第7話 説明して実演したら冒険者と一緒に組合に行くことになって危険な目に遭った。
少し遅れました。ここ数日帰るのが遅くて書く暇がありませんでした。
あ待たせしてしまい、申し訳ありません。
それでもコツコツがんばって書いていきますので見捨てないでください(懇願)
「それなら知っています。この子がやりました」
メリアさんのカミングアウトに俺は目を剥いた。
まさか本当の事を言うとは……。
いやだって、俺みたいな小さな子供が、でっかい竜巻を発生させたなんて誰が信じるよ? 怪しさ満点だよ。
ほら、冒険者の人たちもなんとも言えない顔してる。
あ、いや違う。なんとも言えない顔じゃない。あれは『何言ってるんだこいつ』って思ってる顔だ。馬鹿を見る目だよあれ。
「あー……。すまない。ちゃんと聞きとれなかったようだ。もう一度言ってもらえないか?」
大剣の男性が困ったような顔で聞き返してきた。
お! ここでそれっぽい事をでっち上げればリカバリでき……
「いいですよ。お話にあった竜巻。それを起こしたのはこの子だと言いました」
だと思ったよちくしょう。何も知らない子供として通したかったのに……。
「そ、そうか……。聞き間違いじゃなかったのか……。その子供が……。もう一度起こすことはできないか? いや、疑っている訳ではないんだがね? 実際に見てみたいんだ。あそこまでの規模だとさすがに困るが……」
嘘つけ、滅茶苦茶疑ってんじゃん。
メリアさんが俺に目を向けてきた。『どう? できる?』と言うことだろうな。
「無理。熱が足りない」
別に見せたくない訳じゃなく、これは事実だ。あれはメリアさんの体内に蓄積していた膨大な熱を排熱した結果の出来事だ。今近くにそれだけの熱を発するような物はないし、俺の【熱量操作】は、新たに熱を発生させることはできない。気温はそれなりに高いけど、さすがに足りないだろうなあ。
「熱? それはどういう…?」
大剣の男性が不思議そうな顔をしている。まあ、いきなり熱がどうこうとか言われても意味分からないよな。
男性の質問に答えようと思ったら、それより先にメリアさんが口を開いた。
「それは、先ほどそちらの女性にされた質問への回答にもなりますね。私は体から高熱を発してしまう体質でして、抑えることも出来ず、最近までは触れた物が燃え上がってしまうほどでした。なので人里を離れ、この洞窟で暮らしていたのですが、とある事情で保護したこの子が救ってくれたんです」
「わた……俺は【能力】で物の持つ熱を操れるんだ。それで彼女の体から熱を吸い出して、空中に放出した。その結果が、あなたたちの言う竜巻だったって事なんだ」
メリアさんの説明を俺が引き継ぎ、男性の質問に回答した。
一瞬、子供の振りをしようかと思ったが、やめた。
【熱量操作】なんてぶっ飛んだ【能力】を持ってるってばれた時点で、普通の子供としては扱われないだろうし、いっそのこと素のままでいっちゃおう! と思った次第だ。
というかもう、必要に駆られない限りは、素で行こう。うん。
子供の振りって地味に疲れるんだよ。
あ、この時点ではまだばれてないか? まあいいや、後の祭りだ。
「よく分からないが、今は竜巻を起こすことはできないんだな? う~む……困ったな。それだと組合に報告できん…。どうだろう、竜巻じゃなくてもいい。それに近い事はできないか?」
「近い事、といいますと?」
竜巻に近い事……。台風とか? 無理だけど。
