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丑三つ肝試し

作者: 苺林檎

 苺林檎です。

 夏暑いからとか暇だからって面白半分で肝試しに行かないでください。

 もう数年前の話になる。

 当時高校で仲の良かった3人と肝試しをすることになった。

 きっかけは些細なことだった。

 私を含むグループのリーダー格であった丈瑠が、「熱いから肝試しをしようぜ」と言ってきたのが始まりだった。

「肝試し?そんな事してどうするの?」

 どこかクールな外見を持つ紗耶香が聞くと、

「決まってるだろ。涼むんだよ」

と丈瑠が答えた。

「面白そうじゃん、それ」

 グループ一のお調子者の(つかさ)が乗ってきた。

「どうせ夏休みの間暇なんだし、一回くらいドーンと派手なのやろーぜ」

「派手な肝試しって何よ」

 二人のやり取りを尻目に、私は丈瑠に聞いた。

「それで、日にちは決まってるの?」

「おう、今日の深夜2時に集合だ」

 いきなりなことに、私は声を上げた。

「ちょっと!突然すぎるよ!明日とかならわかるけどいきなり今日って!それに2時って、遅すぎるよ!」

「こういう時は早めに行動することが大事なんだ。それに、今の時期暗くなるのは早くても7時くらいだろ。早くいっても雰囲気でねーだろーし、『草木も眠る丑三つ時』って言うだろ?」

 ここまで来たら何言っても聞かない。私は諦めて「わかったよ」だけ言うと、このことを伝えるため後ろでまだ言い争いをしている二人の仲裁に入った。

・・・

 深夜2時、待ち合わせ場所となっている橋の中央で待っていると、丈瑠と優香が来た。

「遅いわよ。特に丈瑠、あんたがこの時間に来いって言ったんじゃないの?」

「へへ、悪い悪い。つい寝過ごしちゃって」

「にしても、優香よくこれたわね。親厳しいんでしょ?」

「えぇ、何とか抜け出せたわ」

 てへっと優香が舌を出す。

「あれっ、宰は?」

「まだ来てないわよ」

「あいつのことだ、まだ寝てんだろ」

「どうする?もう少し待つ?」

 優香が聞くと丈瑠は腕組みをして少し考えると

「どうせあいつは朝まで起きねーだろ、早くいこーぜ」

 と腕を頭の後ろに組んで歩きだした。

 あたし達も彼の後に続いた。

・・・

 ■■■トンネル。数十年前に大事故があって以来、この地域で一番有名な心霊スポット。何でもその事故というのは大地震による土砂崩れで当時遠足でそのトンネルを通ってた園児や先生が巻き添えになったらしい。

 それ以来、面白半分でこのトンネルに入ると寂しがりの霊達にとりこまれる。

 なんていうネットなどの怖話とかでよくありそうな噂があった。

 でも、近くの老人や子供たちは一向に近づこうとしない。よほど信憑性があるのか。

 だが、そんなのはただの噂か大人達が子供に近づかぬようにと言ったデマがほとんどだ。そんなに怯える必要はない。

 そんなことを考えている内に、目的地へと辿り着いた。

 時間帯のせいか、ほかの場所より一層薄暗く感じる。

「そう言えば、なんでわざわざこんなとこ選んだの?ほかにも面白そうな心霊スポットあったはずなのに」

 あたしが聞くと、丈瑠がうーんとうなって答えた。

「おととい、ひっさしぶりに花音から連絡が来たんだよ。なんだろうなって見てみたら『今暇?』ってだけ書いてあって、『暇だぞ』って送ったら『面白いとこ紹介しようか?』って来てな。それがここってわけ」

 ちなみに花音は丈瑠の元カノだ。去年まで付き合っていたらしいのだが、花音のほうが束縛性が強く、うんざりして別れたのだそうだ。

「なんでそんな奴の言うこと信じるのよ」

「いやーあの時はほんとに暇だったからなー」

「ねえ、そんな事より、早く入ってみようよ。早くしないと、夜が明けちゃうよ」

 あたしたちのやり取りにかぶさるように優香が話した。

「そうだな。ここで食っちゃべっても仕方がねぇし、とっとと行こうぜ」

 そして、丈瑠を先頭に私たちはトンネルへと入っていった。

・・・

 トンネルの中に入って数分。

 中は外より暗く、石垣で作られただろうトンネルのあちこちにはひびが入っていた。

 どこかぬめぬめとした雰囲気で、どこからか水の滴る音が聞こえてくる。

 にもかかわらず、今のところ何も起きない。

 やっぱり噂か?

