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閑話 一度全てを失った女の復讐③

現在、十万PV達成記念! 連続投稿実施中です!

明日も十一時に投稿します!お楽しみに!

 それから、少女――――レンちゃんという名前らしい。との生活が始まった。


 まず最初に言葉を教えた。これでも元子の親だ。教えるのに苦労はなかった。

 というより無さすぎた。彼女はとても頭が良く、私が教える言葉をどんどん覚えていき、一月程度で会話ができるまでになった。


 彼女はゴミ山で目が覚める以前の記憶がないらしい。正直な所、とてつもなく怪しいが、例えそれが嘘であっても別に構わない。一緒に日々を過ごしてくれる相手がいることが何よりも嬉しいから。

 夜中にこっそりと洞窟から出て、何かしているようだが、それも構わない。ある程度時間が経ったらちゃんと帰って来てくれるから。


 彼女は小さくて、いい匂いがして、肌が白くて、スベスベで、年相応の高くて甘い声で、金色の瞳が年相応にクルクル動いて、でもどこか不相応に理知的で、睫毛が長くて、ツンと尖った鼻が小さくて、小さな唇は綺麗な桃色で。


 一言で言うと、とても可愛い。

 その可愛さは、長年独りで過ごしてきて乾ききっていた私の心に潤いを与えてくれた。


 そんな、長らく感じていなかった『人と共に過ごす幸せ』を感じながら過ごしていたある日。


 毎日の日課として、様々な事を語って聞かせている中で、その日の話題は【能力】(スキル)についてだった。

 話の流れで、私の体質について話す事になり、自分が高熱を発する体質であること、そのせいで暮らしていた村を出ることになったことを話した。

 なるべく軽く聞こえるように話したつもりだったが、賢い彼女には心の内が伝わってしまったようで、苦しそうな表情を浮かべていた。

 体質についてはともかく、村を出た事は言わなければ良かった、と少し後悔していた所、彼女が予想もしない行動に出た。


 自分の顔を殴ったのだ。


 突然の自傷行為に驚きながら手当をしようとする私を手で制してから、彼女はさらに畳み掛けてきた。


 なんと彼女は元々違う世界の住人で、しかも元は男性で、私とそう変わらない年齢だと言うのだ。


 今まで年相応に見えるように演技していた、騙していて申し訳ない、と謝罪までされた。


 普通は信じないような荒唐無稽な話だ。笑って流すのが普通の対応だろう。


 しかし私はその告白で色々腑に落ちた。


 時折垣間見える少女に不釣り合いな理知的な瞳の色。

 ――娘の瞳にこんな色が現れる事はなかった。


 あどけない仕草に時折感じるぎこちなさ。行動の端々に伺える教養の高さ。遠慮。

 ――娘の仕草にそんなものを感じる事はなかった。


 学習に対する貪欲さ。習得速度の異常な早さ。

 ――娘は席に着いて勉強するのが嫌いで、言葉を覚えるのが少し遅かった。


 今の見た目と雰囲気が明らかに合っていないこの状態こそが、彼女の素なのだとわかる。それくらい立ち振る舞いが自然で、堂に入っていた。


 そんな彼女は、元の世界ではそれなりの地位にいたはずだ。そんな中、全てを捨て去ってこちらの世界に来た。

 聞いた限り、かなり突然の移動だったらしいので、友人にも、両親にも、挨拶をする暇はなかっただろう。


 突然の異世界。しかも体は縮み、性別まで変わった。

 そんな中、初めて出会った人に対して媚を売るのは至極普通の話だ。気に病む事なんてないし、ましてや謝罪なんて不要だ。


 だから私は、彼女をそっと頭を撫でた。

 大変だったねと、もう演技なんかしなくても大丈夫だよと、そして、話してくれてありがとうと。

 少し涙ぐんで私を見ていた彼女は、続く私の『だから、いままでどおり、『おねーちゃん』って呼んで?』という言葉で涙を引っ込めた。


 いや、だって、ねえ?

 私、三十五だし、『本当は三十です』って言われても、年下である事に変わりはない訳で。

 私の事二十代だと思ってたらしいけど、元々顔立ちがちょっと幼いというのもあるんだけど、この体質になってから、なんか見た目が変わらなくなっちゃっただけで。

 若く見られるのはやっぱり嬉しいけど。


 自分は男なんだから、女性と一つ屋根の下に住むのはよろしくない、って言われても、あなた今、女の子だよ? 間違いなんて起こる訳ないでしょ。


 だから、勝手に出ていくなんて許さないからね?



 その後、彼女? 彼? ……レンちゃんは自身の持つ【能力】(スキル)について教えてくれた。なんとレンちゃんは【能力】(スキル)を三つも持っているらしい。すごい。その時点でお伽噺の住人だ。しかもその【能力】(スキル)も聞いたことないようなすごい物ばかりだった。


 一つめの能力は【金属操作】といって、触れた金属を自在に操れるという物だった。

 穴の開いた鍋が目まぐるしくその形を変えていき、最後は新品のような輝きを持つ鍋になっていた。

 便利すぎる。


 二つ目の【能力】(スキル)は【魔法適性(無)】。無属性魔法の性能が良くなるらしい。それを聞いた時、正直微妙だと思った。無属性魔法なんて、ちょっと訓練すれば誰だって使える。そんな物の性能が多少良くなってもたかが知れてると思ったのだ。

 だがされも、続く言葉に打ち砕かれた。

 なんと、熟練の冒険者でも一分程度した維持できない身体強化の魔法を五分も維持できるらしい。

 意味が分からない。


 さらには何もない所から、突然石ころを取り出した。と思ったら、別の場所から取り出したのではなく、レンちゃんの魔力を使って作り出したらしい。

 え? 物を? 魔力で? 作る?

