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第84話 やっと休みになったので、残した戦利品の確認をする事にした。

お読みいただき、ありがとうございます。


2019/1/6より投稿を開始し、気づけば早2年が経とうとしております。

ここまで投稿を続けられたのは、ひとえにお読みいただいている皆様のおかげです。


そこで、皆さまへの感謝の気持ちと致しまして、年末年始は連続投稿を行わせていただこうと思います!


12/30(水)から1/6(水)まで1日1話、計8話を連続投稿致します。


そして、本来の流れであれば、日曜である1/3に本編を投稿する所ですが、

そうすると話がぶつ切りになってしまうため、12/30(水)から1/5(火)まで閑話を投稿、1/6(水)に本編を投稿させていただきます。


新型コロナの影響により、年末年始、帰省しないで自宅で過ごす方も、今年は多いかと思われますが、拙作が少しでも暇つぶしになれば幸いです。


                    れんと@1周年記念忘れてた分少し増量したのは内緒

 〈ゴード布〉製の手袋により、人と触れ合っても問題なくなったリーアには、早速〈鉄の幼子亭〉を手伝ってもらう事にした。

 働かざる者食うべからず、って言葉もあるからね。


 最初こそ、


「んーっと、クロケット二つとー、トンカツも二つ。あとエール二つね…………あ、やっぱトンカツ一つ止め。代わりにメンチカツで」

「は、はいっ。えと……クロケット二つ、トンカツ二つ、メンチカツ一つ、エール二つですね」

「違うって、クロケット二つにトンカツ一つ、メンチカツ一つにエール二つだよ」

「あっ! ご、ごめんなさいなのですっ!」

「おーい! こっちも注文したいんだけどー」

「こっちもー。メンチカツとエールー」

「あ、あわわ、あわわわ! お、お待ちくださいなのですー!」


 といった感じでアワアワしていたが、十日も経つ頃にはそういった事も減り、戦力として数える事が出来るようになった。なかなか物覚えがいいね。感心感心。


 接客業は初めてだったようで、最初の頃は緊張で身体はガチガチ、笑顔もぎこちない物だったが、最近は固くなる事もなく、接客中も自然な笑顔を浮かべる事が出来るようになってきていた。

