after_:World_Repeating/No.7_1
西暦2308年、8月15日。
それは、1人の少女と、少年と、無名の男。そして、忘れられた”存在”が刻む。
全ての始まりを奏でる、afterstorys____
「いや……やめてっ…!」
『ああ……ああああ…!』
”ソレ”は、人間”だった”。
「嫌っ…!来ないで!」
縋るように伸ばされた”ソレ”の手を払い除け、震えて役に立たない両足を必死に動かし、何度も転びそうになりながらも、その場から逃げる。
「____ッ!!!」
しかし。逃げども逃げども、どこに行っても”ソレ”はいる。
「なんで……どうして…こんな……」
自身に迫る”ソレ”らは、出会うもの全てが醜かった。
形は人間だが____しかし、人間では無い。
『アアアアアアッ___!!!!』
「…っ!」
なぜなら。
一歩、また一歩と”ソレ”が近付く度に、嗅いだことのない強烈な臭気が鼻を突き、呼吸を妨げるからだ。その原因は、ひと目で分かるほど単純なものだが。
(身体が……焼ける…臭い…?)
”ソレ”の頭部に生えた髪はもちろんの事、加えて身体の左半分は焼け爛れ、頬と大腿は炭化した骨の一部が覗いている。
「あんな状態で生きていられるなんて……」
『アアアァァァァッ__!』
なりを見て後ずさる少女へ。断末魔の叫びとも取れる叫びで答え。”ソレ”は、首の骨の存在を疑うほどの不気味な角度で少女を睨み、次の瞬間、ゆっくりと歩を進め始める。
「あ……」
迫り来るモノの圧力に押され、少女は瓦礫の破片に足を取られる。
『アアアアアアアアアアア!!!!!』
「っ____!」
嘲笑と狂乱の混ざり合った不気味な声をあげ、”ソレ”があと1歩で手が届く距離にまで近付いた時。少女の中で、どこかの糸が切れる。
「来ないでって…言ってるのッ__!」
近くに転がっていたコンクリートの塊を、あらん限りの力で持ち上げ、”ソレ”の焼け焦げた胴を目掛けて振り下ろす。
鈍い音を立て”ソレ”の下腹部に叩き付けられた鈍器は、炭化した腹部に当たった瞬間、乾いた音を立てる。
慣性の赴くままに重力に引かれて行った重みは、離れると同時に少女の手のひらを裂き、そして、”ソレ”の身体に風穴を穿ち、背後の情景を透過する。
「____ッ!」
…だが。少女に驚きを与えたのは、手のひらを伝う痛みでも、いとも簡単に胴を貫通してしまった”ソレ”の姿でも無く。
「…たーく。今回は随分と数が多いな」
”ソレ”の後ろから、白い、真っ白な刀身を持つ大剣が振り下ろされ、無慈悲に”ソレ”を上と下に分ける。
『アアアアアァァァァァ…ァ……___』
「あ……」
湿った水音を立て転がった”ソレ”を見下ろしながら、背後から現れた男が、落ち着いた物腰で言う。
「…コイツ相手に石ころで応戦するやつ、初めて見たぜ」
「あなた…は…?」
「んな怖い顔しなくたって…とって食ったりしねえよ。…おい、早く楽になれよ」
半身になっても尚蠢く”ソレ”が少女に向かって伸ばそうとする腕を、かさりと枯葉をふむような音を立て踏み潰し。呟きながら、男は続け様にその頭部に大剣を押し付け、完全に粉砕する。
「俺は…まあ、名乗るほどのもんじゃねえよ。…”先生”とでも読んでくれよ」
「先…生……?」
「………話は後だ。死にたくなきゃ、ついてこい」
「……」
紅蓮が支配する、とある研究所の跡地で。
明るい栗色に、僅かな紅を混ぜたかのような__黄昏が栄える長い髪を、炎の巻き上げる風になびかせながら。
少女と男は、次なる時へ向け、歴史を刻むのであった。
coming soon…