第56話 救助隊が来てくれたので帰れることになった。
先週は投稿できず申し訳ありませんでした。
活動報告に書かせていただきましたが、執筆にしようしていたPCが突然死してしまいまして……。
HDDからのデータ復元や、PCがぶっ壊れたことによるテンションダウンで更新できる状態ではありませんでした。
痛い出費ですが新PCを購入し、モチベーションも戻りましたので、更新を再開させていただきます。
何事もなければ毎週日曜に更新させていただきますので、読んでやってください。
評価や感想をいただけると私が喜びますので、ぜひお願いします(乞食)。
「ほらレンちゃん。今のうちに縛っちゃって」
「あ、はい」
なんとも釈然としない気持ちのまま、メリアさんの人間砲弾攻撃によって無力化した男達を【金属操作】で作った枷で拘束し、手近な布で猿轡を噛ませた。
口を塞いでおかないと万一自決なんてされたら困るからね。こいつらには色々話してもらわなきゃいけないのだ。組織の構成とか、そういうのを。
まあ、口が自由なままだと、起きた時五月蠅そうってのも多分にあるんだけど。
「ん、こんなもんでいいかな。お次は……ルナたちへの合図か」
「レンちゃん。外は安全みたいだよ。というか、建物がここしかないみたいだねえ」
いつの間にか開かれていた入口の扉から、頭だけを出した状態でメリアさんがそう報告してきた。俺が男たちを拘束している間に、外に出て周囲の安全確認をしてくれたらしい。
ルナ達に送ろうとしている合図は外に出て行う必要があるのだが、ここに連れてこられた時、俺は寝たフリをしていたため、周囲の状況がさっぱりだったのだ。
男達の仲間が別の建物にいる可能性もあったので助かった。
それにしても、あれだけ手慣れた感じの拉致を行う奴らの拠点が、頑丈そうとはいえ建物一つ?
こいつら以外にメンバーもいなかったみたいだし、意味わからんな。
……まあ、これについてもイースでの尋問で色々わかるんだろう。多分。
尋問はイースの衛兵さん達がやるんだろうけど、そこに俺が加わる訳にもいかないし、当事者としてなんか情報もらえたらいいなあ。
「レンちゃん?合図出さないの?」
メリアさんから声を掛けられて我に返った。気になる事があると考え込んでしまうのは悪い癖だな。気を付けないと。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してて。確認ありがとう。今行くよ」
「りょうかーい。外で待ってるねー」
現段階では情報も少ないし、これ以上考えても結論は出ないだろう。
とりあえずこいつらの事を考えるのは後回しにして、俺も外に出よう。メリアさんを待たせてるし。
二人で連れ立って建物から出て、そのまま少し歩を進める。建物から五十メートルほど離れた所で足を止めた。そこは新しい建物でも建てる予定だったのか、そこそこの範囲で木が伐採されており、ちょっとした広場のようになっていた。そこかしこに切り株が残っているが、まあこれくらいなら問題ないだろう。
これから俺達が出そうとしている合図は、一定範囲の空間に大きな影響を与えてしまうので、ある程度開けた場所が必要なのだ。
メリアさんには事前に合図の内容を教えているので、いちいち理由を説明する必要はない。
「ここらへんでいいかな?」
「……そうだね。ま、こんくらい離れてれば大丈夫でしょ」
合図を出す場所が決まったので、【念話】でルナに連絡しておく。
(今から空に向かって合図を送るよ。見えた場所の近くにある建物で待ってるから、早めに迎えに来てくれるとありがたい)
(人員配置完了。全方位網羅してます。いつでもどうぞ!)
