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第59話 リーアちゃ……リーアの【能力】対策を進めつつ、あちこちに帰還を報告した。

 あっけなく解決!と思われたリーアちゃんの【能力】(スキル)問題は、メリアさんの一言でサックリ後退した。


「あ、でもメイド達はダメじゃない?彼女たち、そういう所は普通だから」


「あー、そっかー。……しかもこのままじゃ接客も難しいのかー」


 そうだった。〈鉄の幼子亭〉で働いてもらうとすると、客とはもちろん、メイド達とだって接触の機会はいくらでもある。ぶっちゃけ、俺達二人が問題なくてもあまり意味はなかった。


「…………それなら、メイドとしてお屋敷の仕事をやらせていただきたいのです。お掃除とかだったら人と接触する必要はないのです。お二人と触れ合えるだけで、わたしは――――」


「そんじゃ、ちょっと対策用品でも作ってみようか」


 なんか寂しげな表情で良く分からない事を言おうとしていたので、その言葉を遮る。

 この子は何も悪い事してないのに、そんな日陰にコソコソ隠れるような生活を送らなくちゃならないなんておかしいだろう。そんなの俺が許さない。

 【能力】(スキル)を制御できるようになる為の協力は惜しまないが、制御できるまで閉じ込めておくつもりも毛頭ない。自身で制御できないなら、制御できてなくても問題ない環境を作ればいいだけだ。


「え!?そんなの作れるの!?」


「作れると思うよ?これを使えば」


 〈拡張保管庫〉から〈ゴード鉱〉の塊を取り出すと、メリアさんは首を傾げた。


「〈ゴード鉱〉?確か、鍛冶屋の炉から出した直後に触れちゃうくらい熱への耐性が高いんだっけ?確かに、それで手を覆っちゃえばリーアちゃんの【能力】(スキル)も関係ないかもしれないけど……。手袋でも作るの?金属で?指動かせないし、不便じゃない?すっごい蒸れるだろうし」


「さすがにこのままは使わないよ。こうやって……と」


 手にした〈ゴード鉱〉に【金属操作】を使用して形を変えていく。細く、長く。糸のように。


 その形状を維持したまま操作を継続し、糸を織って布状に――――しようとして躓いた。


「布の織り方わからないや……。布みたいに織ってから手袋にしようと思ったんだけど……」


 布なんて織った事ないからなあ。俺にとって、布製品は買う物であって、自分で作る物なんかじゃなかったし。


「はー……。よくもまあ、金属を糸状にして織る、なんて考えつくねえ……。機織りは、私は昔やってたから出来なくはないけど、さすがに機織り機がないと無理だなあ」


「機織り機があればできるんだ……」


 メリアさんが経験者だった!洞窟暮らしになる前にやっていたんだろうけど、機織りって誰でもお手軽にやるような物じゃないよね?俺の記憶違い?


「んー……それじゃ、エリーさんにでも頼んでみようか。機織りか手袋作りのどっちか。どっちも駄目だったら、機織り機でも注文すればいいし」


「……いや、あのお店って武具屋だよね?鍛冶師に機織り頼むの?しかも機織り機って……。まあ、聞くだけならいいのかな。あ、もちろん私も付いていくからね?」


 ……武具屋だったっけ、あそこ?雑貨屋じゃなかったっけ?最近、鉄や〈ゴード鉱〉の取引しかしてないから、武具屋ってイメージがないんだけど。


「まあ、拉致られたばっかだしね。しばらく単独行動はしないよ……っていうか、あの時が珍しく一人だっただけで、普段はいっつも一緒じゃん」


「…………そういえばそうだねえ。たまたま一人でいたら攫われちゃうって……レンちゃん、運悪いね?」


「全くだよ……」


 今度から攫おうとするならメリアさんと一緒の時にしていただきたいもんだ……いや、一人だったからこそ攫われたのか?でもメリアさんも美人だし、攫う価値は十分に……攫おうとしたら投げ飛ばされそうだけど。いやでも見た目だとそんな事分からないからワンチャン?


「そんな……十年以上悩んでた事が、なんかすごくあっさり解決しそうなのです…………」


 人攫いの思考についてぐるぐると考えていた所に、リーアちゃんから聞き捨てならない台詞が聞こえてきた気がする。


「ちょっと待って。十年以上悩んでた?…………十年?」


「?はい。この体質になったのは六つの頃だったはずなので……えっと、十二年前なのです」


 十二年前に六歳?ってことは、今は十八歳?…………十八歳!?


