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第69話 決闘は終わったけど、侯爵様にあらぬ疑いを掛けられた。

2022/10/29 一部修正しました。話の流れなどは変化ありません。

「あー……。お前も分かってると思うけど、俺は今まで、滅茶苦茶手加減して攻撃してた」


 蹲ったままのガキの正面で足を止め、最後の一押しの為に、全力で強者ムーブを継続しながら声を掛ける。

 あ、声掛けた瞬間ビクッとした。よし、効いてる。


「その気になれば、お前に無様な踊りを踊らせる事だって出来た。お前が意識を失っても、強制的に、俺の気が済むまでな」


 嘘です。スピードはともかく、パワーはそこまで出ません。いくら【身体強化Ⅱ】を使って強化しても、何故かパワーはそこまで伸びないんだよね。


 速くて軽い。まんま格ゲーの軽量キャラだわ。


 まあ、そんなこと知る由もないガキは俺の嘘を本気にして、スマホのバイブ機能みたいに震えてる訳だが。


「正直、手加減して軽く突くのは疲れてきたし、飽きてきたんだよ。次からは手加減しない。手足が砕けてグニャグニャになるまで踊ってもらう」


「ひ、ひ、ひぃぃぃ…………もう、や、やめ……」


 ガキの震えがスマホのバイブからマッサージ機に進化した。身体の震えに合わせて声も震えている。

 正直ちょっと聞き取りづらい。


「これは決闘だろう? どっちかが死ぬまで終わらない訳じゃないんだ。……俺の言いたい事は分かるな?」


「わ、わかった。わかったから…………」


「だったら早くしろ。足の一本でも折らなきゃダメか?」


「ヒッ! や、やめろ! 分かった! ぼ、僕の………………っ!」


 そこでガキは降参の台詞を言うと見せかけて、蹲った姿勢のまま、剣による横凪ぎの一撃を放ってきた。

 俺とガキの距離は一歩分。軌跡から判断するに、狙いは太もも。

 距離が近すぎて、後ろに下がっても微妙に間に合わず、跳んでもしゃがんでも避けられない絶妙な攻撃位置。

 太ももに攻撃を受ければ、さっきまでガキを翻弄していた高速移動も難しくなる。

 降参の直前という、わずかに気が抜ける瞬間を狙う所もなかなかに嫌らしい。

 これで決まれば、ガキは一気に有利に立つ事が出来るだろう。

 だが……。


 カキン。


 決着もついてないのに結界を解除するほど甘くないんだよ。


 そんな温い事してたら、メリアさんにボコボコにされるからな! メリアさん、俺が攫われて以降、訓練でも、奇襲、騙し討ちとか普通にしてくるようになったんだよ。


 いきなりナイフ投げてきて。

 回避したと思ったら目の前にいて。

 さらに回避しようと横に動こうとしたら、地面を蹴り上げて土で目晦ましされて。

 なんとかやり過ごして移動したと思ったら、足を着いた場所にいつの間にか置いてあった小石を踏んづけてバランス崩して。

 転ばないように堪えた瞬間にもう片方の足を払われて盛大にズッコケる、とか普通にやられる様になったからね。


 もちろん、訓練終了! みたいな空気出しておいて、気を抜いた瞬間に手痛い一撃! というのもやられた。何回もやられた。しかも結界を解除した瞬間を見計らって。もう何回土ペロしたか分からないよ。


 まあ、お陰さまで、そういう類いの警戒は怠らなくなったね。

 …………なんで俺、冒険者はほぼ引退してるはずなのに、常在戦場みたいな生活を送ってるんだろうか。


「そ、そんな…………」


 ガキ的には起死回生の一撃だったはずの攻撃。それをあっさりと防がれて、絶望の表情で俺を見上げている。

 まあ、間が悪かったよ。攫われる前の俺だったら、確実に食らってた。


 とは思うが、声には出さない。何故か。強者ムーブ中だからだ!

 俺の中の強者像は、そんな相手に華を持たせるような事は言わないのだ!


 強者ムーブ的に、ここで俺が言うべき台詞と態度はこれだ!


「まだ続けるって事だな?」


 ニコォ。


「あ…………」


 にっこり笑ってそう言ってやると、ガキは白目を剥いて倒れてしまった。同時に股間が湿り、そこを中心に水溜まりが形成されていく。

 幼女の可愛らしい笑顔を見て失神するとか失礼な奴だ。だが強者ムーブ的には良し! 失禁もプラスしてくるとか、ポイント高いよ!


 …………さて、決闘の決着は、片方が自身で敗北を宣言するか、それ以上の戦闘続行が不可能だと立会人が判断した場合の二パターン。

 今回は、ガキが失神したから後者のパターンだな。


「侯爵様」


「う、うむ。……ロンズ・ソー・イース、戦闘続行不可能。よってこの決闘、決着とする。勝者、レン!」


 よっし終わった!

 うんうん。強者ムーブもバッチリ決まったし、決闘にも勝った。

 これでガキは俺達に二重の意味でちょっかいが出せないだろう。

 一仕事終えてムフーッ!とやっていると、離れた場所で観戦していたメリアさんが近づいてきた。


「お疲れ様。いやー…………。なんというか今日のレンちゃん、性格悪そうだったっていうか……すっごい悪者っぽかったねえ……」


「えっ!? 性格悪っ悪者!?」


 どうやら、俺の渾身の強者ムーブは、メリアさんには悪役ムーブに見えたらしい。

 メリアさんに性格悪そうって言われた…………ショックだ。


「い、いや! それは、俺の演技が渾身すぎて、そう見えただけだよ! お、おねーちゃんなら分かってくれるよね!?」


「うん、私はレンちゃんがそんな子じゃないって知ってるけどね? ほら……」


「え?」


 メリアさんに促され、視線を動かすと、その先には苦い顔をした侯爵様が。


「演技、なのか……? 随分生き生きしていた気がするが……。あれが素なのではないか…………?」


 侯爵様がボソッとヤバイ台詞を呟いたのが聞こえてきた。

 ややばい、変なイメージ付いちゃう!