「正直な話、なんでもいい。我々が組合に説明する際に説得力があるものであれば」
なんでもいい。でも説得力があるもの、ねえ。だとすると、それなりの規模じゃないと駄目だろうなあ。
う~ん、う~ん……あ。
「説得力があるかはなんとも言えないけど。ちょっとやってみようか」
思いついた。気温を下げてみよう。
多少でも下げることができれば、それなりにすごく見えるんじゃなかろうか。
実際できるかどうかは分からないが、失敗したら別の方法を考えればいいや。
「おお! それは助かる! 是非お願いする!」
「了解。じゃあ……始めるね」
宣言の後、俺は両手を頭上に掲げ、【熱量操作】を発動した。
両掌から空気中の熱を一気に吸い上げる。
瞬間、俺の周囲の気温が下がり、環境が一変した。
空気中の水分が凍りついたのか、空気が日光を反射してキラキラと輝いている。地面に生えた草花には霜が降り、地面が白く染まっていく。
まるで、俺の周囲数メートルの範囲だけ冬になったかのような光景。
しかもそれは少しずつその範囲を広げていっている。
おお、予想以上にすごい。気温を数度下げることができればいいかなー、とか思っていたんだが、ここまでできるとは。
でもこれが巨大な竜巻に匹敵するかと言われると、分からんなあ。まあもうちょっと続けてみよう。
「もういい! もう十分だ! 止めてくれえ!」
とか思ってたら、半ば絶叫のような懇願をされたので、【熱量操作】を解除した。
男性の方に顔を向けると、彼のパーティメンバー全員がガタガタ震えている。
軽い気持ちでやってみたが、想像以上に強烈だったみたいだな。
程良く暖かいくらいだった気温が、短時間でえらく下がったようだ。
……あの空中でキラキラしてたのってダイヤモンドダストかな? だとすると、マイナス二十度くらいまで下がったのか?
……下がりすぎ。
ちなみに、みんなとても寒そうにしているが、俺は全然平気だ。
俺が寒さに異常に強い、訳ではなく、【能力】の使い方に秘密がある。
空中からの吸熱は頭上に掲げた手のみで行い、放熱はそれ以外の全身で行った。
つまり、俺の周囲だけは周囲の環境に関係なくすごく暖かいのだ! 余剰分は地面に送ってるから暑すぎたりもしない。
やっぱこの【能力】やばいわ。汎用性高すぎる。
「ううぅ……。寒いよレンちゃあぁん……」
メリアさんが自分の肩を抱き、ブルブル震えながら恨めしそうな顔で睨んできている。
あ、ちょっと涙目。かわいい。
やりすぎた、という自覚はあったので、俺は見えなかった事にしてサッと目を逸らした。気まずい。
すると、目を逸らした瞬間に体に衝撃。ちょっとよろめきながら驚いて視線を戻すと、メリアさんが抱きついてきていた。
「あぁ~~……。あったか~い……」
寒さの余り、俺をカイロ代わりにすることにしたらしい。ぐりぐりと頬ずりしてくる。
クールビューティメリアさん終了のお知らせ。
別方向からの視線を感じた為そちらを向くと、冒険者の方々が狐につままれたような顔でこっちを見ている。
メリアさんの変わり身に驚いているようだな。俺とは逆の方向で。
「この人、これが素なんで気にしないで……。で、こんな感じだけど、どうかな? 信じてもらう事はできそうかな?」
俺の問いに、相手のパーティメンバー全員がハッとした顔で首をコクコクと縦に振った。
「あ、ああ……。まさか天候を操作するとはな……。まさか、神の使いなのか……?」
ちょっと声が震えてる。まだ寒いのかな?
