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第81話 迷宮攻略を終了した。もう来ないと心に決めた。

「ゼェ……ゼェ……。ご、五階層連続で、罠しかなかったから、嫌な予感は、してたんだけど………」


「ハァ……ハァ……。まさか、最後の、最後で、あんな罠が来る、なんて、ね…………」


 今、俺達二人が揃って、息も絶え絶えに尻もちをついているのは第三十階層。

 〈階層主〉前の小部屋だ。


 馬鹿みたいな数の人形と大立ち回りを繰り広げ、第二十二階層を抜けた俺達は、休息を取らず第二十三階層へ降りた。休息中にまた大量の魔物に襲われるのが嫌だったからだ。

 恐々と第二十三階層に降り立ったが、有難い事に魔物は居らず、罠も少なかったため、サクサクと進む事が出来た。


 下りの階段前で小休止を取った後、続く第二十四階層に降りたが、魔物の数が少なく、罠も無かった為、ここもあっさりと抜ける事が出来た。


 首を傾げつつ第二十五階層へ降りたが、ここも第二十三階層と同じく魔物は居らず、少量の罠が設置されているだけだった。


 釈然としない物を感じながら第二十六階層へ降りたが、そこにも魔物はいなかった。


 第二十七階層も。

 第二十八階層も。


 余りにも順調に下る事が出来て、俺達は逆に不安に苛まれた。

 今までの数々の性質の悪いギミックを思えば誰だってそうなるだろう。


 なので俺達は、〈階層主〉前、最後の階層である第二十九階層は、正気を疑うようなギミックがあると仮定して、まずは入口からちょっとだけ顔を出して状況を確認しよう、という事になった。


 だが俺達は甘く見ていたのだ。この迷宮の悪辣さを…………。


 俺が先頭に立って階段を進み、半分ほど降りた所でそれは起こった。


「は? うおおおおぉぉぉ!?」

「え? ひゃああああああぁぁ!?」


 ガコンッという何かの装置が作動するような音と共に、突然階段が消えたのだ。

 正確に言うと、階段の段差が引っ込み、滑り台のようになったのだ。


 今まで階段は安全だった為、油断していた俺達は見事に引っ掛かり、勢いよく元階段、現滑り台を滑って行った。落とし穴のトラップの時に【翼】を使って回避しただろうって? もちろん今回も使ったさ。だけど


「っく!? ……よし止まごふぁ!?」

「あ、ご、ごめえええええん!」


【翼】を壁面に突き刺して滑り落ちる勢いを殺した所で、後ろからメリアさんが突っ込んで来たのだ。

 …………うんまあ、俺が先に落ちてたんだし、前にいる奴が急に減速したら、そりゃ後ろの人は突っ込んでくるよね。

【翼】でのブレーキも、さすがに二人分の重量を支える事は出来ず、俺達二人は絡み合いながら滑り落ち、ちょっと様子見をするだけの予定だった第二十九階層に、頭から突っ込む事になってしまった。


 そこで何の準備も出来ていない俺達を出迎えたのは、馬鹿みたいに広い部屋と、そこを埋め尽くす人形の群れだった。第二十二階層が可愛く思えるくらい、と言えば少しはそのヤバさが伝わると思う。


 状況を把握した俺達は即離脱を選択。第二十八階層に戻ろうとした。滑り台になっていようが、気合で登ってやる気概で振り向いた俺の目に映ったのは、壁だった。


 目をゴシゴシと擦ってからもう一度見てみる。

 壁だった。壁しかなかった。


 入口が消えていた。


「「…………ハハ」」


 この時俺は生まれて初めて、本当の意味で『乾いた笑い』ってのを使ったと思う。

 まじもう笑うしかねえよ。


 そこからはもう必死だった。


 なんともムカツク事に、俺達が現実を認識するまでご丁寧に待機していやがった人形共をひたすら倒しながら出口を探し、ようやく見つけた出口に飛び込み、全力ダッシュで階段を抜け、臨戦態勢で第三十階層に飛び込み、魔物がいない事を確認して、二人揃ってヘナヘナと座り込んだ所で冒頭に繋がる、という訳だ。


