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第8話 街に向かって出発した。

「ううぅ……、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだよ…………」


 セーヌさん、レミイさん、メリアさんからのかわいがり、もといセクハラを受け、俺は涙目で地面に倒れこんでいた。

 コートは半ば脱がされ、その下の服も割と危険な領域まで捲れあがったりしていて、なかなか危険な感じだ。


「ごめんごめん。レンちゃんがかわいすぎて我慢できなくなっちゃってさー」


「私も羽目を外しすぎましたわ。申し訳ございません……」


 悪びれもせず心のこもっていない謝罪を口にするレミイさんと、心底申し訳なさそうに頭を下げるセーヌさん。

 見事なまでに対象的な謝罪だ。


「もー。二人とも、レンちゃんをいじめたら駄目なんだからね!」


「……おい」


 二人に対して『めっ!』とするメリアさん。

 いやあなたも参加してましたからね?もろ当事者ですからね?


 ……あれ? そういえば、いつの間にかメリアさんがクールビューティじゃなくなってる。

 俺をいじる事で仲間意識が生まれたのか、メリアさんがあのモードでいるのに疲れたのか。

 個人的には、できれば後者であってほしい。前者だとすごく複雑な気持ちになる。


 俺は立ち上がってから乱れた着衣を整えた。くそ、膝が笑ってやがる。

 気合で足の震えを抑え、服に付いた土を払いながら、ため息をついた。


「はあ。全くもう……。で? いつ出発するの? 今すぐ?」


 声を掛けたのはジャンにだ。パーティリーダーらしいしな。ここはリーダーに聞いておくべきだろう。

 断じて、ちょっと女性陣が怖くなったからではない。

 ……ないからな?


「あ、ああ……。日はまだ高いが、これから出発すると、中途半端な場所で日が落ちてしまう。今日はこの付近で野営して、明日、日が登ると同時に出発する……」


 俺の質問にジャンはしっかりと答えてくれた。だが。


「なんで目を逸らしてるんだよ……」


「い、いや、なんでもない……」


 ジャンさんや。顔、真っ赤だぞ。

 まじかよ、勘弁してくれ。


「いやー、随分激しかったなあ! 大丈夫か嬢ちゃん! エロエロだったな!」


「こんなに小さくても女性なんですねえ……。驚きましたよ」


 レーメスがニヤニヤしながら俺の肩をバンバン叩き、キースが興味深そうな顔で頷いている。


「エロエロとか言うなよ……。俺だって出したくて出した訳じゃねえよ……」


 恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい……。

 つい口調もぶっきらぼうになってしまう。


「ここらへんで野営するくらいなら、洞窟の中で一泊すれば?開けた場所で野営するよりは警戒もしやすいでしょ」


 穴じゃなくて洞窟に入る事になった。

 まあ、洞窟に住んでる訳だから何もおかしくないけど。


「それはこちらとしてもありがたいが……いいのか?」


 ジャンの疑問ももっともだ。これから一緒に旅をすると言っても、今日初めて会った、しかも男性混じりのパーティ。

 本来なら警戒しない方がおかしい。


「私達を襲うなら、街へ向かう道すがらより、ここの方が都合がいいよね。人が来る可能性も低いし。逆に言えば、ここで襲われないなら道中に襲われる可能性は多少低い。私の力は密室に近い方が効果が高いから、ここで襲われても対処できる」


 確かに、洞窟内みたいな密室で熱を放出されたら、出口に逃げだす前に蒸し焼きだな。

 改めて、怖い力だ。


「かと言って、そうまでしてリスクを負う必要は……」


「そのリスクは私達だけじゃなく、あなた達にも適用されるんだよ?私はともかく、レンちゃんになにかあったら……殺しはしないけど、生きている事を後悔させてあげる」


 気負うことなく口にした言葉だったが、直接向けられていない俺でも寒気を感じるほどの力を感じた。

 表情も先ほどまでと違い、完全に感情が抜け落ちた無機質な物だ。


 しかし俺は、改めてメリアさんの俺に対する思いを感じる事ができ、とても幸せな気持ちだ。

 だが、『私はともかく』の所が気に食わない。俺の代わりに犠牲になるなんて許さない。

 なので、俺も一言釘を刺しておく事にした。


「メリアさんに何かしでかしたら、俺が許さない。……どんな目に会うかはご想像にお任せするがね」


 そしてニヤリと笑ってやった。幼女らしい愛らしい笑顔ではなく、可能な限り邪悪な笑み。

 鏡がないので分からないが、出来ていると思う。


 俺達の脅し文句を直接受けたジャンの顔が真っ青になっていた。他のメンバーに視線を向けると、同様に顔が青い。


「も、もちろんだ。俺が言っても信憑性は全くないと思うが、俺のパーティにそんな外道はいない」


 ジャンの言葉に他のメンバーはコクコクと首を振った。


「やばい、あの人達超怖い……。大丈夫かな……。さっき私結構ひどい事しちゃったような……」


「大丈夫ですわレミイ。本気で怒らせてたら、多分私達もう死んでますわ……」


「やべえ……。俺達全く関与してなかったのに、かなりやばい橋を渡ってたみたいだぞ……」


「……のようですね……。彼女たちが一線を越えなくて本当に良かった……」


 各々が恐怖に打ち震えているのを確認し、メリアさんは先ほどまでの無表情から一転、ニパッと笑顔になった。


「ま、わかってくれたならいいよ! じゃあそろそろご飯の準備をしようか! そっちは何日分の食糧持ってるの? こっちはさすがにこの人数分の食材を出す程の余裕はないんだけど……」


