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閑話 見た目に寄らぬ者④

1/6(水)まで、1日1話、年末年始特別連続更新を実施中です!

1/5(火)までは閑話、1/6(水)に本編を投稿します!

投稿はいつもと同じ、11時です!

外出自粛が求められている今、暇つぶしにお読みいただければ幸いです!

 紆余曲折ありつつも、無事〈拡張保管庫〉を手に入れた俺達は、早速依頼を受ける事にした。


 これがまあ楽な事!


 今までは、全員が背嚢を背負い、その中に食料、水、予備の装備等を詰め込んでいたのが、腰に取り付けた小物入れ一つで事足りるのだ。劇的に重量が軽くなったお陰で、目的地に着くのも早くなったし、でかい背嚢のせいで動きを阻害されることもない。しかも討伐した魔物も、高く売れる箇所だけ選別する必要もない。わざわざそんな事しなくても、全部持って帰れるからな。


 結果…………。


「小金貨八枚に、大銀貨七枚ですね」


「まじか……」


「前同じ依頼を受けた時、確か二日かかって小金貨五枚でしたよね?」


「ええ…………。でも今回は、一日ちょっとで小金貨八枚に大銀貨七枚……」


「すごいすごい! 依頼にかかる時間も短くなってるし、報酬もすっごい増えてる!」


「〈拡張保管庫〉すげえ……」


 想像以上の効率に戦慄していると、受付嬢がニコニコと話しかけてきた。


「〈拡張保管庫〉を手に入れたんですか!? すごいです! そんな貴重な物を手に入れられるなんて、さすが〈剛剣〉のジャン率いるパーティーですね! しかも全員が〈二つ名〉持ち! イース自慢のパーティーです!」


「その名前で呼ぶな、恥ずかしい」


 〈二つ名〉というのは、大きな功績を挙げた冒険者に対して、組合(ギルド)が付ける渾名みたいなものだ。こっ恥ずかしくて名乗ってないが、一応俺達五人は全員が二つ名持ちだ。


 〈無影〉のレミイ。

 〈嵐剣〉のレーメス。

 〈水賢〉のキース。

 〈炎姫〉のセーヌ。

 そして〈剛剣〉のジャン。


 数年前にイースを襲った、魔物の大量発生時の働きが評価された結果、らしい。


「数日前まで持ってませんでしたよね? 買ったんですか?」


「ああ。ちょっとした伝手でな」


「うわあ! 〈拡張保管庫〉を売れるような大商人とお知り合いなんて、さすがですね!」


 言えない。まだ商人ですらない、レベル零の冒険者が、三日で作った物だなんてとても言えない。


 俺の微妙な表情を見てどう勘違いしたのか、受付嬢は居住まいを正した。


「ご安心を! 詳細は聞きません! 冒険者の内情に深入りするな。組合(ギルド)員の鉄則です!」


 …………まあ、言わなくて済むならそれでいいや。

 でもな? そう思うんなら、声は小さくしてほしいんだが? さっきから周りの視線がグサグサ刺さってきて、やばいんだが?


「頼む。じゃあ俺達は行くわ」


「はい! またのお越しをお待ちしています!」


 受付嬢の元気な挨拶を背中に受けながら、逃げるように組合(ギルド)を出た。


 ……。


 …………。


 ………………。


 その翌日、俺達は依頼を確認する為に、組合(ギルド)に向かった。

 いつも通り、組合(ギルド)の建物に入り、依頼が張り出されている掲示板に足を向け、良さげな依頼を探――――そうとした所で、受付に座っていた受付嬢の一人が受付を飛び出し、俺達に向かって駆け寄ってきた。おい、お前対応中だったろ。いいのかよ、そいつら放っておいて。


「ジャンさん! 来て早々すみません。組合(ギルド)長がお待ちですので、組合(ギルド)長室までご一緒いただけますか?」


組合(ギルド)長が? 一体何の用だ?」


 組合(ギルド)長直々に呼び出し食らうような事やったっけか?


