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閑話 一度全てを失った女の復讐④

現在、十万PV達成記念! 連続投稿実施中です!

本日が連続投稿最終日。次回投稿は10/25(日)予定です。

 お互いの秘密を教えあってから、レンちゃんからそこはかとなく感じていた、遠慮のような物がなくなり、私も体温の事を気にしなくても良くなった為、触れ合いの機会が増えた。非常に増えた。

 と言っても、レンちゃんからくっついて来る事はなく、私がベタベタベタベタくっついているだけなのだけれど。

 今この瞬間も、レンちゃんを膝の上に乗せて、全身全霊で愛でている最中である。


 ああ! 何も憂う事なく肌を触れ合わせる事ができる! 素敵!


 彼女は小さくて、柔らかくて、いい匂いがして、肌が白くて、スベスベで、うっすらと生えた産毛が気持ちよくて、年相応の高くて甘い声で、でも言葉は大人で、金色の瞳は鬱陶しそうに、でも満更でもない様子で私を見てきて、睫毛が長くて、ツンと尖った鼻が小さくて、小さな唇は綺麗な桃色で、鈍い銀色の髪はサラサラで。


 今まで見るだけでは分からなかった事が沢山分かる。

 それがたまらなく嬉しい。


 ……よし。レンちゃんの体が育って、長旅にも耐えられるようになったら、ここを出よう。

 そして生まれ育ったあの村に帰り、夫と、娘とレンちゃんの四人で仲睦まじく暮らすんだ。


 ……あ、でもそれだと、レンちゃんの都合を考えてなかったな。

 それなら、まっすぐ村に帰るんじゃなく、旅に出よう。村に帰るのは遅くなってしまうけど、旅を続けつつ訓練を続けて、自力で体温を制御できるようになれば、レンちゃんが離れていっても大丈夫。すっごく悲しいけど、レンちゃんの人生はレンちゃん自身の物。私が持っていていい物じゃないのだから。

 うん。この計画ならレンちゃんに森の外の世界を見て欲しいっていう願いも叶うし、レンちゃんのすごさ、可愛さを世に知らしめる事も出来る。我ながらいい考えだ!

 まあそうなると、旅の仲間がもう一人か二人欲しい所なんだけど、野営の時の見張りは私が一人でやりつつ、できるだけ村や街を通るようにすれば大丈夫かなあ?

 まあそれに関しては、その時に決めればいいかな?


 だからそれまでは、レンちゃんとの二人きりの生活を全身で楽しもう。


 そんな最近考える事もなかった、未来への展望を夢想しながらレンちゃんとベタベタしていると、洞窟の入口に小さな気配を感じた。


 小動物? …………いや、違う。これは元々気配が小さいんじゃなくて、意識的に気配を抑えてる。そして、抑え方が獣とは違う感じがする、これは、もしかして……。


 そこまで考えた所で、私は何か言おうとしていた様子のレンちゃんの口を指で抑えて止め、ゆっくりと膝から下した。


「ここには私とこの子しかいません。出てきたら如何ですか?」


 いきなり洞窟の入口に向かってそう言葉を投げかける私に、レンちゃんは怪訝そうな顔をしていたが、次の瞬間には、驚きに変わっていた。


「……こんなにあっさりばれるなんて思わなかったよ。随分鋭いね」


 そんな台詞と共に、一人の女性が現れたからだ。

 その女性は布製の服の上下に艶消しの革の胸当てを付けていた。移動に伴って発する音を極限まで抑えるように誂えてあるらしいその装備は、斥候職によくある物。夫の昔話で聞いた。

 濃い茶色の髪に髪と同じ色合いの瞳。目つきは鋭く、女子供の組み合わせである私達に対しても微塵も油断していない。

 これは、かなり高位の冒険者だろう。見た目弱々しさと強さは繋がらないという事を身をもって知っている者の目だ。


 ……そして、警戒はしているが、こちらに対して攻撃を仕掛ける意図がない事も同時に伝わってくる。殺意がないから。

 さらに言うと、恐らく洞窟の外に仲間がいる。人数は不明だが、最低一人。目の前の女性は、軽装すぎる。恐らくは、最低限の荷物だけ持って、残りは仲間に預けているのだろう。


 状況から推測した内容を、さも当然かのように話すが、内心はドキドキだ。

 自分の中ではそれなりに根拠のある事を話してはいるが、所詮は推測。大きく間違えている可能性だって十分有り得る。

 合っていたとしても、意図せず相手にとって痛い所を突いてしまっていた場合、いきなり襲い掛かってくる可能性も無い訳ではない。

 唯一の出口をあの女性に取られている現状で襲い掛かられた場合、かなり厳しい事になってしまう。そうなってしまった場合は、私の身体を盾にしつつレンちゃんを抱えて走り、外にいるであろう女性の仲間からも逃げ出さないといけない。

 正直かなり分が悪い。だがその状況に陥った場合は、絶対にやり切る……!