 気付くと出口にまでたどり着いていた。

 外はうっそうと草が茂り、近くにはぽつんと小さなお地蔵様が数体あった。

「なんだ、なにもねえじゃん。つまんねぇの」

「まっ、噂なんてそんなもんよ。ここも雰囲気以外は大したことなさそうだし」

「なんか、あっけなかったね…」

 優香が呟くと、丈瑠はくるりとトンネルの方へ向いた。

「さっとっとと帰ろうぜ。無駄な時間を費やしちまった。あーあ、今頃夢の中の宰がうらやましいぜ」

「ほんとにね」

 そんなやり取りをしながら、あたし達は来た時と同じ順序でトンネルの中へと戻っていった。

・・・

 トンネルに戻って暫く経った。一向に出口の見えない道を、あたし達は無言で歩いていたが、異様な空気に耐え切れず、丈瑠が口を開いた。

「なあ、このトンネル、こんなに長かったか?」

 丈瑠が持っていた懐中電灯で辺りを照らすが、トンネルの闇に飲み込まれるだけだった。

「気のせいじゃないの?」

「そんなはずない。確かにこんなに長くなかったはずだ」

 丈瑠の顔がどんどん青ざめていく。あたしも冷や汗を流していることが分かった。

「絶対何か変だ!こんなの…あれ?優香は?」

「え?嘘!どこ!」

 いつの間にか優香がいなくなっていた。

 どこかではぐれたのだろうか。いや、トンネルの中はずっと一本道だったはずだ。

「もしかしたら、さっきの出口に…」

「いや、さすがにそれはないだろ。一緒に入るの俺も見たし」

 あたしはさっきまで通ってきた道は振り返ったが、人がいる気配はなかった。

「ちょっとあたし戻って探しに行ってくる」

「おいよせ。ただでさえやばいのに無茶だって」

「あの子が戻ってこなかったらあたし達おじさん達になんて言い訳すればいいの?それにあの子を置いてくなんて友達としてできない。あんたはここにいて、すぐ戻ってくる」

 あたしは丈瑠の制止を振り切り、来た道を戻っていった。

・・・

 しばらくトンネルの中を探していたが、優香どころか出口すらも見つからない。

「優香ーどこにいるのー?返事してー」

 しかし声が反響するだけで一向に返事は帰ってこない。

「どこ行ったのよ…」

 あたしは込み上げる不安を押し殺そうと、辺りを見渡し声を上げながら歩いていた。

「ねぇ」

 不意に耳元で声がした。

 びっくりして声のする方を向くが誰もいない。

 ついに幻聴でも聞こえ始めたか…

「こっち」

 反射的にさっきとは反対側を向くと、5歳ぐらいの少年が立っていた。

 園児服を着ていて、幼稚園児特有の黄色い帽子をかぶっているが、なぜか全身泥まみれになっている。頬は痩せこけ、目は虚ろだ。

「…どうしたの?こんな場所で」

 思わず声をかけた。

「…待ってるの」

「何を?」

「僕たちを探してくれる人。ここに閉じ込められてから、ずっと待ってるの」

「どうして?」

「僕たち、ここを通ってたの。今日は遠足だったからうれしくて…しばらく地震続きだったからみんな張り切って…でもここを通ったら突然地面が大きく揺れて…そしたら上から土がたくさん流れてきて…大声で助けを呼びたかったけど口に土がたくさん入ってきて…それからずっとここで助けを待ってるの…」

 少年の目から黒い涙が流れてくる。

 今まで無表情だった少年が悲しそうな顔をした。

「ねぇ、お姉さん僕たちを助けに来たんでしょ?だからここにいるんでしょ?ほかのみんなはどんなに声をかけても怖がって誰も助けてくれないんだ。僕たちは助けてほしいだけなのに…ここは寒いよ、息をするのも苦しくて死にそうだよ…お願いお姉さん、僕たちを助けて…」

 あたしは少年の必至な願いに心を打たれた。

 なんて健気で可哀想なんだろう。

 彼らだって本当はただ助けが欲しいだけなのに、誰かがまるで厄介者みたいにこのトンネルから人を遠ざけた。

 なんと愚かで残酷なのだろう。

 あたしは自然と彼と同じ高さにしゃがみ、優しく語りかけていた。 

「ごめんね、あたしは貴方達を助けに来たわけじゃないの。でも大丈夫。一緒にここから脱出しましょ。近くにあたしの友人がいるの。そこで彼と合流して、このトンネルから出ましょう」

