閑話 見た目に寄らぬ者③
開けましておめでとうございます!今年も「異世界転生したら幼女だった。~異世界で安定した生活を送りたい~」をよろしくお願いいたします!
1/6(水)まで、1日1話、年末年始特別連続更新を実施中です!
1/5(火)までは閑話、1/6(水)に本編を投稿します!
投稿はいつもと同じ、11時です!
外出自粛が求められている今、暇つぶしにお読みいただければ幸いです!
レンの奴、いきなり俺達の部屋に来たと思ったら、『〈拡張保管庫〉買わない?』ときたもんだ。
全く予想してなかった事を言われたので聞き直してしまったが、聞き直しても内容は変わらなかった。そのまま勢いで値段を聞いてしまったが、それに対する答えがまたひどい。容量による、だと。
なんとレンは自分で〈拡張保管庫〉を作成する事ができるらしい。しかも、見た目も容量も思うがままだと。
しかも相場がわからないからと、売る相手であるはずの俺達に値段を聞く始末。
俺達があり得ないくらい安い値段を提示したらどうすんだよ。そんなケチな真似、しねえけど。
正直、容量はでかけりゃでかいほどいいんだが、容量が増えるにつれ、値段も馬鹿みたいに上がっていくので、昔一目見て諦めた、一軒家くらいの容量を出し。値段もその時の物を提示した。大金貨三百枚だ。
その時俺達はまだレベル四で、そんな大金とても払えなかった。今も即払うのは無理だが。
そうしたらあいつ、代金を分割し、長期間に渡って支払う、とかいう案を出してきた。それを使えば、最長で十年間に渡って支払いを続けなきゃならないが、一回の支払いが約十分の一になるらしい。
そんな事を聞いたら誰もがこう考えるだろう。『分割された代金を一回だけ払って逃げ、転売すれば大儲けだ』と。
だが、それに対する対策もバッチリだった。まずレン作の〈拡張保管庫〉、離れた場所から破壊できるらしい。契約書にその事を書いた上で、支払いが滞ったら容赦なくぶっ壊すそうだ。
さらに、決まった人間しか使用できないように、制限まで掛けられるらしい。
……もうなんでもありだなこいつ。
俺達に売るだけにしては、随分考え込まれた内容だと思って聞いたら、あいつ、〈拡張保管庫〉を売りだそうと考えてる、とかほざきやがった。
あまりにも命知らずな考えに、つい声を荒げてしまったが、あいつは今まで見たことがないくらい真剣な顔で言ったんだ。
自分には成し遂げなくてはいけない事がある。その為に情報が必要だ。これは情報を手に入れる為の手段のひとつだ、と。
情報は金になる。希少な魔物の出没情報、強力な装備が手に入る迷宮の攻略情報、貴族の不貞とかいうものまで売れる。最後のは何に使うんだかサッパリだが。
〈拡張保管庫〉を売る、なんていう、危険な事をしてでも金を集め、買いたい情報。どれだけの価値があるものなのか。
正直な所とても気になるが、こちらから聞くような事はしない。それが冒険者の暗黙の掟だ。
しかもレンは、自分のやろうとしている行為が危険な事も承知しており、それについても安全策を用意していた。
最初から大々的に売り出すのではなく、俺達に客の選別をさせるとか抜かしやがった。
随分と高く買われている事に驚きつつ、何故か嬉しくなってしまった。
それを顔に出すのも気に食わなかったので、不機嫌を装ったままレン達を部屋から追い出した。
「……ったく、俺達を使うなんざ、十年早いっつーの」
「そんなこと言って、顔がにやけてるぜ」
「あそこまで信用されては、下手な事はできないですねえ」
「レンちゃん達の頼みだもん、私は全力でやるよ!」
「もちろん、私もですわ」
ったく、どいつもこいつもニヤニヤニコニコしやがって。
「まああの話も、俺達が〈拡張保管庫〉を買った後の話だ。話し合いだ。どうせだから最高の物を買おうぜ」
それから俺達は夜通しどんな〈拡張保管庫〉が良いか話し合った。
翌日、俺達はソワソワと落ち着きなく、レン達が部屋に来るのを待っていた。
「遅くね?」
「それついさっきも言いましたよ。……でも確かに遅いですね」