「そんな……同年代だと思ってたのに…………」


 なんか地味にショックだ。今まで、周りに俺の(外見上の)同年代がいなかったから、ちょっと喜んでたのに!

 いやほら、大人ばっかりの中で一人だけ幼女だと浮くんだよ。視線が集中するんだよ。俺、目立つの好きじゃないのに。

 でも隣に同年代の子がいれば、視線がその分分散されるじゃん?だから結構嬉しかったんだけど……。いや待てよ?実年齢はともかく、見た目が幼女なのはリーアちゃ……リーアさんだって同じだ。って事は、トランジスタグラマーな我儘ボディであるリーアさんの方が集める視線は多いはずだ!うん、ならOK!


「ちょ!?さすがにそれはあんまりなのです!?」


「あ……ごめん――――」

「神の御使いである天使様と同年代な訳ないのです!子供に見られる事はよくあったですけど、この世界と同い年の天使様と同年代はありえないのです!さすがにそこまで年上にみられるのは不本意なのです!」


「だから天使じゃないしそんな年増じゃないよ!俺は人間で、六歳だよ!」


 人間扱いされないだけでは飽き足らず、まさかの超高齢者扱い!これには声を荒げざるを得ない!


「え……?人間…………?六歳………………?」


 はいそこ!確かにホムンクルスは正式に人間じゃないかもしれないし、精神年齢は三十歳だけど、ここは見逃してください!

 っていうかメリアさん、普段は俺を子供扱いするのに、こういう時だけ精神年齢準拠なのはどうかと思いますよ!


「……分かったのです。て、レン様がそういうなら、レン様は天使様じゃないのです」


 柔らかく微笑みながらそう言ってくれたリーアさん。

 …………分かってくれたんだよね?なんか『しょうがないから与太話に付き合ってあげるか』みたいな空気がビンビンな気がするんだけど。


「ゴホン!……とりあえず、リーアちゃ、リーアさん――」

「呼び捨てでいいのです!わたしは、てん、レン様に『さん』とか付けられるような人間じゃないのです!」


「はい…………。えっと、リーアさ……リーアは手袋が出来るまでは静養しててね。その代わり、出来たらガッツリ働いてもらうからそのつもりで」


「はい!死んでも働くのです!」


 いや、死んでも働かれたら、それゾンビだから。食堂でゾンビが働いてるとか食品衛生法に全力で喧嘩売ってるし、第一俺、人をゾンビ化とかできないから。

 あと、『リーアさん』って言いそうになっただけで、すっごい悲しそうな顔するのやめてくれない?その顔、俺の心に突き刺さるから。


 ……


 …………


 翌日。


 開店準備の為に〈鉄の幼子亭〉に向かう。なんだかんだ俺がいない状態で四日、俺とメリアさんが二人ともいない状態で三日間店を回すことができたんだから、無理に俺が出勤する必要はないと思うのだが、昨日、リーアの部屋を出た直後にルナに泣きつかれたのだからしょうがない。

ルナ曰く『回ってるのと、ギリギリ回してるのでは全く別物なんです!』だそうだ。うん。頑張ってくれたみたいだから俺も頑張ろう。あそこまで必死なルナは初めて見た気がする。


 で。

 四日ぶりの〈鉄の幼子亭〉での業務をヘトヘトになりつつこなした。

 俺は普段厨房に籠りきりで、よっぽどのことがない限り接客することはないのだが、今日はいきなりメリアさんに厨房を追い出された。

 意味もわからないまま接客に移り、フロアに出た途端、客から大歓声が上がった。何故かみんな俺が拉致された事を知っており、無事帰って来た事をお祝いしてくれるらしい。


 いや、お祝いって言ってもここ俺の店だし、つーか注文受けるのも運ぶのも俺じゃねえか!祝われてるはずの人間が、椅子に座ることも出来ずにひたすら酒と料理運ぶってどういうことだよ!他にも給仕はいるだろうが!なんで俺を指名するんだっていうかこの店に給仕の指名制度なんてないんだよ!なのになんでメイド達は普通に『報告します。レン様ご指名でトンカツ十、メンチカツ五、エール二十です』って俺に言うんだよ!一人でそんなに大量に運べる訳ないだろ!

