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第80話 迷宮攻略を開始した。⑦

 第二十階層の〈階層主〉との戦いにより、精神に大きなダメージを受けた俺を見て、メリアさんが休息を提案。正直限界だった俺はそれを承諾し、宝箱の置いてある部屋で丸一日休息を取った。


 宝箱? しっかり休んで精神を回復させてから開けたよ。


 結果。


「熱っつぁぁ!?」


 宝箱を開けた瞬間、熱気が噴き出して顔に直撃したので慌てて飛びのく事になった。

 〈階層主〉を倒した事によるボーナスみたいな物だと思ってたから、気が抜けていて【熱量操作】を発動していなかった。

 びっくりしたのもあって、大声を上げて飛びのいたけど、超高温、という訳じゃなかったのが救いか。感覚としては、あれだ。中で水が沸騰している鍋を覗き込んだくらいの熱さ。


 いきなりの事で驚いたが、宝箱の中身は気になる。【熱量操作】を発動して、熱対策をしっかりと施してから改めて宝箱の中を覗き込んだ。


「…………赤い玉?」


「どれどれ? ……なるほど。この玉が熱を出してるみたいだねえ」


 最初の熱気は箱の中という密閉空間に閉じ込められていた物が、蓋を開けた事で開放されて噴き出しただけだったようだ。蓄積されていた物が無くなった今は、箱の上に顔を出してもほんのりと暖かいくらいだ。

 で、改めて中を確認してみると、そこそこの大きさの宝箱の底に、赤い玉が一つ、ポツンと入っていた。触ってみると確かにちょっと熱い。


 …………え、これだけ?


 玉を取り出した後の宝箱を隅々まで調べてみるが、何か隠されているような事もなく、見事に何も入っていなかった。


「「………………」」


 無言で玉を睨む事暫し。俺は手の中の玉を〈拡張保管庫〉に突っ込んだ。


「ここには何もなかった。いいね?」

「アッハイ」


 ……さあ! 次の〈階層主〉が目的の魔物だ! 気張っていこう!


 ………………くそがっ!



 第二十一階層。


 この階層は、今までとは大分毛色が違っていた。


 テクテク。

 カチッ。

 ジャキンッ!

 ガキンッ!


「うお!? びっくりした! 壁から槍が!」

「結界があるから驚かせただけで終わったけどね」


 テクテク。

 カチッ。

 バカンッ!

 ザクッ!


「うおお!? 今度は落とし穴!」

「【翼】を壁に突き刺して落ちるのを防ぐって、使い方おかしくない?」


 テクテク。

 カチッ。

 ゴオオオォッ!

 テクテクテクテク。


「どうしたのおねーちゃん。早く行こうよ」

「炎が噴き出してるのを完全に無視して歩けるの、レンちゃんくらいだからね?」


 この階層に入って、初めてトラップが設置されるようになった。そのトラップのどれもが致死性で、神経を擦り減らして進まざるを得ない。


「いやレンちゃん。神経を擦り減らす所か、全く気にしてなかったじゃない。そのせいでガンガン罠に引っ掛かってるし」


「っ!? おねーちゃん、俺の考えてる事が分かるの!?」

「普通に声に出てたからね?」


 知らず知らずの内に声に出していたらしい。気を付けなくては。

 それはさておき、メリアさんの言う通り、俺はこの階層に来てから馬鹿みたいにトラップに引っ掛かっているが、実はわざとなのだ。


 それは何故か。


 トラップというのは基本使い捨ての物。一度発動すると、それ以降はただの置物に変わる。

 つまり。前を歩く俺が全てのトラップに引っ掛かっていれば、後ろを歩くメリアさんは安全なのだ。

 一個一個チマチマとトラップを解除していくのではなく、わざと罠に掛かり、その上で踏破する。

 これぞ必殺! 『漢探知』!

 トラップの解除を試してみたけど出来なくて面倒になった、とかじゃないぞ!