ルナの気合いの入った返事を聞いてから、メリアさんと手を繋ぐ。【熱量操作】でメリアさんが保持している熱量を吸収。そのまま放出していく。
大量に放出された熱量により、急激な上昇気流が発生。それは瞬く間に渦を巻き、俺達を中心点として高く舞い上がっていく。
久々の竜巻だ。
数日前にメリアさんの処置をしたため最大規模ではないが、まあ大丈夫だろう。
「これ、懐かしいねえ!最後に使ったのっていつだっけ!?」
メリアさんの何気ない問いかけを聞いて、思考を巡らせる。
ちなみにすぐ隣にいるのに、怒鳴るように声を出している。
周囲を駆け巡る暴風に声が掻き消されてしまうので、大声じゃないと聞こえないのだ。
えーっといつだったかな……ああ、思い出した。
「確か冒険者登録の時だね!ほら、組合長に見せたじゃん!?」
「……あー、思い出した!そっかー、もう随分昔に感じるねえ!」
「まだ数ヶ月した経ってないなんて、信じられないよね!」
まあ、竜巻を起こすなんて普通出来ないし、出来てもやる必要ないからね。
…………つーか怒鳴るの疲れたよ。喉痛くなってきたよ。早く見つけてくれー。
と思ったら、メイドの一人から【念話】が返ってきた。
(報告します。合図、捕捉しました。方角、屋敷より北北東)
(了解。じゃあ俺達はここで待ってるから、後はよろしくね)
(畏まりました)
無事合図を見つけてくれたようだ。方角も分かったみたいだし、これで遠からず救助隊がやって来るだろう。
「よっし、救助が来るのにどんなに早くても数日はかかるだろうし、それまでのんびり待とうか……ゲッホゲッホ!」
あー、大声出しすぎた。声がガラガラだよ……。
「はーい……ゲホゲホ!うぅ、怒鳴りすぎた。喉痛いよ……」
メリアさんも少し喉を痛めたようで、ちょっと掠れた声で返事した。
ハスキーボイスがセクシーだった。俺のガラガラ声とは大違いだ。なんかちょっと悔しい。
……
…………
喉を労わりながら建物に戻った俺達は、救助を待つ間に、ここでできる事をやっておくことにした。
まず、奪われていたい服を探した。割とあっさりテーブル横に置いてあった木箱に無造作に突っ込んであったのを見つけたので、それを回収する。
あー、やっぱこれだよこれ。コートないとなんか落ち着かないんだよ。適当に突っ込んであったせいで衣服共々しわくちゃだけど。
いつもの服装に着替えて一息ついてから、ちょこちょこと作業を開始する。
証拠になりそうな資料を探したり、男たちが目を覚ましてどったんばったんむーむーうるさかったので地下牢に放り込んだり。
お腹が減ったのでメイドに料理を持ってきてもらって食べたり。
男達に食べ物はおろか水さえ与えてない事を思い出して慌てて水とパンを持っていったり。
一旦屋敷に帰って〈鉄の幼子亭〉で出す料理を作り置きしたり。
どうせ屋敷に戻ってきたんだからとお風呂に入ったり。
その間にメイドが服を洗濯してくれたらしく、風呂から上がったら皺ひとつ無く小奇麗になった衣服が置いてあってちょっとびっくりしたり。
男達に食べ物を与えたのはいいけど、猿轡を噛ませたままだったのを思い出して取ってやったら口汚く罵られたり。
かと思ったら俺の後ろに視線をずらした途端、急に怯えだして失禁しやがったり。
俺も振り向いてみたらメリアさんがとても素敵な笑顔を浮かべていて、あまりの素敵さに俺の下着もちょっと濡れちゃって、もう一度お風呂に入りに行かなくちゃいけなくなったり。
正直な所、何回も『帰っちゃおうかな?』なんて思ったりしたが、いくら自分達だけで制圧したとはいえ、救助要請しちゃった手前勝手にいなくなるわけにもいかないだろう。救助隊に男達を引き渡す必要もあるし。
いざ救助隊がやってきて、その場に俺達がいなかったら、拐われた人達が別の場所に移されてしまった!となっちゃいそうだし。そうなったら周辺一帯に捜索の手が広げられ、居もしない被害者を探そうと躍起になるだろう。
挙句、必死こいて捜索した被害者(俺)がイースにいるのが見つかったりしちゃった日には、『どうやって帰って来た!?』となって、追及されることになるだろう。
すこぶるめんどくさい。
そんなことになるくらいなら、ここで救助隊を待って、合流して一緒に帰った方がいいだろう。
……え?お風呂入りに帰ってるじゃないかって?ほら、身だしなみを整えるのは大事だから。ここにいる間の成果もちゃんとあるから。
証拠になりそうな資料として、拉致の計画書があった。俺を拐ったのは『銀髪で美形の女の子。小さければ小さいほどいい』という注文があったかららしい。この世界で銀髪は割と珍しいようで、少なくてもイースには俺以外居なかったらしい。で、俺の外見上の年齢は六歳程度なので、注文にドンピシャだったようだ。この世界にも業の深い輩がいるようだ。しかも金持ち。『予算上限:大金貨百枚』とか書いてあったからね。〈鉄の幼子亭〉の三倍近いよ!