 その分売り上げは半端なかったけど、なんか釈然としない……。


 ぶっちゃけもうヘロヘロで、さっさと屋敷に帰って風呂入って寝たいが、今日はまだやっておきたいことがある。

 別に用事自体は急ぎではないし、本来は次の休みの日にでもやればいいか、などと考えていたのだが、〈鉄の幼子亭〉での客の様子を見て、早めにやっておいた方がいいと思い直した。


 まずはサクッと終わるであろう物を潰す。

 フラフラとした足取りで冒険者組合(ギルド)に向かい、指名依頼を出す。依頼内容は『魔法結界の耐久性試験の手伝い』で、指名はジャン達のパーティ。


 今回、結界が正常に機能していれば拉致されることもなかったはずだ。

 メリアさんとの戦闘訓練の度に結界の強度は確認していて、ある程度の攻撃なら余裕で防ぐ事ができるはずなのに、拉致犯の攻撃を防ぐことはできなかった。性能テストが不十分だった証拠だ。あらゆる攻撃を防ぐ必要がある結界のテストに、一種類の攻撃パターンしか確認していないとか、普通ありえないだろう。考えうる全てのパターンでのテストを行うべきだった。

 といっても、俺の身の回りで戦闘ができるのはメリアさんしかいないし、メリアさんはナイフでの近接攻撃しかできない。少なくとも訓練ではナイフしか使わない。

 なので、様々な攻撃手段を持っているであろう冒険者に依頼を出す事にした。ジャン達を指名したのは単純に、初回は見知った相手にしたかったからだ。いきなり初対面の人に頼むには怖い依頼内容だからね。雑に言うと『色んな武器や魔法で俺をボコって♪』って依頼だし。


 予想通り、冒険者組合(ギルド)での用事は割とサックリ終わった。まあ、組合(ギルド)に入った途端、大量の冒険者に囲まれたんだけど。

『昨日の夜帰って来たばかりでまだ疲労が残っている』と言ったら離れてくれた。正確には、その直後に言った『疲れすぎて明日お店開けないかも』の言葉で離れていった。俺の安否より明日店が開くかのほうが重要のようだ。まあ実際は俺がいなくても店自体は回るんだけどね。

 依頼を出すときに、クリスさんに内容を説明しないといけなかったが、『結界の強度と特性を調べる為に、色んなパターンで攻撃してもらう』と伝えたら、怪訝そうな顔をしながらも受理してくれた。うん。『俺の周囲に張られた』って部分を端折ったけど、嘘はついてないから良いだろう。


 組合(ギルド)での用事を済ませ、重い足を引き摺りながら向かったのはエリーさんのお店。リーアの手袋作成の依頼を出すためだ。

 まあ予想通りというか、店に入ったらエリーさんに抱き締められた。

 予想と違ったのは、俺は入り口に立っていて、エリーさんはカウンターにいたはずなのに、目が合った次の瞬間には抱きしめられていた事だろうか。瞬間移動かと思った。抱きしめる力も強く、背骨と肋骨がミシミシ言ってたし、エリーさんって実は結構強いのかもしれない。

 軽く死にそうになりつつ、無事を伝えてから手袋の作成を依頼してみたが、それに対する答えは

『いや、依頼をしてくれるのは嬉しいけど、ここって武具屋だよ?ローブとかもあるにはあるけど、別の職人から仕入れた物だし、防具の作成を機織りから依頼されても……。機織り機?それこそ武具屋に依頼する内容じゃないでしょう!?』

 だった。すごい呆れた顔されたよ。


 まあそんな事を言いつつも、紹介状を書いてくれた。魔道具屋らしい。機織りの魔道具があって、糸をセットして起動すれば自動で布を織ってくれる便利グッズらしく、それで作った布は品質が一定で扱いやすいそうだ。糸だけ渡して布の作成を依頼できるし、お高いけど機織り機自体を購入する事もできるらしい。


 しれっと紹介料を取られたが、そんな事はどうでもいい。


 魔道具屋!心躍る響き!時間を工面して早めに行こう。


 ワクワクしてるのが態度に出ていたようで、エリーさんとメリアさんの両方から生暖かい目で見られたのがちょっと恥ずかしかった。

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