けたのは
このとぼけた顔の男に違いなかった。
「ご用件は?」
不信感を全身で表し
踊り子は将を軽くにらむ。
将は大げさな身振りで
芝居じみたセリフを吐いた。
「無論、
この美しい星空を
貴女と語り合いたいと――」
「火傷がしたいというのなら
お望みどおりにしてあげるわよ?」
踊り子の指先に炎が灯る。
将は降参と言うように
両手を挙げた。
「隊長殿を
説得していただきたく」
表情を正し、
将は言った。
詐欺師は今
女王に私室に召されている。
女王は詐欺師に
帰参を打診するつもりだが、
詐欺師はそれに応じないだろう。
将はそう言った。
「はっきり申し上げると、
陛下に真に忠誠を誓うものは
この城内に数えるほどしかおらぬ。
特に武官がひどくてな。
この国難にあって
小娘が何の役に立つと、
口元も隠さずに
言うものまでいる」
軽い口調の奥に
滾る怒りがある。
踊り子は探るような目を将に向けた。
「貴方はどうなの?」
問われた将のまとう空気が変わる。
軽薄さが鳴りを潜め、
譲れぬ芯が姿を現す。
「我ら、
かつて幼き陛下に剣を捧げし者。
捧げし剣は我らの誇り。
我ら
陛下の後に死ぬることなく、
陛下の後に生くることなし」
その瞳に偽りの色はない。
踊り子は小さく笑みを浮かべた。
「かつて王室警護隊として
王族の皆様にお仕えした者たちは、
今は陛下の手足として各地に散っている。
だが、
足らぬのだ。
陛下の傍らで
陛下をお支えする者が足らぬ。
そしてそれができるのは
隊長殿を置いて他にないのだ」
踊り子は肩をすくめ、
空を見上げた。
「私の言うことなんて
聞くとは思えないけど」
その言葉を肯定と受け取り、
将は喜びの色を浮かべた。
「有難い!
心寄せる女性の言葉とあらば、
隊長殿も聞く耳を持つに違いない!」
心寄せる?
違和感のある言葉に、
踊り子は眉を寄せた。
将もまた、
何かを間違えた予感に首をひねる。
「貴女は、
隊長殿のよい人では?」
「……は?」
踊り子がぽかんと
間の抜けた顔を晒す。
その顔が徐々に紅潮し、
まなじりは怒りに吊り上がった。
「そんなわけあるかっ!」
星明りが細く降る
谷底の城の庭園に、
場違いな叫びが響き渡った。