 メリアさんの切り替えの早さに驚きつつも


「残りは七日分、といったところだ。帰りの分を考慮しても余裕はあるから、我々の分は気にしなくていい」


「そか。食材を提供してくれるなら、こっちの食材と合わせてまとめて作っちゃうよ?」


「それはありがたいな。是非お願いするよ」


「はいはーい。任されましたー」


 その日の夜はお互いの食材を持ち寄り、ちょっと豪華なスープを食べ、さっさと床に着いた。

 明日は早い。早めに寝ておかないとな。


 ……


 …………


 翌日、日が昇り始め、周囲が少しづつ明るくなってきた頃。

 俺達二人とジャン達は洞窟の入り口に集合していた。


「二人とも、準備は大丈夫だな?」


 ジャンが俺達に最終確認してきたので、二人して頷いた。


「大丈夫だよ。まあ、旅に持っていく物なんてあんまりないんだけどねー」


「とりあえずは、街に着く間まで保てばいいしねえ」


 言葉の通り、俺達の荷物は少ない。数日分の着替えと食糧くらいしか持っていない。


「そうか。ならいい。では出発だ!」


 ジャン達パーティが先行して歩き出し、その後ろを俺、メリアさんの順で着いていく。


 何歩か歩いた所で振り返ると、メリアさんが立ち止って洞窟を見ている事に気がついた。

 なんとなく声をかけづらくてそのまま見ていると、メリアさんは洞窟に向かって頭を下げた。


「お世話になりました!」


 不便な場所ではあったが、十年住んでいた場所だ。思い入れがあるんだろう。

 この洞窟は、俺がこの世界で初めて暮らした場所だ。ここが洞窟がなければメリアさんもここにいなかっただろうし、二人が出会う事もなかった。

 ある意味、俺達の出会いを作ってくれた場所だ。俺も頭を下げておこう。

 メリアさんの隣に立ち、俺も頭を下げる。


「ありがとうございました!」


 頭を下げたまま、お互いに顔を見合わせて、笑った。


「おーい! なにしてるんだ! 早く来ーい!」


 ジャンの俺達を呼ぶ声が聞こえる。


「「はーい!」」


 二人して返事をして、走り出す。


 俺達二人の旅が始まった。


 ……


 …………


 ………………


 旅に出てから三日目。すこぶる順調だ。拍子抜けするくらい。

 俺達は今、見渡す限りの平野で遮蔽物もあまり存在しない場所を歩いている。前の世界でのサバンナのような平野だ。

 そんな見晴らしのいい場所を歩いているにも関わらず、魔物はおろか、動物すらあまり見かけない。

 ジャンに聞いてみたところ、


「ここら辺は魔物はあまり出ない。魔物が出ないということは組合(ギルド)への依頼も少ないから、冒険者もほとんど来ない。こっち方面に集落はないから、人の通りもほとんどない。人の通りがないということは、それを襲う野盗もいないんだ」


「魔物が出なくて安全なのに、集落がないの?」


 ここまで安全なら村を作っても問題なさそうだと思うんだが。

 俺の問いにジャンは首を横に振った。


「安全ではあるが、土地が痩せていて、作物があまり育たないらしい。特産にできるような物もないし、そのくせ街からは微妙に遠い。ここに住むメリットが少ないんだ」


 いくら安全でも、作物が育たなければ日々の食事もままならないし、外に売り出せる特産もなければお金を得る事が難しい。

 理解はできる。だが、これだけの土地を遊ばせておくのはもったいないよなあ、とも思う。

 土地が痩せているっていうのは、女神様が言ってた『この世界の生命が少なくなってきている』ってのが関係してるのかな。


「お、見えてきたぞ。あれが目的地。イースの街だ」


 ジャンの指差した方を見ると、なるほど、建物が並んでいるのが見える。結構大きそうな街だ。


「おぉー! あれが! こっち側は全くと言っていいほど何もないのに、あの街は大きいんだねえ!」


 大きな街というのは交通の要所である事が多い。

 多種多様な人、物が集まるからだ。

 通る人もほとんどいないような平野に隣接している街が、ここまで発展する理由がいまいち掴めない。


「それについてはキースの方が詳しい。あいつに聞いてみよう」


 ジャンは数メートル後ろを歩いていたキースを呼んだ。


「どうしました?」


「ああ、お嬢ちゃんがあの街がでかい理由について知りたいんだってよ。教えてやってくれ」


「ああ、なるほど。わかりました。イースの街の地下には、龍脈という魔力の大きな流れが通ってるんです。龍脈が通っている場所には魔力を大量に含んだ希少な鉱石が存在するので、それを採掘する人たちが集まります。そして採掘した鉱石を精錬、加工する鍛冶屋が集まり、それを仕入れる商人が集まり、といった感じでどんどん人が増えて行きました。元々イースは三つの街道の合流地点でもあったのでそれなりに大きかったのですが、地下に龍脈が通っている事が判明してからは一気に発展していきましたね」


