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閑話 見た目に寄らぬ者⑥

1/6(水)まで、1日1話、年末年始特別連続更新を実施中です!

1/5(火)までは閑話、1/6(水)に本編を投稿します!

投稿はいつもと同じ、11時です!

外出自粛が求められている今、暇つぶしにお読みいただければ幸いです!

 レンとメリアの店、〈鉄の幼子亭〉の開店初日。


 俺達はなんだかんだ、昼頃に店に入ってから、閉店まで店に居た訳だが、客は数えるほどしか来なかった。

 まあクロケットは旨いし、他の料理も不味い訳じゃない。人伝てで話が広がり、少しづつ客は増えていくだろう、と俺は考えていたのだが、レン達は違ったようで、対策を講じる事にしたらしい。


 その時、丁度俺は依頼を受けてイースを離れていたので人伝で聞いただけだが、なんとあいつら、無料で料理を配ったそうだ。意味がわからない。

 客が来なくて困っていたのに、無料で料理を配る? そんな事しても、余計に金がかかるだけで意味なんてないだろう。そう思っていた。


 ところがどうだ。料理を配った直後から客はみるみる内に増え、あっという間に店は人で溢れんばかりになったそうだ。話を聞いた奴が言うには、『配られた料理は旨かったが一口分しかなく、もっと食べたいがために店を足を運んだ』だそうだ。


 なるほど。一口分なら大して金はかからないし、ある程度客が来ればすぐに取り返せるだろう。しかもその一口すら食べられなかった奴らも、食べた奴らの話を聞いたら食べたくなる。だがもう無料配布は終わっている。食べたいなら店に行くしかない。だから店に足を運ぶ。

 よく考えられている。これもどうせレンが考えたんだろう。こんな突拍子のないことをするのは、俺の知っている限り、レンしかいない。


 ……。


 …………。


 ………………。


 数日後。

 レン達が俺達の部屋にやって来た。〈拡張保管庫〉を買った時に話した、『子供が売るのは信用が得られない』という問題の解決策が見つかったそうだ。


 俺達も言う事があるから丁度良かった。明日辺り店に行こうと思ってたからな。


 …………俺達が買った〈拡張保管庫〉、時間停止機能がついていやがった。


 〈拡張保管庫〉を買って初めての依頼の時に、見つけたからとりあえず採集して忘れていた薬草が、取れたてみたいな鮮度で出てきたのだ。昨日、一度整理をしようと中身を全部出した時に気づいた。

 最初はなんで薬草なんかが入っているのか謎だった。他の奴らに聞いても、首を傾げるだけだった。その薬草はここいらでは生息しておらず、採集するには少し離れた場所まで行かなければならない物だった。

 暫し悩んでいると、レミイが〈拡張保管庫〉を買って初めての依頼の時に、薬草の生息地付近に行った事を思い出した。恐らくその時に採集したのだろう。


 あいつ、なんてもんを売り付けやがる。時間停止機能付きの〈拡張保管庫〉なんざ、大金貨三百枚じゃ絶対買えない。大金貨五百枚は固い。

 他の奴らに売り出す前で良かった。時間停止機能付きの〈拡張保管庫〉の価値について話してから、あいつが持ってる契約書の原本を修正してから、不足分を支払えば終わりだ。


 そう考えながら、先に解決策とやらを聞こうと思ったらあいつ、またとんでもない事をしでかした。


 レンが、大人になった。


 年齢としてはメリアとそう変わらないくらいだろうか。背丈もメリアよりちょっと小さいくらいか。髪色はおろか、瞳の色まで変わっていて、完全に別人だ。しかも腹が立つ事に、かなりの美人。レンだって知ってなかったら口説きにいってる所だ。


 にしても、子供だと信用がない事に対する答えが、『自分がでっかくなる』ってなんだ? こいつほんとなんでもありだな。常識的に考えれば、客との会話をメリアとかに任せるとかだろう。


 そこから大人の姿のレンが名乗る名前について、女性陣が和気藹々と話し始め、男性陣は蚊帳の外に置かれた。

 …………と思ったらレンまでこっちに来た。いやなんでこっち来るんだよ。お前の名前考えてるんだぞ? ちょっとは興味持てよ。


 長時間に渡る話し合いの末、レンの大人の姿での名前はローザとなったようだ。


 え? 発表? いや、聞こえてたから別にいらな…………いえ、なんでもないです。


 レンは一応興味がある振りをしていたが…………棒読みにも程があるだろう。もうちょっと演技しろ。


 ………………そうだ。レンが大人になったのが衝撃的すぎて忘れてた。〈拡張保管庫〉について話をしなければ。


 ……。


 …………まさか、作成者本人がつい最近まで知らなかったとは思わなかった。軽い感じでケラケラ笑うレンに頭を抱えつつ、購入金額を修正すると、その金額に驚いていたので、時間停止機能付きの〈拡張保管庫〉は貴重で高額であることを教えてやった。

 追加の支払いは正直かなり痛いが、背に腹は代えられない。明日からまたしっかり稼ごう。


 ……。


 …………。


 ………………。


 俺達が依頼で少し遠出をしている間に、かなり色々あったらしい。


 まず、レンの店で働いている従業員の一人が倒れたそうだ。その娘の看病をするとかで店を数日閉めていたようだが、数日で復調したようだ。良かった。

 …………だが、あの娘、なんか色々変わってないか? 髪色はおろか、瞳の色まで変わってるし、性格もすっげえ明るくなってた。まるで別人だ。前見た時は、張り付けたような笑顔で、事務的な口調だった。美人だったので声を掛けたのだが、完璧に無視されてしまったから良く覚えている。


 まあ、レンの奴なら、従業員を別人みたいに変えることもできるんだろう。でっかくなれるくらいだし。


 俺としては今の方が好みだから嬉しい限りだが、一部の野郎共からは悲しみの声が上がったそうだ。なんでも、『あの冷たい声と顔でバッサリやられるのが堪らない』そうだ。俺には分からん世界だ。分かりたくもない。


 レンが攫われたと聞いた時は耳を疑った。あいつを攫う? どうやって? そんな事出来る奴いんの?

