女王
女王は感情を整えるように
深くため息を吐く。
ふざけた態度を装いながら
詐欺師はさりげなく
周囲に目を走らせた。
居並ぶ重臣たちは
詐欺師の態度に何の反応もない。
つまりこれが
谷の国の現状なのだ。
女王は臣下を
まるで掌握できていない。
詐欺師の瞳が
わずかな失望と
明確な諦念を宿した。
「風の塔に赴き
風竜王の試練を受ける。
供をせよ」
女王は再び表情を消し、
詐欺師に命じた。
詐欺師もまた
真剣な顔で女王を見据えた。
国を捨てた元騎士に
頼らねばならぬほど、
女王には信頼に足る臣下が
いないのだ。
「お断り申し上げる」
詐欺師のよく通る声が
謁見の間を渡る。
女王は目を見開き、
傷付いたように顔を歪ませた。
「私はもはや
陛下の臣にあらず。
命を受ける謂れはございませぬ」
女王の顔が青ざめ、
その手が小さく震えた。
見かねた将が声を上げる。
「お言葉ながら、
あなたは未だ騎士の位を
剥奪されてはおりませぬ。
かつて幼き陛下に捧げた
剣の誓いは失われてはおらぬ」
詐欺師は将を振り返り
冷たい眼でにらみつける。
「出奔した俺は
罪人なんじゃなかったか?」
「はて、
何の話でしたか?」
将はトボけた顔で視線を逸らせた。
詐欺師は怒りに顔を引きつらせる。
「聞いての通りだ。
お前は我が臣である。
ゆえに我の命に従う義務がある。
今一度命ずる。
風の塔に赴く我が供をせよ」
女王の声はわずかにかすれている。
もう一度断られることを
怖れているのだろう。
詐欺師は女王に向き直り、
深く呼吸をひとつすると、
はっきりと告げた。
「……お断り申し上げる」
女王が唇を噛む。
将が恨みがましい目で
詐欺師を見つめた。
「私は今、
予言の勇者の供をしております。
勇者の使命は人々を脅かす
魔物どもを討ち果たすこと。
我らの力は
この国から魔物を打ち払うことにこそ
使われるべきと存する」
予言の勇者、
という言葉に
廷臣たちがざわめく。
勇者の噂は谷の国にも
伝わっているらしかった。
都合よく『予言の勇者』の名を使う詐欺師に
少年は苦々しい顔を作る。
女王は玉座から身を乗り出し、
望みを託すように言った。
「ならば勇者殿!
試練を受ける我をお守りください!
風竜王の加護を受ければ、
魔物との戦いにも有利となりましょう!」
皆が一斉に少年を見つめる。
少年は気圧されたように
わずかに身を引くと、
「わかりました。
試練のお供をいたします」
と答えた。
詐欺師が
「あっ、この――」
と小さくつぶやく。
女王が安どの息を吐き
玉座の背に身体を預けた。