「そのやりとり自体、数えきれないくらいやりましたわよ。…………ああ、今日、ついに念願の〈拡張保管庫〉が手に入るのですわね!」
「いや違えから。今日は詳細を詰めるだけだから」
「…………俺、宿の入り口で待ってるわ」
「あはははははっ! 入り口で待ってたって早く来る訳じゃないよー! あっはははー!」
全員、いい感じにおかしくなっている。レーメスとキースは数分おきに同じやりとりを繰り返しているし、セーヌは今日手に入る気になっている。
レミイに至っては、言ってる事はまともなのに、何が可笑しいのかずっと笑っている。
……かくいう俺もずっと興奮が治まらない。今日はあくまで、購入する〈拡張保管庫〉の形状や容量などを詰めるだけなのに。
話し合いを始めた時点から全員浮かれに浮かれ、おかしな精神状態のままここまで来てしまった。
ただ部屋で待っている事に耐えられなくなった俺は、宿の入り口の前に立ち、レン達がやって来るのを待った。
……どれくらい待っただろうか。数日は待った気分だが、実際は長くても数時間だろう。ここまで誰かを待ち遠しく思ったのは初めてだ。
ふと我に返り、自分の状況に薄く笑っていると、やっとレン達がやってきた。待ち人来る。だ。
「来たなっ! 待ってたぜっ! じゃあ部屋に行こうっ!」
レンの顔を見るや否や、腕を掴んで部屋に連行する。我に返ったはずの思考は、一瞬の内に強い興奮に掻き消された。
さあじっくり話をしようぜ! 俺達の〈拡張保管庫〉の為に!
……。
…………。
やらかした。
俺達は全員揃って、レンに向かって頭を下げた。
レン達を部屋に強制連行し、全員で詰め寄った結果、レンが恐怖のあまり失禁し、さらには泣き出してしまったのだ。
部屋に入ってすぐの場所でへたりこんでしまったレンを、メリアが優しく立ち上がらせ、部屋の奥に連れていった。
次の瞬間には、俺、レーメス、キースの三人、すなわち男性陣はレミイによって部屋から叩き出され、それと同時にセーヌが部屋から飛び出した。
俺達が部屋の前でマゴマゴしている内に、セーヌが水の入った桶と清潔そうなボロ布を持って戻り、そのまま俺達を無視して部屋に入っていった。無視しないでくれよ。
その場から離れることも、なんだか憚られ、ただ突っ立っていると、今度はレミイが何かを包んだらしい布の塊を抱えて出て来て、またも俺達を無視して離れていった。
さらに待つこと暫し、レミイが戻ってきた。手には相変わらず何かを包んだらしい布の塊を持っている。
「もう入っていいよ」
今回は無視されず、俺達に入室許可が出された。四人でゾロゾロと部屋に入る。ここ、俺達の部屋なんだが。
だが何も言わない。団結した女が怖いのは身をもって知ってるからな。
レンが失禁した場所は綺麗に拭かれていた。俺達を追い出した後に掃除したようだ。それくらい俺達がやったのに…………と思いつつ視点を変えると、レンの服が変わっているのが見えた。
あれは……レミイのだったか? 何度か見たことのあるブカブカの服を着て、ずり落ちないように要所が紐で縛ってあった。
とりあえず、開口一番謝罪したが、メリアの恐いこと。怒っているのが全身から伝わってくる。メリアの背後の風景が揺らいでいる気がする。…………本当に揺らいでないか?
メリアの背後に意識を向ける直前、突然レンがメリアの腕を掴んだ。次の瞬間、足元とレンの目元から煙が上がる。
突然の事態に驚いている間に、レンがなんとかなだめてくれ、メリアの怒りも収まったようだ。いつの間にか、メリアの背後の揺らぎも収まっていた。
それから気を取り直して、〈拡張保管庫〉について話した。
容量については奮発して、この宿屋くらい。見た目は少し大き目な小物入れくらいにして、腰に装着出来るように。
正直、今の持ち金は分割払いの一回分に少し足りないが、作成には早くても数ヶ月はかかるだろうから、その間に金策に励めば大丈夫だろう。
――――と思ったら、まさかの製作日数三日だと! 早すぎる! やばい! すぐに動かねえと支払いができない!