 密かに決死の覚悟を決めていたのだが、有難いことに、その覚悟はこの瞬間だけは無駄になった。

 女性が洞窟から出ていったのだ。外の仲間と相談するらしい。


「ふぅ~。話が通じる相手でよかったー。いやー、久しぶりに緊張したねー!」


 なんでもない事のように、出来るだけ軽い調子でレンちゃんに話しかける。彼女を不安にさせないように、表情や態度にも気を使いながら。

 それが功を奏したのか、レンちゃんはキラキラした目で私を見つめてきていた。それがとても気心地よくて、緊張から早鐘を打っていた心臓も落ち着いてきた。


 レンちゃんと現状とこれからについて話していると、女性が戻ってきた。仲間との話し合いが終わったらしい。

 女性の様子を見るに、敵対的な状況にはならなかったようだ。よかった。


 女性に促され、レンちゃんと一緒に洞窟を出る。もちろん、いつでもレンちゃんを庇えるように立ち位置を調整しながら。


 洞窟の外にいたのは四人の男女だった。


 大剣を背負った大柄の男性。

 黒っぽいローブを羽織った細身の男性。

 短剣を腰の両側に帯びた男性。

 赤茶色のローブを羽織った女性。


 それに最初に会った、盗賊風の女性を合わせて、計五人のパーティのようだ。


 パーティのまとめ役であるらしい、大剣を背負った男が一歩前に出て、ここに来た理由について語ってくれた。


「あんたがこの洞窟に住んでるっていう女性か。驚いた。とても美しい」


 と思ったらいきなり口説かれた。何この人。


「ありがとうございます。ですが、そんな事を言う為にここまで来た訳ではないでしょう? どのようなご用件でしょうか」


 生まれて初めての経験に内心ドキドキしながら、それをおくびにも出さずに改めて要件を聞く。


 肩をすくめた男は、そこでようやくここへやってきた理由を語ってくれた。


 この森で、突如巨大な竜巻が発生した事。

 それを確認した冒険者組合が、事態の確認、又は解決の為に依頼を出した事。

 その依頼を受けたのが彼らである事。


 そこまで話した上で、私達に何か知らないか聞いてきた。当事者ではなくても、付近で大きな竜巻が発生したのなら、何か知っているだろうと考えての事のようだ。


 竜巻……竜巻ねえ…………。ん? 三日前? それって…………。

 私は考え込む振りをしながら、チラッとレンちゃんへ視線を向けた。

 どうしようかな。話すべきか、誤魔化すべきか……。


 面倒ごとから逃れるには、誤魔化すのが良さそうかな。


 でもここで正直に話せば、うまくいけば証人として街へ連れて行ってもらえるかもしれない。そうすれば、旅の厳しさがぐっと楽になる。

 私としては、正直に話したい所だな。レンちゃんのすごさも伝えられるし。


 うーん…………どうしよう。


 そこで改めてレンちゃんに視線を向けると、それに気づいた彼女は、小さく頷いた。

 あの反応は……なるほど。レンちゃんも私と同じ考えって事だね!


「それなら知っています。この子がやりました」


 …………あれ? レンちゃんなんでそんな絶望した顔してるの?


 私の言葉だけではいまいち信じてもらえないようなので、レンちゃんに実演してもらう事になった。

 だが、今は私の体温もそこまで上がっていないので、代わりに別の事をするらしい。

 その結果――――レンちゃんは冬を連れてきた。


 一帯の気温が瞬く間に下がり、吐く息が白く煙る。空気がキラキラと輝き、息を吸った途端、喉と胸の奥に痛みが走る。


 あまりの寒さに、レンちゃんを除く全員が肩を抱きながらガタガタ震える事態となってしまったが、レンちゃんのすごさを伝えるのは成功した。


 あ”ー……レンちゃんのお腹あったかーい。レンちゃんだけ全く震えてなかったから、おかしいと思ったんだよねえ。レンちゃんの回りだけ空気があったかいよー。うーんスリスリスリスリ……。


 ……。


 レンちゃんから暖を取っている間に話がまとまっていた。

 レンちゃんは彼らと共に街に向かう事になるらしい。

 ほう? ……レンちゃんを連れて、ねえ?

 お腹に抱き着いたまま見上げると、レンちゃんと目が合った。

 レンちゃんが頷いたので、私は顔を彼らの方へ向け直して言った。


「分かりました。いいでしょう。ですが、私もご一緒させていただきます。よろしいですね?」


 もちろんレンちゃんに抱き着いたままだ。だってまだ寒いんだもん。

 今までは自分の体温が高すぎて、『寒い』って感覚も、暖かい物に抱き着く気持ちよさも感じられなかったんだもの。もうちょっと堪能したい。


 ……。


 …………。


 ………………。


 そこからは飛ぶ矢のように様々な出来事が立て続けに起きていった。


 彼ら――ジャン達と共にイースという街に向かった。

 ――道中でレンちゃんのあられもない姿を見、それが縁で同行していたメンバーの女性陣――レミイとセーヌ、と仲良くなった。


 イースの街で、冒険者になった。

 ――登録には年齢制限があって、レンちゃんが冒険者になれない事態に陥りそうだった所を、レンちゃんのすごさを組合長に突きつけて、レンちゃんはレベル零冒険者という数十年振りの存在になった。


