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第6話 困ってたら冒険者が来た。

気づいたら500PV超えてました!ありがとうございます!

正直100PVもいけばうれしいなーと思ってたのでびっくりしました!

他の作者の皆さまのような高速投稿はできませんが、コツコツがんばっていきますのでよろしくおねがいします!

 メリアさんの体から高熱を吸い上げて三日が経った。

 あれから彼女の体が高熱を帯びることはなく、普通の人間と同じ体温を維持している。

 といっても完全に体質が改善した訳ではない。

 日を追うごとに彼女の体内に熱が蓄積されていくのを俺は感じていた。

 なので、こまめに排熱しているのだが……


「んふー。レンちゃんレンちゃんレンちゃーん! うふふー」


 今俺はメリアさんに背後から抱きつかれている。

 というかベッドに座ったメリアさんの膝の上に座らされている。

 最初の頃のような殺人的な力の入れ方ではないが、少しの隙間も許さない! とばかりに密着している。

 気分は完全にぬいぐるみだ。

 力を入れて抱きしめられているので、頭が谷間に挟まっている。

 羞恥心とかないんだろうか。……ないんだろうな、俺相手だと。女だし、子供だし。現在進行形でぬいぐるみだし。いくら外見が幼女でも、中身が男の身としては嬉しいけどちょっと悲しい、複雑な気分。


「はあ……。終わったよ、おねーちゃん。もう離れてもいいよ」


 メリアさんが俺に抱きいていたのには一応理由がある。

 俺の【熱量操作】は対象に接触しないと使用できない。だが、接触さえできればわざわざ手で触れる必要はない。

 だから抱っこでも排熱できるよ。と冗談で言ったのが二日前。

 それ以来ずっとこんな感じだ。

 ほんとにずっと抱っこされてる。ほんの冗談だったのに、どうしてこうなった。


「やだー。ふふふー。レンちゃーん。ちっちゃいなあ。やわっこいなあ」


 メリアさんの言い方にちょっとだけイラっとした。

 上半身だけでメリアさんの方を向き、両手で思いっきり顔を押した。


「こ、の……! はなれ……ろッ!」


「むぎゅ! ……むぎゅぐぐぐ……やだあ!」


 いくら引きはがそうとしても対抗して首に力を入れてきてそれを拒む。頬を思いっきり圧迫されているメリアさんは大分面白おかしい顔になっている。

 しばらく格闘していたが、俺が先に折れた。疲れた。

 ぐったりとしながらメリアさんの頬から手を離し、前に向き直った。


「はあ……。もう好きにして……」


「うん、するー。えへへー。レンちゃーん」


 今度は密着状態を維持したまま俺の頭頂部に頬ずりを始めた。


「あぁ~。レンちゃん髪の毛サラサラだなあ!」


 まあ、十年もの間、人と触れあうことができない生活を送ってきたんだ。

 その原因から解放されれば、反動でこうもなるか。

 ……なるか?

 不本意ながらぬいぐるみ状態を受け入れ、メリアさんに背中を預けていると、メリアさんは俺の頭への頬ずりを止め、さっきまでと違う、真面目な声音で話しかけてきた。


「……レンちゃん」


「ん? なに?」


「ありがとうね」


 掛けられた言葉は短かったが、深い感謝を感じる、お礼の一言だった。

 なんの事かなんて聞かない。感謝される可能性があることなんて一つしかない。

 一つしかできていない。だからこそ俺は、


「気にすんな」


 となるべく軽く聞こえるように返した。

 今まで沢山助けてもらった事へ対して、ちょっとだけ恩返しできただけだ。まだ全然足りない。

 少しは俺の想いが通じたのか、メリアさんはまたほにゃっとした顔に戻った。


「というか、まだ完璧に治ったわけじゃないからね? 俺としては旅でもして完治させる方法を探したいんだけど……」


 俺としては、一刻も早くメリアさんの体質を完全に治してあげたい。

 この場にいても現状維持しかできない。

 世界を周れば、似た症状から回復した事例等も見つかるかもしれない。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど。ここから最寄りの村までどれくらいあるのかもわからないしねえ。行商人とかが通るんなら、頼み込んで着いて行かせてもらう、とかもできるんだけどねえ……」


