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第62話 結界の強度試験を開始した。③

 セーヌさんの謝罪を受け入れつつ【炎槌】の着弾位置を凝視するが、そこには焦げ跡一つなかった。いや、正しくはある。腹部に残る丸い凹みだ。それとでっかい青痣。


 吹っ飛びそうだったのを受け止めてもらった結果として、ジャンに抱えられた状態になっていた為、お礼を言ってその場から少し離れ、腹部の凹みに改めて目を向ける。


 凹みのサイズは直径三十センチ程。どう見ても【炎槌】より小さい。【炎槌】は直径一メートルはあったはずだ。


 位置としては結界無しで【炎槌】が直撃した場合の予想着弾位置と一致しているんだけど……。

 本来着弾するべき所にある、本来の魔法のサイズより小さな着弾痕。そこから導き出されるのは……?


「ねえ、セーヌさん。炎とか水とかじゃなくて、魔力そのものをぶつけたりってできないかな?」


 俺の突然の問いに、セーヌさんは首を傾げた。


「魔力そのもの? ええと…………。ああ、魔法訓練の最初期に、魔力を体から離す訓練として魔力を勢い良く放出する、という物がありますわね」


 おお、丁度いいのがあるじゃないか。それを使ってもらえば、俺の仮説の検証が出来る!


「いいねそれ! ちょっとそれ使ってみてくれる?」


「ええ……? いいですけど、あれ、魔法とも呼べないものですわよ? 直撃しても、少し勢い良く押された程度の衝撃しかあたえられませんし、結界の強度確認には向かないと思いますが……」


「うん、それでいいよ! 頼めるかな?」


「はあ……。攻撃魔法を使わなくて済む、というのは、私としてはむしろ有難い申し出ではありますわ。…………あぁ、私の魔法でレンさんが吹っ飛んで……一歩間違えば大惨事に……ごめんなさい……ごめんなさい……うぅぅ」


「い、いや、さっきの事は気にしなくていいからね!? ほら、俺から頼んだ事なんだから、セーヌさんは悪くないよ!?」


 俺が吹っ飛んだ場面を思い出してしまったようで、セーヌさんが頭を抱えて蹲ってしまった。幼女のどてっ腹に炎のハンマーをぶち込む、という経験は、セーヌさんにトラウマを与えてしまったらしい。うーん、申し訳ない事をしてしまったなあ。


 ……


 …………


 俺の懸命な慰めによりなんとか復帰したセーヌさんが、五メートル離れた場所に立っている。

 今回試してもらう物は【火球】や【炎槌】と違い射程距離が短いらしく、このくらいの距離じゃないと俺の元まで届かないらしい。


「では、いきますわよ……はい!」


 セーヌさんの体からほんのりと赤いもやのようなものが立ち上ぼる。それはセーヌさんの掛け声と共に何かを形作る事なく、曖昧な形状のまま勢い良く俺の元へ向かってきた。

 スピードだけはそれなりに速いそれは瞬く間に二人の距離を埋め、俺の目の前に展開した結界に触れ、そのまま通り抜けた。

 結界を抜けたもやは、その勢いを全く衰えさせないまま俺の元に到達し、セーヌさんの言う通り、ちょっと強めに押された程度の感覚を俺に与えた。


「当たりだ……。俺の結界は魔力を透過するんだ」


 おそらくだが、魔法に使用される魔力には、【現象を発生】させる分と【発生させた現象を制御】する分の二種類に分かれているんだろう。

【火球】を例にすれば、【現象を発生】させる分の魔力で火を起こし、【発生させた現象を制御】する分の魔力で球状に固定する、といった具合に。

 そしておそらく、【火球】も【炎槌】も、【発生させた現象を制御】する分の魔力は中心部に存在する。

 そして俺の結界は、魔力によって発生した現象は防ぐことができるが、魔力そのものから変化していない【発生させた現象を制御】する分は止められない。だから中心部にある魔力の塊だけが結界を抜けた。


「レンさーん……?」


 そうなると、何故キースの【水球】が結界に防がれたのか、という話になるのだが、これはおそらく、発生させた現象の『形状の整え方』の違いだろう。例えば、魔法を用いずに球状の火を作り出すには、油を染み込ませたボールを用意し、それに火をつければいい。


 だが水を球状にする場合はそうはいかない。

 桶に入れた水の中にボールを入れた所で、球状の水は作れない。水を球状に整えるには、凍らせるか、その形の容器に入れるかする必要がある。【水球】の場合、おそらく魔力で容器を作ってそこに水を閉じ込める事で球状を保っているのだろう。