 どれくらい倒したか分からないくらい鉄人形を倒したおかげで、鉄の在庫が馬鹿みたいに溜まった。使いきれるビジョンが思い浮かばない程度には溜まったよ。全然嬉しくねえ。


「………………あの扉の先は目的の〈階層主〉だけど……ここで一泊しよう。まじ無理。もう動けない」


「…………だね。こんな状態で〈階層主〉と戦ったら、絶対死ぬ…………。今ならゴブリンにも負ける自信があるよ」


 なんとか呼吸を整えてからの俺の提案は即可決され、〈階層主〉の部屋を前にして一泊する事になった。

 俺は最後の力をふり絞って簡易寝室を作り、速攻ベッドに飛び込んだ。

 食事も水浴びも明日だ。今日はもう、これ以上動きたくない……。


 隣にメリアさんが寝転んだのを感じたが、そちらに目を向ける事もなく、気絶するように眠った。


 ……。


 …………。


 ………………。


「準備はいい?」


「お腹もこなれたし、大丈夫だよ」


 ガッツリ寝て疲労も抜けたし、水浴びして身体もさっぱりしたし、食事もしっかり摂った。

 …………食事を撮らないで寝たせいで、目が覚めた時はかなり空腹で、勢い余ってちょっと食べ過ぎちゃったので、食休みの時間を取ったけど。

 食べてすぐ動いたらお腹痛くなっちゃうからね、仕方ないね。


「それじゃ、開けるね」


 メリアさんが扉に手を掛け力を籠めると、重々しい音をたてながら扉が開いた。

 警戒しながら中に入ると、そこそこ大きな部屋の奥に、銀色の塊があるのが目に入った。

 扉が閉まると同時、その塊が動き出した。

 ただの塊だったそれはみるみるうちにその形を変え、あっという間に大雑把な人型に姿を変えた。

 その姿は大きく、体長は十メートル近くありそうだ。

 全体的にずんぐりとした造形で、足は短めだが、不釣り合いなくらい腕は長かった。立っているはずなのに、腕が地面に着きそうだ。

 人間で言う顔に当たる部分に、大きめなサイズの、黒くて丸い石が嵌っている。あれが魔石かな?


 その大きさも驚くべき事だが、俺達はそれ以上に目を見張る事があった。


「おねーちゃん、あれ…………」


「うん。あれ…………」


「「〈魔銀〉だ!」」


 そう、〈階層主〉の身体を構成している素材。その色合いと輝きは、迷宮に入る前に、ジャンに見せてもらった〈魔銀〉そのものだったのだ。


「いやー。まさかあんな大量に〈魔銀〉があるなんてねえ」


 〈階層主〉は俺達をターゲットしたようで、まっすぐこちらに向かって来る。動きはそこまで速くないが、一歩一歩が大きいので、かなりの速度で近づいてくる。


「ほんとほんと。第三十階層じゃ稀にしか手に入らないって聞いてたから、分の悪い賭けだと思ってたんだけど、全然沢山あるじゃんね」


 〈階層主〉がある程度近づいてきた所で、俺は二歩ほど前に出た。


「だねえ。……で、レンちゃん『アレ』やるの?」


「もちろん。やらない手はないでしょ」


「まあ、そうだけどさ……」


 歩みを止める事なく近づいてきていた〈階層主〉は、十メートルほど手前で立ち止まり、左腕を大きく振りかぶって叩きつけてきた。


「でしょ? それじゃ、さっさと終わらせて帰ろっか」


 俺は横に軽く跳んで〈階層主〉の腕を回避。すぐさま轟音と共に地面に叩きつけられた〈階層主〉の腕に触れて【金属操作】を発動。〈階層主〉の腕をむしり取り、〈拡張保管庫〉に収納した。

 よし、成功。いくら〈階層主〉とはいえ、【金属操作】の影響からは逃れられなかったらしい。

 腕がいきなりなくなった事でバランスを崩した〈階層主〉は、腕を振った勢いもあり、その場にうつ伏せで倒れこんだ。チャンス!


