閑話 見た目に寄らぬ者②
1/6(水)まで、1日1話、年末年始特別連続更新を実施中です!
1/5(火)までは閑話、1/6(水)に本編を投稿します!
投稿はいつもと同じ、11時です!
外出自粛が求められている今、暇つぶしにお読みいただければ幸いです!
2021/2/26追記:
ゴブリンが村から女性を攫った理由について、過去の話と矛盾していた部分を修正しました。
話の流れ等は変わっていません。
お読みいただく皆様にご迷惑をおかけしました事、謝罪させていただきます。
次にあいつらに出会ったのは、組合の中だった。
掲示板から少し離れた場所で、二人してしょぼくれているのを見つけたのだ。
あー、あれはあれだ、依頼の争奪戦に惨敗したんだな。新人冒険者の誰もが通る道だ。俺達も駆け出しの時はそうだったな、懐かしい。
試しに話しかけてみると、実際その通りだった。
何回か同じ目に会いながら成長してくんだ。がんばれよ。
…………と、ここで話は終わるはずだったのだが、話の流れで気になる事を聞いた。なんと、レンは生き物を殺した事がないらしい。
〈大森林〉では確実性を取る為に、メリアが一人で狩りをしていたそうだ。
まあ、彼女の言い分も尤もではある。狩りの成否が食事の有無に直結するのなら、確かに慣れた者が狩りを担当すべきだ。
だが、仮にも冒険者になった者が、生き物を狩った事がないのは不味いだろう。
慣れる慣れないはともかく、一度は経験しておくべきだと俺は思う。
なので俺は、二人に断って一度その場を離れ、少し離れた場所で俺を待っていた仲間の元に戻って言った。
「あいつらを連れて、ゴブリンの巣の殲滅依頼を受けようと思う」
「はあ!? なんでよりによってその依頼なの?! もうちょっと初心者向きな奴が、いくらでもあるでしょう?!」
真っ先に噛みついてきたのはレミイだった。
こいつとセーヌはレンがお気に入りだからな。彼女達、というよりレンを辛い目に合わせたくないんだろう。声こそ上げていないが、セーヌも頷いている。
「だが、冒険者を続けるんなら、遅かれ早かれ経験する事だろ? それなら俺達が付いていて、対処できる時に経験しといた方がいいんじゃねえの?」
「そうですね。これからどうなるかはともかく、今彼女達は二人きり。レンさん一人が動けなくなるだけで戦力は半減ですからね」
対して、レーメスとキースは賛成らしい。ふむ。見事に男と女に別れたな。
「そんなの、これから仲間が増えるかもしれないじゃない! それからでも遅くは――」
「遅くないのか? 本当に? というか、あの二人の中に入る奴なんているのか? ついていけないだろう、色々と」
「それは…………」
片や天災を起こす程強力な【能力】持ちの子供。片や〈大森林〉で子供と一緒に十年生き抜く実力を持つ女性だぞ? レベル詐欺も良いところだ。
同じくらいのレベルだと明らかに実力不足だし、高レベルはわざわざ低レベルと組む必要がない。そんなあいつらに近づく奴らなんて、ろくなもんじゃないだろう。大方レンの【能力】狙いとか、下衆な下心とか、そんなんが関の山だ。
「だったらせめて、ゴブリン以外にしようよ! ゴブリンの巣だと、あれが起こってるかも…………」
「それを見せるのも目的のひとつだ」
「なっ?!」
俺の言葉にレミイは絶句した。
ゴブリンは巣が近くにあると、繁殖の為、近くの村から女を拐い、巣に連れ帰り、犯す。
他の種族の雌を襲わないと増える事が出来ないなんて、ほんと、端迷惑な奴らだ。害しかない。
「レンちゃんはまだあんなにちっちゃいのよ?! それなのにあんなの見せたら心に傷を負っちゃうよ!」
「あの光景を見て、心に傷を負わない奴はいないだろう。それで心が折れて、冒険者を辞めるなら、それも選択肢の一つだろう」
あれだけ頭が切れるんだ。冒険者なんぞより向いた仕事はいくらでもあるさ。
「という事で改めて提案だ。俺達はゴブリンの巣の殲滅依頼を受け、荷物持ち扱いであいつらを連れていく。そこでレンに魔物を倒す経験を積ませる。ゴブリンの巣だと、あれが起こっている可能性もあるか、起こっていたとしても隠さず見せる。普通、あの年齢だと何が起こっているか分からないかもしれないが、あいつはあり得ない程賢いから問題ないだろう。どうだ?」
「俺は賛成。きついのは安全な時に見た方がいい」
「私も賛成です。私としては正直な所、彼女達には冒険者以外の仕事に就いてもらいたい、と思ってますので」