「本当?」

「ええ、あたしはあなたたちを見捨てたりしないから、安心して」

 優しく微笑むと、彼はぱぁっと笑顔になった。

「うれしい。ありがとう」

 すると彼の背後からいくつもの黒い影が出てきた。ほとんどが彼と似たような恰好をしているので、多分彼の仲間だろう。

 影の中には何人かの大人も混ざっていた。心なしか少し多いような気がする。

 まぁいいか。これからは一緒にここから出るんだ。

 モウサビシクナイヨ。

・・・

 紗耶香が優香を迎えに行ってから数十分が立った。

 何度も腕時計を確認するが、一向に帰ってこない。

「クソッ、まだ見つからないのか」

 忌々しげに舌打ちをする。

 こうなるんだったら優香を置いてでも帰るべきだった。いや、今帰れない状況になっているんだった。

 俺は壁によりかけ、紗耶香が行った方角を睨みつけた。

 ほんとは自称心スポを見物して帰るだけだったのに。これじゃ恐怖体験の思い出じゃねーか。

 そもそも幽霊なんて大人か怖がりの馬鹿が作った幻でしかないのに。

 なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねーんだよ。俺なんもしてねーだろ。俺はただ、夏の楽しい思い出と涼みに来ただけなのに。

「丈瑠」

 不意に耳元で声がした。

 驚いて振り向くと、優香が手を後ろに組んで微笑んでいた。

「おまっ…どこ行ってたんだよ!こちとら心配してたんだぞ!さっき紗耶香がお前を探しに奥へ行ったんだぞ!」

「フフッ…そういうとこ、ホント変わってないわよね。丈瑠」

「…は?お前…何言っ

「まっそういうところが丈瑠のかわいいところなんだよね」

「なんなんだよお前、さっきから!」

 そこで俺はあることに気が付いた。

 優香がここに来るまで一切の物音がしなかったのだ。いくらなんでもここはトンネルの中だから、普通は足音が響いて気付くはずだ。

 それにこいつ、どこから来たんだ?

 今こいつがいる位置は少なくとも入り口からか奥から回り込んでこなきゃいけない。

 だが入り口は全く見えないし、ここは俺達しかいないので当たり前だが誰かとすれ違うことすらなかった。

 そいつをまじまじと見ると、肌はまるで死人のように青白く、目はどこか虚ろだった。

「お前…優香じゃねえな…一体誰なんだ!」

 思わず大声を上げると、そいつはさっきと同じように微笑んだ。

「フフ…やっと気が付いた?…丈瑠」

 突然そいつの輪郭が歪み始めた。グニャグニャとアメーバみてぇな動きをして、見覚えのある人物へと変貌する。

「…お…おま…まさか…」

「久しぶりね、丈瑠」

「………花音」

 ぼろぼろの赤いワンピース。焦点のあっていない目。

 間違いない。花音だ。

 だがどうして?

 花音は隣町出身のはずだ。彼女が引っ越したのなら何か連絡が来るはずだ。

「なんで…てめえが…ここに…」

「ひどいわね、これもすべてあなたの為だというのに」

「俺の…為?」

 そして彼女は、恐ろしい動機を語り始めた。

・・・

 あなたから「別れよう」って言われた時はショックを受けたわ。だって最愛の人からいきなり切り離されたら誰だってそうなるでしょ?

 それだけじゃなく、あなたは私に何も言わずに引っ越すのだもの。ますますショックを受けたわ。

 もうあなたのいない世の中なんて生きていけない。

 だったら死のうと思って、自殺を試みたの。

 でも駄目だった。

 心のどこかに「まだ生きたい」っていう希望があったのかもね。なかなかできなかったの。

 いつもいつも死のうと思って我慢できずに声を上げて親に叱られて…

 だったら殺されようと思ったの。

 誰でもよかった。私を殺してくれる人なら。

 でも、そんな人、探そうとなるとなかなか見つからないものね。

 だから心霊スポットっていうところに行って死のうと思ったの。

 よく「行方不明」の人って大抵は死んでるでしょ?

 だから私もどうせなら行方不明って扱いになろっかな、って思って…

 そこがここ、■■■トンネルだったの。

 どうせ行方不明になるんだったら遠い方が見つかりにくいでしょ?

