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第61話 結界の強度試験を開始した。②

 物理攻撃に対する結界の強度はある程度確認が取れた。

 次は魔法攻撃への確認だ。


「じゃあキース、よろしく」


 破られた一枚目の結界を張り直し、爆発反応結界は――――思うところあって再構成しない。


「私の番が来てしまいました……。レーメスやレミイの攻撃に耐えられるのだから問題ないとは思いますが……しょうがありません。……では、いきます!」


 俺に名前を呼ばれたキースは、最初とても嫌そうな顔をしていたが、なんとか頭を切り替えたようだ。キリッとした顔で俺を睨みながら右手をこちらに向ける。

 すると、瞬く間に手のひらの前に直径十センチ程の水の球体が生成され、一瞬の間をおいて撃ち出された。

 高速で飛来した水球は一瞬で俺の元まで到達し、結界に触れ――――そのまま弾けた。


「…………あれ?」


 着弾の衝撃に備えて身を固くしていた俺は、想定と違う結果になった事に首を傾げた。

 そんな俺の様子を見たキースは呆れた様な表情を浮かべた。


「いや、なんで『あれ?』なんですか。レーメスの攻撃に耐える結界を【水球】が貫ける訳ないじゃないですか」


「いや、そうかもしれないけどさ……うーん?」


 正直な所、結界で防げるとは思っていなかった。

 拉致犯の攻撃が結界を素通りしたのは、その攻撃が魔法だからだと思っていたからだ。

 だからこそ、一枚目をすり抜ける前提で爆発反応結界も構成しなかった。水の球体が高温の空気に触れたら、水蒸気爆発を起こしそうで怖かったからだ。

 だけど予想が外れた。結界はキースの魔法を問題なく防いだ。つまり、結界を透過する条件は違う所にある、ということは分かった。分かったが……。


「うん、わからん!とりあえず全部確認してから考えよう!ありがとうキース!ってことで、次はセーヌさん、よろしく!」


 まだ魔法は一種類しか確認していないのだ。テストできるだけやってから考えても遅くはない。


「つ、ついに私の番が…………。すぅぅぅ……はぁぁぁぁ……。ま、まあ、キースの魔法を完璧に防いだのですから、私の魔法も危なげなく防げますわよね。大丈夫、大丈夫ですわよセーヌ。危ない事なんてありませんわ」


 キースに代わり前に出たセーヌさんは、大きく深呼吸してからブツブツと何かを呟いている。

 正直な所ちょっと待ちくたびれているが、こちらからお願いしている立場なので、根気強く待つ事にする。


「大丈夫、大丈夫…………。よし!行きますわよ!準備はよろしくて!?」


「お、おう……。よろしく……」


 何故かちょっと鬼気迫る様子のセーヌさんに軽くビビりながら返事を返す。

 キースの時と同じように、セーヌさんが右手をこちらに向ける。瞬く間に手のひらから真っ赤な炎が吹き出し、球を形作る。直径三十センチほどの火の球が勢い良く飛び出し、そこそこの速さで俺の元へ飛んでくる。


「げふっ!?」

「え!?」


 腹部に重い衝撃を受け、体がくの字に折れる。腹部へのダメージで息が詰まり、立っている事が出来ず、膝を付いて蹲った。

 み、鳩尾に入った…………。超苦しい……!


「ゲホッ!ゴホッ!うぶっ!!んぐ……カハッ!ハッ、ハッ、ハッ……」


 喉までせり上がってきた胃の内容物を気合で飲み下す。苦しさで涙が溢れ、胃酸に焼かれた喉がピリピリと痛む。


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てた様子の声になんとか顔を上げると、目の前にセーヌさんの顔があった。

 心配そうなセーヌさんの後ろにはジャン達もいる。全員駆け付けてきたらしい。


「ゴホッ。あ”ー。……うん、大丈夫大丈夫」


「無防備に【火球】を受けておいてそんな訳!……あれ?無傷、ですわね?」


「あー。うん、炎は当たってないからね」


「え?いや、ものの見事に直撃して、苦しんでたでしょう!」


「そうなんだよねえ……」


 事実、【火球】は俺の元へは届かなかった。だけど当たった。謎かけみたいな話だが、事実そうなのだ。

【火球】が結界に阻まれた直後、腹部に衝撃を受けた。感触からしておそらくピンポン玉サイズ。

 大きさの割に衝撃は大きく、その苦痛に耐えられずに無様に膝を付いた訳だ。うん、滅茶苦茶苦しかった!

