第73話 迷宮と〈まぎん〉について聞いた。
お世話になっております。れんとです。
本日は皆さまへ報告事項がございます。
拙作『異世界転生したら幼女だった。~異世界で安定した生活を送りたい~』が、
累計PV十万超えを達成致しました!
昨年一月より投稿を開始し、一年十か月。
これも偏に、遅々として進まないお話にお付き合いいただきました、皆さまのおかげでございます。
まさか十万PVなんて達成できるとは夢にも思っておりませんでした。
それでですね、感謝の気持ちを表現するために、他の投稿者様が行っている『連続投稿』なぞやってみようと思ったのですが。…………ですが。
準備が間に合いませんでしたっ!
申し訳ありません! ほんと使えない投稿者で申し訳ありません!
次回! 次回投稿時にお礼投稿をやらせていただきます!
ぜひとも次回投稿を楽しみにしていただければと思います。
これからもコツコツと投稿を続けさせていただきますので、感想、評価、ブックマーク登録よろしくお願いいたします。
「――――――で、威勢良く飛び出したはいいが、何をどうすればいいのかさっぱり分からなくて右往左往した挙げ句、俺達に泣きついてきた、と」
「左様にございます…………」
〈土竜亭〉の一室にて。
俺は椅子に座るジャン達の前で額を床に擦り付けていた。
久々のDOGEZAである。
「はぁ…………。お前、実は結構バカだろ」
「ぐ……か、返す言葉もございません……」
言葉のナイフが容赦なく俺の心を抉るが、一切反論の余地がない為甘んじて受け止める。
自分の頭が良いとは露程も思っていないが、心底呆れた調子で言われるとなかなかクるものがあるな。
「〈魔銀〉ねえ。ってことは…………あー、三十層だったか? 確か人形がいたよな」
「そうだねー。もっと深い階層でも落とす魔物はいるけど、ある程度の安全策を取りつつって事なら三十層が無難かな?」
ジャンが自身の記憶を探るように、こめかみを指でトントンと叩きながら口にした言葉を、レミイさんが肯定する。
予想以上にあっさりと情報が出てきた。さすがはレベル六冒険者。迷宮に関する情報もしっかり持っているようだ。頼もしい限りである。
後は俺がそれを聞き出すだけだ! 床がピッカピカになるくらい額で擦ってやるぜ!
すでに床に擦り付けた額がちょっと痛いけど!
「おお! そういった迷宮についての情報を是非ご教授くだされ! 何卒! 何卒!」
「さっきから、そのおかしな口調は何なんだよ……。あー、分かった。順番に教えてやる。教えてやるからいい加減その格好を止めろ。すげー話しづらいわ!」
「相変わらず、その恰好の破壊力はすごいなあ…………」
「お願いされている立場のはずなのに、こちらの方が居た堪れなくなりますものね……」
「やっぱ、今度あれ使おうぜ。すげえ役立ちそう」
「できれば、人前であんな恰好をしなくちゃいけない状況には陥りたくないですが……そういう状況になってしまった時には、確かに役立ちそうですね」
あんな恰好って……前の世界では、由緒正しき最上級の謝罪だったんだぞ(偏見)。
ジャンからの要望により、土下座しながらの額による床磨きをやめ、赤くなった額を撫でつつ椅子に座ったのを確認し。
俺が部屋に着いて、速攻で土下座を始めた瞬間から、驚きの余り固まっていたメリアさんを椅子に座らせてから、ジャンは迷宮について説明を始めた。
結構長くなったのでまとめると、
・イースの迷宮はフロフィル王国唯一の迷宮である。(ここで初めて自分の住んでいる街の所属を知った。呆れられた)
・未だ完全攻略はされておらず、最終階層は不明。現在の最終到達階層は八十階層。
・名前通り、道中は迷路になっている。
・迷宮内には様々な種類の魔物が蔓延っており、非常に危険。
・迷宮内の魔物は迷宮外の魔物と違い、倒されると魔石を残して灰になって消える。
・道中には宝箱があり、希少な品や強力な装備が手に入る事がある。中身はいつの間にか補充されている。
・もちろん罠もある。
・十階層毎に〈階層主〉と呼ばれる強力な魔物が現れ、〈階層主〉を倒すと必ず宝箱が出る。
・〈階層主〉を倒すと魔法陣が現れ、それに乗ると迷宮から出られる。次回以降は第一階層にある魔法陣にのれば、前回帰還した階層から攻略を再開できる。
とまあこんな所だろうか。
一通り話を聞いて思ったのは、
(説明が長い)
…………じゃなかった。
(ゲームかよ)
だった。
だってそうだろう。
倒した魔物は戦利品である魔石を残して勝手に処理され、
わざわざ宝箱が置いてあり、中身は勝手に復活し、
一定階層毎にフロアボスとも言うべき〈階層主〉が鎮座し、
〈階層主〉を倒すとボスドロップの如く確定で宝箱が出て、
〈階層主〉を倒せば、帰還用の魔法陣が現れる。しかもセーブ機能付き。
とてもゲーム的だ。ダンジョンのお約束を見事に踏襲している。
どういう経緯で迷宮が出来たのかは知らないが、作った奴、俺と同じ世界出身なんじゃないか……?
