勇者の条件
「なんだったんだ、
いったい?」
騎士が去り、
少年は訳が分からぬ様子で
令嬢に問うた。
令嬢は冷めたハーブティに顔をしかめ、
少年に答える。
「あの方は、
『予言の勇者』が自分たちの敵かどうかを
確かめにいらしたのです」
少年は首を傾げる。
令嬢は覚えの悪い生徒に教えるように
ゆっくりとした口調で言った。
「私たちを都に連れてきてくださった方が
仰っておられましたでしょう?
女王に従わぬ者がいると。
先ほどの騎士は
その従わぬ陣営の方なのです」
真に勇者であるのか、
勇者でなければ女王の護衛は許さぬ、
それらはすべて建前に過ぎぬのだと
令嬢は言った。
「あの方が真に問いたかったのは、
『予言の勇者』が女王個人に味方するのか、
ということです。
勇者が個人を支持すれば、
その個人に敵対する者は
勇者の敵でもあることになるでしょう。
彼にとってそれはとても
都合の悪いことなのです」
少年は腕を組み、
理解できぬ様子で顔をしかめた。
令嬢はさらに言葉を変えて説明を続ける。
「もしあなたが
『女王こそこの国を統べるにふさわしい』
と言ったとしたら、
女王は『勇者が認めた女王』になります。
『予言の勇者』を信じる者たちにとって、
勇者が認めたという事実は
特別な意味を持つでしょう。
そうなれば、
女王以外は
『国を統べるにふさわしくない』
と認定されるに等しい。
玉座に座りたいと願う方々にとっては
許せぬことでしょうね」
「だから、
そんなことをするかどうか
わざわざ確かめに来たのか?」
令嬢はうなずく。
少年は呆れたように言った。
「そもそも、
俺は『予言の勇者』じゃない。
そう正直に言えばよかったんじゃないか?」
「それでは城を追い出されてしまいます。
陛下の護衛も外されることでしょう。
陛下とのお約束を破ることになってしまいますわ」
なるほど、と少年はうなり、
どこか困ったように言った。
今まで幾度も予言の勇者と呼ばれ、
明確に否定し損ねている。
「すっかり俺も詐欺師だな。
この国にいる限り
勇者を演じなきゃならないんだから」
令嬢は首を傾げる。
「何も演じる必要などないのでは?」
「でも、
俺は本物の勇者じゃない」
「そうでしょうか?」
令嬢の言葉を冗談と捉えたのだろう、
少年が笑い、
そして令嬢の真剣な目を見て言葉に詰まった。
限りなく透明な湖の底を思わせる瞳に、
強く光が宿っている。
「勇者とはただ
人々の光となって導く者。
出自も身分も関係ありません。
あなたに魔物と戦う意思と能力があり、
人々があなたを勇者と呼ぶなら――」
令嬢は少年を見つめる。
少年は呪縛されたように
目を逸らせずにいた。
「――あなたは、
勇者になるべきです」
令嬢の言葉が、
残酷な宣告めいて
部屋に広がった。