 そして私はトンネルの中へと入っていった…

 どうやらここ、噂の園児たちのほかにも闇に引かれた浮遊霊や私と同じような自殺志願者の霊がたくさんいるらしいの。

 だから私は簡単に死ぬことができ、邪気を取り込んでこうやって実体化できるようになった。

 それから少し経ち、トンネルの近くをあなたが通るのを見かけたの。

 遠くにいたけど間違いない。絶対彼だ。

 そう確信した私は、あなたをおびき寄せることにしたの。

 何故って?

 そりゃあもちろん、今度こそあなたと一緒に暮らすためよ!他にどんな理由があったと思うの?

 あたしはなんとかメールで貴方を呼び寄せることに成功した。

 でも他の女を連れてくるのは予想外だった。

 あなたは私だけのモノなのに。

 だから私は女の一人に化けてあなた達を見張っていたの。

 あとは簡単。閉じ込めて、女とあなたを切り離すだけ。

 そしたら簡単にあなた達は引っかかってくれた。

 あの女はどうなったのかは知らないわ。

 今頃他の奴らに取り込まれてるんじゃない?

 でもそんなことはどうでもいいの。

 これでもうあなたは私のモノ。

 どこにも逃げられず、誰にもとられることはない。

 ソウ、エイエンニ。

・・・

「…ふざけやがって…」

 すべて、踊らされていたのだ。

 肝試しの提案も、行先も、俺と紗耶香のその後ですら、全部このキチ〇イ女によって仕組まれていたのだ。

 だが、まだ希望はある。

 俺は花音に携帯のライトを当て、その隙に入り口ではなく出口の方向へと突っ走った。

 こいつは俺達を閉じ込めたと言った。

 だが具体的にどこを封鎖したのかは言っていなかった。

 だったら俺が一番行かない場所―トンネルの出口はまだ封鎖されていないはずだ。

 無茶苦茶な理論だが、ここまで来たら仕方がない。

 俺は藁にも縋る様な思いでトンネル内を走った。

 息も絶え絶えで、足が言うことを聞かなくなってきたとき、目の前に人影が見えた。

 一瞬、花音の仲間かと思ったが、すぐに違うと分かった。

 紗耶香だ。

 俺は最後の力を振り絞り、紗耶香に走り寄った。

「紗耶香!無事だったか!」

「…丈瑠?」

紗耶香がこちらに気付いた。よかった、これで俺達は出られる…

だが、紗耶香が顔を上げた瞬間、俺は凍り付いた。

紗耶香の目に、光が灯っていないのだ。

それだけじゃない。肌も花音と同じように青白くなっている。

「さ…紗耶香?」

「…丈瑠…ちょうどいいところに…あたし、彼らと一緒にここから出ることにしたの…」

「…彼ら…一体何の」

 ことだ、と言い切らぬうちに俺は息をのんだ。

 紗耶香の背後に、何体、何十体物の黒い影が蠢いていたのだ。

 紗耶香が何事もないかのように語り掛ける。

「彼らね…ずっと…寂しかったの…暗い土の中で助けを求めて、気付いてもらえたとしても見捨てられて…冷たい、苦しい場所でずぅっと…だからね…あたし、みんなと一緒にここを出ることにしたの。最初はこんなに多くはなかったけど…いろんなひと達がここから出たいって…だから仲間に入れてあげたの…ね…だから…いいでしょ…だって彼ら…可哀想でしょ……?」

 そう言って腕を俺の方に伸ばしてきた。

 指先が頬に触れた。

 冷たい、まるで氷のような生気を感じない腕だった。

「あ…ああ…」

 引き返そう、そう考えて踵を返そうとした瞬間、誰かが俺の両肩を掴んだ。

 耳元で、あの囁く声が聞こえる。

「ね?言ったでしょ?アナタハワタシノモノダッテ」

・・・

 遠くでやかましい音が聞こえてくる。

 すぐにそれが目覚まし音だということに気付いた。

 布団から手だけ出してそれを探り出す。

 それらしきものに触れると叩き壊さんとばかりに止めた。

 布団から頭を出し、今の時刻を見る。

 7時15分。出校日の癖のせいか、いつもの休日より早く起きてしまった。

 …ん?7時……?