 つまり、【水球】と【火球】はそれぞれ、魔力で作られた水風船と火の着いたボールといったところか。

 まあ、ダラダラと講釈を垂れてみたが、実際合っているかどうかは分からない。あくまで、現段階での実験結果から逆算した理論でしかない訳だし。

 とは言ってもこれ以上に辻褄が合う理論も思いつかないので、この理論を元に、対策を考えていく事にしよう。


「もしもーし?」


 魔力も通さない結界を作成する、というのが一番良いんだろうが、やり方が全く思いつかない。そっち方面は諦めて、別方面からアプローチする必要があるか。ふむ…………。


「びっくりするぐらい無視されてますわ……」

「なんかすっげ考え込んでるな……」

「これは長そうですね……どうします?」

「帰ろうか?」

「……いえ、この後まだ何か頼まれそうな気がしますわ」

「ああ、俺もそんな気がするぜ。依頼完了の宣言もされてないしな…………。しょうがない。待ってよう」

「了解です。早めに終わってくれるといいですね……」

「神のみぞ知る、ならぬ、レンのみぞ知るってか?」

「「「「「…………はあ」」」」」


 …………よし。この方向で行ってみよう。

 〈拡張保管庫〉から〈ゴード鉱〉の塊を取り出す。〈ゴード鉱〉には魔力を反射する性質があるみたいだから、これから丁度いいだろう。


 奇襲を受けて一番困るのは……背面だな。デフォルトの位置は背中にしよう。

 どうやって背中に装備するか……背負えばいいか。


 魔法攻撃を受けた時は【金属操作】で動かして……左右どっちから来てもいいように、左右対称な方がいいな……。

 魔力が防げればいいから、厚みは最小限でいいかな?その代わりに面積を広げてカバーできる範囲を広げよう。あー、でも最低限の強度は欲しいなあ……少し丸みを付けるか。


「…………よっし。こんなもんでいいかな? んじゃあセーヌさ……どうしたの?」


 背中に取り付けた〈ゴード鉱〉の塊を【金属操作】で操作して展開し、前面に薄い壁を作る。

 強度の確認の為に、セーヌさんに魔法を撃ち込んでもらおうとして、ジャン達が唖然としてこちらを見ているのに気づいた。


「「「「「……翼?」」」」」


「はい?」


 五人の綺麗にハモった台詞を受けて、改めて作成した壁を視線を向ける。背中から左右を覆うように展開され、前面で重なりあう白く薄い壁。そんな気は全くなかったのだが……うん。言われてみれば確かに翼っぽいな。

 なんというか、強度を補う為に付けた緩やかな曲面が、より翼っぽさを強める結果になっているな。


「おお……。確かにそれっぽい……あっ!?」


 同意の言葉を口にした瞬間に、勝手に【金属操作】が発動した。

 背中から二枚の板が出ているだけだったのが、あっという間に形状が変わっていき、気づいたら一対の立派な翼に変わっていた。


「あー……イメージが引っ張られたかー」


【金属操作】による成形は、頭の中で変更後の形状をイメージする事で行われる。その為、しっかりとしたイメージができていない状態で外部から異なる情報を入力されると、イメージが変更されたり崩れたりする可能性があるとは思ってたんだが……。今回はジャン達の『翼』という言葉で俺の中のイメージが上書きされ、展開中だった壁に影響を与えたようだ。しかも、俺自身納得してしまったので、


「直らねえ……」


 展開時のイメージが固定されてしまった。動かすことや、展開を解除して背中に戻す事は出来るが、再度展開しようとすると勝手に翼の形状になってしまい、変更することができない。

 ぬう……。これ、リーアさんから『天使様』と呼ばれているのもイメージの固定に一役買ってそうだな…………。


「いいじゃないですか。なんかびっくりするくらい似合ってますわよ? 天使みたいで」


「………………そっか」


 いやまあ、今の俺の外見は可愛らしい幼女だし、似合うのかもしれないけどさ。中身は三十路のおっさんだよ? さすがに恥ずかしいんだけど……。


 結局その後もなんとか形状を変えられないか頑張ってみたが一度固定されたイメージを書き換える事が出来ず、泣く泣くこのまま運用することとなった。

 見た目はともかく性能に関しては申し分なく、【火球】も【炎槌】も【水球】もあっさりと防いだ。


 ……それはいいんだけど、【翼】を展開した状態を【天使形態】って言うのはやめてください。

 〈絶壁の天使〉って呼ぶもやめてください。……つーかそれ、二つ名じゃなくてただの悪口じゃねえか! ふざけんな! ……え? 〈絶壁〉は〈絶対防壁〉の略? ……いやわかんねえよ! 略すなよ! 意味が全然違って聞こえるわ! それ以前に食堂の従業員に二つ名なんていらねえよ!?


 ――――といった感じで、紆余曲折ありながらも新しい力を手に入れる事が出来た訳だが。

 ジャン達への依頼が終わった後も色々とあった。


「ふふ……ふふふふふふ……。可愛いレンちゃんの、珠のような肌にこんな痕を付けるなんて……許すまじ」

「いや、俺が依頼した結果だから! セーヌさん悪くないから!」

「……コロス」

「ちょ!? なんで冒険者装備を一式身に着けたの!? なんで戦闘準備万端なの!? どこ行くの!? その短剣で何しようとしてんの!?」

「レンちゃん、私ちょっと討伐に行ってくるね……」

「それ絶対魔物が相手じゃないよね!? ちょ、待って待って待――駄目だ力が強すぎる! き、緊急招集! 全員でおねーちゃんを止めろぉぉ!?」


【炎槌】を受けた際に出来た青痣を見たメリアさんが暴走し、それをメイドも総動員して止めようとしたり。



「ゴニョゴニョ……」

「…………(マスター)、お供します。その輩にはきついお灸が必要です」

「寝返った!? くそ! 総員、鎮圧対象にルナを追加! 屋敷から出すなぁぁぁぁぁ!」


 かと思ったら一部メイドにあっさりと裏切られたり。



「つ、翼なのです! やっぱりレン様は天使様だったのです! あぁ、なんてお美しい…………」

「違うからね!? 天使じゃないからね!? あーくそ! 言ってて説得力が皆無なのが自分でも分かる! あ!? 【金属操作】が勝手に発動して……やたらディテールが細かくなった!? なんか無駄に荘厳さが……ちょ! やめて! 祈らないで!?」


 俺の【翼】を見たリーアさんの勘違いが加速し、涙を流しながら祈りを捧げてくるのを必死に止めたり。


 うん、まあ、なんというか。

 力を得るというのは…………大変だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 翼のディテール問題、地味に神様の意思がはたらいてそう。 ??『それを変えるなんてとんでもない』
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