 そのお陰もあり、小動物的な可愛さを持つリーアを目当てに来店する客も、ちょくちょく現れるようになった。


「ポテポテ歩くのカワイイーッ!」

「ちっちゃくて可愛らしいわぁ……!」

「あの、歩くたびにピコピコ動く耳と尻尾が、もう……もうっ!」

「「「抱きしめたい……っ!」」」


 一挙手一投足の可愛らしさに女性陣が身悶えし。


「あんなちっこい身体にあの胸…………反則だろ」

「胸だけじゃないぞ。尻もイイ」

「なんつーか、体中、どこを触っても柔らかそうだよな……」

「「「抱きしめたい……っ!」」」


 肉感的な身体に男性陣の目が釘付けになる。


 そんな感じで、リーアはあっという間に〈鉄の幼子亭〉の看板娘に昇格した。


 こう言うと、リーアだけが人気のように聞こえるかもしれないが、実は他のメンバーにもファンみたいな人達は一定数いる。


 メリアさんは、一児の母という事もあり、その母性と明るい雰囲気が年若い男に人気だ。

 この前、中~高校生くらいの年頃の冒険者が、メリアさんを間違えて『母ちゃん』って呼んだのを聞いてしまったくらいだ。


 ルナは逆に、ちょっと残念な感じが受けているのか、ちょっと上の年代の男性の人気を集めている。

 その人たちがルナを見る目が、『可愛い孫娘を見守るお爺ちゃん』ぽくて、ちょっと笑ってしまったのは内緒だ。


 睦月は変わったばかりだから、まだ固定のファンは少ないが、元気一杯な様子が幅広い層に好かれているようだ。

『声を聴くと元気になる気がする』という声がちらほら聞こえてくるが、だからと言ってお喋りで睦月を引き留めないでね。仕事中だから。


 他のメイド達は、淡々とした様子が、一部の男性陣に非常に受けている。

 わざと話しかけて、一刀両断されて喜んでいるのを見た事がある…………なんというか、業が深い。


 俺? 俺はほとんど厨房から出ないし、ファンなんていないよ。

 だからだと思うけど、たまにホールに出た時に珍獣扱いされるんだよね。

 それ自体はまあ構わないんだけど、いくら珍しいからって、俺に触ってもご利益なんてないからね? ちょっと頭を撫でるくらいなら我慢するけどさ。


 そんなこんなで、リーアが〈鉄の幼子亭〉で働くようになってから、二週間程経った今日。


 やっと、やっと…………お休みが取れました!


「長かった…………」


「ほんとだねえ。本来なら、定期的にお休みがある方がおかしいんだけど、一度この体制に慣れちゃうと、元の休みなしで働く生活には戻れないなあ」


 そうなんだよね。この世界の人達、休みって概念が存在しないかのごとく、毎日働いてるんだよ。信じられない。休みがなかったら、朝から遊びに出る、なんて事も出来ないじゃんね。

 冒険者は結構頻繁に休むみたいだけど。


「他はどうか分からないけど、うちで働く限り、絶対一定日数の休みは取らせるよ。俺が休みたいから」


 こちとら元々、休みの為に働く、という矛盾した存在のサラリーマンだぞ。

 休みがない人生なんて考えたくもないわ。


「身も蓋もないねえ。で、今日はどうするの? 街を見て周る?」


 俺の欲望に忠実な言葉に苦笑いを浮かべてから、メリアさんが休み中の予定を聞いてきた。

 何も予定がなかったら、メリアさんの言う通り、街をブラついてもいいんだけど、あいにく今日はやることがあるのだ。


「それもいいんだけど、迷宮の戦利品を整理しとこうと思って。後回しにしたら、そのまま忘れそうだし」


「あー、確かに。こういうのは早めにやっちゃった方がいいか。なんでもかんでも入れてると、何が入ってるか分からなくなっちゃって、いざって時に困る事になるかもしれないしねえ」


「そゆこと。まあ、そうは言っても、売れそうな物は大体組合(ギルド)で売っちゃったし、残ってるのは微妙な奴ばっかなんだけど。例えばこれとか」


 そう言いながら取り出したのは、小さな赤い玉。〈蓄熱石〉だ。

 相変わらず、手に取るとちょっと熱い。


「それかあ…………言っちゃなんだけど、ゴミじゃない? 貴重、って訳でもないみたいだし、わざわざ残しておく必要もない気がするけど」


「まあ、そうなんだよねえ。熱を放出するって性質も、俺達には無用の長物………………ん?」


 あれ? 確か、これの性質って、熱を放出するだけじゃなかったよな? なんだったっけ…………。

 えーっと、確かこいつが熱いのは、溜め込んだ熱を放出してるから、なんだよな?

 で、溜め込んでた分の熱がなくなったら…………。


「あっ!?」


「わっ! びっくりした! どうしたのいきなり、大きな声出して」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってね」


