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002テガミバッチコーイ

「おっとっと、よっ、っとと」

 コーハイが何かを抱えながら覚束ない足取りで向かってくる。

 頭には三角巾、無地のエプロン姿に普段着のオーバーオール。

 ……掃除でもしていたのだろうか。

 前が見えないほど大きな荷物のようで、彼女だと判断する材料は声しかない。

「何をそんなに――って、何だそれ」

「よっと! ッはー、重かった」

 彼女がテーブルの上に置いたのは大量の手紙であった。

 差出人も宛先も書かれていない、封だけがなされた真っ白な封筒が山のように積まれていた。「いやー、凄いですよねー。こんなに大量のお手紙が届くなんて」

 コーハイは普段からジト目で顔からはあまり感情が読み取れないが、声の調子から喜んでいることが伺える。

「なんだ、ここに届いた方か。でも宛名も無いし、何の手紙だ」

「この作品に対する叱咤激励のお便りじゃないんですか」

「なんじゃそりゃ」

「これが投稿される頃には大量のコメントや星が送られているはずですよ」

「自虐がすぎる!」

「もしくは借金の督促状ですかね。先月はちょっと課金額が多くなってしまいましたから」

「お前の「ちょっと」はちょっとじゃないんだろう?」

「そりゃあフェス限が一気に五体も追加されたら揃えるのが礼儀ってモンじゃないですか」

 駄目だこの廃課金者……早くなんとかしないと。

「本命としてはラブレターでしょうかねぇ。そりゃあこんなにかわいい娘が二人も居たらファンからのお便りも大量に届きますよ」

「お前みたいな引きこもりにどうやったらファンが付くんだよ」

「世の中にはライブチャットを使えばどこからでも配信サービスを行えるんですよ。みんな大好きユーチューバーでもVチューバーでも、何ならアダルトコンテンツでもファンを増やすことなんて簡単に出来ますよ」

 エプロンの端を両手でつまみ上げ、ひらひらと舞ってみせる。

 残念ながら格好のせいであまり色気はない。

「お前の資金源はそこかよ」

「いやいや、冗談ですよ。そんなお金を巻き上げるような行為は致しません」

「わかってるさ」

 ただし、こいつの場合本気でやりかねないのが恐ろしいところだ。

「ただ、グッズになったり商業展開する際には大金をせしめますけどね」

「取らぬ狸のなんとやら、だな」

「あと薄い本に出演するときもギャラは安くないですからね」

 出演ってなんだ。

 そういう扱いになるのか。

 というかお前がメタネタやるとキャラが立たなくなるからやめろ。

 それはマナちゃんの専売特許だ。

 ……いや扱いに困るから本当はやってほしくないんだけど!

「あ、そっかぁグッズのオファーですね、いやー困っちゃいますね」

 頬に手を当て困っちゃうポーズ。しかし普段からジト目のせいで薄ら笑みにしか見えない。

「中身が何か気になるし、試しに開けてみたら良いじゃないか」

「開けちゃいます? パンドラの箱開いちゃいます? 開けるまでは誰宛かわからないシュレディンガーのファンレター開封しちゃいますか!?」

 自分宛以外のことも想定していた。

 むしろその可能性の方が高いだろ。

「えーっと、何々……って白紙か、いや文字が浮かび上がってきたな」

 わたしは一番上の手紙を開封して中身を取り出す。

 あぶり出しのようにゆっくりと文字が表示されていく。

「さて、『これは不幸の手紙です。これと同じ内容の手紙を一週間以内に、10人の人間に出さないとあなたは不幸になります』か……って、不幸の手紙じゃねーか!」

 床に手紙を叩きつける。あ、良い音。

 そりゃ差出人も不明だわな。

「そんな馬鹿な。『これは不幸の手紙です。この作品へのコメント、レビューや星の評価を行わないとあなたは不幸になります』」

「なんというコメント乞食!」

「でも現実では『俺の作品を評価しろやゴラァ!』っていう横暴なダイレクトメッセージが届けられるんですけどね」

「恐怖新聞かよ。不幸の手紙の方がマシだな、それ」

 果たして不正でのし上がった作品は正当な評価といえるのか。

 まあそんな闇の部分はこれ以上話を広げても仕方ない。

 むしろ広げたくない。

「そもそもウチ、全員で三人しか居ない時点でみんな不幸になること確定です。ご愁傷様です先輩」

「なんで手紙を回す前提なんだよ。自分のところで食い止めろよ」

「お前の不幸は俺のもの、俺の不幸も俺のもの精神ですよ」

「なんて自己犠牲の強いジャイアニズム!」

「しょうがないですねぇ、先輩には男性恐怖症のサキュバスでもご用意しますよ」

「お生憎様、結構だ」


「こんなに大量にあっても邪魔なだけですし、処分しちゃいましょうか。燃やすのが手っ取り早いでしょうね」

「燃やすって、どうやって」

 テーブルの上の手紙を囲み、二人して悩んでいた。

「え~、お煎にキャラメル、マッチ売りの少女はいかがッスか~」

 もう一人のかわいい娘、もといマナちゃんがカゴを片手に近づいてくる。

 赤ずきんにも見えるのだが、三角巾に真っ赤なケープ、薄汚れたスカートと貧しさをより一層醸し出されているが感じがマッチ売りの少女らしく見える。

 コスプレ衣装に関してはこの娘ホント手を抜かないな。

「まぁかわいいお嬢さん、マッチを一つくださいな」

「はいどうぞ。お代は10連ガチャ一回分で良いッスよ」

 結構なボッタクリ。

「ぐぬぬ。そ、それで債務整理できるなら安いもの……」

「いや待て、督促状を燃やしたところでそれは何も解決していない!」

 それにしてもこの連中、ノリノリである。

「シュボッと……マッチの火って幻想的ッスね。キャンドルの炎を見ることで精神的にも落ち着くって聞いたことあるッス」

 マッチの火を囲みながら三人で炎を見つめる。

「確かに、これなら幸せな光景を夢想するのもわかる気がする」

「この火がついている限りガチャ回し放題……」

 危ないやつが一人いた。

「あちゃちゃ」

 マッチの火が思ったより長く燃えて持ち手の部分まで熱くなったらしく、マナちゃんがマッチを手放す。

 その火は手紙に移り、テーブルの上で大量の炎が燃え上がっている。

「燃やし尽くせ! 命の燃料の一滴まで!」

「殲滅作戦ッスね」

「ぎゃーっ!」

 なんでこの娘たち冷静なのっ!?

「仕方ないッスね~」

 マナちゃんが消火栓のようなものを取り出す。コスプレの範疇を超えているような気がするが今は突っ込んでいる場合ではない。

「汚物は消毒ッス~!!」

 白い煙が噴射され、無事に消火活動は終わった。

 あとに残ったものは手紙の灰燼――と、その下から出てきた一冊の本だった。

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