1/289
旅立ち
➡はじめから
つづきから
村が、燃えていた。
平和な日常を引き裂く魔物の群れ。
あちこちで戦いの音が響く。
血の匂い。死の気配。
何が起こったのかさえ理解できぬまま、
少年は姉に手を引かれ、
森へ逃れた。
森の奥、大木の洞の中に、
少年は押し込まれる。
姉は少年に微笑み、
その額に手をかざした。
「マナよ。
万物の意味の器よ。
変質せしめよ。
大気をして
眠りをもたらす霧となせ」
少年は驚きに目を見開き、
そして深い眠りに落ちた。
姉は少年の頭を撫で、
優しく目を細めて呟く。
「あなたは、生きて」
少年が目を覚ました時、
森は静寂に包まれていた。
ぼんやりとした意識のまま、
洞から這い出した少年に、
死と腐敗のにおいが届く。
少年は村へと駆けだした。
そして少年の目に映るのは、
燃え残った家の柱と、
引き裂かれた家畜の死体と、
もはや原形さえとどめぬ、
愛しい人々の姿。
森に囲まれた、
かつて村であった廃墟に、
少年の慟哭だけが響いた。
弔いを終え、
少年は旅立つ。
その胸に、
復讐の火を抱いて。