 ほう、希少な鉱物。それはいいな。

 俺の持つ【能力(スキル)】の一つである【金属操作】は、媒体となる金属がないと意味がない。

 イースの街で便利な特性を持つ金属が手に入れば、できる事が増えそうだ。


「お嬢ちゃん。何ニヤニヤしてんだ? キースの説明で面白い事でもあったのか?」


「いや、なんでもないよ」


 街に着いたらどんな金属があるのか見てみたいな。どこにいけば見れるかな。やっぱ鍛冶屋かな。


「お嬢ちゃんがワクワクしてるのがすげー伝わってくるな」


「そうですね。見た目と違って大分大人っぽいと思っていましたが、ああいう顔を見ていると、やはり子供なんですねえ」


 む。なんかジャンとキースからほっこりした顔で見られている。


「何?」


「「なんでもない」ですよ」


 ハモった。相変わらずほっこりした顔をしている。なんかむかつく。

 文句を言おうと口を開きかけた所で、背中に軽い衝撃。


「むはー! やっぱり可愛いなあレンちゃん!」


「どわぁ! いつの間に!?」


 レミイさんに背後から抱きしめられた。

 わざわざ気配を消して近づいてきたようだ。なんたる盗賊の技能の無駄遣い。

 しかも抱きついた次の瞬間には、首元から服の中へ手を入れようとしている。

 こ、こいつ、また俺を辱めようというのか。出発前にあれだけ脅したというのに。


 だが、そんな事はもう許さん。前回は何もできなかったが、今回からはきっちりとお返ししてやる!


「いい加減に……しろっ!」


「ごふぅ!?」


 拳を握りしめ、振り返り様にショートアッパーを放つ。

 小さな拳は吸い込まれるようにレミイさんの鳩尾に突き刺さった。


 レミイさんは全身をビクビク痙攣させながら苦悶の表情を浮かべ、口をパクパクと開閉していたが、やがて体の力が抜けた。

 かなりいい感じに入ったようだ。

 俺にぐったりと体を預けるレミイさんを支えながら、ジャンに声を掛けた。


「重いからこれ持ってって」


「お、おう……まさか気絶させるとは……」


 ジャンはレミイさんを回収すると、そのまま肩に担いだ。さすがに力持ちだな。

 ジャンに担がれるレミイさんを見送ってから、俺はそれとは逆方向にグリンッと首を巡らせた。


 視線の先には俺の方に駈け出した体勢で固まっているセーヌさんの姿が。


「なに?」


 俺にっこり。


「い、いえ、なんでもありませんわ……」


 セーヌさん引きつった笑顔。

 そしてそのままUターンしてすごすごと元いた場所に戻っていった。


 ふう。これで貞操の危機はしばらくないだろう。


「と、言う訳だから。おねーちゃんでも下手な事しようとするとあーいう風にしちゃうからね?」


 言いながらさらに振り返ると、そこには両手を前に突き出した体勢で固まっているメリアさんだった。

 両手とも何かを掴もうと中途半端に開いた状態で止まっている。


「……あ、あははー! そんな、お姉ちゃんがそんな事するわけないじゃーん! あはははは!」


「そうだよねー! おねーちゃんがそんなことするはずないよねー! あははー!」


「もちろんだよー! あ、そうだ、私、セーヌさんとお話する事があったんだった! ごめんねー! おーい! セーヌさーん!」


 メリアさんは猛ダッシュで俺の横を通り過ぎ、セーヌさんの元に向かった。逃げたな。


「あははー……はぁ」


「なんつーか……大変だな。まあ、あいつらも悪気がある訳じゃねーから、あんま怒らねーでやってくれや」


 レーメスさんが俺の頭をポンポン叩きながら慰めるような事を言ってきた。


「悪気がない事ぐらいわかってるよ……。でも子供にあんな事するのはさすがにおかしいと思う」


「だな……。まあ、俺からも言っとくが、絶対じゃねえ。自分の身は自分で守れよ」


「ちくしょう……なんで、パーティメンバーから身を守らないといけないんだよ……」


 街に入ってからも似たような事が起こる予感がして、俺は大きなため息をついた。

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[一言] しっかりガンミのロリロリパーティだね
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