「いいえ違います」
神様とお話したことはあるが、あの神様の下には付いてないし、付きたくない。
「そ、そうか。即答だな……。まあいい。原因自体は判明したし、再発はないだろうことも分かった。我々は報告の為に組合に戻ろうと思うんだが……」
そこで男性は一度言葉を切った。まあ、なんとなく何が言いたいかの予想はつくな。
少しの逡巡の後、意を決したように
「……申し訳ないが、我々と一緒に組合まで来てもらえないだろうか? 正直な話、我々の説明だけで組合員を納得させる自信がない……」
と続けた。
まあそうだろうな。
彼の物言いも尤もだ。『あの竜巻の原因は幼女でした! もう竜巻は発生しません! 大丈夫です!』とか報告した日には『むしろお前の頭が大丈夫か?』とか言われちゃいそう。かと言って、俺がその場にいても説得力が増すか、と言われるとそれもすこぶる怪しい気がするけど。
頬ずりの感触がなくなったのでメリアさんを見ると、彼女も俺を見ていた。今度こそ、アイコンタクトが成立した、と信じ、小さく頷いた。メリアさんは彼の方に顔を向き直して口を開いた。
「分かりました。いいでしょう。ですが、私もご一緒させていただきます。よろしいですね?」
有無を言わさぬ物言い。クールビューティメリアさん復活。
俺にしっかりと抱きついたままだからクールさが九割減だがな。
「それはもちろんだ。こんな子供を見ず知らずの者に預けろ、とは言わんさ。むしろあなたのような美しい方なら大歓迎だ」
メリアさん同行の許可も出た。というかこの人、メリアさんを口説こうとでもしてるの? なかなかのプッシュっぷりだな。
他のパーティメンバーからも白い目で……あれ? なんか諦めたような顔してる。
「それはよかった。それでは自己紹介と参りましょうか。私はメリア。この子はレンです」
メリアさんは立ち上がって、目の前の男性に手を伸ばした。
大剣の男性が発した甘めの台詞への関心はゼロである。
「ああ、女性から名乗らせてしまうなんて申し訳ない。私はジャン。一応このパーティのリーダーをやってる。よろしく頼む」
そんなメリアさんの塩対応に全くめげる事なく、大剣の男性が名乗りながらメリアさんの手を握った。やはりリーダーだったらしい。
「高熱を宿している、という話だったが、特に熱くはないな」
「熱を放出して余り日も経ってないので」
「そうか。それはよかった。あなたのような美しい方と触れ合う事もできないなど、拷問にも等しいからな」
メリアさんのそっけない物言いに全く物怖じする事なく、ジャンは納得したように頷いた。
こいつ……。メリアさんに何かしようとしたらぶっ飛ばしてやる。
二人の握手が終わり、ジャンが俺の方を向き、視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
俺とも握手するのか。先ほどまでの考えを顔に出さないように気をつけながら手を伸ばそうとすると、
「よろしくな。お嬢ちゃん」
と言いながら、頭をわしゃわしゃと撫でられた。
力が強く、頭が上下左右にぐわんぐわん揺れる。
「あ、ああ。よろしく……」
うう。ちょっと酔った……。
「他の奴らも紹介しよう。こいつは魔法使いのキース」
「キースです。水属性を使います。よろしくお願いします。メリアさん、でしたか。ジャンのことは気にしないでください。口だけのへたれですので」
黒っぽいローブの男性が頭を下げた。線が細くて、いかにも魔法使いって感じの人だな。
黒髪短髪の文系イケメンだ。
見た目に似合わず、なかなかすごい事を言う人だな。
「誰がへたれか! ……次は双剣士のレーメス」
「あんただよあんた。ああ、レーメスだ。よろしくな」
軽い感じで片手を上げた。短剣の二刀流か。かっこいいな。
この人は茶髪短髪のちょっとチャラい感じのイケメン。
なんだこの男性陣。ジャンも茶髪角刈りのワイルドイケメンだし、イケメンばっかじゃねえか。
「ぬぐう……。続いてセーヌ。こいつも魔法使いだ」
「セーヌと申しますわ。私は火属性を使いますの。よろしくお願いしますね? ……ジャンは今まで数えきれないほどの女性に声を掛けていますが、関係を持った事はありませんの。いざとなったら私が燃やしますから、安心なさって?」