 俺は頭に浮かんだ仮説を確認するために、慌てて準備を始めた。

 まず【魔力固定】でバケツを作る。

 で、その中に、これまた【魔力固定】で作った水をなみなみと注ぐ。

 最後に、バケツの中に右手を突っ込み、左手に〈蓄熱石〉を持つ。

 準備完了。


【熱量操作】を発動し、左手の〈蓄熱石〉から熱を吸い上げ、バケツ内の水に移動。

 水が熱されていくのを肌で感じながら、限界まで〈蓄熱石〉から熱を吸い上げていく。

 熱が失われていくにしたがい、〈蓄熱石〉はその赤い色が薄くなっていった。

 そう時間もかからずに、〈蓄熱石〉に溜め込まれていた熱はなくなり、吸収が出来なくなった。

 熱が溜め込まれていない〈蓄熱石〉は、今や透明に変わっていた。向こう側がはっきりと透けて見える様子は、パッと見ガラス玉のようだ。


 さて、ここまではあくまで準備段階。これからが本番だ。

 緊張で干上がった喉を、唾を飲み込む事で潤しながら、透明になった〈蓄熱石〉をメリアさんに手渡す。


「おねーちゃん。これ、持ってみて」


「え? あ、うん。分かった………………お? おおおおお?」


 メリアさんの掌に乗せられた〈蓄熱石〉が、瞬く間に赤く色づいていく。

 その様子と、自身の身に起こる変化に、メリアさんは目を見開いた。


 やった! 成功だ! 思った通り!

 蓄積していた熱がなくなった〈蓄熱石〉は、周囲の熱を吸収して溜め込む。

 つまり、体内に高熱を溜め込む体質のメリアさんが、その状態の〈蓄熱石〉に触れれば、溜まった熱が〈蓄熱石〉に吸収される!


「どう? おねーちゃん」


「…………結構吸われた。数日分くらいは吸われたかも」


 再びその色を赤く、むしろ当初より濃く染めた〈蓄熱石〉を掌に載せたまま、メリアさんはそう答えた。


 数日分か。結構いけるんだな。


 〈蓄熱石〉は、ゴミなんかじゃない。少なくとも俺達――――高熱を発する体質であるメリアさんと、それを抑制する方法を探している俺――――にとっては、どんな宝物よりも価値があるものだ!


 その後、検証を繰り返した事で、この〈蓄熱石〉、単位時間あたりの吸収する熱量は、接触面積に比例する事が分かった。

 つまり、肌に触れる面積を調整する事で、蓄積された分を排出する、という使い方に加え、発熱した分だけを吸収して、体温を一定に保つ、という使い方まで出来る、という事だ。


 これは…………買い占めだな!


 〈蓄熱石〉を使用したアクセサリーを色々作って、メリアさんに渡そう!

 そのアクセサリーを身に着けるだけで、メリアさんは、自分が発する熱に怯える事なく、生活が出来るようになる!


 善は急げ、という事で、とりあえず、今手元にある〈蓄熱石〉を使ってブレスレットを作成した。

 〈ゴード鉱〉で全体を作成し、〈蓄熱石〉をはめ込んだだけのシンプルな造りだが、〈蓄熱石〉の下には小さな穴が開いており、そこから肌に触れるようにした。

【金属操作】のおかげで、大した時間もかからず作成できた。


 一応これで完成なんだけど………………うーん。


「ちょっと寂しいな」


「これ、何? 手枷?」


 む。失敬な。ブレスレットだよ。確かにそう見えなくもないけどさ。

 でも確かに、これを身に着けてたら、ちょっとアブノーマルな趣味の持ち主だと思われそうだな。


 という訳で、デザインを整えてみた。


 〈蓄熱石〉を中心に、月の満ち欠けを模した図柄を十三個刻む。

 で、〈蓄熱石〉が嵌っている場所の両側には、それぞれ蓮の花と簡略化した雪の結晶を入れてみた。

 十三個の月はルナ達、蓮の花は俺、雪の結晶はリーア。で、〈蓄熱石〉はメリアさんだ。

 リーアは別に氷を作る【能力】(スキル)って訳じゃないんだけど、そこはまあ、冷たい物繋がりって事で一つ。


 形有る物に全員のモチーフを刻む事で、『いつでも一緒』という意味を込めてみた。

 なかなかいい感じじゃないだろうか。


「よし、出来た。はい、おねーちゃん」


「これ………………。うん、ありがとう。大事にするね」


 ブレスレットを受け取ったメリアさんは、装飾の意味にすぐ気づいたようで、大切そうにブレスレットを両手に持ち、胸に抱いた。


 気に入ってくれたようで、なによりだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蓄熱ってちょっとしたエネルギー革命ですね、汎用性くっそ高そう
[一言] そして集めた熱をリサイクル( ˘ω˘ )
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