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第40話 街から帰ってきたら、ルナがいなくなっていた。

体調不良であまり書く時間が取れませんでしたが、なんとか投稿する事ができました。

 睦月との【念話】を終了して、さて、と考える。


 とりあえず帰る事はできる。あとはそれをどう誤魔化すか、なんだけど……。

 あー、めんどくさい。適当でいいや。


「んじゃ、そろそろ俺達は帰るねー」


「おう。街中ではあるが、気ぃ付けろよー」


 言い訳なんて必要なかった。なんでだ。


 …………あ、そうか。ジャン達に、俺達が街の外に暮らしてる事を教えてないからか。どっか街中の宿屋に部屋を取ってるとでも思われてるんだな。だったら、もうちょっと勘違いしてもらったままでいてもらおうかな。


「街中?いや私達街のモガッ!?」

「はーい。ありがとー。じゃーねー」


 そんな事を考えていた直後にメリアさんが口を滑らしそうだった。危ない危ない。

 メリアさんの口を片手で塞ぎつつ、空いている方の手で肩を掴み、強制連行のような形で部屋から出た。

 部屋から出る時、ジャン達がなんとも生ぬるい笑顔を浮かべていた気がする。

 ……うん、まあ。今までのやり取りを振り返ると、メリアさんがちょっとアホの子みたいに見えるよね。

 関係が逆転した母娘関係にでも見えたのかもしれない。

 見た目には母娘でもおかしくないけどね。精神年齢的にはあんま変わらないんだけど。あ、でも今は俺も大人の体なのか。ええい、ややこしい。


「んー!んー!」


 そんなどうでもいい事を考えていると、メリアさんが俺の肩をタップしてきた。割と必死めに、真っ赤な顔で。


「ん?どうしたのおねーちゃん……あ、もう外か」


 いつの間にやら〈土竜亭〉からも出ていたようだ。もういいかな?と思ってメリアさんの口を塞いでいた手を離した。


「ブハッ!ハァーッ!ハァーッ!…………ちょっとレンちゃん!なんでいきなり口塞ぐの!?びっくりしたじゃない!しかもしっかり鼻まで塞いで!死ぬかと思ったよ!」


 メリアさんからちょっと怒った様子で抗議された。俺、鼻も塞いでたのか。あの必死な顔は呼吸困難による物だったんだな。


「ごめんごめん。でもびっくりしたのはこっちの方だよ。おねーちゃん、街の外に住んでる事言おうとしたでしょ?」


「別に問題ないじゃない!?」


「教えるのは、まあいいけど、今は駄目だよ。もう門閉まってるんだよ?にも関わらず街の外の屋敷に戻るって、なんて言うつもりなのさ」


「そりゃあ、ムツキが言ってた通り転移で…………あ」


 ぶっちゃけ、それこそ『街中の宿屋で暮らしてる』って言えば済む事なんだけど、そこには思い至らなかったようだ。

 メリアさん、チョロい。


「うん、転移じゃないと戻れないよね。でもジャン達に俺達が転移を使える事は言ってない。まあ屋敷のことも言ってないけど」


「なんで教えないの?ジャン達には色々良くしてもらってるし、信用できると思うんだけど」


「俺もジャン達は信用できると思うよ?でも線引きは必要だと思うんだ」


 ジャン達は信用できると思う。でも彼らは俺達の仲間って訳じゃないし、ましてや家族でもない。そんな人達にこちらの手札を全て晒す必要はない。と、俺は思っている。


 まあ、彼らはすぐにでも、引いた線を跨いできそうな気がするけども。

 あの気のいい連中と一緒にいると、楽しいけども。


「あー、なるほど。うん、そうだねえ。…………ふふ、そうだねえ」


 なんかメリアさんがクスクスと笑いながら俺を見てくる。なんなんだよ。


「それじゃ、帰ろうか」


「はーい」


 気を取り直して、人目につかない裏路地に入る。

 周りに見ている人がいない事をしっかりと確認してから、メリアさんと手を繋いで【いつでも傍に】を発動した。

 この【能力】は、ネットワークのトップであるメリアさんは使用できない。下位の者が素早くトップの側に参上するための【能力】だから、らしい。トップはわざわざ出向く必要はなく、必要なら呼びつけろ、とのことだ。まったく、よくわからん仕様だ。