 ツルッゴンッ。

「ごっ!?」


 ドヤりながら歩いていると、踏み出した足が盛大に滑り、後頭部を床に強打した。


「ぐおおおぉぉぉぉ…………」


「だ、大丈夫? ……あー、地面に油が撒いてあるみたいだねえ」


 余りの痛みにのたうち回る事もできずに、後頭部を抑えてその場で蹲る。

 ひ、火花が散った…………。


「うぐぐぐぐ……まさか結界でも【熱量操作】でも防げない罠があるとは……」


 俺はそのままその場に蹲ったまま痛みに耐え、痛みが引いてきた所でゆっくりと立ち上がった。


「これからはちゃんと注意して進もうね?」


「はい…………」


 メリアさんの言葉にぐうの音も出ない。


 これ以降俺は『漢探知』を止め、トラップと判断できる物は極力回避して進む事にした。

 トラップの解除とか、勉強した方がいいかもしれないなあ……。


 ……。


 …………。


「あれ? 階段?」


 前方に見えた下りの階段を見て、俺は疑問の声を上げた。

 迷宮を進んでいけば、次の階層へ続く階段が見える。それは別におかしい事じゃない。

 にも拘わらず俺が疑問に思った理由、それは――――


「この階層、魔物が一匹も出てこなかったねえ」


 そういう事だ。

 メリアさんの言う通り、この階層では一匹も魔物に出会っていない。その分、トラップは驚くほど多かったが。


「他の冒険者が倒したとか?」


「んー。そんな痕跡無かったよね?」


 他の冒険者が道中の魔物を倒していったのだとしたら、少しくらい痕跡とかがあってもいいと思う。発動済みのトラップとか、灰の山とか。だが、そういった類は一切見当たらなかった。

 まあ、見落としただけと言われるたらそれまでなんだけど……うーん。


「……ま、いっか。戦う必要がないんだったらいいや。楽だし」


「雑ぅ。大丈夫なのそれ?」


 メリアさんに呆れられたが、考えても分からないし、しょうがないじゃん。だったら戦闘しなくて済む現状を有難く受け入れるのが一番だ。


「いーのいーの。行こうおねーちゃん。この調子でいけば、次の〈階層主〉まで戦闘無しで行けるかもよ」


「いやー、それはどうだろう……。今までの流れからして、そんな楽には行かないと思うなあ」


 ……。


 …………。


 そんな、フラグじみた事を言いながら階段を降りたのが…………どれくらい前だ? 数時間は経ったと思うんだけど……。


 俺達は未だ、第二十二階層に降り立ってすぐの場所にいた。


 何故ここに来て急激に進行速度が落ちたのか。それにはもちろん、ちゃんとした理由がある。


「おねーちゃん大丈夫!?」

「武器折れた! 次頂戴!」

「了解! すぐ折れるだろうから、三本渡しておくね! 二本折れたら言って! 次渡すから!」

「分かった!」


 それは、未だかつてない程大量の魔物に襲われているからだ。


 第二十二階層で出没する魔物は、動く人形だった。


 人形と言っても、可愛らしいものでは決してない。


 木、土、岩、鉄。


 様々な素材をなんとなく人型になるように組み合わせただけの雑な造形だ。人形っつーかゴーレムって感じ。一応、一体につき使われている素材は一種類のようで、それによって種類分けが出来る。

 共通点は、頭部に眼球のように輝く魔石だけ。

 そんな奴らが、うじゃうじゃうじゃうじゃ、どこからともなく沸いてくる。

 しかもこいつら、腕を斬り落としても、足を斬り落としても、首を斬り落としてさえも、全く構わずに攻めてくる。首を落としても死なないとか、ゾンビよりタチが悪い。


 そんな一見無敵に見えるこいつらにも一応弱点はあって、頭部に露出している魔石を砕けば倒す事は出来る。


 だが考えてみて欲しい。


 迷宮では、魔物は倒されると装備諸共即座に灰に代わってしまい、残るのは魔石だけだ。


 にも拘わらず、人形共を倒すには魔石を破壊しなくてはならない。


 つまり倒しても得る物が何もないのだ。むしろ武器等を酷使する関係上、戦えば戦う程赤字だ。


 事実、メリアさんが使っていたナイフは途中でひん曲がってしまい、使い物にならなくなってしまった。

 さすがに武器がないとどうしようもないので、手持ちの鉄を【金属操作】で成形して、錐のような武器を作って渡している。


 え? なんで普通にナイフを作らないのかって?


