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第79話 迷宮攻略を開始した。⑥

今回、皆さん大好きなあの魔物が出ます。ご注意ください。

 誰にも邪魔される事なく、しっかり睡眠を取った俺達は、すっきり爽快な気分で簡単な朝食(昨日のスープの残りに干し肉をぶち込んだ物とパン)を食べ、簡易寝室を片づけてから下の階層へと足を踏み入れた。


 第十一階層。


 暫し進むと、この階層初の魔物が近づいてくるのが見えた。あれは――――


「うわ、豚鬼かあ」


 その魔物の外見は、俺の知識で言うオークに近い物だった。


 太った人間の体に豚の頭をくっつけたような見た目で、肌は濃いめの肌色。腰蓑一丁という軽装だが、手にはこん棒を持っている。

 今の所、距離はそれなりに離れているのだが、一直線にこちらに向かってきている。殺意満々らしく、鼻息が荒いのがここからでも分かる。


「あー、そりゃ豚鬼もすごい勢いで寄ってくるよねえ……やだなあ」


「え? 何それ、どういう事? 人間が見えたから殺しに来てるんじゃないの?」


「…………ほら、あれ」

「ん? …………え゛」


 メリアさんが豚鬼のとある一点を指さしたので、そこに視線を向け、濁った声をあげてしまう。

 メリアさんが示したのは、豚鬼の腰布。その一部分が、こんもりと膨らんでいる。

 …………まあつまり、豚鬼のサンがスタンドアップでエレクチオンって事だ。


「豚鬼って、女と見るや襲い掛かってきて、犯そうとしてくるんだよ。ゴブリンなんかとは比べ物にならないくらい性欲が強くて、数日間休まず犯し続けるとか普通らしいよ」


「…………俺、子供なんだけど」


「あいつらに年齢とか関係ないから。女ってだけであいつらの性欲をぶつける対象だよ」


「まじかー……」


 確かに、こちらに向かってきている豚鬼は、血走った目でこちらを――メリアさんだけではなく、俺も見ている。ああうん。俺も完全に捕捉されてますね。

 まじで勘弁願いたい。俺、外見はともかく、中身は男なのよ?


「聞いた話だと、豚鬼の鼻があんなに大きいのは、女の匂いを遠くからでも正確に嗅ぎ分ける為らしいよ」

「いっそ清々しい程性欲に忠実だな……」


 その性欲に掛ける情熱、別の事に傾けたらもっとでかい事やれたんじゃないの? 魔王になるとかさ。


「…………おねーちゃん」

「分かってる。豚鬼が出る階層は、最速で抜けるよ。レンちゃんの貞操の為に!」

「そうだけど! そうなんだけど! 声に出さないで! 後おねーちゃんも対象に含まれてるから! 俺だけじゃないから!」

「言わないで! 考えないようにしてたんだから!」


 ここから、豚鬼が出没する階層を抜けるまで、ダイジェストでお送りします。


 ――――臭い! そこら中臭い!

 ――――くそが! 見せつけてくるんじゃねえよ! ってギャーーッ!? 目の前で! 目の前でダラーッって!

 ――――この豚が! 何レンちゃんの顔にぶっかけようとしてんのよ!

 ――――く、数が多い! レンちゃん一旦下がぐべっ!

 ――――おねーちゃんが床にぶちまけられた奴で滑って転んだーっ!?

 ――――ひゃああああああッ!? 目に! 目に入ったあァァァッ!!! 痛い臭い痛いぃぃっ! ……ワプッ!? レンちゃん水掛けてくれるのは嬉しいけど、もっと優しく! 優しくお願い! 勢いがすごくて痛かったよ!?

 ――――ごめんでもそれどころじゃなくて…………ゴルァ! 擦りつけようとするんじゃねええ!

 ――――あった! 階段! 突っ切って降りるよレンちゃん!

 ――――よっしゃ了解! おらああああああ!!

 ――――次の階層もこいつらかよオオオオオオオオオオォォォォォ!!


 ……。


 …………。


 ………………。


「ま、まさか十九階層まで豚鬼しか出ないとは……」


「悪意しか感じないね……もう全身ベトベト……臭いし……もう最悪」


 第二十階層。


 〈階層主〉前の小部屋で、俺達は休憩を取っていた。

 本当はさっさと駆け抜けたい所ではあったのだが、第十一階層から第十九階層までの道のりは、俺達に非常に大きなダメージを与えてきたのだ。主に精神面に。

 肉体面は――――


「レンちゃんは結界があるからいいよね。ぶっかけられる事もなかったんだから…………いやなんで目が死んでるの?」


 全身至る所に豚鬼からのスプラッシュ攻撃を受け、エロ同人みたいな状態になったメリアさんが異臭を放つ衣服を脱ぎながら俺を恨めし気に見て、すぐにその表情を怪訝そうな物に変えた。


「うん…………いや、なんでもない。心にちょっと傷を負っただけ」

「それ結構大事だよね!? 大丈夫!? あんな風に性的な目で見られるのって初めてだったよね!?」

「うん……まあ」


 それもあるにはあるのだが、メインはそこじゃない。


 確かに俺は、結界のおかげでスプラッシュ攻撃は受けなかった。だがそれとは別角度からの攻撃でダメージを受けていたのだ。だがそれを説明するのは憚られた。メリアさんには理解できないだろう事柄だろうから…………。


 豚鬼共は割と身長が高く、優に二メートル以上あった。

 その為、常に俺の顔付近にあいつらのサンが位置取られていた。

 まあ、俺は今でこそ幼女だが、元々はおっさんだ。眼前でサンがエレクチオンしていても、黄色い悲鳴を上げるような事はしない。自前のを見慣れてるしな。


 ……だが、あんなサイズは見たことがない。あれはマグナムだ。巨砲だ。あれに比べたら、自前のなんてデリンジャーもいいとこだ。いや、水鉄砲かもしれない。それほど圧倒的な差を感じてしまった。

