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第60話 結界の強度試験を開始した。①

 冒険者組合(ギルド)に依頼を出し、魔道具屋の情報を手に入れて三日後の朝。


 イースと屋敷の間の荒野に六人の男女が立っていた。俺と――――


「詐欺じゃねえか…………」


「依頼の書き方に悪意を感じますわ……」


「あの依頼の書き方だと、誰だって魔道具の負荷試験だと思いますよ……」


「私だってそう思ったよ!で、知った仲だし、依頼料も相場より高いからって受けてみれば……」


「レンさんの周囲に張られた結界の強度確認だった、と」


 ジャン達だ。

 依頼を出した翌日に〈鉄の幼子亭〉にやってきたので、スケジュールの摺り合わせを行い、俺の休暇に合わせてもらった。それが今日。

 最初はメリアさんも同行しようとしていたが、集合を〈鉄の幼子亭〉にして、ジャン達に送り迎えしてもらう事にしてなんとか抑えた。

 うん、ルナが泣きそうな顔してたからね。頑張ったよ。

 魔道具屋には次の休みに行こう。


 で、試験場所の荒野に到着してから依頼の詳細を伝えたら、五人から滅茶苦茶文句を言われた。というか現在進行形で言われている。

 うん、まあ言いたい事は分かる。依頼を出した時にはわざと誤解を招くような書き方をしたし、スケジューリングをした時もわざと依頼内容には触れなかった。ここはしっかりと後顧の憂いを断っておこう。


「安心して。俺から攻撃を仕掛ける事はないし、この試験で俺が怪我しても責任問題にはしないし、依頼料もちゃんと払うから」


「「「「「そういう意味じゃない!」」」」」


 見事なハモりで怒られた。チッ!一瞬たりとも騙されてくれなかったか。


「誰が好き好んで子供をぶん殴る依頼なんざ受けるかってんだ!」


「いくら結界が張ってあるといっても、強度に不安があるものなんでしょう?依頼を出すくらいですし」


「責任問題にしないと言われましても、『私達が寄ってたかって子供に暴力を振るった』という事実は消えませんし……」


「いくら『いいよ』って言われたって嫌な物は嫌なんだよ!」


 ですよねー。だから誤解を招く書き方をしたんだ。依頼を受けてさえくれればこっちの物だと思って。冒険者にとって、『依頼の失敗』というのは痛い。違約金が依頼料と同額ってのもあるが、何より信用が下がる。成功率五割のパーティと九割のパーティがあって、どちらかを選ぶという事になったら、誰だって後者に頼みたくなるだろう。


 だからこそ違約金が痛くなるように相場より依頼料を高く設定し、誤解を招く書き方で依頼を出した。依頼を受けてしまえば完遂せざるを得ないように。


「この依頼は失敗でいい。お前ら、帰るぞ」


「「「「了解」」」」


 だが、ジャン達にとって、依頼の失敗によるデメリットより、結界越しとはいえ俺に攻撃を加える嫌悪が勝ったらしい。ジャンの一言に全員が賛同し、俺に背を向ける。誰一人依頼の失敗にこれっぽっちも後悔を覚えていないようで、その足取りに迷いがない。

 完全に想定外。俺は焦った。


「え!?ちょ、ちょっと待ってよ!」


 ジャン達はイースでトップクラスのパーティーだ。そんな人達が失敗した依頼となると、難易度が高すぎると判断され、依頼を受ける人が減る。

 腕に覚えのあるパーティが難易度の高い依頼を求めてこの依頼に目を付け、内容を確認してみると、『子供を殴る』というものだと判明し、そこでさらに篩にかけられる。その時点で依頼を受ける者は皆無だろう。

 というか自分で出しておいてなんだが、そんな依頼を嬉々として受ける相手はこちらから遠慮させていただきたい。その人は絶対危ない人だ。


「訳があるんだよ!俺の話を聞いて!」


 そして話した。俺が個人で結界を張れる事。

 毎日のメリアさんとの訓練でも使用しているので、大体の強度は知っている事。

 にも関わらず攻撃が素通りし、その結果拉致された事。

 攻撃が素通りしてしまった原因を調べる為に、なるべく沢山の種類の攻撃を受けたい事。

 だが攻撃を受ける関係上、信用が置ける相手じゃないと嫌な事…………。


 俺の必死の説明を黙って聞いていたジャンは、顎に手を当てながら口を開いた。


「なるほど。〈鉄の幼子亭〉で働いてる子供が拐われたって聞いた時は、何かの間違いかと思ったんだが、そんな理由があったのか…………。なあ、この依頼、受けようと思うんだが、お前らはどうだ?」


「そういう理由ならしゃーねーな。受けてやるよ。一人で張る結界っつーのにも興味があるし」

「というか、ここで私達が受けない方が却って危ない気がする。この子、何やらかすかわからないし。一人で結界張っちゃうくらいだし。しかも子供」

「そうですね。弱者を甚振るのが趣味とかいう最低な輩もいますし。一人で結界を張る事ができるレンさんが弱者かどうかは甚だ疑問ですが」

「まー俺達ならこいつのぶっ飛び具合を知ってるから、色々やりようもあらーな。結界を張れるってのを聞いたのに、俺達思ったより驚かなかったし」

「そうですわね。むしろ、突拍子もない事をされて、私達が怪我をしないように注意するべきですわね。一人で結界を張るくらいですから、私達の常識は通用しませんわ。その常識も崩れてきている気がしますが」