いやでも、あの女神は俺が最初の転生者って言ってたはずだし……。
何はともあれ、いくらゲームっぽいとはいえ、実際のゲームとは違って、迷宮内で死んだらさすがにコンティニューはできないみたいだから、完全にゲームと同一という訳ではない。
気を付けないと、やばい局面に陥った時に、ゲームをプレイしている感覚で『あー、駄目だこりゃ。死に戻りしよ』とか考えそうでやばいな。まじで気を引き締めないと。
「おお、随分とイイ面構えになったなあ」
「男の子ならともかく、これくらいの歳の女の子が聞いたら、普通は怖がると思うんだけどね……」
「まあそこはほら、レンだから」
「「「「「納得」」」」」
「ちょっと待て」
ジャンが俺の顔を見て感心し、レミイさんが呆れ、レーメスが結論付け、全員で頷いた。
……いやなんで『レンだから』で納得するんだよ。確かに外見詐欺ですけどね? 中身はいい歳したおっさんですけどね? そんな不本意な共通認識を持たれるような事は…………やってたかもしれない。
…………うん。やってたわ。【拡張保管庫】とか、結界とか、【翼】とか。
「ん。んんっ! ま、まあ、お前達なら、三十階層程度なら問題ないとは思うが、無理だけはするなよ」
「……………………分かったよ」
何か感じ取ったのか、ジャンが少し慌てた様子で話を戻したので、ちょっと俺にも思う所があったので、乗っかる事にした。
……いや、だからといって、誤魔化せた訳じゃないからな? 自分が普通の幼女らしくないって再認識しただけだからな? そこんとこ勘違いすんなよ?
「あー、そういやお前達、さすがに〈魔銀〉がどういう物なのかは知ってるんだよな?」
意識を違う所に向ける為か、露骨に話を変えてきた。
随分と強引な話題転換ではあったが、苦し紛れに振ったらしいその内容は非常に興味深く、かつ重要な物だった。
そう、非常に。
なんてったって。
「「!?」」
二人とも〈まぎん〉について何も知らなかったのだから!
「………………まじかよ。そんな顔を向けられた俺の方がびっくりだよ。……念のため聞いておいて良かったわ。いや、お前ら、〈魔銀〉がどんな見た目をしてるかも知らないのに、どうやって探すっつーんだよ」
「「……仰る通りです」」
ジャンの正論すぎる正論に、二人揃ってしょんぼりする。
ほんとにね。我ながら馬鹿でしたわ。迷宮の情報は一生懸命集める癖に、本命である〈まぎん〉の情報を集めるのを忘れるとか、もうね。そりゃあびっくりもしますよ。主に自分に対して。
「はぁぁぁぁぁぁ。……なあ、なんか説明すんのに丁度いい奴なかったか?」
俺達のあまりの体たらくに、ジャンは肺の中の空気を出し切る勢いの深い溜息を吐いてから、後ろにいるメンバーに声を掛けた。実物を見せてくれるらしい。
ジャンの言葉に四人は首を捻っていたが、やがて、レミイさんが手をポンと叩いた。
「あ、あれがいいんじゃないかな。ちょっと待ってねーっと。……はいこれ。いやーやっぱ【拡張保管庫】は便利だね。欲しい物がすぐ見つかるし」
「手を突っ込んで念じるだけだからな。…………あー、これか。なるほど。確かにこれなら丁度いいかもな」
「でしょ?」
渡された物を確認したジャンは納得したらしく頷き、それを聞いたレミイさんが誇らしげに胸を張った。
「ほれ」
「あ、どうも……………………うん?」
ジャンからそれを手渡された俺は、反射的に受け取り――――首を傾げた。
それは直径三十センチ程の大きさの円盤に、取っ手を取り付けたような形状をしていた。
円盤部分は少し黒っぽい金属で出来ていて、取っ手部分は木製。
円盤部分には、銀色の細い線で複雑な図形が描かれていて、その端からさらに線が伸び、取っ手にまで続いている。
…………〈まぎん〉の説明してくれるって言ってたよね? 何これ?
うーん………………。
「…………取っ手付き鍋敷き?」
「レンちゃん…………」
メリアさんには可哀そうな子を見る目で見られたけど、しょうがないじゃん! 俺にはそう見えたんだから!
