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第71話 店主さんとお話しして、魔道具の金額を聞いた。

「いらっしゃいまっせー!」


 抵抗虚しく、メリアさんに店内へ強制連行されてしまった。


 体がドアを越えた瞬間にドアの前で待ち構えていたらしい店員さんから挨拶された。

 あ、そういうのいいんで。まじ勘弁してください。


 魔道具屋の店内は俺の予想通り、いや予想以上だった。


 壁には中を大小様々なサイズで区切られた棚が並び、一つ一つのスペースに合わせたサイズの商品が収められている。店内にはそれなりの数の客がおり、思い思い商品を手に取り品定めをしている。


 ほぼ女性しかいないがな!


 客の九割は女性。残り一割の男性も全員が女性の付き添いのようで、彼女らしき女性と楽しげに会話しながら商品を見ている。


 が、俺には分かる。

 店内の男性陣は皆、居たたまれない思いをしていると!


 だって皆すごいソワソワしてるからね! ちょっと目も泳いでるしね! 分かるぞ同士よ!

 陳列されている商品は尽く女性向け、しかも可愛い系! 内装もパステルカラーっぽい色合いで統一され、可愛らしさ鰻登り! きゃるんきゃるんしてる!


 まじキツい。どんくらいキツいかっていうと、前の世界で彼女に連れられてランジェリーショップに入った時並にキツい!

 やめて。俺はただ彼女に付いてきただけなの。ただのおまけなの。だから入店した瞬間の『女の園に男が何の用だ』みたいな視線はやめて!


「なんで後ろに隠れるの! 誰も見てないよ!」


「……ハッ! ごめん。過去に受けた精神的拷問を思い出しちゃって」


「精神的拷問って…………。魔道具屋に来ただけだよ?」


 ここは魔道具屋じゃない! 男の精神を削る魔境だ!


「あのー……、当店に何か御用でっすか? 入り口で騒がれると他のお客様のご迷惑になるので、できればお止めいただきたいのでっすが…………」


 あああああ!? 店員さんに話しかけられたああああ! もう終わりだあああ! もう逃げられないいいいい!?


「えええ!? そちらのお子さん、崩れ落ちちゃいましったよ!? 大丈夫でっすか!?」


「えーっと…………。うん、『この世の終わり』みたいな顔してますけど、それだけです。病気とかじゃないんで大丈夫です」


 逃亡不可能となった絶望で膝を付いた俺を見て、店員さんが慌て、俺を一瞥したメリアさんが『問題ない』と太鼓判を押した。


 …………なんかメリアさん、店の前に着いてから俺に厳しくない?


「うえええええ!? なんでお店に入っただけでそんな顔になっちゃうんでっすか!?」


「なんか、お店の雰囲気に気後れしちゃったみたいですよ?」


「気後れ!? 気後れでこうなったんでっすか!? 死罪を宣告された罪人みたいな顔してまっすよ!?」


 実際、気分的には死刑を宣告されたのと変わらないからだよ!


 前の世界でも、俺は店員さんに話しかけられるのは苦手だった。

 話しかけられたが最後、『必要ない』と断る事もできず、あれよあれよと口車に乗せられて、気づけば大して欲しくもない物を買わされるんだ。

 要件があったらこっちから声を掛けるから、頼むからそれまで話しかけないでくれ!


 店員さんに話しかけられた時点で、俺の中から『無理やり話を打ち切って、何も買わずに店を出る』という選択肢が消えるんだ。

 残る選択肢は『口車に乗せられて何かしら購入する』のみ。


 この! キラッキラした! いかにも女性向きな店で! 男(中身)の! 俺が!


 え? 露店では普通に出来てたって?

 露店は開放された空間だからね。『店舗』という閉鎖された空間じゃなかったら何故か割と大丈夫なのだ。


 あ、メリアさんに渡すアクセサリーを買う、という目的を設定していればこの空気にも耐えきれるのでは…………!

 いや待て。メリアさんは『俺の手作りのアクセサリー』をご所望だった。つまりここで買っても意味がない。

 ならばここに置いてあるアクセサリーのデザインを参考に……。

 いやそれ結局購入しないじゃん! それじゃあ店員さんの魔の手(?)から逃れられない……っ!


「…………なんかコロコロ表情が変わってまっすけど……大丈夫でっすか? その、色々」


「………………あ、私達、エリーさんの紹介で来ました。店主さんはいますか? 一応紹介状もあります」


「そこ、流しちゃうんでっすか…………? ん、んんっ! えー、私が店主のサーシャでっす。それでは紹介状を拝見……ああ、いやここではなんですので、こちらへどうぞでっす」


 まさかの第一店員さんが店主さん!