他にも色々あったが、読んでて気分が悪くなってきたので、途中で読むのをやめて一まとめにして〈拡張保管庫〉に突っ込んだ。中身の精査は救助隊の人に任せよう。
そんなこんなで、がんばってやる事を見つけては細々を時間を潰していたが、ここまで来るとさすがにやる事がなくなってしまい、暇を持て余しつつダラダラしていた三日目の朝、けたたましい音を立てて入り口の扉が開かれた。というか蹴り破られた。
「人拐いども!覚悟しろ!抵抗しなけれ……ば…………」
扉の前にいたのは、見たことのある鎧を着た渋い顔の男だった。イケオジだ。イケオジさんだ。さすがの顔面偏差値。この世界は老若男女みんな美形だ。
大音声でスタートした口上はテーブルでだらけている俺達を見た瞬間から小さくなっていき、最後まで言い切られることなく消えた。
扉を蹴り破った時に浮かべていた憤怒の形相は、今では困惑の表情に取って代わってしまっている。
「もしかして、救助に来てくださった方ですか!?」
ガタッと音を立てて勢いよく椅子から立ち上がり、イケオジさんの傍に駆け寄る。
立ち上がった際に椅子が倒れてしまったようだが、そんな事今はどうでもいい。
さっきの口上が聞き間違いじゃなければ、この人は――――
「…………え?あ、ああ。幼子が拐われたという通報を受け、救助に――――」
よぅし!合ってた!救助隊の人だ!
「やっぱり!お待ちしていました!いやー、独力で犯人を制圧したのはいいんですが、あいつらの処遇に困ってまして!あ、犯人は両手両足に枷を嵌めた状態で地下牢に入れています!そこの階段を下りた先です!で、これが証拠になりそうな資料です!二人がかりで家捜ししたんでそれで全部だと思います!あ、そうそう!俺が拉致られた被害者のレンです!で、これ、今回の顛末をまとめたものです、どうぞ!まだここでやらなきゃいけないことはありますか!?なければ帰りたいんですが!?」
イケオジさんの言葉に被せるように矢継ぎ早に報告を挙げていく。暇潰しに作っておいた顛末書も一緒に渡す。
まだ足りない!?足りないならいくらでも手伝うよ!だから早く帰らせて!おうち帰りたい!
これ以上ここにいたら暇死しちゃう!
「お、おう?…………問題、なさそう、だな。うん。あー、えー…………。じゃ、じゃあ、馬車を用意してあるから、それに乗りなさい?…………え?独力で?」
よっしゃ!問題ないようだ!これで帰れる!馬車で帰るのは時間かかりそうだけど、帰れるならなんでもいいや!
「ありがとうございます!行こうおねーちゃん!これで帰れるよ!……あ!何か不足があれば呼んでください!大体〈鉄の幼子亭〉って店にいますので!」
「う、うん」
「あ、ああ。わかった」
なんか二人して反応が微妙な気がするけど、そんなことどうでもいいや!
これで心置きなく帰れる!やったね!おうちが俺を呼んでるんだ!
「………………我々、来る必要あったのか?」
イケオジさんの小さな呟きが建物を通り抜ける風に乗って聞こえてきたが、全力で無視して救助隊の人達が用意してくれた馬車に乗り込んだ。
さあ帰ろう!愛しの我が家へ!