第85話 家族が増えた。濃いめの。
本日が、年末年始特別連続更新最終日です!
外出自粛が求められている今、暇つぶしにお読みいただければ幸いです!
「〈蓄熱石〉についてはもういいとして、次に行こうか」
「そうだねえ……えへへ」
早速ブレスレットを身に着けたメリアさんは、嬉しそうに笑いながら俺の言葉に同意した。
…………なんか、蕩けそうな顔してるな。そこまで気に入ってくれたのか。あそこまで全力で喜ばれると、嬉しいのは確かなんだけど、なんか、気恥ずかしい……!
「ゴホン! 次は……これだね」
「ああ、〈魔銀〉の人形についてた石かあ。これ、魔石じゃないんでしょ? なんなんだろうね、一体」
〈拡張保管庫〉から取り出したのは、メリアさんの言う通り、三十階層の〈階層主〉から剥ぎ取った……えーと、なんか黒い石だ。
これが魔石じゃない事は、組合でクリスさんに教えてもらったが、じゃあこれは何なんだ、という質問には答えてもらえなかった。
「ふーむ…………さっぱりわからん」
とりあえず色々やってみようか。壊れたらその時はその時って事で。
見つめてみる。
――――直径三十センチくらいの綺麗な球形である事が分かった。真っ黒な、ガラスっぽい、ツルツルした素材で出来ている。
指でコツコツ突いてみる。
――――中は空洞じゃなさそうなのは分かった。
掌でペチペチ叩いてみる。
――――ちょっとひんやりしている。【金属操作】は効かなかったので、金属ではないらしい。
魔力を流してみる。
――――何も変化は…………いや待て。
「色が変わってきた」
「ほんとだ……真っ黒だったのが、白いのが混じってきたねえ」
メリアさんの言う通り、俺が触っている場所から、白色が石の中に入り込んでいき、黒い色と混じり合っていっている。白いのは多分俺の魔力だろう。
なんか、コーヒーにミルク入れたみたいだな。などと考えながらも魔力を流し続けていくと、やがて石全体の色が灰色にまで変わった。これ以上は魔力も入らないようだ。流そうとしても押し返されるような感覚がある。
「これ以上は入らないみたいだね。さて、何か意味はあった――――」
『所有者の初期化処理を完了しました。再登録処理を実施します。魔力の注入を行った方は手を触れてください』
「「喋ったっ!!?」」
うん。少し籠ったような感じで聞き取りづらいけど、確実に喋ってる。
意味はあったようだ。まさか、喋りだすとは思わなかったけどさ。
「どどどどどどうするのレンちゃん!? なんか言ってるよ!?」
「どうするったって…………言われた通りにするしかないんじゃない?」
現状取れる選択肢なんてそれくらいじゃない?
「言われた通りって……触るの!? 喋る石に!? 危なくない!?」
「あー、そうだね。触った瞬間に何か起こる可能性もあるのか。…………うん。やめておこ――――」
『三十秒以内に再登録処理が実行されない場合、機密保持の為爆発します。ご注意ください』
「「ちょ!?」」
こいつ、脅してきやがったぞ!? 生意気な石だな!
あーくそ! どうすりゃいいんだ。なんかないか。
『残り時間、十、九、八――――』
おま!? なんでカウントダウンが残り十秒からなんだよ! 三十からやれよ!
あーもー!考えてる暇がない!
「分かったよクソ! ほら!」
考える時間すらなかった俺は、結局こいつの言う通りにするしかなかった。
勢いよく石の上に手を乗せる。ペチン、と気の抜けた音が響いた。
『――――再登録、完了しました。当機は、拠点防衛型統括人形二式です。よろしくお願いします。所有者』
「お、おう。よろしく」
石に挨拶されたので、つい挨拶を返してしまった。端から見たら大分馬鹿っぽいだろうなあ。
『それでは所有者、当機に固有名称の命名をお願いします』
「石」
「レンちゃん…………」
メリアさんが可哀想な人を見る目で俺を見つめてきた。
いやだって、これ見て名前なんて思いつかねえよ!? 〈石〉とか〈玉〉あたりが精いっぱいだよ!