 それが俺の男としての精神に多大なダメージを与えていた。


 まあ、今の俺にはその水鉄砲すら存在しない訳だが。


 ……………………まあ、なくなってしまった物はどうしようもない。俺はすでに年齢はおろか、性別すら変わってしまっている。我が息子よ、安らかに。

 それに、俺が男のままだったら、毎日悶々としてしまって何も手に付かなかった可能性が高い。

 メリアさんもルナ達も、超美人だし、スタイルもすっごいからね。なんか俺の周り、女性しかいないし。


 ……うん。この身体になってむしろ良かったと思う事にしよう。


「…………よし! 切り替えた! もう大丈夫! 一気に九階層も駆け抜けて結構疲れたし、ここで一泊して英気を養ってから〈階層主〉に挑もうか」


「……そうだね。正直な所、私も結構疲れたし休みたいかな」


 下着姿でメリアさんが俺の言葉に同意した。汚れた衣服は床に脱ぎ捨てられたままだ。


「決定! じゃあまず食事の準備をしよっか。今日は――――」

「ハンバーグ! 私ハンバーグ食べたい!」

「ア、ハイ」


 ……二日連続でハンバーグですか。まあいいけど。俺もハンバーグ好きだし。だがその前に。


「レンちゃん……あのさ」


「はいこれ。臭いから、全身ちゃんと洗ってね?」


「………………はぃ」


【魔力固定】で作った布と水の入った桶を渡してそう告げると、メリアさんは嬉しそうにしつつもがっくりと項垂れた。身体を洗えるのは嬉しいが、『臭い』と言われたのが堪えたようだ。


 ちゃんと洗ってね? メリアさん、まだ髪とかカピカピしてるからね? 身綺麗にしてもらう為なら、いくらでも布も水も出してあげるから。


 俺、さすがにその匂いがプンプンする状態の人と一緒に食事とかしたくないんで。


 ……。


 …………。


 ………………。


「準備はいい?」


「万端だよ! ドンと来い!」


 前回と同じように、しっかりと食事を摂り、簡易寝室でぐっすりと睡眠を取った俺達は、〈階層主〉のいるであろう部屋の扉の前に立っていた。もちろんメリアさんも全身くまなく洗ったので、異臭もしない。


 メリアさんの気合十分な声を聞いて、俺は豪華な装飾が施された扉に手を掛ける。


「よっと……………………うわぁ」


「え? 何? どうし……………………うわぁ」


 今回の扉は前回のように無駄に重い、という事もなく、俺一人の力で呆気なく開いた。

 その先の部屋も、前回のような引っ掛けではなく、ちゃんと〈階層主〉が鎮座していた。


 ――――でっかい豚鬼が。


 いやまあ、九階層も豚鬼の階層が続いたんだし、あり得るとは思ってはいたさ。だけどね?


「さすがにその恰好は予想外だよ!」


 〈階層主〉らしき豚鬼は、鈍い銀色に輝くいかにも丈夫そうな鎧を身に着けていた。頭にも顔が見えるタイプの兜を被っており、手には斧が付いた槍――ハルバードだっけ? を握っている。

 顔が豚じゃなければ、どこぞの国の騎士と言われてもおかしくないような、しっかりとした恰好だった。


 ――――――上半身は。


 下半身には鎧はおろか腰布すら身に着けていない。フルオープンだ。上半身は重武装なのに、下半身は見事にノーガードだった。『うわぁ』とも言いたくなる。


 しかも。しかもだ。


「なんで俺ばっかり見てくるのあいつぅ……」


 俺達が部屋に入ってから、あいつはずっと俺を凝視しているのだ。頭のてっぺんから爪先まで、ねっとりとした視線で、舐めるように。

 そして、鼻息が荒くなると共に、〈階層主〉の〈階層主〉が圧倒的スタンドアップ。マックスパワー。


「ロ、ロリコンオーク…………」


「初めて聞く言葉だけど、意味はなんとなく分かるよ…………」


「ブ、ブヒイ……ブヒャハアアアアアアアアアッ!!!」


 ここで、色々極まったらしいロリコンオークが、ハルバードを投げ捨て、叫び声を上げながら突進してきた。


「はあ!? なんで武器捨ててんのあいつ!?」


「多分あれだよ。レンちゃんの見た目的に、武器なんて使ったら一発で死んじゃいそうじゃない? 死なれると楽しめない! とかそういうのだよきっと」


「なんて嬉しくない心配り!」


 ……。


 …………。


「辛く、苦しい戦いだったね……」

「本当に…………本っっっっ当に!」


 目の前で灰に変わっていく〈階層主〉を眺めながら、二人で黄昏る。


 ロリコンオークとの戦いは、熾烈を極める物だった。

 あいつの視界には俺しか入っていないらしく、俺は見事に壁役としての職務を全うした。

 俺がロリコンオークの攻撃を凌いでいる間に、メリアさんが死角から攻撃を加えていく事で、辛くも勝利を収める事ができたのだった。


 ………………え? 戦闘描写? まじ勘弁してください。思い出させないでください。マジヤバいんで。主に俺の精神が。


 詳細を言うのは様々な要因で憚られるので、一言で言わせてもらうと、『前の階層の豚鬼共全部合わせたより酷かった。アッチ的な意味で』だ。


「レンちゃん…………また目が死んでる……」


「俺の立場になれば、誰だってこうなるよ………………」


「そうかな……そうかも……私も嫌だ」


 もう二度と、豚鬼とは戦いたくない。

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[一言] エリア全体がイカ臭そう……
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