「あ、ありが……とう?」


 依頼を受けてくれる事になって有難いはずなのに、素直に喜べないんだが。

 つーかそこまで結界を張れるのがおかしいのか…………って、そういえば、メリアさんも『結界なんて、個人で張れるような物じゃない』って言ってたっけ。


「っつーことで、まずはどうすりゃいい?そちらの指示に従いますぜ、依頼者さん?」


 ジャンがニヤケ顔で俺に指示を仰いでくる。なんだよその口調。気持ち悪いんだよ。つーか、ついさっきまですげー不機嫌そうだっただろうが。意味わかんねえよ。


「…………ゴホンッ。えーっと、最初は……レミイさんにお願いしようかな?さすがにないとは思うけど、結界がおねーちゃん専用になってないか確認ってことで」


「まじかー……。私が最初かー……」

「最初じゃなくて良かった……」

「二番目以降なら、多少は心構えができますからね」

「だな。レミイ、死ぬんじゃねーぞー」

「怪我したり、装備を壊したりしたら駄目ですわよ!治療費や修理代も安くはないんですからね!」


 一番槍に指名されたレミイさんががっくりとし、他のメンバーが声を掛けていく。なぜか攻撃を受ける俺ではなく、攻撃する側のレミイさんの身を案じている。おかしくね?普通逆だよね?


「解せぬ…………。あ、レミイさん。念のため、最初は刃を返してね」


 まだ結界に信用が置けないからね。用心しておくことに越した事はないだろう。

 レミイさんが使っているナイフは片刃なので、刃を返せば切れる事はない。直撃すれば骨折くらいはするかもしれないが、腕や足とお別れするよりはましだ。


「あーい、準備はいい?」


「おねがーい」


「ほいほいー。じゃあいくよー……っと!」


 レミイさんの言葉が終わるのとほぼ同時に側面、右腕の辺りで硬い物同士がぶつかり合う音が響く。

 速っ!?十メートルは離れてたはずなのに!っていうか動きが見えない!

 そしてすぐさま背後で激突音。


「うん。不意討ちでも問題なく防いだし、背後も大丈夫みたいだね」


 攻撃は背中に受けたはずなのに、声は前から聞こえる。と思ったら目の前にレミイさんがいた。

 開始からここまで、レミイさんの姿を捉える事はできなかった。


「…………いや、速すぎじゃない?全く目で追えなかったんだけど」


「まあ、実際にそこそこ速いってのもあるし、色々やってるからね。これでもレベル六の冒険者だよ?レンちゃんみたいなお子様に見破られたら商売上がったりだよ」


「まあ、そうだけどさ……」


 それくらいは分かっている。毎日訓練しているとはいえ短時間だし、冒険者として依頼を受けることもほとんどない。そんな俺が、冒険者で生計を立てているレミイさんの動きを捉えられないのは、ある意味必然だろう。

 それでも、全く手も足も出ないってのは悔しいんだよ。男の子だもん。中身は。


「まあ精進しなさい……ってもう冒険者は廃業なんだっけ?」


「廃業した訳じゃないけど、ほとんど活動してないねー。まあ、レミイさんありがとう。それじゃ次は――――」


 それからレーメス、ジャンと強度試験を続けた。俺の結界はレーメスの二刀流による超高速の連続攻撃もジャンの大剣による強烈な一撃も耐えた。正確にはレーメスの時は罅だらけでギリギリ耐えた、という感じで、ジャンに至っては破ってきた。だが


「あっぢぃいいい!?」


「おお、破られた。さすがだね。おねーちゃんも無理だったのに」


 まあ、レーメスが結界に罅を入れたから、ジャンならいけるとは思ってたけど。


「お、おま、何が『破られた』だ!破ったと思ったらすげえ勢いで熱風が吹いて剣が戻されたぞ!?」


「みたいだね。いやー、実はあんまり自信なかったんだ。よかったよかった」


 実は結界二枚張ってあった。ジャンが破ったのはあくまで第一層。そして、二枚の結界の間には隙間を開け、そこの空気は【熱量操作】で温度を上げてあった。

 熱された空気は膨張する。しかし結界に阻まれ膨張することができず、結果圧力が高まることになる。

 そんな状態で一枚目の結界を破ったらどうなるか――――無論破れた箇所から一気に吹き出す。そして第一層を破ってきた攻撃を押し返す。

 これが【能力複合式多重結界】の第二層、爆発反応結界だ。まあ本来の爆発反応装甲とは原理も防御方式も違うけど。

 ちなみに、【能力複合式多重結界】なんて中二病チックな名前を口に出すことはしない。

 俺は外見は六歳、中身は三十歳。どっちにしろ中二病を患う年齢ではないのだ!

 心の中で呟いたり名前を付けたりするのは除く。男の心はいつでも思春期なのだ。


 …………まあ、うん。実際出来ちゃってはいるんだけど、色々突っ込み所が多いよなー。

 物理的には存在しないはずの結界が、どうやって圧力を高めることができるほどの密閉性を確保してるの?とか、まずそんな物に覆われてたら呼吸できないよね?とか。

 まあ、出来ちゃってるから大丈夫なんだろう。魔法の力って、スゲー!って事だよ。うん。


「そんなの用意してるんなら最初に言え!あぶねえだろうが!」


 危うく熱風の直撃を受けるところだったジャンが怒鳴る。熱風の余波を受けたのか、顔が赤い。

 爆発反応結界の存在は覚えてたけど、あえて言わなかった。俺の事を小馬鹿にした罰だよ。


 まあとりあえず、物理的な攻撃は問題なく防げる事は分かった。だったら次だ。

 どっちかというと次が本命。さてさて、どんな結果になるのかな?

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