 侯爵様に性悪なんて思われたら、今後の生活にどんな影響があるか分からん!


「演技です! もちろん演技ですよ! こんな可愛い幼女が悪者な訳ないじゃないですかー」


「いや、だが…………いや、そうだな、演技だな。そうに決まっているな、うん」


 侯爵様、何故そこで目を逸らすんですか!?

 払拭できた? 俺の悪者疑惑、払拭できた?

 …………できたよね? 大丈夫だよね!?


「ゴホンゴホン。……侯爵様。決闘は終了致しましたし、我々がここに居る必要も無くなったかと思われますが、如何でしょうか?」


「……ああ。要望についてはこちらで取りまとめて、使いの者に届けさせる。店の名前は……うむ。〈鉄の幼子亭〉か」


 ……なんか侯爵様の目が生温かい気がするし、微妙に距離感があるような気がするけど、気のせいだよね? 距離感は身分の違いのせいだよね?


「あ、はい。そうです。小さな食堂をやらせていただいています」


「…………ほう? 了解した」


「? よろしくお願い致します。それでは、失礼します」


 店名を言った途端、侯爵様の片眉が上がったのがちょっと気になったが、とりあえず許可をもらったので、俺達は出来得る限り礼儀正しく見えるように心がけつつ、練兵場を後にした。

 股間を濡らしてぶっ倒れているガキのお世話、がんばってください。


 よーし、これで全部終わり!


 今後ガキの迷惑行為は心配しなくていいし、偶然だけど、侯爵様とのコネも出来た。面倒だったけど、結果的にはお得だったかな?

 侯爵様の、俺への心情だけが心配だけど。


 ……


 …………


 ………………


「……とは思っていましたけどね?」


「本人を前に随分ぶっちゃけたな……。まあ、ここの様子を見るに、演技だったというのは信じても良いだろう。これほどの者達が食事に来ているのだ。あんな性格の者が働いている店なぞ、誰も来ないだろうしな」


「いや、そうかも知れないですけど……」


 ガキとの決闘から数日後。〈鉄の幼子亭〉店内。


 何故か俺の前の席で、侯爵様が綺麗な所作でモリモリと料理を食べている。その背後には、出来る空気を全身から醸し出している執事服を着た初老の男性が付き従っている。執事さん? も超かっこいい。貴族っぽい服のイケオジと執事服の男性の取り合わせは、正直すっごい絵になる。

 背景が庶民向けの食堂じゃなければ。


『侯爵家の者を名乗る人がやってきた』と給仕係のメイドに呼ばれ、受け渡し口から入り口を覗いてみたら、そこに立っていたのはまさかの侯爵様ご本人。


 もうね、目ん玉飛び出すんじゃないかってくらいびっくりしたし、超速で入り口まで走ったよね。


 なんで侯爵様ご本人が!? なんの用事!? と戦々恐々としていたら、すっと手渡された一枚の封筒。一言断ってから中を確認すると、入っていたのは先日の決闘の要望を清書して、仰々しい印が押された物だった。


 いや、そりゃ『侯爵家の者』だけど! 間違ってないけど! 嘘ついてる訳じゃないけどさあ!

 あ、いや確か『使いの者を寄越す』って言ってた! やっぱ嘘だ! なんでそこで本人が来ちゃうの!?


「なら問題はないではないか。侯爵家との繋がりは使い道があるぞ? ちなみに、わざわざ私が来たのにも、ちゃんとした理由が二つある」


「………………お伺いしても?」


「うむ。一つ目は、先ほども言ったが、貴殿の見極めだな。侯爵である私との繋がりを、良からぬ事に使おうとするような輩かどうかを確認しておきたかった。ま、結果も先ほど述べた通りだ」


 やっぱりあの時点では性悪疑惑が払拭できてなかった!

 その点で言えば、今回の侯爵様の来店はこちらとしても有難い事だった訳だ。

 あー、良かった。これで侯爵家から変な目で見られるような事態は回避できたって事だな。


「ありがとうございます。……して、二つ目は?」


「以前より、一風変わった料理を出す店が出来た、と報告は受けていて、どのような料理を出すか気になっていたのだ。店名を聞いた時『しめた!』と思ったよ。こういう名目がないとなかなか来ることが出来なくてな。…………ふむ、料理の追加だ。クロケット、メンチカツ、トンカツを一つずつ。あとエール――――」

「ジルベルト様?」

「ああ、いや、水でいい」


 サラッと酒を頼もうとして執事さんに窘められている侯爵様を見て、俺はこっそりと溜息をついた。


 実は書類を渡すのにかこつけて、大事な用事でもあるのか!? って思ったけど、ガッツリ飯食ったらさっさと帰ったよ。気に入ってくれたみたいで結構な量を注文してくれたのは嬉しいけど、侯爵様がいる間、店内の空気が重くなっちゃって困った。


 正直、もう来ないで欲しい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初決闘の条件確認のときにレンの勤務する〜って言ってるのに店の名前知らなかったような反応なのはなんでですかね。
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