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はいくまホラー劇場

隙間の人


公式企画 「夏のホラー2020」参加作品 その1


 

 え、怖い話ですか?

 んー、好きか嫌いかで言えば好きな方ではありますけど。

 でもいくら夏だからってこんな居酒屋で怪談話をするのは、ちょっとどうなのかなって思うわけですよ。

 いやいや、別に怖いから嫌っていうわけじゃないですよ。

 そんな人を怖がりだなんて決めつけないでくださいよ、もう。

 いーです、いーですよぉ。

 受けて立ちましょう。

 ささっ、我こそはと思う方からどうぞどうぞ。


 

 ……

 …………

 ………………



 はぁ、みなさんよく知ってますねぇ。

 でもほとんどが創作や噂話……ですよね?

 そうだといってくださいよ! 今日は家族が誰もいないんですよ。

 いや、コワナクナイシ、家中の電気点ければ大丈夫だし。

 むぅ……、それで言い出しっぺのはいくまさんは何かないのですか?

 え? 取って置きの恐怖体験話がある?

 ほーほーほー?

 いやに自信満々ですねえ。

 これでしょぼい内容だったら今日のお勘定ははいくまさんが全部持つってことで!

 はい、けてーい!

 ではでは、どぞどぞ。


「これは友達の友達から聞いた話……、とかどこぞのサイトで拾ってきた話じゃないぞ?

 実際に俺が体験した話なんだ。

 関西で行われたイベントがあってなあ。

 俺も参加するために高速バスを使ってU駅に着いたんだ。

 お前等、高速バスを使ったことはあるか?

 一応車内にトイレは設置されているんだが、俺が搭乗した便は深夜便だってこともあってちょっと使用しにくかったんだよ。

 みんな寝てたし。

 そんなわけでさあ、到着時間が早朝ってのも合間って放水活動は準備万端になったわけだ。

 初めて訪れた駅なうえにダンジョンなんて言われるくらい広くて複雑な駅だろ?

 ちょうどリニューアル工事もしていてなあ、放水場が見当たらなくて。

 で、ちょっと奥まった場所にある放水場にたどり着いたんだ。

 あー、知ってるかと思うが一応、紳士の放水場は大と小が別れていてなあ。

 その放水場は小が5つ並んでたんだ。

 駆け足ぎみに入ったはいいものの、一番奥の放水場に先客がいてな。

 普通なら放水場に対して正面を向いて放水するんだが、その人は斜に構えて俯き気味に壁の隅をみてるんだよ。

 俺はここで違和感を感じたんだが、ポンプからの圧が限界で放水しないとまずい状態だった。

 さすがに隣に並ぶのもアレなんで一つ開けて真ん中の放水場で放水を開始したのさ。

 そしたら先客さんがな、ガクガクと震え出したんだよ。

 あれ? 何かの発作かな? 大丈夫かな? なんて思って、思わず声を掛けちまったんだ。

 あの、大丈夫ですか? ってな。

 そしたらその人、ぐるんって擬音が聞こえそうな勢いで首を振ってこっちを見るんだよ。

 血走ったような目というか、充血してたというか。

 で、じ~~~~っと俺を上から下へとみるように目線が動いてなあ。

 その目がほんとに気味悪くて、声を掛けたのは失敗だったなあって思ったよ。

 さっさと放水すませようと目線を正面に向けようとしたときにな、気がついちまったんだよ。

 というか見えちまったんだよ……。

 その人がこっちを向いた時に体も少しこちらを向いたんだろうね。

 その人がなぜ震えていたのか解っちゃったんだよ。


 ……その人、筒先……握ってたんだよ……。


 理解出来た瞬間、放水は止まっちまってさ。

 手も洗わずに脱兎のごとく駆け出したよ。

 ……これが俺の体験した取って置きの恐怖体験だ」





 ……ん?

 いやいやいやいや、はいくまさん。

 下ネタかよ!

 貞操の危険を感じたって、そんなの私たちなんか『真夏のコートさん』で頻繁に感じますよ!

 もう、折角みんなが怪奇話でいい感じに場が整ってきてたのに!

 ほんとに変態ですね。

 ……なによろこんでんですか。

 実ははいくまさんが先客のほうだったんじゃないんですか?

 それはない? ほんとかなあ?

 え、そこまでいうなら私はどうなんだって?