反射面がないから手鏡じゃないし、縁が反ってないからフライパンでもないし! 他に思いついたのが鍋敷きくらいしかなかったんだよ!
「おお、良く分かったな」
「えぇ!? 嘘ぉ!?」
まさかの正解に、メリアさんが驚きの声を上げた。うん。正直俺も驚いた。いやだって、ぶっちゃけ適当に答えたし。まさか当たるとは思わないじゃん?
「まあ、只の鍋敷きじゃないけどな。見てろよ。まず、ここにこれを置くだろ?」
ジャンはそう言いながら、円盤部分に、いつの間にか準備していたらしい金属製のコップを置いた。コップの中は水で満たされているようだ。
「で、次だ。レン。取っ手を握って魔力を込めてみろ」
「うん? 分かった…………お、おぉ?」
言われた通りに鍋敷きの取っ手を握り、魔力を込める。すると、取っ手を握った部分からわずかに魔力が流れていくような感覚があった。
「なんか魔力が吸われてるんだけど」
「それでいいんだ。そのまま続けろ」
「はあ……」
意味が分からないが、この状態が正しいらしいので、大人しく取っ手を握り、魔力が吸われるに任せる。
まあ吸われるといっても本当に微々たる量だから、労力もかからないし、別にいいんだけどね。
「……お?」
そのまま一分ほど魔力を流し続けると、鍋敷きの上のコップに変化が現れた。
正しくはコップの中の水に、だ。
「おお…………湯気が」
コップからゆらゆらと湯気が立ち上ってきたのだ。つまり、コップの中の水がお湯に変わったという事。
と、いう事は……。
「これ、熱源なのか」
これ、あれだ。異世界仕様のホットプレートだ。電気の代わりに魔力を使うタイプの。
「正解。これも歴とした魔道具だ。〈温熱盤〉という」
随分安直なネーミングだな。まあ、名前から機能が簡単に推測できるのはいい事か。
「へぇ。これは一個あると便利そうだね」
これがあれば、わざわざ火を起こさなくても湯が作れる訳だ。ちょっとお茶が飲みたい時とか便利そう。屋敷の厨房に欲し…………いや、いらないか。料理するの、大体俺かメリアさんだしな。二人とも、存在自体が熱源みたいなもんだし。
「ああ。雨の後の野営の時とかすげえ重宝するぞ。雨の後は薪が湿気ってるから、火の着きが悪いからな…………おっと、話が逸れたな。まず、なんで〈魔銀〉の説明にこいつを使ったかって話だが、こいつは〈魔銀〉を使ってる箇所が見えやすいからだ。〈魔銀〉を使ってる部分ってのは、その魔道具の機能の根幹だからな。誤作動や故障を防ぐ為に、見えづらい場所に隠してあるんだよ」
なるほど。機能の根幹足る部分を保護するのは当たり前の話だな。
俺が頷いたのを確認してから、ジャンは話を続けた。
「で、〈温熱盤〉の〈魔銀〉が使われている部分だが……こいつだ。この線を描くのに〈魔銀〉が使われている」
そういってジャンが指さしたのは、円盤の上に描かれている図形。それを構成する銀色の線だった。
ほう。この銀色の線に〈まぎん〉が………………うん?
魔道具の作成に必須な、この銀色が、〈まぎん〉。
魔道具……銀……。
魔……銀……。
ああー、それで〈魔銀〉。
そっかー…………。
「…………今の話に、恥ずかしがる要素あったか?」
「………………何でもない。気にしないで」
「そ、そうか」
ああああああああああああっ!
恥ずかしい! めっちゃそのまんまな名前じゃん! なんで思いつかなかったし! 何〈まぎん〉って! 発音おかしいじゃん! …………いや、恥ずかしがる事はない! だって実物を見たことなかったんだから! だから大丈夫! ……あっ! メリアさん、済ました顔してるけど、顔真っ赤で肩がプルプルしてる! 気づいちゃった!? メリアさんも気づいちゃったの!? やっぱ恥ずかしいよねえええええええあばばばばばばば!
ジャンは、椅子の上で身もだえる俺を見て軽く引いて目を逸らし、逸らした先のメリアさんの様子を見てぎょっとしていた。俺達の突然の異常行動に困惑していたが、なんとか気を取り直す事に成功したらしく、そのまま話を続けた。
「…………ま、まあ、見ての通り〈魔銀〉は銀色だ。鉄とかとは輝きが違うから、一目で分かるだろ」
………………最初からそう言ってくれれば、今までの説明は不要だったんじゃなかろうか。
未だ全身を襲う恥ずかしさに身体をくねらせながら、俺はそう思ったのだった。