「いったっだっきまーす!」


 俺は食事前の挨拶のような言葉を吐きながら【身体強化Ⅱ】を発動。〈階層主〉に近づいた。


 まずは邪魔な腕。残った右腕に触れ、【金属操作】を発動。長い腕を回収した。

 回収完了と同時に回り込み、右足の前に移動、短めの足を回収。同様に左足も回収した。


 達磨状態になり、抵抗する術を失った〈階層主〉の身体に手を触れ、残りの部分も回収。残ったのは、顔があった位置に嵌っていた魔石だけとなった。これは金属じゃないから【金属操作】じゃどうしようもないんだよね。


「最後にこれも回収っと。よし、終わり終わり! 〈魔銀〉もたっぷり手に入ったし、言うことなしだね!」


 その魔石も〈拡張保管庫〉に回収し、無事〈階層主〉を強奪、もとい撃破する事に成功した。


 全ての戦利品を回収した俺達は、〈階層主〉撃破報酬である宝箱を回収する為に、出口に向かって歩き出した。


「なんというか……鉄人形で見てたから出来るとは思ってたけどさあ。まさかここまであっさり〈階層主〉を倒すとは思わなかったよ…………」


 俺の隣を歩きながら、呆れた表情で俺を見つめるメリアさん。まあそうだね。そんな目で見たくなる気持ちは分かるよ。我ながら頭おかしいとは思う。でも出来ちゃったんだからしょうがないよね。


「……ま、金属製の魔物は俺の敵じゃないって事だよ。普通にやったらすっげえ面倒くさいだろうし、楽出来てよかったって事で」


「…………そうだねえ。本当なら、倒した時点であの大量の〈魔銀〉も灰になっちゃうんだし、それも手に入れる事が出来たんだから、楽できて得もしたって思う事にしとこっかな」


「うんうん、それがいいよ。お、宝箱見っけ。…………それじゃ、中身を回収して、さっさと帰ろう! さーて、箱の中身はなんじゃろ、な…………」


 〈階層主〉を撃破し、さらに目的である〈魔銀〉を大量に手に入れる事が出来て気が抜けていた俺は、軽い気持ちで宝箱を開けて中を覗き込み――――固まった。


「ん? 何が入ってたの? …………えぇー」


 箱を覗き込んだまま固まった俺を不思議に思ったらしいメリアさんが、背後から顔をヒョコっと出して箱の中身を覗き込み、驚いたような、呆れたような声を上げた。


 まあそんな声も出るよね。だって、ねえ?


 宝箱の中に入っていたのは、俺の握り拳と同じくらいのサイズの、銀色に輝く鉱石だった。


 その輝きに俺は見覚えがあった。もちろんメリアさんもそうだ。


「レンちゃん、これ……」


「うん…………これ」


 俺達が迷宮に入った理由。欲していた物。そして、ついさっき大量に手に入れ、〈拡張保管庫〉に入れてある物。


「「〈魔銀〉だ……」」


 一応レアを引き当てたんだろう。ジャンも『稀に手に入る』って言ってたくらいだし。

 沢山あって困る物でもないはずだ。サーシャさんも喜んで買い取ってくれるだろう。

 喜ばしい事のはずだ。


 でもなんだろう。この『負けた』感。素直に喜べない。


「…………帰ろっか」


「………………そうだね」


 微妙な気分のまま、宝箱の中の〈魔銀〉を〈拡張保管庫〉に回収。俺達は帰還の魔法陣に乗り、最後の最後まで俺達をおちょくってくれやがった迷宮から脱出した。


 …………もう来ねーよバーカ!

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