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9話 寝顔

翌日の朝、6時半に起きた僕は洗面所で顔を洗ってからリビングへ足を運ぶ。


キッチンでは既に母さんが朝食の準備をしていた。


「おはよう母さん」

「おはよう我が息子、休みだってのに相変わらず早いわね」


今日は第二土曜日のため学校は休みなのだが、僕はいつもの時間に目を覚ましている。

勿論理由は1つだ。


「ちーちゃんが起こしに来てって昨日言ってたからね」

「あんたホントそればっかりね、まあ早起きする分には文句はないけど」


母さんは呆れたような声を出しながら、テーブルの上に目玉焼きと焼いたベーコンを置く。しばらくしてからトーストも焼き上がったようで、ボウルに入ったサラダと市販のヨーグルトを準備した後、廣瀬家の朝食が始まった。


「父さん、昨日も遅かったの?」

「みたいね、今日は一日中眠ってるんじゃないかしら」

「そっか、休みの日くらいしっかり寝て欲しいね」

「息子が休みの日に引っ張り回さない出来た子で喜んでるでしょうね。だからといって妻をほっぽり出すのはどうかと思うけど」

「はは……」


若干笑えない母親の愚痴を聞きながら、僕は食事を進めていく。母さんは僕がいつ起きてもいいように早起きをして朝食の準備をしてくれるから本当に助かっている。だけど、休日くらいは僕が作ってもいいんだけどな。そんなに難しいことしなくてもいいなら。


「ごちそうさまでした」

「おそまつさまです」


母さんと会話をしながら食事をすること約20分、僕は使用した食器をシンクで洗ってからテーブルを布巾で軽く拭く。


「ちょっと、それくらい母さんがやるのに」

「土日くらい僕にもやらせてよ、ただでさえ家事に休日はないんだから」

「困った時はちゃんと頼るから、あんたはちーちゃんのことだけ考えてりゃいいの」


そう言って母さんは楽しそうに笑う。確かに母さん、立て込んでいるときは容赦なく僕を顎で使うからな。今日は御言葉に甘えてちーちゃんを起こしに行くか。


再度洗面所に行って歯を磨いてから、寝間着を着替えて外に出る準備をする。


「じゃあ、ちーちゃん起こしに行ってくる。もしかしたらお昼、向こうで食べるかも」

「はいはい、行ってらっしゃい」


洗い物をする母さんに一声掛けてから、僕は早風家へ向けて出発した。


朝の涼しい風に当たりながら目的地の前まで行くと、玄関からスーツ姿のおじさんが慌てた様子で出てきた。


「おじさんおはよう、今日は仕事?」

「昨日休みもらっちゃったからね、代わりに今日頑張っちゃうの」

「そっか、大変だね」

「何の何の。一家の大黒柱足るもの、この程度じゃ弱音一つ吐きやしないよ」


おじさんは両手をくの字にして力こぶを作ると、はっはっはと豪快に笑った。本当に会うだけ元気をもらえる素敵なおじさんだ。


「しかしともくん、随分早いね。ちーならまだ寝てると思うけど…………まさかともくん、ちーの寝込みを襲おうって言うんじゃないだろうね?」


笑顔を浮かべていたおじさんが急に顔色を変え、僕の両肩に手を置いてまっすぐ目を合わす。


「確かに、おじさんはともくんならちーのことを任せられると思っている。というかともくんじゃなきゃちーを支えられないと真剣に思っている」

「あ、ありがとおじさん」

「でもねともくん、寝込みは良くないんじゃないかな? あくまで合意の上じゃないとおじさん納得できないぞ?」

「いや、別にそんなつもりはなくて」

「というか止めといた方がいい。休日のちーは起こそうとすると眠ったまま四の地固めをかけてくるから。ともくんの身の安全のためにも、お互い頭がぱっちり冴えた状態で話し合うんだ。うーん、でも高校一年生には早いかな? おじさんの初めての頃は――――」

「おじさん、時間大丈夫?」

「おっとそうだった!! 男同士の話はまた今度しよう! 寝てるちーにはくれぐれも気を付けてな!」


話が止まらなさそうなおじさんに一言添えると、先程までの会話などなかったかのように走り去ってしまう。いつものことながら、嵐みたいな人だな。


おじさんの方向に軽く手を振ってから、僕は玄関の扉に手を伸ばす。チャイムの音でちーちゃんが起きても嫌なのでそのまま中に入ることにした。


「あらともくん、おはよう」


すると、洗濯カゴを持ったおばさんと玄関でばったり遭遇した。


「おはようおばさん、何か手伝おうか?」

「その言葉だけで充分よ、ちーったらゲームばっかりで全然お手伝いしてくれないんだから」

「あはは、それならちーちゃんからゲーム取り上げる?」

「ダメダメダメ、そんなことしたらちーに嫌われちゃう」


ちーちゃんに怒られる姿でも想像したのか、顔を青ざめさせてしまうおばさん。ごめんなさい、余計なことを言いました。


「それにしてもどうしたの? 休日にこんな早く来てもちーは寝てるわよ?」

「昨日ちーちゃんが起こしに来て欲しいって言ってたんだ、だから朝から来たんだけど」

「うーん、朝からともくんとゲームしたかったのかしらね。休日朝のちーは機嫌悪いからオススメしないんだけど」

「大丈夫だよおばさん、寝起きだってちーちゃん可愛いし」

「だよねぇ、目をしぱしぱさせてるちーはホント可愛くて永久保存したいわぁ」


そんな感じで『ちーちゃん可愛いトーク』に華を咲かせること5分、僕はようやく本来の目的を思い出す。


「じゃあおばさん、ちーちゃん起こしに行ってくるね」

「よろしくねー」


そう言っておばさんと別れてから、僕は階段を上がってちーちゃんの部屋の前に来る。一応ノックを2回してから、ゆっくりと扉を開けて中に入る。


「すぅ……」


そこには、天使のように愛らしい寝顔を浮かべた天使、じゃなかった、ちーちゃんがベッドで眠っていた。


布団は完全にめくれており、ピンクの水玉模様のパジャマに身を包んだ姿が露わになっている。身体は横向きになっていて、赤子のように身体を丸めて寝息を立てている。


僕はベッドに両肘をつけると、至近距離でちーちゃんの寝顔を堪能した。


自分でも気持ち悪いと思うほどに頬を綻ばせながらちーちゃんを見つめる僕。こんな気持ちよく眠っていたら、とてもじゃないが起こすなんて無理である。



「……ん?」



結局僕は、ちーちゃんが自力で目を覚ますまでの約2時間、ずっと同じ体勢でちーちゃんを見つめていたのだった。後でちーちゃんにしこたま怒られたのは言うまでもない。

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