 木と土の奴ならともかく、岩と鉄の奴を相手にするのに刃なんていらないだろう。あっても切れないんだから。魔石を破壊するだけなら、錐みたいな形状で十分だ。


【金属操作】で作った刃物には、何故か刃が付かないっていうのもあるんだけど。なんかペーパーナイフくらいの鋭さにしかならないみたいなんだよね。メリアにナイフを作って渡したら『レンちゃん! これ刃がないよ!』って怒られてびっくりしたよ。


 その錐も、数回使うとポッキンポッキン折れるみたいで、結構な頻度で新しい錐を作って渡している。そろそろ〈拡張保管庫〉に保管している鉄も在庫が怪しくなってきた。


「レンちゃん残り一本! 次!」

「分かった! ……げ!?」

「何!?」

「鉄の在庫なくなった!」

「嘘ぉ!? まだ一杯いるよ!?」


 鉄人形の攻撃を結界で防ぎながら辺りを見回す。

 ざっと見ただけでまだ数十体はいる。残り一本の錐じゃあ絶対に倒しきれない。

 〈ゴード鉱〉は在庫があるが、あれは、強度は高いが硬度はそうでもない。錐みたいな用途には不向きだし、【魔力固定】も元の物質より強度が下がってしまうので駄目だ。

 床にはそこら中にメリアさんがへし折った錐の残骸が転がっているが、【金属操作】は肌で触れないと発動できないので、靴のまま踏んでも回収する事はできない。【魔力固定】で作ったコートは体の一部扱いなのか問題ないけど、靴は市販品だから無理だ。かと言って、とてもじゃないが屈んで手で触れる余裕はない。


 やべえ、まじどうしよう。えーとえーと……。

 そこで、目の前の鉄人形がパンチを繰り出し、俺の顔の直前で結界に阻まれて止まる。

 視界一杯に広がる銀色を見て、頭の上で電球が光った。ピコーン!


「これは、どうだ!?」


 眼前の鉄人形の腕に触れ、【金属操作】を発動した。

 鉄人形の腕が溶けたように形を失い、俺の手の上で球状にまとまる。

 それをすかさず〈拡張保管庫〉にぶち込んだ。


 ビンゴ! 魔物とはいえ、こいつらは金属製。俺の【金属操作】で操る事ができるようだ。

 迷宮の魔物は倒されると灰に代わるから、こいつを倒した時点で〈拡張保管庫〉に入れた分もなくなってしまうかもしれないが、メリアさんの負担を減らせるだけでも御の字だ。


 いきなり腕がなくなった事で、バランスを崩した鉄人形に抱き着く勢いで近づき、胴体に手を当てて、再度【金属操作】を発動する。


「お前の身体、全部もらうぞ!」


 鉄人形の身体は【金属操作】の効果で硬度を失い、銀色の液体のようになりながら、俺の意思の通りに動き、〈拡張保管庫〉の中へ吸い込まれていった。その場に残ったのは鉄人形の魔石だけだ。


「………………よし!」


 〈拡張保管庫〉から鉄人形から奪った鉄を取り出し、【金属操作】で錐の形に成形するが、人形の魔石に吸い寄せられる事も、魔石がかっ飛んできて錐にくっつく事もなかった。一度魔石から引きはがせば、魔物の身体とは認識されないらしい。


 だったらなんで、魔物の手から離れた武器も、魔物が倒されたら灰に代わるんだよ、とか突っ込みたい事はあるが、今はその時じゃない。そんな悠長な事やってられない。


「おねーちゃん! 鉄人形は俺がやる! あと鉄も手に入る目途が付いたから、どんどん使い潰していいよ!」


「分かった! どうやってって聞きたいけど、後で聞く!」


 それから俺は、鉄人形からどんどん鉄を奪い取って無力化しつつ鉄の在庫を貯め、それを使って錐を作り。

 メリアさんは俺から錐を受け取り、鉄以外の人形の魔石をどんどん砕いて行った。

 メリアさん的に鉄人形が一番やりづらかったようで、鉄人形を俺が担当するようになってから殲滅速度が一気に上がった。


 それから体感時間で数時間後、俺達は人形共の群れを殲滅する事に成功した。

 まじ疲れた……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 赤い玉のおかげで今後お湯使い放題! むしろパイプ這わして全館暖房使い放題?
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