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第48話 お店再開準備の準備をして、新メニューを出した。

ついに緊急事態宣言が出されました。皆様、お気を付けください。

私?私は宣言の影響でむしろ忙しくなった口なので、連日出勤ですよ。HAHAHA。

「それでレンちゃん?これからどうする予定?」


 メリアさん、ルナと三人で昼食を食べた後、俺達はこれからのスケジュールの確認を始めた。


「んー。まず最初に店の張り紙を剥がすでしょ?それから各仕入れ先に仕入れ再開の話をしに行って……。ああ、ついでだし、その時に仕入れられるだけ仕入れちゃおうか。明後日は結構客が来るだろうし、少しでも多く仕入れておきたいしね。再開にあわせて新しい料理も出す予定だし」


 一応食事中にも軽く話はしていて、〈鉄の幼子亭〉の営業再開は、明後日からにした。明日からの再開だと、準備が間に合わない可能性が高かったからだ。営業再開の初日は来客数が伸びるだろうし、それに合わせて、食材もそれなりの量を仕入れないといけないだろうし、料理も大量に作り置きしておく必要がある。とても半日程度で終わるとは思えなかった。


「新しい料理?なになに?どんなの?」


 メリアさんが『新しい料理』という言葉に食いついてきた。


「…………」


 ルナもだった。

 声には出さないけど、すっごい期待の眼差しでこっちを見ている。

 やめて!そんなキラキラした目で俺を見ないで!所詮は独身男性サラリーマンの素人料理なの!


「あー……うん。クロケットと同じく系統だよ。味は全く違うけど。夜にでも嫌って言うほど作らせてあげるから、心配しないで」


「いやー、できれば食べる方でお願いしたいなー、なんて」


「失敗作なら沢山食べられるよ?」


 今回の新メニューは、前の世界でも作った経験はあまりないからな。そこそこ失敗すると思う。食べるのは何回も経験あるけどね。スーパーの惣菜コーナーには大体置いてあるメニューだし。よく買って食べたもんだ。


「だよねー。まあ、食べられるだけ有難いと思う事にしよう」


「ルナは!?ルナは何をすればよろしいですか!?」


 ルナが勢い良く手を挙げて激しく自己主張した。

 ……ほんと変わったなあ。魂移植前のルナだったら、こんなに激しく自己主張する事なんて考えられないし。

 俺としては好ましい変化ではあるけど、前の『クールで仕事の出来るキャリアウーマン』みたいな雰囲気とのギャップが半端ない。

 今?今は……『ご主人様に褒められたい大型犬』かな?


 正直な所、現状、ルナに任せないといけないような仕事はないのだが、ここは、『ご主人様』として、お仕事を与えるのが良いんだろう。

 本当は『ご主人様』って俺じゃなくて、メリアさんなはずなんだけどね。実際、ルナ以外のメイド達はメリアさんをトップとして、俺はその一個下の存在として扱っている。

 だけど、どう見てもルナは俺を『ご主人様』として扱っているんだよなあ。

 魂の移植で、優先順位が変わったとかなのかな?


「レン様?」


 ルナに声を掛けられて我に返った。いけないいけない。今は会話中だった。


「ああ、ごめん。……じゃあルナは、いつも通り、屋敷の保全と、あと厨房の掃除をしといてくれる?今日、明日とがっつり使うから念入りにお願い」


「はい!ルナ、全力でやらせていただきます!」


 とりあえず、ざっくりとしたスケジュールが決まったので、早速行動を開始する。あと丸一日あるとは言え、諸々の作業を考えると、時間に余裕はないからな。


 最初は〈鉄の幼子亭〉に向かい、ドアに貼り付けてあった張り紙を剥がす。

 その作業自体は一瞬で終わったが、ちょくちょく来店してくれる人達に捕まった。

 全員が全員、病気で臥せっている事になっているルナの心配をし、快復した事を告げると、我が事のように喜んでくれる。

 その事に感謝しながら、明後日から営業再開する事を告げると、これまた全員が嬉しそうに『絶対行く』と言ってくれた。


 続いて足を運んだ、八百屋でも、肉屋でも、パン屋でも。

 家族が元気になったので営業再開する事を伝えると、我が事のように喜び、みんな異口同音に『病み上がりの家族に腹一杯食わせてやれ』と言いながら大量のオマケを持たせてきた。