 そして、どうやってか自身の居場所を身内に伝え、数日で何事もなかったように帰って来たと聞いた時は、変に納得してしまった。

 まあ、レンだしな。あいつならそれくらいしてもおかしくないだろう。


 しかもあいつ、人攫いのアジトに到着するや否や、人攫いをノした挙げ句、自分が攫われた時の状況を報告書としてまとめ、数々の証拠品と一緒に救助隊の人間に提出したらしい。もう笑うしかない。それ、攫われた人間がやる事じゃあ、絶対ないからな? レンらしいと言えばらしいが。


 そして話によると、帰りの馬車に何故かメリアも乗っていたらしい。救助隊には同行してなかったはずなのに。

 ………………あいつら、瞬間移動でもできるんじゃないか? あいつらならそれくらい出来ても不思議じゃない。と思ってしまう俺は、大分あいつらに毒されてるんだろうな。


 依頼を終え、組合(ギルド)に報告をした俺達に、指名依頼があると聞かされた。依頼は『魔法結界の耐久性試験の手伝い』依頼者はレンだった。

 魔法結界を張る魔道具なんざまずてに入らない。持っていたとしても王族とかだ。

 まあ、レンだったら『作った』とか普通に言い出しそうなのが恐ろしいが。

 内容としては展開された結界にさまざまな攻撃を加え、強度や特性を調べるらしい。

 まあ、大した労力もかからないし、依頼料も破格だ。今日は受諾だけして、一日休息したらレンの所に向かおう。


 ……。


 …………。


 ………………。


 騙された。


 いや、依頼内容に嘘があったわけじゃない。確かに結界に攻撃を加えて、その強度や特性を調べる、というのは本当だった。


 だが、その結界がレンの周囲に張られた物だなんて話は聞いてない。


 それ、端から見たら『小さな子供によってたかって攻撃を加える冒険者の図』になるよな?!


 しかも、こんな依頼を出すってことは、その結界について何も分かってないってことだろ?

 もし俺達の攻撃に耐えきれず結界が破れたらどうなる? 考えたくもない。レンは『万一自分がこの試験で怪我をしたとしても、俺達に責任の追及はしない』とか言っていたが、俺達が気にしてるのはそんな事じゃねえ。


 俺達は帰る事にした。もちろん依頼は失敗になるが、そんなもんどうだっていい。他の奴らも同じ考えだったようで、反論は全く出なかった。


「訳があるんだよ! 俺の話を聞いて!」


 いやに必死に止めるので話を聞いてみると、その理由が判明した。


 まず、レンは独力で結界を張れるらしい。そして、その結界は、メリアの攻撃をほぼ無傷で耐える事ができるくらいの強度がある事は分かってるそうだ。


 で、ここからが本命なのだが、レンが攫われた際、人攫いの魔法が結界を通り抜けたらしい。貫かれた、ではなく、通り抜けた、だ。

 その結果、レンは人攫いの放った魔法をモロに受け気絶。拉致される羽目になったそうだ。


 なるほど。結界を張れると聞いた時に、『だったらなんで攫われたんだ?』と疑問に思った訳だが、そういう経緯があったのか。


 その事実を受け、レンは『この結界は、自分の知らない特性がある』と考え、それを調査しようと考えた。


 だが、一番手軽に協力に依頼できるメリアは、短剣による物理攻撃しかできない。調査の為には様々な種類の攻撃を受ける必要がある。

 自分の事をある程度知っており、かつ、複数種類の攻撃手段を持つ相手を考えた際に思い付いたのが俺達だった、というわけらしい。


 確かに、俺は大剣で一撃が重い攻撃を繰り出す事ができるし、レミイはその速さを生かした死角からの攻撃が得意だし、レーメスは高速の連続攻撃が持ち味だ。

 キースとセーヌも、それぞれ水属性と火属性の魔法の使い手だしな。


 確かに数多くの攻撃手段があるじ、レンのこともそれなりに知っている。確かにうってつけではあるかもしれない。

 そして、一番の理由として、この依頼を通常依頼で出したとしても、こんな依頼を受けて、嬉々として攻撃を仕掛けてくるような奴らは嫌なのだそうだ。


 お前が出した依頼だろうが、とも思うが、言いたいことは分かる。


 今の説明を聞いて、それでも躊躇することなく攻撃を仕掛けるような奴らなんざ、ろくなもんじゃない。

 そうだろう。いくら結界があるとはいえ、小さな子供に向けて攻撃を仕掛けるんだぞ? 一般的な感性があれば躊躇する。

 そんな依頼に俺達を指名するのは、信用されてると見るべきか、嫌がらせなのか…………いや、信用されてるってのは分かるんだが。


 こういう信用は正直あまり、嬉しくない。

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[一言] レンちゃんに関わると常識がブレイクされていく( ˘ω˘ )
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