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閑話 見た目に寄らぬ者⑦

1/6(水)まで、1日1話、年末年始特別連続更新を実施中です!

本日までは閑話、明日は本編を投稿します!

投稿はいつもと同じ、11時です!

外出自粛が求められている今、暇つぶしにお読みいただければ幸いです!

 結局、レンからの依頼を受ける事にした。


 まあ自分達でやったほうが気分的にいくらか楽だしな。加減も効くし。


 攻撃は一人ずつ行う事となり、レンに言われるまま、レミイ、レーメス、俺、キース、セーヌという順番で攻撃を仕掛けていった。物理攻撃組と魔法攻撃組で分けたようだ。


 結果として、レミイ、レーメス、俺の攻撃は結界に防がれた。俺の攻撃では結界を破ることができたが、破った瞬間に熱風が吹き、剣が押し戻され、俺の顔を焼きかけた。

 結界の下に、もう一枚結界を仕込んでいたらしい。


 これに関しては予想通りだったようで、レンは一人頷いていた。


 器用な事をするもんだが…………俺、あやうく顔面に大火傷する所だったんだが? それに関して何か言う事はないのか?

 …………チロッと舌を出しつつ、笑顔で小首を傾げやがった。その可憐な見た目に相まって、とても可愛らしい。

 だがそれが余計に腹立つな! お前そんな柄じゃないだろ!


 物理攻撃に関しては、死角からの攻撃、高速の連続攻撃、強力な一撃、という一通りの確認が取れた為、続いて魔法組の番になった。


 始めにキースの【水球】を受け、問題なく防いだので、あの結界は魔法に対しても有効なのだと感心していると、続くセーヌの【火球】は何故か結界を貫通し、レンの土手っ腹に直撃した。


 苦し気な顔で地面に膝を付くレンを見て血の気が引いた。いくら【火球】が下級魔法とはいえ、直撃して無事に済むはずがない。慌てて駆け寄ったが、レンは咳をしながらも普通に立ち上がった。

 レンが言うには、【火球】が結界に阻まれたのを見たにも関わらず、次の瞬間には腹になにかが当たったらしい。

 そう言われて【火球】が当たった場所を見てみると、確かに火の塊である【火球】が直撃したにも関わらず、そこに焦げた跡はなかった。

 レンはさらに魔法を打つ事をセーヌに要求した。当然セーヌは拒否した。

 まあそりゃそうだろう。理由は不明、かつ怪我を負わせる事は無かったとはいえ、自分の魔法が小さな子供を傷つけそうになったのだ。


 だが、大きな瞳を潤ませながら上目遣いでお願いされ、最後には折れていた。


 汚ねえ……。あれ絶対わざとだ。自分の可愛らしさを武器にしやがったぞあいつ…………。

 悪女の片鱗を見てしまい、戦慄していると、ヤケになったらしいセーヌはなんと、【炎槌】を使用した。

 おいおいマジか。よりによってそれかよ。

【炎槌】は、炎による火傷を与えつつ、相手を吹き飛ばす魔法。

 以前、魔物に対して使用した時、相手は炎に巻かれながらすげえ勢いで吹っ飛んでいった。

 あれを受けたレンの未来が見えた俺は慌てて走り、レンの背後に位置取った。


 その動きをセーヌは見ていたようで、目で俺に語り掛けてきた。


 ――よろしくお願いしますわ。

 ――任せろ。


 セーヌの声なき頼みに、無言で頷く事で返すと、セーヌも小さく頷いたのが見えた。

 だがそれも一瞬の事で、すぐさまその視線をレンに向け直し、少し気の抜ける叫びと共に、レンに向けて【炎槌】を放った。


 かなりの速度でかっ飛んできた【炎槌】は、レンに――正確にはレンの結界に――ぶつかった途端、見えない壁に遮られたように消えた、ように見えた。そう見えたにも関わらず、レンは巨人に蹴飛ばされたかのように俺の方へぶっ飛んできた。


 なるべく柔らかく受け止めるようにしたが、その勢いはなかなかに凄まじく、レンごと二歩分は押し下げられた。踏ん張った足が地面を削り、二本の線が刻まれている。


 レンの言う通り、確かに炎それ自体はレンに影響を与えなかったようで、俺の腕の中にすっぽりと納まるほど小さなその身体は、火傷どころか服に焦げ跡の一つも存在しない。

 慎重に受け止めたのが良かったらしく、吹っ飛んだ事による怪我はなかったようで、レンはお礼を言いつつ俺から離れた。

 その様子にホッとしていると、セーヌが走ってレンの元へやってきた。


「レンちゃん! 大丈夫ですの!? お、お怪我はありませんか!? …………ああ! 良かった! ごめんなさい。ごめんなさい…………」


「な、泣かないでセーヌさん。俺が頼んだ事だから……。それにほら! 怪我なんてしてないでしょ? 全然大丈夫だから! ね?」


 涙をポロポロ流しながら謝罪するセーヌを必死に慰めるレン。

 これに懲りたら、もうこんな危ない事は止めてもらいたいもんだ。


 だが、そうは問屋が卸さないようで、レンは今まで受けた一連の魔法で何かを掴んだらしく、セーヌに対し、今度は魔力そのものを飛ばして欲しいと言い出した。


 魔力そのものを飛ばす? そんな事出来るのか? と首を傾げたが、出来るらしい。魔法を学ぶ訓練の初期にそういった訓練を行うそうだ。魔法を学ぼうとも思った事のない俺には初耳だった。