 ………あ。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"‼‼‼‼」

 オレは飛び起きてすぐさま私服へと着替えた。

 どったんばったんと転げ落ちそうな勢いで降りてくるオレに、母ちゃんが怪訝そうな目でオレの方を見た。

「朝っぱらからうるさいね。一体なんなんだい?今は夏休みだろう?」

「か、母ちゃん!オレちょっと行ってくる!」

「朝からどこか行くとこでもあるのかい?まさか寝ぼけてるんじゃないだろうねぇ」

「友達と約束してたんだよ!」

 溜息をつく母ちゃんに目もくれず、お気に入りのハンチング帽をかぶると、玄関を飛び出し自転車にまたがってそのまま猛スピードで田舎道を駆けてった。

 あー絶対怒られるぞこれ。肝試し当日に遅刻(しかももう朝)だなんて最悪だ…。

 オレは後悔と不安と焦りに駆られながら自転車を漕いでいた。

・・・

 例の待ち合わせ場所に着いた時、向こうから人影が見えた。

 よく見てみると優香だった。

「おーい優香―」

 オレが手を振ると、向こうも手を振り返してくれた。

 優香が駆け寄ると、オレは橋に寄り掛かった。

「なんだ。おめーも遅刻したのか」

「いや、私の場合は親に見つかっちゃって…」

 優香によると準備をするところまでは成功したものの、いざ抜け出すときに音を立ててしまい、その時たまたまトイレに来てた父に見つかったのだそうだ。

「そのあと抜け出そうとしたことと肝試しに行こうとしたことでしこたま怒られてさー。今だって私が『友達が心配だから待ち合わせのところまで行く』って説得してようやくこれたんだから」

 そう言って優香は両手を上げて肩をすくめた。

「やっぱお前馬鹿だな」

「何よ、人のこと言えないくせに」

「何だと」

 そんなやり取りをしていたが、すぐに本題に入った。

「ところでさ、あいつらからは?オレ寝ててなんも連絡ねぇんだけど」

「さあ。私もあの後無理やり寝かされたから…」

 二人で腕組みをして考えていると、

「…ん?」

 やけに向こうに人だかりが多いことに気付いた。

 確かあの方向には肝試しのトンネルがあるはずだ。

 そういえば今日はやけにこの橋の人通りが多い気がする。

「ねえ、あそこって…」

 優香も気づいたようだ。

「行こう!」

オレは優香を後ろに乗せ、ペダルを漕ぎだした。

・・・

 人だかりを追ってみると、やはり■■■トンネルに辿り着いた。

 私は自転車から降りると、人ごみの一番前に出ようとした。

 だが、人ごみが二つに分かれるとその中から一人の老婆が現れた。

 年齢は80代ほどで、真っ白な着物を着ている。

 腰が曲がっていて普通のお婆さんに見えなくもないが、その雰囲気の異様さに圧倒した。

 そのお婆さんが、みんなに向かって力なく首を振った。

「駄目じゃ。ギリギリ入れるところまで進んでみたが、彼らの気配は感じなかった。もはや彼らは、あちらの住人になってしまった。助けようにも助けられん」

 そう言うと、みんなはどこか落胆したような声を上げると、それぞれ散っていった。

 何が何だかわからず茫然としていると、お婆さんがこちらに気付いた。

「あんさんらかね、ここに行った奴らの友人というのは」

「は、はい…そうですが…なぜ…」

「あんさんの親父さんに連絡をもらったんよ。『うちの娘の友人が例のところへ行った』ってね。まさかとは思っていたが、もう手遅れじゃった」

「丈瑠は…丈瑠はどうなっちまったんだ!」

 宰が震える声で尋ねた。

 お婆さんはそれに答えず、ただ悲しそうに目を伏せて

「お前さんらは幸運じゃい」

 とだけ言い残して、その場を立ち去った。

 だが、お婆さんがぼそりと呟いたのを聞いた。

「ミイラ取りがミイラになったらなんも意味はなかろうに」

 それがどういうことを示しているのはわからなかった。

 ただ、丈瑠と紗耶香がもう二度と戻ってこないことはこの場でわかった。

 わかってしまったのだ。

「う…うわあああああああああああああああああ!!!」

 宰が跪いて泣き叫んだ。

 私は何も声をかけることはできず、ただ膝から崩れ落ちて呆然とするだけだった。

・・・

 夏休み明け、丈瑠と紗耶香は予想通り転校扱いとなった。

 あのお婆さんは父などから聞いて一種の除霊師だということが分かった。

 以来、私はどんなに心霊スポットに誘われても頑なに断っている。

 あんな思いは、二度と御免だ。


                                     終

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