第5話 【能力】について説明したら驚かれて泣かれた。
「それじゃあ次は、俺の【能力】を教えるね」
「え? いや別に、教えてくれなくても構わないけど……?」
ちょっと涙目になっているのを隠しつつそう言ったが、メリアさんからはつれない返答をいただいた。
「まあ、只の自己満足だから気にしないで。メリアおねーちゃんの【能力】とか、体質とか教えてもらったしさ、その分俺の【能力】も知ってもらおうと思ってさ。俺としてはもう、おねーちゃんとは家族だと思ってるし」
彼女の【能力】とかは聞いていて、俺の【能力】は教えないとか、なんとなく不公平に感じただけだ。
俺の言葉を聞いて、なんかメリアさんがフルフルし始めた。ビクンビクンじゃないのは珍しいな。『家族……家族……』って小さく聞こえてくる。
なんとなく嫌な予感を感じるので、身構えながら観察していると、やがて感極まったのか飛びかかってきた。
勢いがすごい。怖い。てか速っ!?
「レンちゃああああああむぎゅぅ!?」
ガバァ! っと俺に抱きつきに来たメリアさんの顔を、間一髪の所で両手で押さえて制止した。メリアさんの口から潰れた蛙みたいな声が漏れた。
「はいはい。いきなり飛びかかるのはやめようねー」
「むぎゅうううう! レンちゃんが冷たいよう! これが大人になるってことなの!?」
顔を抑えてるのに、それでも俺に抱きつこうと、両手を俺に向けてバタバタしながらぐいぐい押してくる。おかげで彼女の顔はますます潰れてひどい状態だ。
がんばりすぎだろう。
「いや中身は元から大人なんで。説明終わったらぎゅっとしていいから。ね? 『おねーちゃん』?」
「はうっ!? ……ふぅ。うん、分かった。約束だからね?」
悪戯っぽい感じで『おねーちゃん』呼びしたら、ビクンビクンッしてから力を緩めてくれた。彼女を抑えてた腕も疲れたけど、精神的にも疲れた。改めて、大丈夫かこの人。街とか行ったら不審者として警察的な人たちに連行されるんじゃないか?
「はいはい。説明終わった後、軽く実験したいこともあるから。それ終わったらねー」
俺の言葉にメリアさんはコクコクと頷いた。すごいソワソワしてる。これは早めに終わらせないと襲われそうだ。
「まず一つ目。……よっと」
割と近場にあった鍋に手を伸ばした。俺が以前修復した鍋とは別の物で、かなり使い込まれている。今のところ普通に使う分には問題ないが、あちこちガタがき始めていて、このまま使い続けるとそろそろ怪しいかもしれない。
「鍋? 鍋がどうしたの?」
「ん。こういう事。【金属操作】」
メリアさんの疑問に軽く答えながら【能力】を発動した。
鉄製らしき鍋は俺の手の中で形を変え、手の平サイズの金属球になった。
「これが俺の一つ目の【能力】、【金属操作】だね。見てもらった通り、俺が触った金属を自由に操る事ができる。まあ、操るって言っても限界はあるんだけど」
言いながら、金属球を色々な形に変更していく。板、包丁、デフォルメされた猫の人形、と変えていき、最後は元の鍋の形に戻した。
元の、とは言っても一から作り直したも同然なので、新品のようにピカピカになっている。
「おぉー! すごーい! 便利だねえ! これは色んなことにつか……一つ目?」
メリアさんは、ピカピカになった鍋を嬉しそうに見ていたが、俺の台詞に違和感を感じたようだ。
「うん。一つ目。俺、なんか【能力】三つ持ってるんだよね」
「三つ!? 二つ持ちでもそうそういない【能力】を、三つ!? レンちゃん、どんだけすごいの!? 神話級だよ!?」
俺の『能力』三つ持ち宣言に、メリアさんは大変驚きだ。まあ、さっき聞いた話だと、一人一つが普通みたいだしなあ……。驚かれるのも無理はないか。
まあ実際、神様から直接もらってる訳だし、神話そのものだよな。
「まあ、それはいいじゃん。それじゃ、次の【能力】ね」
「どうでもいいように流された……」
俺のあっさりとした態度にメリアさんはショックを受けている。だがしかし俺は止まらない。
「どんどんいくよー。これはおねーちゃんも知ってるよね。【魔法適性(無)】だね」
「あー、魔法の事を教える時に聞いたねえ」
「うん、あの後、ちょっと調べてみて、使える魔法が二つあるのがわかったんだ。一つ目は……【身体強化】」
【身体強化】を発動すると全身から魔力が一気に吹き上がった。
「まあ、これはおねーちゃんも知ってるよね……どしたの? ……おーい」
【身体強化】を解除しながらメリアさんを見ると、目を見開いたままフリーズしていた。
目の前で手を振りながら声をかけると、数秒で再起動した。
「それ、【身体強化】……?」
「うん、そうだけど……どうかした?」
「どうかした? じゃないよ!? 何それ!? ありえないレベルだよ!? 【身体強化】自体は見たことあるけど、普通それの半分以下だよ!」
俺の【身体強化】は普通ではありえないレベルだったらしい。
「……ちなみにそれ、どれくらい保つの?」
恐る恐るといった感じで質問された。
「んー、五分ってところかなあ」
「五分!? 普通の人は長くて一分くらいだよ!?」
メリアさんが若干、いや、かなり引いてる。ていうか長くて一分って。短すぎじゃない?
