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第68話 ガキを強者ムーブでポコポコした。

 メリアさんからあらぬ疑いを掛けられてしまったが、それはそれ、これはこれだ。強者ムーブは続行する。

 決闘を勝利する事による要望の強制と、圧倒的な戦力差での蹂躙(ただし怪我はさせない)による恐怖で雁字搦めにしてやるぜ!

 とりあえず煽っとくのも忘れないぜ!


「どうした? まだ決闘は始まったばかりだし、初撃が防がれただけだぞ? 連続で攻撃したらもしかしたら届くかもしれないぞ? ほら、がんばれがんばれ」


「な、舐めるなあああああ!!!」


 俺の煽りに怒りで顔を真っ赤にしたガキは、怒りに判断力が鈍っているのか、俺の言葉を鵜呑みにしたのかは不明だが、その場に踏み留まり、やたらめったらに剣を振り回してきた。


 横凪ぎ――――カキン。

 斬り上げ――――カキン。

 また斬り下ろし――――カキン。

 おいおい、こんな至近距離で突き?――――カキン。


 まあ、ああは言ったけど、この程度の攻撃じゃあ、百回斬られても屁でもないんだけどね。

 がむしゃらに振り回される剣。しかし全て結界に阻まれ俺まで届かない。


「くそくそくそっ! なんで当たらないんだよぉ!」


「いや、当たってるじゃん。結界に」


 ちなみに今は、俺の中での強者ムーブその一、『相手の攻撃を無抵抗で受けつつ涼しい顔』を実行中なので、反撃はしない。だけど、ただ黙って攻撃を受け続けるのも暇なので、ちょいちょい煽りを入れる。


「貴様に当たらなきゃ意味ないだろぉがぁ!」


「まあそうだな。ほら、傷すら付いてないぞ。がんばれ!」


「なん、で! お前、が! 僕を! 応援、してるん! だよぉ!」


 息も絶え絶えになりながら結界に向かって剣を振り続けるガキ。ほらほら、その程度の攻撃じゃ日を跨いでも俺に届かないぞ?


「くっそっ!」


 散々攻撃してやっと、このまま攻撃を続けても結界を破ることが出来ないと悟ったようで、悪態をつきながらバックステップを数回。俺との距離を離した。

 無論、追わない。俺の強者ムーブに、下がる相手を追う事は含まれていない。

 強者は悠然と構えるのだ。


「あれ? 離れちゃうの? 負けを認めちゃう?」


 しかし煽るのは止めない。面白いくらい反応してくれるから、煽るのが楽しい。


「ほざけ!これからが本番だ!」


 そう叫びながら、ガキは剣を持つ方とは逆の手を俺に向けた。


「【土球】!」


 叫びと共に、ガキの手の前に小さな茶色い球体が生み出される。それはみるみるうちにそのサイズを大きくし、直径三十センチほどなった途端、こちらに向かって飛んできた。

 にしてもこいつ、わざわざ魔法名を叫ぶのか。相手に情報を前もって教えなくてもいいんじゃないかな?


「土属性か。初めて見た」


 これで、この世界で分かっている魔法の属性は四個目だ。

 火、水、土、無。

 あと何の属性があるのかな。マンガとかでよく見るのは残り、風、闇、光あたり?

 あ、拉致された時に露店だしてたおっさんは、黒い弾丸みたいの使ってたな。見た目的にあれ闇属性かも。

 つーか、無属性って属性に含むもんなのか? 属性が無いから無属性なんだよな……。


 なんで決闘中にそんな益体もない事を考えているかというと、ガキが撃ち出した土球が、あまり速くなかったからだ。

 セーヌさんの【火球】より圧倒的に遅い。うん、キースの【水球】よりも遅いな。まだ『相手の攻撃を無抵抗で受けつつ涼しい顔』を実行中なので、回避はしない。狙いは――――顔面か。


 そこまで考えた所で、突然土球が破裂した。


 粉々に砕けた土球は土煙へと変わり、俺の全身を包み込む。視界がゼロになる。

 おお。そんな事も出来るのか。いいなあ、俺も使いたいなあ。なんとか後付けで【魔法適正】もらえないかなあ。無理だよなあ……。


【翼】を展開し、全身を包み込む。視界が土の茶色から【翼】の白に完全に塗り替えられたと同時、ドガガガガガッ!という連続した音と共に【翼】がビリビリと細かく振動を始めた。ガキが土煙に紛れるように魔法を連発しているようだ。さっきまでの剣での攻撃よりは速く、重そうな音なので、おそらくガキは剣よりも魔法の方が得意なんだろう。

 じゃあ、なんで最初から魔法で攻撃しないの? と思わなくもないが、ガキの考える事は良く分からないので、なんとも言えないな。


 ……にしても、土煙での煙幕かー。考えてるな。馬鹿ではなかったみたいだ。


「はぁ……はぁ……。や、やったか!?」


 ひっきりなしに続いていた着弾音と【翼】の震えが止まり、代わりに息も絶え絶えな様子のガキの声が聞こえてきた。


 おいおい駄目だよその台詞は。フラグ立っちゃうよ?


 まさか自分が言われる側になるとは思わなかったけど、そのフラグ、俺がしっかり回収してやんよ! 強者ムーブでな!

【翼】を勢い良く広げ、未だ周囲を漂っていた土煙を吹き飛ばす。良好になった視界の先には、こぼれ落ちそうなくらい目を剥いて、これ以上ないくらい驚いた顔をしたガキの姿。

 ……ふむ。この状況で言うべき台詞は……これだな。


「終わりか?」


「つ、翼……? 貴様、いや、あなたは、天使、なのか?」


 また天使扱いだよ。他の例えはないのか?…………まあ、俺も思いつかないけど。

 とはいえ、今俺は強者ムーブ中。ただ否定するのは面白くないな。


「…………終わりなら、次はこっちの番だな? 優しくしてやるから安心しろ」


 無視! そして『次はこっちの番』宣言!

