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7話 ご両親

休み時間を終え、教科書や各教室の案内を受けた後、陽嶺高校での初日は終了した。入学式である今日は午前のみなので、これからは帰るだけである。


僕はクラスメートから何度か声を掛けられたが、誘いを断って教室を出た。気持ちはすごく嬉しいけど、下校はちーちゃんと一緒にしたい。


先に終礼が終わったのでCクラス前でちーちゃんを待っていると、まもなくちーちゃんが真っ先に教室から出てきた。僕の姿を見かけたからだと思うが、クラスに馴染めるかちょっと心配。その辺りは野之道さんにお任せしたいところだ。


「ちーちゃん、野之道さんはいいの?」


そう言うと、ちーちゃんはあからさまにムスッと表情を変えた。


「いい。親と帰るって言ってた」

「あっ、仲良く話したんだね」

「違う。一緒に帰れないって一方的に言ってきただけ」

「あらら」


ちーちゃんはそこそこ不機嫌そうだが、僕は正直少し安心していた。


どうやら野之道さん、本当に有言実行で動いてくれているようだ。ちーちゃんと一緒にいるのは楽しいから、めげずに頑張ってほしいな。


「……何笑ってるの?」


自分の機嫌が良くないのに僕が笑っていたせいか、ちーちゃんはやや怒り気味で尋ねてくる。頬を膨らませるちーちゃん、すっごく可愛い。


「ううん、今日もちーちゃんは可愛いなって思って」

「っ! か、可愛くない!」

「あはは、痛いよちーちゃん」


僕の直球すぎる言葉が恥ずかしくなったのか、顔を赤らめてポカポカ僕にパンチをしてくるちーちゃん。この姿も大層可愛いんだけど、これ以上言ったら噴火しちゃうかもしれないからやめとこう。


廊下で子どもを待つ親御さんたちの前を通りながら、生徒玄関まで向かう僕ら。そういえば母さんも見に来ているはずなんだけど、どこにいるんだろうか。もう帰ってしまったのだろうか。


「朋矢! ちーちゃん!」


そんなことを考えながら校舎を出ると、入り口の脇からスーツに身を包んだ母さんが手を振りながらこちらへやってきた。


……少々罰が悪そうにしているおじさんとおばさんと一緒に。


「……」


ちーちゃんはジト目で2人を見るが、何かを言い出す前に母さんが先に言葉を紡いだ。


「ちーちゃん、照れ臭いのは分かるけど、あんまりお父さんたちに意地悪しちゃダメよ?」


意地悪というのは、入学式に来なくていいと言ったことだろう。ちーちゃんに怒られたくない2人はどうすれば悩んだだろうが成る程、母さんを頼ったのか。ちーちゃんにものを言えるのは母さんしかいないしそれがベストな選択だろう。


「お父さんたち、ちーちゃんが高校に入学するの楽しみにしてたんだから、怒らないであげてね?」


そう言われて、ちーちゃんは不安そうな表情を浮かべる両親を一瞥し、軽く息をついた。


「ん。2人とも、来てくれてありがとう」

「「ちー……!!」」


ちーちゃんに感謝され、泣きそうな笑いそうな複雑な顔をするおじさんとおばさん。さすがはちーちゃんの両親、ちーちゃん以上に表情の変化が多種多様だ。


「偉いわねちーちゃん」

「ん……」


ちーちゃんの対応に満足した母さんが、満面の笑みでちーちゃんの頭を撫でる。ちーちゃんも満更ではなさそうで、おじさんたちが母さんを頼りたくなる気持ちも分かってしまう。


「さてと。改めてちーちゃん、入学おめでとう。朋矢とは仲良くしてる? ちーちゃん可愛いから、変なことされてないか心配だわ」

「ちょっと母さん……」


息子の前でなんて質問をするんだ。思わず割って入ってしまったじゃないか。


変なことなんてしてるつもりはないが、ちーちゃんは基本隠し事はしない。僕が予想していない返答が来るのではないかとドキドキしていると、



「んーん。朋矢、いつも一緒にいてくれるから嬉しい」



――――本当に予想外の言葉が飛んできて、僕は思わず口元が緩んでしまいそうになった。


ちーちゃんは思ったことをはっきり言う。だからこの一声は、紛れもない本心。その本心が僕への想いともなれば、嬉しいを通り越して感動で泣きそうだ。


「もう! ちーちゃんはいつ会っても可愛いわぁ!」

「ちょ……!」


僕以上に感極まった母さんが、ちーちゃんに抱きついて頬をすりすりし始めた。いや、気持ちは分かるけど思い切り公共の場だから。おじさんもおばさんも穏やかな笑みを向けてないで止めてください。


「母さん抑えて、ちーちゃん困ってるから」

「何よ、朋矢ばっかりちーちゃんとイチャイチャして。私だってちーちゃんといちゃつきたいの」

「時と場所を考えようよ、それに僕は頬摺りなんてしてないから」

「まったく、しょうがないわね」


母さんがちーちゃんを解放すると、すぐさま僕の隣に寄ってくるちーちゃん。真っ先に頼ってくれているようで僕は嬉しい。


「ちーちゃん成分も補充できたし、これからお昼にしましょうか」


お昼というフレーズで、分かりやすく瞳を輝かせるちーちゃん。そのちーちゃんを見て、母さんはニコリと微笑む。


「もちろんちーちゃんが決めていいわよ、どこ行きたい?」

「お寿司」


その3文字を聞いて、おじさんとおばさんの顔が引きつる。もしやお金の心配をしてるのだろうか、ちーちゃんは背丈の割にいっぱい食べるし。


「回っててもいい? 回ってないのは混んでてすぐ入れないかも」

「んー、……致し方ない」


そして今度は安心したように息を漏らすおじさんとおばさん。家族でお寿司に行ったときに何かあったのかもしれない、お寿司屋に着いたら聞いてみようかな。話すのを嫌がるかもしれないけど。


こうして無事入学式を終えた僕とちーちゃんは、家族一緒にお昼ご飯へ向かうことになった。ちーちゃんの頬いっぱいに詰める食べ方は、いつ見ても可愛らしかった。会計金額はまったく可愛らしくなかったようだが。

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