セーヌさんは、なんというか、エロい。
ゆったりとしたローブを着ているはずなのに、胸とかお尻とかががっつり盛り上がってるのが分かる。
でも決して太ってる訳ではなく、腰はキュッと締まっているいるようで、その部分はとてもゆったりとしている。
金髪ウェーブのおっとり系グラマー美人さんだ。
でも、おっとりとした口調で『燃やしますから』とか。怖ええな……。怒らせるとやばそうだ……。
というか、ジャン……見た目の割にこのパーティのいじられ役なのか……。
あ、凹んでる。
「……で、最後のこいつがレミイ。こいつとは少し話したか」
「…………」
ジャンが悲しそうな声で紹介した女盗賊の人、レミイさんは灰色の髪に短髪のキリッとしたクール系美人さんだ。
体もとても引き締まっていて、アスリートのようだ。
そのレミイさんだが、自分の自己紹介の番になっても俯いて返事をしない。なんかフルフルと震えている。
「おい、レミイ。どうした。ちゃんと挨拶しろ」
ジャンがもう一度声をかけると、レミイさんの体の震えがピタッと止まり、ガバッと勢いよく顔を上げた。
その顔は、洞窟内で見た時にはキリッと釣り上がっていたはずのまなじりが下がりきっており、まるで別人だった。
「……もう無理!」
レミイさんは突然猛ダッシュしたかと思うと、俺にダイブしてきた。いきなりの事に驚いて避ける暇もなかった俺は、彼女の突進を受ける事になった。
しかし、かなりの勢いで突進してきたにも関わらず、衝撃はほとんどなかった。綺麗に衝撃を逃がしたようで、彼女の技量の高さが分かる。分かるのだが、
「あぁー! ほんとかわいいっ! 初めて見たときからずっと我慢してたんだよーっ!」
とか言いながら、俺に対して高速の頬ずりをしている相手を素直に褒めたくない。
「あっ! 抜け駆けはずるいですわレミイ! 私もレンちゃんをぎゅーっとしたいですわ!」
セーヌさん乱入。彼女も我慢してたらしい。
あー、この人、おっとり系じゃなかったんだな。見た目と口調に騙されてたよ。
セーヌさんもレミイさんも方向性は違うがかなり美人だから悪い気はしない。
悪い気はしないだけで、手放しでは喜べない。これから大変な目に会う予感がしてるからだ。
というか、なんなのこのパーティ。イケメンと美人しかいねえんだけど。
この世界ではこのくらいが普通なのか? 顔面偏差値めっちゃ高いのか?
……すげえな異世界。
「ちょっと! 何勝手に抱きついてるの!? レンちゃんは私の物なんだからー!」
とか頭を撫でられながら考えていると、そこに俺の所有権を主張するメリアさんも参加。結果、俺は三人の女性にもみくちゃにされる事となった。
「あちゃー。やっぱこうなっちゃったかあ」
「まあ、ある意味必然だったのでは? あの、レンさん、でしたっけ? なかなか可愛らしいですし」
「レミイもあんな顔して、結構可愛い物好きだからなあ……。あの顔のせいで子供は怖がって近寄って来ないし、色々溜まってたのが爆発したんだろうなあ……」
レーメスは額に手を当てながら首を振り、キースは何が楽しいのかニッコリと笑っている。
ジャンは腕を組みながら、納得したようにうんうん頷いている。
そんな男三人組は、とばっちりを受けないようにちゃっかりと俺達から距離を取っている。
「わぷっちょっ待っ……! な、なんか手つきがいやらしい!? アッ! どこ触ってる!? おま! 服の中に手を入れるな! だ、だからって脱がそうとするな! ゥンッ! や、やめ…!」
メリアさんからのかわいがりに慣れている俺も、三人の女性による前後左右からの猛攻に息も絶え絶えだ。というか身の危険を感じる。勝手に変な声が出ちゃうくらいに。そんな状況でも、なんとか声を上げて助けを求める事が出来た。が。
「ンぁ! そ、そっちのみなさん! ンッ! た、たすけ……! ……いやあんたらだよ! 振り向いても誰もいねえよ! 首を傾げるんじゃねええええ!」
「「「いや、無理」だ」です」
見事にハモってやがる……!
「そ、即答!? そんなあっさり諦めないで! ァンッ! み、見捨てないでー!」
俺の変な声混じりの叫びが辺り一帯に響き渡る、そんな昼下がりでした。
あ、貞操の危機はなんとか脱しました。やばかった……。