「行商人どころか人っ子一人来ないよね、ここ」


 俺の言葉にメリアさんはため息をついた。


「そうなんだよねえ……だからこそ、ここで暮らしてたんだけど」


 そりゃそうか。人から離れるために移動した場所が、旅人がガンガン通る場所な訳ないよな。


「二人だと野営も結構大変だし、困ったねえ……」


「夜、交代で見張りしながら休むんだっけ? 俺、それなりに夜強いから大丈夫だと思うよ?」


 こんな見た目でも中身はおっさんだ。徹夜の経験くらいある。


「レンちゃんに見張りさせるなんて以ての外だよ! それなら私がレンちゃんの分も見張りする!」


「それただの徹夜だし、一人旅と変わらないじゃん……」


 今度は俺がため息をついた。

 最寄りの村まで何日かかるのか全く不明なのだ。一日二日程度ならいいが、普通に一週間とかかかるかもしれない。

 そんな長期間徹夜で旅するなんて無理だ。体を壊す程度じゃすまない。


「そうだねえ。さすがに私一人じゃ厳しいし、レンちゃんには見張りなんて絶対させないから、もう一人か二人は欲しいなあ……」


「俺に見張りさせないのは決定事項なのね……」


 と言うと、『何言ってるのこの子?』みたいな顔で


「え? 当たり前じゃない」


 と言われてしまった。

 人数にカウントされてない。悲しい。


「つっても、このままじゃ、いつまで経ってもここから動けないよ? 早くその体質治そうよ」


「うーん……まあそれはどうでもいいんだけど、そろそろレンちゃんにも外の世界を知ってほしいっていうのはあるんだよねえ……」


「いやどうでもよくねえよ」


 今度は俺が『何いってるのこの人?』って顔をした。


 こんな優しい人が、洞窟で寂しく生活しなきゃいけないなんて間違ってる。

 彼女が普通に生活できるようにする為に、俺は努力を惜しまない。

 そんな事を考えていると、メリアさんが今まで以上に蕩けた顔をしていることに気がついた。


「えへへー。ありがと、レンちゃん♪ こんな優しい子と暮らせて、お姉ちゃんは幸せ者だよー!」


 俺の言葉がよっぽど嬉しかったようで、俺を抱きしめる力がさらに強くなった。ちょっと苦しい。


 文句を言おうと口を開いた瞬間、手で口を塞がれた。もう片手では自分の口に人差し指を当てている。

 俺は、いきなりの事に戸惑いながらも口を噤んだ。一体どうしたんだろう。

 メリアさんは、そんな俺の様子を見てニッコリ笑い、俺を膝から降ろし、洞窟の出口の方に向き直った。


「ここには私とこの子しかいません。出てきたら如何ですか?」


 いきなりのそんな台詞に驚いていると、出口側にある暗がりから、短髪の女性がぬうっと現れてさらに驚いた。


「……こんなにあっさりばれるなんて思わなかったよ。随分鋭いね」


 その女性は布製の服の上下に艶消しの革の胸当てを付けていた。ゲームに出てくる盗賊のような姿だ。

 そこそこ整った顔をしているが、目つきが鋭い。睨まれているようでちょっと怖い。


「こんな所で暮らしていると、いつ何があるかわかりませんからね。気配には敏感になるんですよ」


 いきなり現れた女性に対するメリアさんの振る舞いに俺は愕然としていた。

 キリっとした横顔に見惚れてしまう。

 何このかっこいい女の人。いつもの残念なメリアさんはどこにいったの?


「ふうん……。そんな気を張らなきゃいけないような場所に、なんで暮らしてる訳?」


「話してもいいですが、とりあえず外に出ましょうか。あなたとしてもその方がやりやすいでしょう? 他のメンバーは入り口に待機してるんですか?」


「……なんで他のメンバーがいると?」


 女性の声が硬くなった。警戒を強めたようだ。というかこの人だけじゃないのか。


「あなたの荷物が少なすぎますからね。野営する為の資材も、食糧すらほとんど持っていない。そんな装備じゃここまでたどり着くのはまず不可能です。かといって荷物を入り口に放置するのも考えられない。身軽になる為に荷物をメンバーに預け、偵察に入った。中の様子を確認してから外に待機しているメンバーと合流する予定だった、と考えてもおかしくはないでしょう?」


 メリアさんが女性の質問にスラスラと答えていく。やばい、超かっこいい。

 確かに言われてみれば、この女性は随分軽装だ。背嚢等を背負っている様子はなく、荷物といえば腰にある小さなポーチくらいなものだ。洞窟の周辺以外がどのようになっているのかはわからないが、さすがにこの程度の装備で踏破できる規模ではないだろう。