 せっかくの好意を無下にするわけにもいかないので、お礼を言って全て受け取った。


「……明後日から、がんばろう」


「うん。そうだね」


 こんなにいい人達に囲まれて、俺は幸せ者だ。


 ……


 …………


「「「お、美味しい…………」」」


 所変わって屋敷の厨房。


 新メニュー候補を試食した三人――――メリアさん、ルナ、卯月が揃って声を上げた。


「そんな驚かなくても……」


 美味しいって行ってくれるのは作った側としては嬉しいけどね?その『そんな馬鹿な!』っていう顔は余計だよ。


「いや、だって、ねえ?」


「肯定します。あの調理?内容で美味な料理が作成されるとは思いませんでした」


「ルナは、レン様がお肉で遊び始めたと思いました……」


「そりゃ、初めて見たらそう見えるかもしれないけどさ……」


 なにげにルナの言葉が一番酷い。いくら見た目が幼女でも、食材で遊んだりなんかしないわ。つーかルナは俺の中身知ってんだろうが。お前の中にも入ってるだろうが。

 卯月もだよ。『調理?』って語尾を上げるな。歴とした調理だよ。疑問形は必要ないよ。


 ちなみに今回作ったのは、牛と豚の合挽き肉を使ったメンチカツだ。

 とは言うものの、実はこの世界、驚くことに挽き肉を使った料理が存在しない。

 肉はデカイ塊を切り分けてステーキにするか、一口大に切ってスープや炒め物にぶちこむもの、という認識らしい。

 そういう訳で挽き肉は自分で作らなければならず、塊肉を適当なサイズに切り分けてから、ひたすら包丁で叩いてひき肉を作成したのだが……その様子が遊んでいるように見えたらしい。誠に遺憾である。


「まさか、あんなぐちゃぐちゃになったお肉からこんなに美味しい料理が出来るなんて…………」


「二種類のお肉を同時に味わえるなんて贅沢ですね!」


「肯定します。しかも、粉砕したからか、肉とは思えないほど柔らかい。簡単に切り分けることができます」


 三人の食レポを聞きながら、自分用に作ったメンチカツに手を付ける。

 こんがりきつね色とソースの黒のグラデーションを楽しみながらナイフを入れると、ザクッという小気味良い音と共に沈み込んでいく。


 一口大に切り分けたカツにフォークを刺し、口に運んだ。

 ゆっくりと咀嚼して、飲み込む。


「うん。微妙」


「「「微妙!?これで!?」」」


「うん。火の通しすぎで少し固くなってるし、肉汁も逃げちゃってるみたいだね。あと、やっぱりちょっと臭みがあるなあ」


 プロの料理人とか、料理に作るのに慣れている人とかだったら、中に火が通りきる少し前に鍋から上げて、油切りの時の余熱で火を通す、とかするのかもしれないけど、あいにく俺は素人だし、生焼けを提供して食中毒を起こすくらいだったら、多少味が落ちても完全に火を通しきる。

 そして、今回作ったメンチカツは、ひき肉以外は刻んだ玉ねぎとパン粉、あと塩くらいしか入っていない。臭みを消す為の香辛料が全く入っていないのだから、臭みが残っているのも当たり前だ。これでも玉ねぎのおかげで、少しは消えているはずだ。消えてるよね?よく分からん。


「レンちゃんは大衆食堂にどれだけの高級感を求めてるの?」


「固さとか全く気にならないですし。むしろすっごい柔らかいですし。臭みとか言われても正直良くわかりません」


「肯定します。レン様の舌は肥えすぎていると思われます」


「……え?まじで?」


 予想外の絶賛に驚きを隠せない。

 前の世界では、スーパーの惣菜か雑な男料理くらいしか食べた事がない貧乏舌でも、こっちの世界では舌が肥えている事になるようだ。

 まあ確かに、香辛料も使おうと思えば好きなだけ使えたし、調味料も種類が沢山あったし。

 そういう環境に慣れている俺の舌は、なるほど肥えているのかもしれないな。


「正直な所、新しく店に出すには微妙かと思ったんだけど――――」

「出そう!」

「出しましょう!」

「断定します。これは売れます」


 俺の消極的な意見は、速攻三人の超積極的な意見で塗り潰された。よっぽどメンチカツがお気に召したらしい。


「あ、はい…………。うーん、俺はお店に出せる所まで達してないと思うんだけどなあ。…………あ、そうだ。明後日は来客者全員にエール一杯と料理一品を無料提供する気でいたから、そこの枠をメンチカツにしよう」


 これなら多少不満が出ても、『試作料理を無料提供して、意見を聞こうと思ってました』とか言えば逃げられるだろ。


「え……。レンちゃん、本気で言ってる?」


 あ、あれ?我ながら名案だと思ったんだけど、反応が鈍い?