『拒否します』
「お前拒否権あんのかよ!? ……といっても、その見た目で名前付けろって言われてもなあ」
動物ならともかく、石に名前付けて愛でる趣味はないからなあ。
『承知しました。所有者、何か金属はお持ちではありませんか?』
「ん? あるけど?」
唸る程持ってるよ? 【金属操作】に使うからね。
『少々いただけますか?』
「いいけど……何に使うの?」
危ない事に使うなら渡さないぞ。
『活動体を作成します。そちらを見ていただいた上で、固有名称を設定いただければ』
活動体? …………ああ、人型になるって事か。で、その姿を見て、名前を決めろと。
「あー、そういう事。分かった。どれくらい渡せばいい? あんまでかくなられると困るんだけど」
部屋壊れちゃうからね。
『所有者二人分ほどあれば十分です』
「俺が単位かよ…………ほら」
〈拡張保管庫〉から鉄と〈ゴード鉱〉、それから〈魔銀〉を出して、石が置いてあるテーブルの前に置く。こんな量の金属を上に置いたりしたら、テーブルが壊れちゃうかもしれないからね。
ちなみに、三種類出したのに特に理由はない。
『それでは、当機を金属の上に置いてください』
「はいはい。所有者使いの荒いこって……ほいっと」
『ありがとうございます。では、活動体を作成します』
石の宣言と同時に、下に置いてあった各種金属が動き出した。
石を覆うようにくっついた後、あちこちが細長くなったり、はたまた柱のように伸びたりしていく。
粘土を捏ねて形を作るように、硬いはずの金属が混ざり、伸び、人の形を成していく…………ん?
「活動体作成、終了しました。所有者、いかがですか?」
俺に話しかけるその声は、さきほどまでの、少し籠ったような声ではなく、明瞭な、鈴を転がしたような綺麗な声だった。
「うん。そうだね。とりあえず一言…………超! 人!」
てっきり、迷宮で見た時みたいな、大雑把な人型になると思ってたのに、目の前に立つその姿は完璧に人間だった。
身長はメリアさんよりちょっと低いくらい。〈変身〉を使った時の俺と同じくらいかな?
ハッキリした目鼻立ちの美人で、メタリックピンクの髪を右側で一つにまとめて縛っている。サイドテールって言うんだったかな?
瞳の色は黒だが、その中にキラキラと小さな光が瞬いて見える。まるで星空だ。
服装は何故かルナ達と同一のミニスカメイド服を着ている。なんでだ。
「ほえー……。ねえ、ここまで綺麗に人型になれるんなら、なんで迷宮ではあんな姿だったの?」
「活動体の作成は、魔力を消費します。消費する魔力が多ければ多いほど精緻な造形が行えるのですが、迷宮内ではそこまでの魔力は供給されませんでした。よって、『ギリギリ人型』程度の造形に留めていました」
メリアさんの質問に、元石ころ、現美女が淡々と答えた。石ころだった時と口調は何も変わってないんだけど、人型になったせいか、ちょっと冷たく感じる。メイド達に通じる物があるな。ルナと睦月は除く。
「俺も質問。何で女性型なの?」
「活動体作成前に周辺探査を実施した所、この建物内には女性しか存在しない事が判明しました。所有者はそういった嗜好だと判断した結果です」
「偶然だよ…………。次。なんで色付いてるの? 鉄と〈ゴード鉱〉と〈魔銀〉じゃ絶対そんな色にならないよね」
「正確には色は変わっていません。表面を反射する光の波長を調整する事で、色が付いているように見せているだけです」
「無駄に高性能だな…………。じゃあ、これが最後。………………なんで、そんなに、胸でかいの?」
「二つ理由があります。核を格納する為に、ある程度の大きさが必要だったというのが一つ。もう一つは、先ほど、周辺探査を行ったと言いましたが、その際、建物内の女性全員の胸部が大きい事も判明しました。これも所有者の嗜好と判断した次第です。………………失礼しました。全員ではありません。『所有者を除いた』全員でした。訂正して謝罪します」
「それも偶然だっつーの! つーか、うっさいわ! 俺は子供なの! 子供ならこれが普通なの!」
なんだこいつ! ちょくちょく一言多いぞ! 今までにないタイプだ!