「…………そう言われてしまうと、反対なんてできませんわ。私だって、彼女達には普通の生活を送ってもらいたいと思いますもの」
「あとはお前だけだ、レミイ。お前の意見を聞こう」
全員の視線がレミイに集中する。
レミイは四人分の視線の圧力を受け、たじろいだように一歩下がったが、やがて頭を掻きむしりつつ声を上げた。
「う。……………………あーもう! 分かったわよ! 私も賛成よ! 二人は絶対守るわよ! ゴブリンなんぞに指一本触れさせないんだから!」
「決定だ。じゃあ俺は依頼を受けてくる。まだあいつらに理由は話すな。折を見て俺からする」
そう言い含めてから、受付に向かい依頼を確認する。さっき掲示板を確認した時には丁度いい依頼はなかったが、確認してみると、掲示板に貼り出す前の依頼が一件あった。距離もそう遠くないし、内容を聞いた限り、そこまで巣の規模も大きくなっていないようだ。
…………しかし、依頼を出した村から、母娘が連れ去られたらしい。難易度はともかく、胸糞悪さは最大級の依頼になりそうだ。
これを乗り越えられたら、彼女達、特にレンは大きく成長するだろう。本音を言えば、そんな成長なんてしなくていいから、街で平和に暮らして欲しいのだが。
…………裏の目的を知った彼女達は、俺を恨むだろうか。恨むだろうな。だが構わない。彼女達はまだ若い。若者が正しい道に進めるように、道を示すのが年長者の役割だ。
…………こんな事を言ったら、レミイやセーヌに『私達だって若い!』と怒られそうだがな。
……。
…………。
………………。
依頼は完了した。
巣の中にいたゴブリンは殲滅し、巣となっていた洞窟も再利用できないよう破壊した。
これで依頼主の村がゴブリンの被害に合う事は少なくなるだろう。……なくなる、と言えないのが心苦しいが、ゴブリンの繁殖力は凄まじいからな。こればかりはどうしようもない。
裏の目的も達成した。
レンに魔物を倒す経験を積ませる事ができた。
初めての経験に盛大に腹の中身をぶちまけ、以降の顔色が真っ青だったので、かなり罪悪感があったが。
拐われていた母娘だが、すでに死んでいた。母娘の死体は並べられ、死してなお犯されていた。しかも、娘の方はレンと同じくらいの年齢だった。
ゴブリンの巣の殲滅依頼を受けると、それなりの頻度で見られる光景ではあるが、何度見ても胸糞悪い。顔色が青を通り越して白くなっていたレンに真実を伝え、遺品を回収した後、アンデッド化しない様、母娘の死体を燃やして埋めた。
その後さっさとイースへ戻り、組合の受付に依頼の達成と共に、母娘の遺品を渡した。
一連の処理を終えた所で、メリアがレンを後ろから抱き締めながら声を掛けた。依頼は終わった。もう無理をしなくてもいいと。その言葉で張り詰めていた物が切れたらしい。ぼんやりとしていたレンの顔が歪み、メリアに抱き付き返して大声で泣いた。
その様子を俺は、一歩離れた場所で眺めていた。
……おそらくあの様子だと、レンは冒険者を辞めるだろう。それでもいい。誤った道を進もうとする若者を、力ずくでも正すのが先達の役目だ。たとえそれで若者から恨まれる事になろうとも、無為に失われる事の無かった命を喜び、それを肴に酒を飲むのだ。
……これは後から聞いた話だが、それから数日、レンは夜中に魘されて飛び起きるわ、料理を見ると吐いてしまうわと散々な状態だったらしい。睡眠に関しては、メリアが添い寝することでなんとかなっていたが、食事は見ただけで駄目だったそうだ。最終的には、メリアがレンを寝床に縛り付けた状態で、食事を口に捩じ込み、吐き戻そうとするレンの口を塞ぎ、強引に飲み込ませたそうだ。
ぶっちゃけ聞いた当初はドン引きしたが、そのお陰でなんとか食事を摂れるようになったらしい。荒療治ではあるが、まあ解決したならそれが正しかったという事なんだろう。
食事を摂れるようになってから、レン達は冒険者としての活動を精力的に行っていったらしい。
といっても、採集系の依頼が主で、討伐系は稀にしか受けなかったそうだが。あれだけの事を経験していながら、それでも討伐系の依頼を受ける事ができるだけでもたいしたものだ。
こいつらは上に行く。不本意ながらそう思ってしまった。
そんな折、レン達が俺達の宿までやってきた。
今年も一年、ありがとうございました。
皆様の温かい応援により、投稿を続ける事ができました。心より感謝致します。
これからもがんばって投稿を続けさせていただきますので、変わらぬご声援、よろしくお願い致します。