 作り出した物は、元になった物より柔らかいらしく、武器や防具は作ってもあまり意味がないらしい。というか、多少強度が低くても、壊れたらすぐに替えの効く武器や防具って、すっごい強くない? 相手にとっては悪夢だと思うよ? 武器破壊や防具破壊が意味を為さなくなるんだから。

 頭がおかしい。


 そしてレンちゃんは、その欠点とも言えない欠点を克服する為に、衣服を作る事にしたらしい。

 物陰から取り出したのは、薄手の白い外套。

 サッとそれを羽織ったレンちゃんは、その場でクルッと回って私に出来栄えを見せてくれた。

 …………やばい、可愛い。

 今まで、布の在庫や生活環境の関係で、白い服を着る事も作る事もなかった。白は汚れが目立つし。

 だが、そんな事を考えていた昔の自分を、私は全力でぶん殴りたい。

 レンちゃん、白、すっごい似合う。鈍い銀色の髪と、金色の瞳がとても映える。

 レンちゃんが回った瞬間、外套の端が風を孕んでフワッと膨らんで、その下の白くて細い足が…………見えない!

 ああ! 今のレンちゃんは丈の長い筒のような、服とも言えない代物を着ているんだった!

 作ったの私だけど! ああ! なんで昔の私はあんな丈の長い服を渡してしまったのか! 膝下くらいの長さにしていれば、今の瞬間に、綺麗な曲線を描くふくらはぎが見えたのに……。いや、いっその事膝上の長さにすれば、健康的な太ももも露わに…………。


「ん? 今度はどうしたの? おーい」


「……ハッ!?」


 いけない、話の途中だった。


 ふしだらな事を考えていたのは、ばれないようにしないと……!


「余りのかわいさに気を失ってたよ……」


「ア、ハイ。ソデスカ」


 なんか、残念な人を見るような目を向けられてしまったけど、変態だと思われるよりはましだと思う事にしよう。


 そしてレンちゃんは、『女神様』呼ばわりされる事はお気に召さないらしい。

 レンちゃんがここに来た経緯を考えると分からなくもないけれど、レンちゃんの可愛さは『天使』程度ではとても収まらない……困った。


 続く三つ目の【能力】(スキル)は洞窟の外で教えられた。

 手を繋ぐ事を求められたので、最近は日常になりつつある体温の制御を行い、触れあっても問題ない程度に体温を下げてからてを差し出した。


 私の手を握ったレンちゃんは、ほんの一瞬悲しそうな顔をした後、私の人生を変える一言を言った。


「俺の最後の【能力】(スキル)、名前は【熱量操作】」


「……え?」


「俺に触れている対象の熱を自在に操作する事ができるんだ。だから……」


 次の瞬間、繋いだ手の平を通して、体の中から熱が吸い上げられていくのを感じた。

 体の中に巣食う、人に在らざる量の熱が容赦なく吸い上げられ、レンちゃんを通して吐き出されていく。

 それに伴い私達の周囲に風が吹き荒れ、私とレンちゃんを中心に渦巻いていく。


 予想もしない状況に呆然としている間に私の体の中に感じていた熱さを感じなくなっていた。


「おねーちゃん、これ」


 そう言ってレンちゃんは足元に咲いていた花を一輪手折り、私に差し出してきた。

 私は躊躇した。普段であればいくら美しいと思う花であっても、摘む事はおろか、近づく事すらしない。

 私が近づいた瞬間、萎れ、燃え上がり、なくなってしまうから。

 ここに来たばかりの頃に一度、それを目の当たりにした私はそれ以降、美しい花々を見つけても、遠巻きに眺めるだけに留めていたのだ。


「大丈夫」


 だが、目の前の少女は力強く、自信を持ってそう言う。

 それでも踏ん切りが付かず、おろおろとしていた私の手をカノジョはそっと取り、花を握らせた。

 花は――――燃えなかった。

 受け取った途端に萎れ、燃え上がるはずのそれは、私の手の中で薄桃色の花弁を可憐に揺らしていた。


 レンちゃんの三つ目の能力は熱量操作。

 触れた対象から熱を吸いとったり、逆に増やしたりできる能力。


「ぁ…………ああ……」


「怖がらなくて大丈夫なんだよ……。もう、触れただけで相手に怪我をさせる事なんてない……」


 そう言いながら、レンちゃんはお腹の辺りに抱き着いてきた。

 頭の中がグチャグチャで、体温の制御なんかとても出来ないような状況で抱き着かれて。

 でも、レンちゃんは、火傷する事なく、私のお腹に顔を埋めていた。


「ああぁ……。ぅ、うわあああああぁぁあぁぁぁあぁ!!」


 十年振りに頬を伝う涙はとても熱かった。


 ひとしきり泣いた後に聞いたことだが、私の体から熱を吸いとったのはあくまで一時的な処置であること。

 これからも定期的に同じ事をしないと以前と同じ状態に戻るであろうことを。


 申し訳なさそうに言うレンちゃんに私は首を横に振る。

 一時的であるにしろ、

 それと同時に、私の中で芽生えた思いが膨れ上がってきた。

 レンちゃんに、森の外の世界を見せたい。


 こんな狭い場所だけではなく、もっと広い世界を見て、感じてほしい。

 そして願わくば、私のように理不尽に叩き潰された人達を救って欲しい。

 そんな事をレンちゃんに求めるのはおかしいのは分かっている。だがそう願わずにはいられない程の奇跡を、私は受けたのだから。

 

 だが実際問題、かの森から最寄りの集落までどのくらい離れているか見当もつかない。下手すると数日の野営が必要になる可能性すらある旅に、二人きりで赴くのは難しかった。


 だがそれも、三日で解決する事となる。

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