この! これ見よがしに胸を強調しやがって! 悔しくなんてないやい!
「では、質問への回答を終了しましたので、固有名称の設定をお願いします」
そして何事もなかったかのように話を戻しやがった! まじ腹立つわあ……っ!
「ぐぎぎ…………。ちょっと待て。考えるから」
もう、こいつの名前なんて適当でいいんじゃないか? こんな腹立つ奴の為に一生懸命名前を考える必要なんて…………。いや、適当な名前を付けたら付けたで、拒否された挙句、『安直な名称しか思いつかないのですか?』とか言って来るに決まってる。そっちの方が腹立つ。
うーん、うーーーん………………。良し!
「決めた。お前の名前は〈マリ〉だ」
操り人形から付けた。こっちにはない言葉だから、これなら安直なんて言われないだろ!
「〈マリ〉…………設定完了しました。所有者が考えたにしては悪くない名称です。賞賛しましょう。良くできました」
一言多いのは変わらないのかよ! つーか頭撫でるな! なんだその無駄に慈愛に満ちた顔は! 余計腹立つわ!
「では、固有名称の設定が完了しましたので、続きまして、疑似人格の設定です。二種類ありますので、お好きな方をお選びください」
「まだあんのかよ…………」
もう、疲れたよ。さっさと終わってくれ……。
「…………こちら、一つ目の設定です。所有者様、よろしくお願いしますね?」
マリがそう言った途端、さっきまでの無表情が一転、柔らかな微笑を浮かべて、緩やかに頭を下げた。
「お、おお……。すげえ変わったな…………」
「なんか、優しい貴族のお嬢様、って感じだねえ」
うん。なんつーの? 清楚? さっきまでとは別方向で、今までいなかったタイプだな。これ、いいかも…………。
と、思っていたら、またも唐突に表情が変わった。笑顔である所は変わっていないが、なんていうか……悪戯っぽいというか、キャピキャピしてる。
「で~? これが二つ目ね~♪ おーちゃん、よろよろ~♪」
「ギャルかよ! 変わりすぎだろ!」
「うわあ…………。なんていうか…………うわあ」
メリアさんも絶句してるよ! 俺も全力で突っ込まざるを得ないよ!
二つのパターンの落差が激しすぎだろ! 誰だこの二パターンに決めた奴!
つーか『おーちゃん』ってなんだ!? 所有者だからか!?
「どうするおーちゃ~ん? どっちがい~い?」
しかもそのまま先に進めるのかよ! せめてデフォルトに戻れよ!
くっそー、馬鹿にしやがって。そんなの決まってるだろうが!
「一番だ! 当たり前だろう!」
その二択なら、ノータイムで一番だよ!
おっさんに、そのギャルっぽいノリは付いていけないんだよ!
「わかった~♪ じゃあ二番にけって~い♪ これからよろよろ~♪ おーちゃ~ん♪」
「な・ん・で・だ・よっ!」
俺、一番って言ったじゃん! 聞いた意味ないじゃん!
「あ、あはは…………。これはまた、個性的なのが増えたねえ……」
ニカッと笑うマリに、メリアさんは乾いた笑みを浮かべ、俺は地団駄を踏む。
という訳で、誠に遺憾ながら、ギャル系金属人形〈マリ〉が、俺達の家族の一員として加わる事になったのだった。
どうせなら、清楚系が良かったなあ……。
本投稿を持ちまして、年末年始特別連続更新は終了です。お読みいただきありがとうございました。
次回更新からいつも通り、毎週日曜、11:00に戻ります。
本年も「異世界転生したら幼女だった。~異世界で安定した生活を送りたい~」をよろしくお願い致します。