全員で慌てて装備を整え、組合に向かう為に部屋を飛び出す。三日以内に稼げる依頼を受けないと支払いが………………っと忘れてた!
「じゃ、俺達は出てくるわ! 完成したかどうかに関わらず、三日後にまたきてくれ!」
レン達を部屋に置いてきちまったが、俺達には時間がない! 適当に帰っといてくれ!
……。
…………。
………………。
普段であれば手を付けないような依頼にも手を出し、死に物狂いで依頼をこなす事で、二日目の深夜に、なんとか目標額に到達した。
「あっぶねえ! ギリギリだったなあ!」
「あんなに必死に依頼を探したのは久しぶりでしたわ……」
「最終的にはメンバーを振り分けて、同時進行で進めましたからね…………」
「近場の討伐系、依頼が出てた分は全部私達でやっちゃったしねえ」
「だな。正直疲れた…………」
ここまで必死に金策に走ったのは、レミイがやらかして借金を抱えてしまった時以来だ。
期日までに返済できないと、奴隷落ちだったからな。あの時はやばかった。
でもまあ、なんとか金は集まった。後は明日を待つのみだ。
「明日、あいつらが何時来るのかわからねえが、さすがに日も昇らねえ内ってのはないだろ。お前ら少し寝とけ」
「寝れると思ってんの?」
「………………すまんかった」
自分で言っといてなんだが、寝るとか無理だわ。いよいよ明日には念願の〈拡張保管庫〉が手に入るんだ。興奮で眠気が完全に吹っ飛んでしまっている。
「…………宿の前で待ってるか」
「「「「賛成ー」」」」
興奮でいい感じに頭が変になっていた俺達は、日も昇らない内から宿の外でレン達がやってくるのを待ち始めた。
すっかり日も昇りきった頃、ようやくレン達がやってきた。最初に見つけたのはレミイだった。
「やっと来たーーーーっ!!」
全員でレミイが指差した方向へ首を回すと…………いた! って遠いなおい!
「このまま待ってても埒が開かん。迎えに行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
全員で一斉に駆け出し、レン達を迎えにいくと……あ!?
「に、逃げた?」
「逃がしませんわよ! 私の〈拡張保管庫〉!」
〈拡張保管庫〉への憧憬がそうさせるのか、普段では考えられない速さで走り、レン達の前に立ち塞がった。
「良く来たなお前たちさあ部屋に行こう心配するなちゃんと金は用意してある」
「楽しみにしてたぜさあ早く部屋に行って見せてくれよさあ早く」
「あはははは楽しみだねあははははは」
「あああれが手に入ればこれからの冒険の稼ぎが跳ね上がりますわああドキドキしますわねワクワクしますわね」
「皆楽しみにしすぎて気が急いているんですよすみませんでは早く部屋に行きましょう」
興奮しすぎてつい数日前の出来事が頭からすっぽ抜けていた俺達は、怒涛の勢いでレンに詰め寄り――――
「ひ……ひぐっ」
またレンを泣かせてしまった。
レンの涙を見て一気に興奮が冷め、前回、同じ状況に陥った時、どうなったかを遅まきながら思い出す。
「…………あなたたち」
やっぱりー! メリアすげえ怒ってるー!
「「「「「す、すみませんでしたー!」」」」」
全員で地面に座り込み、ガバッと頭を下げる。
こういうときはさっさと謝るに限る!
周りから好奇の視線が突き刺さるが知ったことか!
「あー、もう大丈夫なんで、部屋いきましょ? ね?」
素早い謝罪が効を奏したようで、早めにレンが泣き止んでくれ、そのお陰か、メリアもなんとか許してくれた。助かった。ここで二人の機嫌を損ねて『やっぱ売らない』なんて言われたら、しばらく立ち直れない所だった。
…………だが、レンの口調がおかしくなって、グイグイ俺の背中を押して、宿に押し込もうとするのはなんなんだろうな?