「随分頭が切れるね……。外で話を聞かせてくれるのはこちらとしてもありがたいけど、ちょっと待ってくれる? 一度戻って報告してくるから」


「はい、どうぞ。それでは私達はここで待ってますね」


 その言葉を聞いて女性は出口に向かって歩いて行った。足音が全く聞こえない。地面は硬い石なのにも関わらずだ。

 結構な手錬なんだろうか。この世界の人全員があのレベルだったら嫌だな。

 女性がこちらから見えなくなる程度に離れたのを確認し、メリアさんは息を吐いた。


「ふぅ~。話が通じる相手でよかったー。いやー、久しぶりに緊張したねー!」


「俺は緊張より驚きの方がでかいわ……」


「驚き? 驚くようなことなんてあったっけ? ……あ、人が来た事かな?」


 違うよ。あなたの変貌ぶりにだよ。

 とは口には出さずに曖昧に頷いておく。


「人が来るなんて今まで一回もなかったよね?」


「そうだねえ。ここって近くに人里もないし、薬草とかも大した物は生えてないし、そのくせ魔物は結構強いからね。好き好んで入り込む人はいないねえ」


 見たことはないが、魔物についての知識はある。メリアさんの授業で習った。

 通常の生態系から逸脱した生命体で、種族毎に様々な魔法を使用してくる。

 身体能力も一般の獣と比較にならない程高く、倒すのは容易ではない。

 その代わり、その肉体は様々な用途で使用できるため価値が高く、討伐して死体を売れば大きな利益になる。らしい。


「だったらなんで……」


「まあ、どうせこれから会うんだし、その時に聞けばいいんじゃない? 同行させてもらえれば、人里にも行けるよ」


「おお! それはいい考えだ! さすがおねーちゃん!」


 俺の称賛にメリアさんは大きな胸を張った。


「でしょ! えっへん!」


 そんな事を話していると、先ほどの女性が戻ってきた。


「お待たせ。メンバーへの情報共有は済ませたわ。着いてきて」


 俺たちに一言だけ掛けるとすぐ元来た道を戻っていった。相変わらず足音は聞こえない。


「もうちょっと時間かかると思ったけど、思ったより物分かりのいい人達みたいだねえ」


「らしいね。じゃあ、行こう」


 二人で手をつないで出口へ向かう。念のため、【身体強化】をすぐ使えるようにしておこうかな。


 洞窟から出た先には先ほどの女性と合わせて五人の人がいた。

 大剣を背負った大柄の男性。

 黒っぽいローブを羽織った細身の男性。

 短剣を腰の両側に帯びた男性。

 赤茶色のローブを羽織った女性。

 それに最初に会った、盗賊風の女性の計五人。


「あんたがこの洞窟に住んでるっていう女性か。驚いた。とても美しい」


 最初に話しかけてきたのは大剣を背負った男性だった。この人がリーダーなのかな?

 ふふん。そうだろうそうだろう。おねーちゃんは黙っていれば綺麗なんだ。黙っていれば。

 自分の身内が褒められると気分がいいな。


「ありがとうございます。ですが、そんな事を言う為にここまで来た訳ではないでしょう? どのようなご用件でしょうか」


 ……そうだった。今のメリアさんは残念美人じゃないんだった。見た目通りのクールビューティだった。

 俺以外の人と話す時は変身するらしい。

 メリアさんの態度に男性は肩をすくめた。


「これは手厳しい。……俺達は冒険者だ。冒険者組合(ギルド)から依頼を受けてここに来た」


 冒険者! あの、様々な依頼を受け世界を旅し、お宝や見知らぬ地を探す、冒険者!

 ゲームみたいだ! すげー!

 俺が人知れず興奮している間にも話は進んでいく。


「冒険者の方でしたか。それはそれは…。それで、その依頼、というのは?」


「三日ほど前、この地で突然巨大な竜巻が発生した。竜巻自体は一分ほどで消えたが、過去、この地でそのような現象が発生した事例はない。組合はこの地で何かしらの異常事態が発生した可能性が高いと判断し、依頼を発行した。依頼内容はこの地で発生した異常現象の調査、可能であればその解決だ」


 男性の言葉を聞いて、メリアさんは顎に手を当て、考えるようなポーズを取りながら、一瞬チラっと俺の方を見て、すぐ視線を男性に戻した。

『三日前に突如発生した竜巻』って、あれだよな。俺がメリアさんの排熱した時の奴。

 どれくらい離れた場所で観測されたのかはわからんが、そんなにでかかったのか。


「なるほど。そして調査中にこの洞窟を発見。内部の詳細な探索を行う前にそちらの女性を先行させ、私達を発見した。という事ですか」


「そういう事だ。まさか中にあなたのような美しい方がいるとは夢にも思ってなかったがね。どうだろう。何かご存じないかな?」


 メリアさんがまた俺をチラっと見た。表情には出さないが、真実を話すか、誤魔化すかで迷っているんだろう。

 まあ普通に考えて、ここは誤魔化しておくべきだろうな。

 こんな小さな子供が起こしました! とか言われても普通信じない。少なくとも俺が男性側の立場だったら信じない。

 本当の事を言って信じてもらえないなら、それっぽい嘘をでっち上げて保護してもらう方が賢い、かな。

 そう考えて、俺はメリアさんを見ながら小さく頷いた。

 それを見て、彼女も頷いた。

 俺の考えが通じ……


「それなら知っています。この子がやりました」


 てませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] リーダキモい
[一言] 「もうちょっと時間かかると思ったけど、思ったより物分かりのいい人達みたいだねえ」 物分かりが、いいor悪いを判断する材料あったの?
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