「さあ……私は組合(ギルド)長に、ジャンさん達がいらっしゃったら、組合(ギルド)長室に案内する様言われただけですので…………」


 この受付嬢は何も事情を知らないらしい。って事は、あまり大っぴらにできない内容か。

 …………また指名依頼か? それだったらいいんだが、俺の勘は、違う、と告げている。


 非っっっっっっ常に行きたくない。だが、ここで断っちまうと、後々もっと面倒な事になりそうな気がする…………。


「分かった。行こう」


「ありがとうございます! ではこちらにお願いします」


 さて、一体、組合(ギルド)長の要件ってのは、なんなんだろうな?


組合(ギルド)長。ジャンさんたちをお連れしました」


「入れ」


 室内からの声に促され、組合(ギルド)長室に入った俺達を、椅子に座った組合(ギルド)長が出迎える。

 俺達をここまで連れて来た受付嬢は、一礼した後、部屋を出ていった。


「いきなり呼び出してすまんな。早速だが、どんな要件かは分かるか?」


「いや、さっぱりだな。また指名依頼か?」


「違う」


 指名依頼じゃない? 頭に疑問符を浮かべる俺達に、組合(ギルド)長は、今回俺達を呼び出した理由を語った。


 組合(ギルド)長の要件とは、レンの〈拡張保管庫〉の事だった。


 昨日、依頼の完了報告をした受付嬢から、俺達が〈拡張保管庫〉を手に入れた事が漏れ、組合(ギルド)長の耳に入ったらしい。

 普通であれば、冒険者が何か貴重な道具を手に入れたくらいで、呼び出しは食らわないのだが、組合(ギルド)長は大雑把にだが、俺達の懐事情を知っている。

 イースでは上位に位置する俺達ではあるが、冒険者全体を通してみればそうでもない。有象無象に毛が生えた程度だ。

 そんな俺達が、〈拡張保管庫〉なんていう、貴重で高額な道具を手に入れられる訳がない。

 手に入れたのだとしたら、何か違法に手を染めた可能性が高い、という事だそうだ。


 ………………困った。非常に困った。

 俺達は、悪事に手を染めて〈拡張保管庫〉を手に入れた訳ではない。

 だが、それを証明するには、レン達から〈拡張保管庫〉を買った事を言わなくてはならない。

 そうすると今度は、子供であるレンと、たかだかレベル一冒険者であるメリアに〈拡張保管庫〉なんて貴重な品を手に入れられる訳がない、嘘を吐くな。という話になるだろう。

 そうなってくると、俺達の潔白を証明するには、レンが〈拡張保管庫〉を作成できる事を言うしかない訳だが…………。


 レン本人に『誰にも言うな』と言っておいて、俺達が情報を漏らすなど、許されない。

 俺達は、あいつらに信用されて〈拡張保管庫〉の最初の購入者となり、さらには次の購入者の選別まで任されたのだ。

 その信用を裏切る事はできない。


 だが、組合(ギルド)長の追及を躱す為の案が思い浮かばない……!


「………………ふむ。強い目だ。やっぱ、悪事を働いた訳じゃねえ、か」


 口ごもる俺達を黙って見つめていた組合(ギルド)長は、唐突にそんな事を言い出した。


「ま、正直な所、お前達が悪事を働いて、そいつを手に入れたなんざ最初から思っちゃいねえ。大方、売った奴への義理で話せないって所なんだろう?」


「………………ああ」


「だったらこうしよう。冒険者組合(ギルド)組合(ギルド)長として、レベル六冒険者ジャンに要求する。〈拡張保管庫〉の入手経緯を話せ。そして、今回話された内容は、俺の口から漏れる事は決してない。どうだ?」


 組合(ギルド)長権限を使って聞いてくるか。

 組合(ギルド)長権限を用いられれば、冒険者は逆らえない。下手に逆らうと、組合(ギルド)を通した依頼を受けられなくなったり、最悪、冒険者資格の剥奪まである。

 便利な権限だが、これは諸刃の剣。冒険者は束縛を嫌う。あまり多用すれば、冒険者が街を離れてしまうからだ。街の冒険者が減れば、依頼を受ける人数が減る。それは街全体に不利益を生む事になってしまう。