「え?うん。期間未定で閉めちゃってたお詫びみたいなのはしようと思ってたからね。そこでついでにメンチカツを知ってもらおうと思ったんだけど…………」


「そっか……そっかあ…………」


「明後日は地獄ですね……」


「確認します。明後日の担当は……ミナヅキですね」


「よし!なんとか回避成功です」


「んな大げさな…………」


 所詮料理だよ?そりゃ普段より来客は多いだろうけどさ。何、地獄って?


「…………うん。とりあえずそれは置いといて。とりあえず、今日は練習も兼ねて夕食はメンチカツにします。ルナと卯月は挽き肉作りをお願いね」


「あー、ルナ達が呼ばれた理由ってこれだったんですねー。不思議に思ってたんですよー」


「納得します。料理はおろか、厨房に入ったことすら数えるほどしかない我々が呼ばれた時点で、おかしいとは思っておりました」


 まあそうね。ルナと卯月は、厨房に向かう途中に偶然会ったのを、拉致……じゃなくって、ヘルプをお願いしただけだからね。しかも手伝いの内容も言ってなかったからね。


「しょうがないじゃん。挽き肉作るの結構大変なんだよ。俺とおねーちゃんだけで作ってたらいくら時間があっても足りないよ。これだったら料理の経験が無くても出来るでしょ?」


 ぶっちゃけ、包丁で肉を叩いて刻むだけだからね。


「はい!その程度であれば、経験のないルナでもできそうです!正直、主とレン様だけに料理をお任せしてしまっているのは心苦しいと思っていました!ルナ、全力でお手伝いさせていただきます!」


「おー、いい気合だね。じゃあこれよろしく!」


 〈拡張保管庫〉からドスンッと重々しい音を立てつつ、巨大な牛の塊肉を取り出してルナの前に置く。


「……え?」


 目を丸くして、ルナが肉と俺を交互に見るが、無視。


「卯月はこっち」


 続いて卯月の前に豚の塊肉を置いた。サイズはルナの前に置いた物と同じくらいだ。


「……確認します。これ、全てですか?」


 まあ、牛豚それぞれ百キロはあるからね。


「うん。今日はそれを挽き肉にしたら終わりだから、がんばってね!」


「あのー、主とレン様の前にお肉が置いてないのは…………」


「俺とおねーちゃんはそれ以外の料理の仕込み」


「そうですか……」


 ルナの目から光が失われていく。気持ちは分かる。だが、頑張れ。


「確認します。今日は、という言葉が聞こえた気がするんですが」


「うん、言った。明日も買えるだけお肉を買って挽き肉にするよ。ルナ達が」


「…………ですよねー」


 そこから二日間、開店時に提供する為の料理を作り続けた。ルナと卯月もひたすらひき肉を作り続けてもらった。

 途中からルナも卯月も、リズミカルに包丁を肉に叩きつける機械みたくなっていた。最後の方では、悟りを開いたような、やけに澄んだ目をしていたのがちょっと怖かったが。

 正直、やりすぎかな?と思うくらい作り貯めた。〈拡張保管庫〉のおかげで、いくら作り置きしても無駄にならないのが素晴らしい。

 これだけあれば、数日は料理しなくて済むんじゃないか?


 そんなことを考えた時もありました。


「はい!メンチカツ三つとエールですね!――――はい!丁度お預かりします!料理をお持ちしますのでお待ちください!」

「お待たせしました。メンチカツ五個、エール三つ、ワイン二つです」

「レンちゃーーん!メンチカツ十個!クロケット三つ!エール三つ!」

「はーい!」


 いざ開店してみたらこの有り様だ。一品無料でばら蒔いたメンチカツの反響が半端なかった。正直甘く見てた。

 無料の一個では全く足りず、追加で何個も注文するお客さんが続出。まあ一品サービスの狙い通りではあるからそれ自体は想定の範囲内だ。

 だがこれはいくらなんでも売れすぎじゃないか?一回の注文でメンチカツ十個とか、意味がわからない。

 ここに来て俺は、ルナの漏らした『明後日は地獄』の意味を理解した。

 ちなみに、あまりに忙しかったので、本来はシフトに入っていなかったルナを急遽呼び出して給仕をさせている。


「回避できたと思ってたのにー!」


「諦めよう?あの時、あの場にいたのが運の尽きだったんだよ――――はい!お待ちください!」


「うわーん!――――はい!今お伺いしますうー!」


 結局その日は営業終了まで注文のペースは衰えず、一日で三日分の売上を叩き出した。


 そして作り置きの料理もなくなった。ちくせう。

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