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第88話 新しい料理? を作り始めた。

 オネットが屋敷にやってきて数日経った。


 俺の意にそぐわない形とはいえ、俺達の一員になったのは事実。それならマリ共々、従業員としてこき使ってやるぜハッハーッ! と、次の日から早速〈鉄の幼子亭〉で働いてもらう事にした。

 まあ、リーアが二週間程でモノになったので、今回もそれくらいかなー、と考えていたのだが。


 なんと初日から全く問題なく働いたのだ。ミスもほぼなし。超ビックリした。


 しかも、一つ一つの動作はゆったりしてるのに、全体で見ると何故か素早い、というオマケ付き。


 あまりに驚いたので本人に聞いてみた所、驚くべき事実が判明した。

 なんと、マリとオネットは、各々の経験や知識を共有できるらしい。

 その機能によって、マリの〈鉄の幼子亭〉での業務内容を共有、我が物としたそうだ。


 なにそれ、超便利。


 ちなみに、ホムンクルスであるメイド達も、ネットワークによる情報の共有は可能だが、あくまでそれは情報。知識としてしか獲得できず、即時行動へ反映は出来ない。本を読んで知識を得ても、実際にその通りには動けないのと同じ事だ。


 だがマリとオネットは違う。

 お互いの経験を即時共有、インポートして行動への反映が出来るのだ。まじチート。


 まあ、即戦力は俺としても有難いので、新人教育は一日で終了。翌日からは普通に働いてもらう事にした。

 ちなみに、二人からの熱い要望により、二人は同じシフトには入れず、片方が〈鉄の幼子亭〉で働く日は、もう片方は屋敷でメイドとして働いてもらっている。

 マリ曰く、『二人が同じ場所にいたら意味ないし! いつでも二箇所を防衛できるようにするには分かれるのが絶対不可欠っしょ!』との事だ。うん、まあ、別にいいけどね? なんだかんだちゃんと働いてくれるし。言動と性格がアレだけど。


 と、いう訳で、予想より随分早くシフトが安定して手が空いたので、前々から考えていた事を始めてみる事にした。それは――――


「デミグラスソースを作ろうと思います」


「本当!? わーいわーい! 待ってましたー!」


 …………うん。メリアさんが五月蠅くてね? 事あるごとに『いつデミグラスソース作るの?』って聞いてくるんだ。ここまで突っかかってくるのは初めてだから驚いたよね。

 まあ、俺もデミグラスソースのハンバーグ食べたいし、さっさと作っちゃおうと思った訳だ。


「デミグラスソース、ですか?」


 喜びのあまり、年甲斐もなく子供のように両手を振り上げて、ピョンピョン飛び跳ねているメリアさんを見ながら、ルナが首を傾げた。ああ、そういえば教えてなかったっけか。


「ああ、名前の通りソースだよ。作るのは結構面倒なんだけど、複雑な味わいで美味しいよ」


「っ! ルナ、全力でお手伝いしまっす!」


『美味しい』の一言で、ルナのやる気がマックスになった。両手を胸の前で握りしめている。可愛い。


「よろしくね。よし、じゃあ始めるよー。じゃあルナ。そこの器に乗ってるのを、弱火でじっくり焼いてね。軽く焼き目が付くくらいね。焦がしたら駄目だよ?」


「はい! 器に……器…………レン様? 骨しか入ってないようですが」


 首を傾げながらルナが指し示した器には、牛の骨が山盛りに入っている。数キロがあるはずだから、本当に山盛りだ。


「うん。それでいいんだよ」


「骨を焼くのですか?」


「そう」


「じっくり?」


「うん。じっくり」


「……すごい量ですね」


「そうだね」


「…………全部ですか?」


「もちろん」


「………………畏まりました」


 短い問答の末、俺の指示に従うルナ。なんとも釈然としない表情をしている。まあ気持ちは分かるよ。料理の手伝いをするはずが、骨をじっくり焼くという意味不明な作業をやらされる訳だからね。でもそれ超重要なんだよ。そこ失敗したら全部オジャンだからね。