 俺を完全スルーするというメリアさんの所業に、驚愕の表情を浮かべた店主さん――サーシャさんだったが、そこは客商売の人。さっと切り替えて俺達を店の奥へ案内した。


「ありがとうございます。…………ほらレンちゃん、行くよ」

「はいっ! 行きます!」


「突然元気になったでっすね……?」


 そりゃそうさ! このキラッキラできゃるんきゃるんな空間から離れられるんだよ、元気にもなるさ!


 復活した俺に珍獣でも見るような目を向けつつ、サーシャさんは他の店員さんに声を掛けてから俺達を促し、店の奥にある、いかにもスタッフオンリーなドアを開け、中に入っていく。


 ………………ああ、落ち着くわあ。

 サーシャさんい付いて入った先は、想像通りスタッフオンリーなスペースだった。

 当たり前と言えば当たり前だが、客が入るスペースとは違い、店の裏側ともいうべきこちらの空間はキラキラしてなかった。可愛らしいインテリア等もなく、とてもシンプルだ。

 店内もこんな感じにしてくれれば多少は入りやすいのに……いや、女性客ばっかりだったらそこまで変わらないか?


「こちらへどうぞでっす」


 ガリガリと精神を削る事がない、殺風景とも言える廊下を通り、いくつか並ぶドアの内の一つを開けて、サーシャさんが俺達を促す。

 その部屋は広さはそこまででもないが、中央にちょっと良さげなテーブルが置いてあり、それを挟んで向かい合うようにこれまたちょっと良さげなソファーが置かれていた。

 これはあれだ、応接室だな。来客をもてなしたり、商談に使う部屋だ。


「どうぞ、お掛けくだっさい」


 サーシャさんに促され、二人並んでソファーを腰掛ける。

 俺達が席に着くのを見計らい、サーシャさんが口火を切った。


「それでは改めまして。私がこの店の店主、サーシャと申しまっす。よろしくお願いしまっす」


「こちらこそ、よろしくお願いします。私はメリア、こっちの子はレンです。〈鉄の幼子亭〉という食堂をやらせていただいています」


「おお!〈鉄の幼子亭〉! 最近流行りの食堂でっすね? 私はまだ行けていないのでっすが、従業員の娘達の間で美味しいと評判でっすよ!」


「それはそれは、ありがとうございます。お時間がある時にでも、是非サーシャさんもいらしてください。歓迎しますよ。といっても、ちょっと珍しい料理くらいしか出せませんけど」


「いやいや、ご謙遜を。皆、初めて見る料理ばっかりで、どれもこれもとても美味しいと言っておりまっした。時間を作って、是非お伺いさせていただきまっす! …………っとと、いけないいけない。もっと色々お話をしたい所ですが、長く売り場を離れられないのでっした。慌ただしくて申し訳ありまっせんが、紹介状を見せていただいても?」


「いえいえ、私もサーシャさんと同じくお店を開いている身なので、良く分かります。…………こちらです」


「拝見しまっす………………ふむ?」


 社交辞令としての少々の会話の後、紹介状を催促されたので、メリアさんが懐から紹介状を取り出し、サーシャさんに渡した。

 ちなみに、今までの会話に俺は参加していない。サーシャさんにとって会話すべき相手は、俺ではなくメリアさんなのだろう。視線がほぼメリアさんに固定されている。

 まあ俺、外見は幼女だからね。仕方ないね。ここは大人しく置物になっておく事にする。


 しばし紹介状に目を通していたサーシャさんが、首を傾げながら顔を上げた。


「こちら、機織りの魔道具をご所望との事にですが……メリア様のお店って、食堂ですよね? 厨房に入れる為の火や水の魔道具ではないので?」


「ああ、いえ、お店の為というより、個人的な目的の為に必要でして」


 まあ言いたい事は分かる。食堂の店主が魔道具屋に来たら、普通はお店で使う魔道具を買いに来たと思うよね。


「個人的な目的……。内容についてはここでは関係ないのでお伺いしませんが……こう言ってはなんですが、機織りの魔道具はかなり値が張りまっすよ?」


「そこの確認も含めて今回お伺いさせていただきました。ちなみに、お値段はおいくらなんでしょうか?」


「そうでっすね……。あまり出ない品物で生産数も少ないので…………えー」


 まあ今回、メイド達に支払う給料や、数日分の仕入れ費用等、最低限残しておかなきゃいけない分を除いた、支払える限界のお金を持ってきている。支払えないという事はないだろう。


 なんとその額、大金貨二十五枚だ。


 〈鉄の幼子亭〉をもう一店舗購入してもお釣りが来るぜ。

 さあ、ドンと来いや!


「大金貨五十枚になりまっす」

「「だっ!?」」


 高すぎィ!?

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