 こんな苦しさは、学生の時に遊びでテニスをやっていた時に、スマッシュが腹に直撃した時以来だ。いやー、あれは苦しかった。あの時はまじで死ぬかと思ったなあ。


「火球は確かに防いだ。間近で火が散っていくのを見えたからそこは確実なんだ。そのはずなのに何かが当たった…………【火球】の中になんか仕込んだ?」


「そんな器用な真似できませんわ!」


【火球】の中に石か何かが入っていて、それが当たったのかもと思ったが、そういう訳ではないようだ。

 まあそうか。流石に石だったら結界で防げるだろうし、第一、【火球】の中に何も入っていなかったのは目視で確認できていた。だからこそ油断して大ダメージを受けた訳だし。


「そっかー。うーん…………。ねえ、他の魔法撃ってみてくれる?」


「ええ!?い、嫌ですわ!」


 全力で拒否されてしまった。当たり前だ。今まで誰も通す事が出来なかった攻撃を、自分だけが通す事ができてしまい、結果的に俺を苦しめる事になった訳だし。

 でも俺もここで止める気は毛頭ない。ここで止めたら無駄に苦しんだだけだ。それは切なすぎる。

 なので最終手段を取ることにした。


「…………ダメ?」


「ぐ!?……もう!もう!その顔は卑怯ですわ!分かりました!分かりましたわよ!やればいいんでしょう!」


 必殺、おねだり。成功。

 可愛らしい幼女のおねだりの威力は世界共通。異世界でもそれは変わらないのだ。

 しかも今回、俺は先ほどのダメージのせいで目が潤んでいる。

 涙目幼女のおねだり攻撃はどんな大魔法にも勝る究極の攻撃と言えるだろう。

 案の定セーヌさんも俺のおねだり攻撃に屈し、やけっぱち気味に叫びながら元の位置に戻っていった。


「準備はよろしくて!?」


「……よし、いいよ。よろしく」


 ダメージが抜けきらず、少し震える足に喝を入れて立ち上がる。

 結界を再展開し、不備がない事を確認してから、セーヌさんに返事を返した。


「ではいきますわよ!【炎槌】!」


 セーヌさんが力強い声と共に手を振り上げる。すると、セーヌさんの頭上に直径一メートル、長さ二メートル程の炎で出来た円柱が現れた。


「ちょ!?でっか!?」


 ちょっと殺意溢れすぎじゃない!?なんであの状況から、より強力そうな魔法が飛び出してくるの!?


「火属性魔法は【火球】が最弱ですもの!別の魔法と言われたら上位魔法しかありませんわ!」


「まじで!?」


「まじですわ!無理だと思ったら回避なさいませ!……てぇええい!」


 衝撃の事実を突きつけると同時に、セーヌさんが上げていた手を勢いよく振り下ろす。それに合わせて巨大な炎の円柱がすっ飛んできた。可愛らしい掛け声とのギャップが半端ない。

【火球】とは比べ物にならないプレッシャーにちょっと涙目になりながら、両手を胸の前で交差し防御態勢を取る。

 滅茶苦茶怖いけど、半ば無理やりお願いした立場だ。回避という選択肢はない。怖いけど!滅茶怖いけど!

【火球】よりでかいくせに速い【炎槌】はあっという間に俺の眼前まで迫り、展開した結界に触れ、予想通り巨大な円柱が目の前でかき消える。そして、


「がっ!?」


 これまた予想通り何かが結界をすり抜け、ガードした腕にぶち当たった。

 そして着弾の瞬間に理解する。


 あ、これ無理。


 何事も予想通りとはいかないようで、【炎槌】はさすが上位魔法だけあり衝撃も【火球】の比ではなく、一瞬すら堪える事ができずに足が浮き、不可視の何かに押されるままに後方へ吹き飛ばされた。


「ジャン!」

「任せろ!」


 高速で流れる景色の中そんな声が聞こえ、次の瞬間には背中から何かにぶつかった。


「げふっ!?」

「っとお!」


 背中への衝撃で息が詰まるが、おかげで生身での長距離フライトは免れたようだ。

 …………あれ?ここらへんに障害物なんてあったっけ?見渡す限りまっ平な荒野だった気がするんだけど……。


「いや、すげえ勢いだったな。矢みてえに飛んできたぞ」


「ごほっ……ジャン?」


「おう」


 背中側からそんな声が聞こえ、胸へのダメージに顔をしかめながら振り向くと、そこにいたのはジャンだった。


「……受け止めてくれたの?」


「ああ。……つーか、俺が受け止めなかったら割とすごい事になってたと思うぞ……ほれ」


「ん?……うわぁ」


 ジャンに促され足元を見ると、一メートル程の長さの轍が二本地面に刻まれており、ジャンの足元まで続いていた。

 ……え?これ、俺を受け止めたジャンがこんだけ吹っ飛んだって事?やばくね?


「これ、ジャンに受け止めてもらわなきゃやばかったね……」


「だろうな。それなりの距離を地面と平行に飛んだあと、地面の上を延々と転がる事になっただろうな。感謝しろよ?」


「おおう……ありがとうございました」


「おう」


 こんな草もほとんど生えてないデコボコした地面で転がったら、結構な大怪我をしていたかもしれないな。俺の結界は体を覆う形で展開されてるから、もしかしたら問題ないのかもしれないけど……。うーん、この検証はしたくないなあ……。もし駄目だったら、地面でやすり掛けされちゃう訳だし……。


 この後、慌てて駆け付けたセーヌさんに泣きながら謝罪されたので、笑って受け入れた。

 頼んだのはこっちだしね。セーヌさんは悪くないよ。

 ただ……使う魔法はもうちょっと考えて欲しかった、かな?

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