 ほんとはオーブンで焼くみたいなんだけど、厨房にはないから、各自フライパンで作業してもらう。

 …………うーん。あったら便利だし、今度探してみるかな。


「じゃあ、おねーちゃんはこのスジ肉を炒めてね。これも軽く焼き目が付くくらいでよろしく。あ、油は引かないでね」


「はーい!」


 ルナに牛の骨、メリアさんに牛のスジ肉をせっせと炒めてもらっている間に、俺は野菜を炒める。人参、玉ねぎ、セロリだ。こっちも油は引かない。

 人参と玉ねぎは、前から料理に使っていたから問題なく買えたけど、セロリがなかなか見つからなくて困った。あとニンニク。

 方々探し回った挙句、どっちも八百屋ではなく、何故か薬屋に売っていたよ。鉢植えで。薬扱いらしい。


「レン様。これくらいでいかがでしょうか」

「レンちゃーん、こっちも出来たから確認おねがいー」


「はいはい…………うん。両方大丈夫そうかな。ありがとう。じゃあどっちもこの鍋に入れてっと」


 焼いた骨、炒めたスジ肉と野菜を、この為に買った、でっかい寸胴鍋にぶち込んだ後、各々を焼いたフライパンに水を入れて、こびりついた焦げをこそげ落として、これも鍋の中へ。続いてお尻の部分を切り落としたニンニクと、湯剥きしてから細かく切ったトマトを投入。

 最後に水をヒタヒタに入れて火にかける。最初は強火で、沸騰したら弱火に。


「はい。これで半日煮込みます」


「「半日!?」」


 メリアさんとルナが揃って声を上げた。うん。初めて聞いたら驚くよね。今までこんなに時間が掛かる料理、作った事ないからね。

 しかもこれ、デミグラスソースを作る為の材料の一つを作ってるだけだからね。発明した人ほんとすごいよね。よく考えついたもんだ。


「こ、これからですか……?」


 ルナが恐々といった様子で聞いてきた。気持ちは分かる。

 〈鉄の幼子亭〉の営業終了後から始めたからね。つまり夜。このタイミングから半日煮込むとなると……?


「うん。徹夜だね」


「ですよねぇ……」


 なんでそんな時間から始めたんだよ。と思うでしょ? 俺も分からん。正直ちょっと後悔してる。


「一人でやる必要はないから、交代で見るよ。明日は…………俺が休みで、おねーちゃんがお店、ルナは屋敷、か。…………うん。ルナ、頑張ってね?」


「ル、ルナですか!?」


「うん。おねーちゃんは明日店に出るからね。大丈夫。その後の作業は俺が引き継ぐよ」


「はい……。畏まりました……」


 ルナ涙目。夜寝れないって辛いよね。交代したら寝ていいからね。朝だけど。


「よろしく。じゃあ俺達は寝るね。……あ、煮込んでる最中も、こまめにアクと脂を取ってね。あと、絶対沸騰させちゃダメだよ? 沸騰しないギリギリを攻めてね」


「な、難易度が上がりました…………うぅ」


 ルナの悲し気な視線を背中に感じながら、俺とメリアさんは寝室へと向かった。

 がんばれルナ!


 ……。


 …………。


 はい、朝になりました。


「おはよー。ルナ、調子はどう? って………あら」


 メリアさんが店に向かうのを見送ってから厨房に入ると、鍋から少し離れた場所で椅子に座ったまま、コックリコックリ舟を漕いでいるルナの姿が見えた。あー、寝落ちしちゃったか。徹夜って慣れてないと辛いからね。仕方ないね。


「おーい、ルナー。起きろー」


「すぅ……すぅ……ん、んみゅ…………ハッ!」


 ルナの肩を揺すってやると、むずかるように言葉にならない声をあげてから、パチッと目が開いた。『ヤベッ!』って心の声が聞こえてくるような顔をしている。


「わ! わわ! ね、寝ちゃってました! お鍋! お鍋は大丈夫ですか!?」


「うん。大丈夫だよ」


 ルナを起こす前に鍋の中をチェックしたが、焦げた匂いもしないし、アクも脂もしっかり除かれていた。

 多分、寝落ちしたのはついさっきなんだろう。しっかりやってくれてたみたいだね。素晴らしい。


「そうですか……良かったあ……ふわぁ……あ、すみません」


 俺の言葉で気が抜けてしまったらしい。ルナが堪えきれず、といった感じであくびをし、恥ずかしそうに謝ってきた。


「お疲れ様。じゃあ続きは俺がやっとくから、ルナはもう寝なよ」


「はい。よろしくお願いします…………お休みなさいませ」


「はーい、お休みー」


 ちょっとフラフラしながら厨房から出ていくルナを見送ってから、鍋に向き直る。


「さて、ここからも長いぞ。がんばるか!」


 むん! と気合を入れてから作業を開始する。


 鍋をもう一つ用意し、【金属操作】でサクッと作った濾し器を使って出来たスープを濾す。これが一番フォン。これは今は使わないので、離れた場所に移す。……こんなに減るのか。なんか損した気分。