 うーん、強者っぽい。

 内心ニヤニヤしつつ、頑張って顔には出さない。ここで変にニヤニヤしてたら強者ではなく、小物っぽい。


「くっ!」


 俺の宣言を受けて、剣を構え直すガキ。大分疲れが溜まっているようで、剣先が揺れている。

 強者ムーブ的には回復するまで待ってやるのがいいんだろうけど、そろそろただ突っ立ってるのに飽きてきた。

 なのでそろそろ、俺の中での強者ムーブその二『目で追えない程のスピードでの連続攻撃』を実行しようと思う。

 別バージョンに『相手の防御をいとも簡単にぶち抜く超強力な攻撃』っていうのもあるんだけど、俺の力じゃ無理だからな。幼女は非力なのだ。


「いくぞ?」


 宣言と共に、ダッシュでガキとの距離を詰める――――ん。ここかな?

 密着の三歩前で【身体強化Ⅱ】を腕以外で発動。ガキを中心に半円を描くように移動して背後に回る。


「っ! 消え――――」


 言い切る前に背後から棒で一撃。一撃と言っても背中を棒で軽ーく小突く程度だけど。


「な!? うし――――」


 背中を小突かれた事に驚いたガキが、振り向こうとした方向とは逆側を移動し、さらに背後に回る。今度は頭にチョップだ!


「また!? この――――」


 ガキが振り向こうとしたのに合わせてまた背後――――と見せかけて追加でちょっと移動。側面に回って小突く。


「な――――」

 背後。

「きさ――――」

 背後。

「ちょ――――」

 側面。

「やめ――――」

 一周回ってあえての正面。


【身体強化Ⅱ】のスピードを生かして周囲をグルグル回り、チョンチョン小突いていく。


 まあ、いくら【身体強化Ⅱ】を使っても、スピードだけで視界から消えるのはさすがに無理なんで、都度都度死角に入り込むことで目にも留まらぬ速さに見せてるだけなんだけど。

 まあ、俺の身体能力なんて【身体強化Ⅱ】を使ってもこんなもんだ。

 ……ジャン達とゴブリンの巣穴を制圧した時は、一撃でゴブリンを倒せたはずなんだけど、あれ以来出来ないんだよなあ。あれは火事場の馬鹿力だったみたいだ。


 少し離れた所から見ている侯爵様からは、ちょっと速いな、くらいのスピードでガキの周りをグルグル回ってるようにしか見えないだろう。


「ぐ……うぅ…………」


 といってもそれはあくまで観戦者視点での話。

 やられている本人からすれば、全く視界に入らないにも関わらず、明らかに手加減された状態で全身をチョンチョンポコポコ小突かれているのだ。さながら透明人間に囲まれ、いつ強力な攻撃が来るのか戦々恐々としながら、ひたすら耐えなくてはならないという状況。正直かなり怖いと思う。俺がガキの立場だったら泣くかもしれない。


 あ、そうだ。


「侯爵様。戦闘中故、このような状態で話しかける事をお許しください。一つ、お伺いしたい事がございます。今、宜しいでしょうか?」


「は? ……う、うむ。『今大丈夫か』とは、どちらかと言うと私の台詞だが…………それは、今でなくてはいけないのかね?」


 俺の問いに、困惑した様子でそう答える侯爵様。

 まあそうだよね。決闘の真っ最中にだからね。しかもガキの周りをグルグル回りながら話しかけてるから聞き取りづらいだろうし。第一、自分でも言ったけど、貴族に話しかけるのに、戦闘しながらとか、めっちゃ不敬だよね。ごめんなさい。


「はい。決闘の勝利条件をお伺いしておりませんでしたので、そちらを確認させていただければ、と」


「な、なるほど。そうだな。貴殿は貴族ではないものな。知らなくてもしょうがあるまい。開始前に立会人である私が説明すべき所だった。失礼した」


 俺の質問は、貴族であれば知ってて当然の物だったようだ。まあ、決闘って基本的に貴族同士にやる物っぽいから、説明を忘れちゃってもしょうがないだろう。作法の中に、そこの説明は含まれないみたいだし。暗黙の了解って奴なのかね。

 自分の不備を認めて、しっかりと謝罪してくれるなんて、やっぱり侯爵様はいい人だなあ。


「ゴホンッ。……決闘の勝敗の決し方には二通りある。一つは決闘の相手による宣言。つまりは降参だ。もう一つは、立会人が決闘の継続が不可能と判断した場合。片方が気絶した場合等が当てはまるな。ちなみに、相手を殺害した場合は、問答無用で敗北扱いだ。……貴殿なら問題ないだろうが、一応な」


 一度軽く咳払いをし、気を取り直したらしい侯爵様の答えは、だいたい俺の予想通りの物だった。めんどくさそうな条件とかなくて良かった。

 もちろん、殺す気なんてこれっぽっちもないですよ。御覧のように怪我すらさせない予定ですし。ほーれツンツクツン。


「承知致しました。感謝致します」


 無事、勝利条件の確認を終え、よしじゃあ気合入れて小突くか! とガキに意識を向け直したら、ガキが頭を抱えて蹲ってしまっている事に気が付いた。


「け、決闘中なのに……外部と会話って…………なんなんだよこいつ……なんなんだよぉ」


 なんか、侯爵様に質問している間に戦意喪失しちゃったっぽい…………?


 あー、えーっと…………。うん、これも強者ムーブの一環って事で!

 そ、それじゃあ、そろそろ仕上げに入りますか!

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