 二度に渡り魔法を当ててしまった事に、改めて罪悪感に苛まれるセーヌをレンが必死に慰めた後、なんとか立ち直ったセーヌによって魔力が放たれた。


 赤いもやがセーヌの体から放たれ、レンの元に到達。レンの体が少し揺れた。


 正直な所、俺には今の行為に何か意味があったのか全く分からなかったのだが、レンにとっては重要な事だったらしい。

 レンが顎に手を当てて考え込んでしまい、依頼完了の宣言されていない俺達はただ待っている事しか出来なかった。


 暫し難しい顔でブツブツと何かを呟いていたレンは、おもむろに外套に取り付けられた〈拡張保管庫〉から白い塊を取り出した。


 すると次の瞬間、塊が動きだし、レンの背中にくっついた。背負われるような形になった塊は、今度は背中からレンを包むように広がっていく。

 その様子はまるで、翼を広げる天使のようだった。


「…………よっし。こんなもんでいいかな? んじゃあセーヌさ……どうしたの?」


 きょとんとした顔で俺達を見るレン。いやどうしたのじゃねえよ。いきなりレンから翼が生えてきたんだぞ? 驚きもするわ。


 俺達がそれを指摘し、レンがそれに納得するような声を上げた途端、なんとなく翼っぽい、という程度だった物が、みるみるその形を変え、あっという間に立派な一対の翼になった。


 レンとしても、今の変化は予想外だったらしく、なんとか形状を変えようとしていたが上手くいかないようで、最終的にはがっくりと項垂れていた。


 気を取り直して実験を再開したのだが、レンに生えた翼は魔法に滅法強いようで、キースの【水球】、セーヌの【火球】、【炎槌】の全てを完璧に防いでいた。


 …………まあ正直な所、俺達にしたら翼の性能云々については、もうどうでもよくなっていた。

 翼の生えたレンの姿があまりに似合っていたからだ。

 可憐な立ち姿、金色の瞳、銀色の長い髪は日光を反射し、頭頂部に輪を作り出す。

 その姿はまさに天使そのものだった。


 …………これで、中身がもっと女っぽかったら完璧なんだがなあ。年齢を除いて。


 そんな事を考えながら、〈天使形態〉だの〈絶壁の天使〉だの言っていたら、何故か怒りだしてしまった。〈二つ名〉っぽいのが気に入らなかったのだろうか。

 いいと思うんだが、〈絶壁の天使〉…………。


 ……。


 …………。


 ………………。


 レンからの指名依頼を受け、それを達成して暫く経ったある日、レンとメリアが〈土竜亭〉にやって来た。

 ……と思ったら、いきなり土下座を始めた。そして、いきなりの行為に面食らっている俺達に、ポツポツと説明を始めた。


 ――とある事情で機織りの魔道具が必要になり、買いに行ったはいいが、高額すぎて手が出なかった事。


 ――店主と話した所、一定量の〈魔銀〉となら交換してくれると言われた事。


 ――〈魔銀〉は迷宮で手に入ると言われた事。


 ――それを聞いたレンは喜び勇んで店を飛び出したのはいいが、攻略に必要な物資はおろか、迷宮の場所すら知らないという事実に気づいた事。


 ――途方に暮れていた所、高レベル冒険者である俺達の存在を思い出した事。


 ……………………馬鹿かな?


 いや、まだ致命的な馬鹿じゃないか。目標階層すらわからない状態で、場所だけ聞いて特攻してないし。馬鹿な事には変わりないが。


 迷宮の基礎情報なんざ、隠さなきゃいけない情報って訳でもないし、教えてやる事にした。

 …………話の流れで〈魔銀〉の見た目について聞いたら、ハッとした顔をしたのを見た時は、『こいつら大丈夫かよ……』と思ったが。

 〈魔銀〉の見た目も分からないで、どうやって探すってんだよ。


 そこで俺は見本になるものがないかと、他の奴らに声をかけたところ、レミイが〈温熱盤〉を持ってきた。確かに、これは丁度いいな。〈魔銀〉を使ってる部分が外から見えるし。

 〈温熱盤〉を使って〈魔銀〉の説明をしたら、突然レンが顔を真っ赤にして体をくねらせ始めた。よくわからんが恥ずかしがっているようだ。説明の中に、恥ずかしがるような場所、あったか?


 レンの動きがあまりに気持ち悪くて視線を逸らしたら、逸らした先にいたメリアも、顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。こっちもかよ。なんなんだよこいつら。意味分かんねえ。


 とりあえず魔銀の見た目について理解したらしい二人は、お礼を言って去っていった。これから準備を始めるんだろう。だとすると、実際に迷宮に入るのは……二、三日後あたりか。


 正直、あいつらが危ない目に合う姿が想像できないが、迷宮では何が起こるかわからない。気をつけて欲しいものだ。


 ………………いや、こいつらの事だ。また何か突拍子もない事をやらかすんだろうな。それなりに付き合って来ているから、慣れてきた。


 本当に、見た目に寄らないぶっ飛んだ奴らだよ、全く。

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[一言] そして大漁で帰ってくる( ˘ω˘ )
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