 意味もなくションボリしてしまったが、気を取り直して、作業を再開。


 濾した後の残骸を鍋に戻し、玉ねぎ、人参、ニンニクを炒めた物を追加、またヒタヒタになるまで水を張って、火に掛ける。今回も、最初は強火で、沸騰したら弱火に変更。


「あとはまた、アクを取りつつ半日煮込むっと…………缶詰があればいいのに」


 デミグラスソースの缶詰が売っていれば、わざわざこんな手間を掛けて作る必要もないのになあ…………。

 そういや缶詰自体見た事ないな…………作るか、缶詰。桃缶食べたい。

 よし。煮込み中の暇な時間で、色々考えてみよっと。


 ……。


 …………。


「レンちゃん。何やってるの?」


 缶詰の作り方や、何の缶詰を作るかを考えながら、ダラダラと鍋の面倒を見ていると、後ろから声を掛けられた。振り向くと、そこには不思議そうな顔で俺を見ているメリアさんの姿があった。

 その後ろにはルナもいる。


「んあ? あれ、おねーちゃん。早いね。どうしたの? 忘れ物?」


「いや、お店終わったから帰ってきたんだけど……」


「え? マジで?」


「うん」


 マジらしい。どんだけ考え込んでたんだよ俺……。


「で、何やってるの? また何か煮込んでるの? いつから?」


 鍋の中を覗き込みながら、メリアさんがそう聞いてきた。釣られて俺も鍋の中を確認する。…………うん、減ってるね。なんか悲しい。


「……昨日の続きの作業って感じかな? おねーちゃんを見送ってから始めたね」


「あれから!? って事は、また半日煮込んでたの!?」


 うん。煮込んでたんだ。疲れたら誰かに変わってもらおうと思ってたのに、気づいたら最後までやり切っちゃってたよ。

 ……いかん。時間の経過を自覚した途端、疲れと眠気が……。


「うん…………。でも、これで、あとちょっとで、完成だよ。がんばろう……」


「レンちゃん、かなり眠そうだよ? 大丈夫?」


 メリアさんが心配そうに見てくる。正直滅茶苦茶眠い。だけど、もうちょっと、もうちょっとでキリが良い所なんだ。そこまでやっちゃいたい。

 気合だ俺! 重量級の瞼に打ち勝つんだ! 目を閉じちゃ駄目だ!


「…………うん。だいじょうぶ。えっと……あっちに、ルナがにこんだやつが、あるから……」


 閉じ、ちゃ…………うあああああ……。


「…………それと……これをまぜて…………いちどふっとうさせてから……アクを、とっ……そこのこしきで…………うらご、し……を………………」


 瞼には勝てなかったよ……。

 ああ、やばい。目を閉じた途端、意識が……。


「……レンちゃん? あらら。大丈夫じゃなかったみたいだねえ」


「そのようですね……。それではルナは、レン様が仰っていた作業を行ってしまいますので、(マスター)はレン様を寝室へお運びいただいてもよろしいですか?」


「了解。それじゃあ、よろしくね」


「畏まりました」


 完全に眠ってしまう直前のフワフワした頭で、メリアさんとルナの会話を聞くともなしに聞いていた俺は、体が浮き上がる感覚と共に、完全に夢の世界へと旅立った。

ほぼ料理だけで一話……。しかも終わってないし。

まあ、まったり進行って事で一つお願いします。(今更)

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白く一気に読ませてもらいました これからも頑張ってください 応援しています
[良い点] 次回は累計100話ですね( ˘ω˘ )b [一言] 仕事が増えて(ry
[一言] デミグラスソースきた! 次はコンソメですね、そしてルナたちの目の光がまた消えるw
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