 いやさすがに露出趣味は……あ、怖い話の方ですか、そうですよね。

 アハハハハ。

 んー、そんなに怖い話じゃないので期待されても困るんですが。

 ああ、ラストオーダーですか。

 じゃあ私の話がトリになっちゃって申し訳ないんですね。

 うん、そんなに怖い話じゃあないんで気楽に聞いてくださいよ。

 どこにでもある話ですよ。


 そう、どこにでも。



「実は私、電車が苦手なんですよね。

 交通手段としてはとても便利なので使わざるを得ないのが実状なんでちょっと憂鬱なんですけど。

 うちの田舎とちがって都心の駅って増改築? 改修が多いじゃないですか。

 まあそれが原因なのかわからないんですけどもね。

 たまーに電車の乗車口とホームとの間が開いてる場所があるでしょ?

 始まりはそこだったんですよねー。

 駅員がアナウンスで「乗り降りの際ご注意ください」なんていうものだから、私ちょっと不安になって下を確認しながら降りてたんですよ。

 隙間が開いているっていっても、気合いをいれて飛び越さなければいけないほど離れているわけじゃないでしょ?

 そのうち慣れてきたというか、気にしなくなったんですがねえ。

 ……あるとき歩幅が合わなくて不味いかな?って、ふとホームと電車の隙間に目をやったんです。

 そしたら、その隙間からこっちを見てる目と目が合ったんですよ。

 え、やだ!? 整備士さんが下から覗いているの? 覗き!?

 って思って直ぐ窓口に抗議したんですよ!

 いやー、若かったな。

 いえいえ、もちろん今も若いですよ! ピチピチですよ!

 まあそれはともかく。

 駅員さんを連れだって現場にいったんですよ。

 そしたらどう見ても……


 人間が入れる隙間が存在してなかったんですよね……。


 不思議ですよねえ。

 まあその時はひたすら頭を下げて終わったんですが。

 で、それからですよ。

 乗り降りのときの隙間から視線を感じるようになったのは。

 まあなったというか、その……それ以後も何度も目が合うんですよね……。

 最初は隙間の広い駅だけだったんですけど、それこそ1センチくらいしかない駅でも隙間をみると目が合うんですよ。

 やっぱり気持ち悪いじゃないですか。

 直ぐに視線を外すようにしてたんですけどね。

 いつだったかなあ?

 なんらかの原因で途中駅で運行が止まっちゃったんですよね。

 その時扉が開きっぱなしだったもので、よせばいいのに隙間に目がいっちゃったんですよ。

 案の定目はあって、視線が合っちゃって。

 直ぐに反らせばよかったんですが、しばらく見つめあっちゃったんですよ。


 いやいや、恋とかじゃないし!

 始まらないから!

 むしろ恋が始まるほうがよかったというかなんというか……。


 その時ね、耳元で声がしたんですよ。

 なんというか知っている人のような声だったような、いやはや全く知らない人の声だったような。

 男のような女のような……。

 ともかく声が聞こえたんですよ。


 『オマエジャナイ』


 って。

 それからですねー。

 目が合う度にお前じゃないって聞こえるようになったのは」







 といった感じですねー、私の話は。

 皆さんの話に比べたら大したことない内容でしょ?

 どこにでもあるような話ですよ。

 あ、みなさん終電の時間は大丈夫ですか?

 私はもう過ぎちゃったんで今日はタクシーで帰りますよ。

 じゃ、本日ははいくまさんの奢りってことでえ~。

 ごちそーさまです!









 ああ、そういえば。

 今日みんなと電車から降りたときも、久しぶりに隙間の人と目が合ったんだよなあ。

 なんかあの時、何時もと違って嬉しそうな声でこう言ったんだよねえ。














 







『ミ~ツケタ』












 って。

 一体誰がミツカッタんだろうねえ?

 ミツカッタたら何がおきるんだろうねえ?

 まあ嫌がる私を電車に乗せるような人達だからねえ……














 ドウデモイイヨネ。




はいくまさんのおはなしは実話です。

マジで怖かったです。

20年ほど前の話ですが、現地民に話したら有名な発展場だといわれました。

ソンナンシランガナ。



「夏のホラー2020」には他にも参加してます。

その2「笑顔 あふれる 環状線」 Nコード /n7385gk/

その3「知らない着信番号」 Nコード /n0243gl/ (15日3時公開)

タイトル上にあるシリーズタグ「はいくまホラー劇場」より飛べます。


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― 新着の感想 ―
[一言] ハッテン場の話も隙間の話も怖かったです。別種の怖さでしたけど、身の危険を感じるという点では同じですね。
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