「そんなに短かったら使い道なくない?」
「そうだよ……。だから普通は切り札的な使い方されるものなの……。効果時間が切れてから再使用するにも数分は待たなきゃいけないし、いつ使うかっていうのも戦闘中の駆け引きの一つだよ……」
メリアさんが頭痛を堪えるように額に手を当てた。声が疲れてる。実際驚きすぎて疲れたんだろう。
これで『再使用も待ち時間なしで使えるよ』って言ったら卒倒しそうだな。言うけど。
「再使用も別に待ち時間とかないよ?」
「ないの!? 使い勝手よすぎじゃない!? 卑怯だよ!」
ついに卑怯者扱いまでされてしまった。
女神様、あなたからもらった【能力】、卑怯らしいですよ?
「ま、まあ、次に行こうか」
「……まだあるの?」
ジト目を向けられてしまった。【能力】の説明してるだけなのにそんな顔を向けられるとは思ってもみなかったよ……。
「う、うん。まあこれも無属性魔法の一つだから、新しい【能力】ってわけじゃないけどね…【魔力固定】」
【魔力固定】を発動させて、掌の上に拳大くらいの石を生成した。
初めて使用した時のように白いぐにゃぐにゃした物は出てこない。
訓練して、このくらいの大きさなら一瞬で生成できるようになったのだ。俺、頑張った。
「今度は、何も無い所から石取り出したよこの子……」
「いやこれ、取りだしたんじゃなくて俺の魔力で作ったんだ。生き物以外ほとんど作れるよ? 強度は低いんだけどね」
「…………そろそろ勘弁してくれない?」
メリアさんぐったり。
うん、その、ごめんね? ここまで驚くとは思ってなかったんだよ……。
「まあこれは強度の問題で武器とかは作れないから、代わりにこういうのを作ってるんだ」
ごそごそと洞窟の隅からそれを取り出した。
子供サイズの薄手のロングコート。色は白。魔力の色が白っぽいからか、この色が一番作りやすかった。もちろん自分用だ。
「へぇ~。服かぁ。なるほどねえ……。服なら強度とかあんまり関係ないもんねー」
メリアさんの言葉に俺は頷いた。
「まあねえ。でも一枚だとさすがに心もとなくてさ。複数枚の布を生成して重ね合わせてるんだ。結構いい出来でしょ?」
言いながら、俺はコートを羽織った。サイズはぴったりだ。ま、自分で作ったんだから当たり前だけど。
「どう? 似合う?」
その場でクルッっとターン。コートの裾がふわりと広がる。
一回転して元の方向を向き直すと、またメリアさんがフリーズした。
「ん? 今度はどうしたの? おーい」
「……ハッ!?」
先ほどと同じように、顔の前で手を振ると再起動した。
今回はさっきより少し早い。慣れたのかな?