 武具屋で親父さんとエリーさんと知り合った。

 ――エリーさんは、街の武具屋にいるのがおかしいくらい綺麗な人で……商売の話になるととても怖い人だった。親父さんは…………あまり話さないから、良く分からない。けど悪い人じゃないと思った。


 初めての依頼で、レンちゃんが初めて魔物を殺した。

 ――初めての依頼はレンちゃんの心に傷痕を残してしまった。


 いきなり大きな屋敷とホムンクルスとかいう女の子達の主人になった。

 ――安宿暮らしから一転。いきなり、びっくりするくらい大きなお屋敷と、十三人ものメイドの主人になってしまった。

 ――そして、レンちゃんが、ホムンクルスである事、人間ではない事も、この時分かった。


 レンちゃんが冒険者稼業で生きていく事を諦め、代わりに食堂を開く事になった。

 ――初めての依頼で心が折れて、冒険者稼業から足を洗う人は実はそれなりに多いらしい。

 でもそれも、生きて足を洗う事が出来たなら、立派な経験だと私は思う。

 私としては、危険な仕事である冒険者をレンちゃんが諦めてくれて、正直ホッとした。


 レンちゃんが【拡張保管庫】とかいうすごい道具を作って、ジャン達に売った。

 ――大金貨三百枚とか、聞いた事ない金額で売れると聞いた時は、気が遠くなった。

 しかも後で、金額が五百枚に上がった。気絶しなかった私を褒めて欲しい。


 商業組合に登録して、食堂を開く為の建物を買い、営業開始の為にあちこち駆けずり回った。

 ――お店を開く事の大変さんを身をもって知った。みんなほんとにすごい。


 お店――〈鉄の幼子亭〉を開店した。

 ――初日は全然お客が入らなくて散々な結果だった。でもすぐにレンちゃんが起死回生の一手を打って、すぐにお客が途切れないお店になった。レンちゃんはほんとにすごい。


 メイドの一人である、ルナが倒れた。

 ――ホムンクルスは寿命が短いらしい。それを聞いた瞬間は目の前が真っ暗になった。レンちゃんもホムンクルスだから、すぐに死んでしまうのかと思ったからだ。でもホムンクルスが短命な理由が、魂を持たないからだと聞いて、我ながらひどいと思ったが、ホッとした。それならレンちゃんは大丈夫。私の下についているとはいえ、ルナたちは所詮他人。悲しい事は事実だが、それだけだ。

 だけど、レンちゃんはそう思わなかったらしい。〈鉄の幼子亭〉を休業し、解決策を探し回り、最終的には女神様に殴りかかってルナを救う方法を聞いたらしい。不敬にも程がある。

 しかも、その方法を使った結果レンちゃんは倒れ、三日意識が戻らなかった。

 二度とやって欲しくないが、残るメイド十二人にも施すらしい。

 私にレンちゃんを止められるとは思えないので、レンちゃんが無事に全員の処置を終わらせる事が出来るようにひたすら神様に祈るしかない。この日から、神様に祈るのが私の日課になった。


 レンちゃんが攫われた。

 ――結果的に無事だったけど。発覚した時は心臓が止まるかと思った。

【いつでも傍に】を使えばサックリ帰って来れる事に気づいた後は、全身の力が抜けそうになったが、攫われないに越した事はない。今まで以上にレンちゃんに付いていないと。


 ――そして、レンちゃんが攫われた先で、一人の女の子を連れて帰ってきた。

 名前はリーアちゃん。私のように、世界の理不尽により居場所を失った女の子。

 でももう大丈夫。だってレンちゃんに見つかったから。

 レンちゃんの手にかかれば、理不尽の一つや二つ、あっという間に解決してくれる。


 そして、その解決の為に、私達は今、迷宮にいる。


 その時点で、リーアちゃんの問題は解決したも同然。しかもレンちゃんの事だから、それ以外の何かすごい事をやらかすに違いない。


 そんな驚きに満ちた毎日をこれまで過ごし、これからも過ごしていく。


 私は最初とても幸せで、でもその幸せを一度全て失いました。

 でも私はレンちゃんに出会いました。

 これから私はレンちゃんと一緒に、失った分を取り返し、そこに更なる幸せを上積みしていく事でしょう。


 それが私の、理不尽に対する復讐です。

初めての閑話、お楽しみいただけましたでしょうか。

主人公のレン以外の人物、今回はメリアですね、による語りを書かせていただきました。


これからも、定期的に(次は二十万PVかな?)やっていければと思います。

評価とか感想とかいただけたら、今回よりもっとがんばっちゃうかも? チラッチラッ


それでは、これからも応援よろしくお願いいたします!

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