 そんな札をここで切るって事は、それだけこの情報が重要だと考えてるって事か……。


「分かった。話す」


 俺は話す事にした。組合(ギルド)長とは長い付き合いだ。この人は口が固い。この人が『俺の口から漏れる事は決してない』と言うのなら問題はないだろう。


 ……。


「あいつ、そんな事まで出来んのかよ…………」


 全て話し終えたると、組合(ギルド)長は頭を抱えた。まあそうなるよな。意味分からないよな。


「ああくそ、あいつらの保護規模を、大分上方修正しなくちゃいけねえな…………すまん。この話、クリスに話していいか? クリスはあいつらの担当職員なんだ」


「そこから漏れないなら」


「あいつは真面目で口も固い。問題はない」


「そうか。じゃあ俺達は戻るぞ」


 一刻も早くレン達の所に行って、情報を漏らした事を詫びなきゃならん。

 いくら組合(ギルド)長権限を用いられたと言っても、本人達の許可を得ずに情報を漏らした、という事実は変わらないからな。


「分かった。…………ああ、そうだ。今回の件、レンには俺から言うから、お前達は気にしなくていい。俺の口から言った方が説得力があるだろ?」


「……………………分かった」


 詫びに行く道が塞がれてしまった。ホッとしたような、罪悪感に駆られるような、複雑な心境だ。


 ……。


 …………。


 ………………。


 それから一月ほど、悶々としながらも、大した出来事もなく過ぎていった。


 組合(ギルド)で依頼を受け、こなし、酒を飲む。


 今までと変わったのは、散々使った結果、使いきれずに残った分だけ貯蓄に回していたのが、金が手に入った時点で一定額を貯蓄に回し、残った金だけを使うようになった。


 理由は言わずもがな、次回の〈拡張保管庫〉の代金を貯める為だ。


 今までの冒険者生活で貯まった金は、一回目の支払いで見事に吹き飛んだし、次の支払いまでには、何がなんでも大金貨三十枚を貯めなくちゃいけない。その為には、計画的に金を貯めなくては。


 この一月で皆、〈拡張保管庫〉なしの生活には戻れなくなっていた。


 金遣いが荒く、自分の取り分を真っ先に使いきってしまっていたレミイですら、文句も言わずに貯蓄に協力しているくらいだ。


 そんな俺達は今日、定宿である〈土竜亭〉の自室でボーッとしていた。

 用事もないのに出掛けると無駄金を使っちまうからな。依頼は昨日片付けたし、今日は全員休息日だ。


 そして、皆考える事は一緒なのか、全員が部屋で好きに過ごしていた。


 そんな俺達の元にレン達がやってきた。


 〈拡張保管庫〉について組合(ギルド)長に話してしまった罪悪感と、それを詫びる事を封じられた事による、モヤモヤした気持ちに苛まれている俺の様子に気づくことなく、レン達は、チクリと過去の所業を突いた後、驚くべき事を話し始めた。


 なんとこの二人、食堂を始めるらしい。


 すでに店舗は購入してあり、明日開店だそうだ。驚いたのは準備を始めたのが一ヶ月前だということだ。一ヶ月って。


 俺は農夫の息子だから、店を開く準備について知識があるわけじゃないが、短すぎだってことはなんとなく分かる。


 店の名前については、メリアが商業組合(ギルド)の人間と話して決めたらしいが、レンは生返事を返していたそうだ。


 お前、自分の店だろう。なんでそんな適当なんだよ。


 だが同時に納得もした。ちゃんと話を聞いていたら〈鉄の幼子亭〉なんて名前にはならなかっただろう。どう考えてもレンの事だしな。


 まあ、あいつらの出す店なら理不尽に高いってこともないだろうし、明日冷やかしに行ってみるか。

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