「どしたの? 大丈夫?」
この反応は予想外だ。てっきり『かーわーいーいー!』って突っ込んでくると思ったのに。
「余りの可愛さに気を失ってたよ……」
「ア、ハイ。ソウデスカ」
俺の予想の斜め上だった。気絶って。
ほんと大丈夫かこの残念お姉さん。
「かわいすぎる……これは天使……いや女神だね……」
「あ、それは勘弁してください」
あれと同列にされるのは嫌だ。即答で、しかも敬語になってしまうくらいには嫌だ。
「えー」
「えーじゃないの。次、最後の【能力】を説明するよ。説明するんだけど……ここじゃあれだな。外に出よう、おねーちゃん」
言いながら、俺は出口に向かって歩き出した。最後に教える【能力】、【熱量操作】は密閉空間で使用すると危ない。これからやろうとしている事は特に。
「はーい……」
ふてくされた返事をしつつ着いてくるメリアさんを横目に見ながら苦笑し、すぐに気を引き締めた。
これから行うのは【熱量操作】の説明だが、同時に実験でもある。
メリアさんから体質についての話を聞いた時に思いついた事。
俺の【熱量操作】で、メリアさんが抱える問題をどうにかできるのではないか? という物だ。
彼女の体内の熱を俺が吸い上げる。吸い上げた熱は地面なり空中に放出する。そうすれば、メリアさんが自身の体質に悩まされる事はなくなるだろう。
できるはずだ。使用した感じ、この【能力】の限界はまだ先だ。
彼女に触れている場所が高温になり、触れていられなくなる、という可能性はあった。
そうなった時の対処方法は考えてはいるが、うまくいくかは不明。というか今まで同じような試みは全て失敗している。
だが、やる。彼女からもらった沢山のものを、思いを、少しでも返す。
それも結局は只の自己満足だ。
洞窟の外に出た。
太陽は西に向かって沈み始めていて、周囲は日によって赤く染まっている。
洞窟の入り口から少し離れた所でメリアさんと向き合った。
「……よし、そんじゃ、説明するから、手を出して」
「手を? うん、いいけど、ちょっと待ってね? ……うん、いいよ」
俺の言葉に不思議そうな顔をするが、少しの間の後、右手を伸ばしてくれた。
今の間に、体の熱を抑えたんだろう。
その様子を黙って見守り、伸ばしてくれた手を左手で掴む。
「俺の最後の【能力】、名前は【熱量操作】」
「……え?」
「俺に触れている対象の熱を自在に操作する事ができるんだ。だから……」
言いながら、俺が触れている対象、メリアさんの体内の熱に意識を集中する。
よし、見えた。これならいける。
【能力】を発動する。
メリアさんの体から熱を吸い上げる。すごい熱量だ。彼女はこんなものを抱えて生きていたのか。
メリアさんが目を見開いた。彼女にも分かったのだろう。自分の体に巣くっているモノが急激に減っていくことに。
代わりに俺の体にそれが一気に流れ込む。こんなもの俺の体に留めておけない。留めたら即効で体が内側から燃え上がる。右手を横に伸ばし、そこから奪い取った熱を放出する。
彼女に触れている手が熱い。体からの熱の吸い上げは止めることなく、密着部分の熱移動のペースを上げる。
高熱を帯びた空気が一気に膨張し、上昇気流を生む事で風が吹き荒れ、俺とメリアさんを中心に渦を巻いた。
コートが風を孕みバタバタと音を立てるが、大して影響はない。そのまま熱を吸い上げ、吐きだし続ける。
三十秒ほど経っただろうか。俺は熱の吸い上げを止め、続いて外部への熱の放出を止める。
それに伴い、周囲で荒れ狂っていた風がその力を弱めていき、やがて止まった。
俺はメリアさんから手を離し、足元に咲いていた花を一輪摘んだ。俺の足元にあり、奇跡的に無事だった薄桃色の小さな花。
それをそっとメリアさんに手渡した。
「おねーちゃん、これ」
「え? で、でも……」
メリアさんは不安そうに目を伏せた。
今までならば手に持った瞬間に、燃え上がるまではいかずとも、体の熱で萎れてしまっていただろうから。
「大丈夫」
だからこそ俺は力強く『大丈夫』と言う。
もう、人と触れあう事もできない生活とは、おさらばだ。
受け取る事を怖がっている彼女の手をそっと掴み、花の茎の部分を握らせる。
花は萎れることも、ましてや燃え上がることもなく、その可憐な姿を俺たちに見せ続けてくれた。
メリアさんの目が大きく見開かれた。
「ぁ…………ああ……」
見開かれた目から涙が溢れる。それは零れ落ちる前に蒸発することもなく、彼女の頬を濡らし、地面を濡らしていく。
「怖がらなくて大丈夫なんだよ……。もう、触れただけで相手に怪我をさせる事なんてない……」
言いながら彼女を抱きしめる。身長差のせいで、おなかに抱きつく形だが。
言葉だけでなく、行動でしっかりと伝える。
大切な物をしっかりと抱きしめても、大丈夫だと。
「ああぁ……。ぅ、うわあああああぁぁあぁぁぁあぁ!!」
子供のように泣きじゃくりながら俺を力一杯を抱きしめる彼女の涙は、熱かった。