 誰だよこんなめんどくさい仕様にしたのは。あの女神か。


 一応、お互いに接触した状態であれば、巻き込む形で一緒に転移することは可能なので、手を繋いだ状態で俺が発動することで、メリアさんも一緒に転移することができる、というわけだ。


 そんな訳で、俺達は転移で屋敷に帰り、夜も遅いのでさっさとベッドに潜り込んだ。


 …………あっ!?


「あ、明日の仕込みしてねぇ!」

「ふぁ!?」


 いきなり俺が跳ね起きたので、ベッドに入って速攻で夢の世界に旅立とうとしていたメリアさんも、現実世界に引き戻されたようだ。

 ちくしょう。完全に寝るモードになってたのに!でもやらないと明日店で出す料理がない!


「…………さっさと終わらせよう。おねーちゃん、明日の仕込みするよ」


「…………今から?」


「今から」


「明日じゃ駄目?」

「駄目」

「ですよねー」


 そんなこんなで。俺達は眠気と戦いながら明日の仕込みを終わらせた。ちょっと雑になっちゃったけど。

 終わったら速攻で寝ました。


 ……


 …………


 ………………


「報告します。主、レン様。起床の時間です」


「……んぁ?」


 翌朝。


 メイドから声を掛けられて目を覚ます。この屋敷で暮らすようになってから始まった習慣だが、何か違和感を覚えた。でもそれがなんなのか、寝不足で低速回転な頭ではいまいち分からない。

 朝っぱらから喉に骨が引っかかったような気持ちを味わっていると、俺に続いてメリアさんが目を覚ましたようだ。


「んんー!……おはよー。あれ、今日はルナじゃないんだねえ」


 伸びと共に発されたメリアさんの言葉で、違和感の正体に気付く事ができた。いつも俺達を起こしに来るのはルナだった。でも今日は睦月だった。

 ちょっとした気持ち悪さから解放されて、すっきりした気分になると同時に、睦月がメリアさんの疑問に答えた。


「回答します。ルナは現在休止状態です」


 休止状態?まだ寝てるってことかな?

 昨日も俺達が帰ってくる前に床についたみたいだし、疲れが溜まってるんだろうか。それとも体調が悪いのかな?

 メイド達には屋敷の維持だけではなく、〈鉄の幼子亭〉でウェイトレスもしてもらっている。ちょっとオーバーワークだったのかもしれない。

 どっちにしろ、しっかり休んでもらった方が良さそうだな。


「そっか。睦月もしんどかったら無理しないでね。ルナも無理に起こす必要はないからね」


「了承します。私は問題ありません。ルナについては承知致しました」


 そう言って、睦月は部屋から出ていった。


 その後、俺達が屋敷を出る時間になっても、ルナが起きてくることはなかった。


 ……


 …………


「「ただいまー」」


「おかえりなさいませ。主、レン様」


 今日の〈鉄の幼子亭〉の営業を終え、屋敷の玄関扉を開けると、睦月が俺達を出迎えた。


「あれ?今日もルナじゃないの?」


「回答します。ルナは現在休止状態です」


 俺の質問に、睦月は朝と全く同じ言葉で答える。

 その言葉に、俺は朝の時よりも強い違和感を覚えた。


 回答がやたら短い。


 メイド達は揃って独特の口調で話すが、内容自体は割としっかりしている。説明を求めれば、言葉を省略する事なく、理路整然とした回答をしてくれていた、はずだ。

 でも今回の睦月の言葉にはそれがない。質問への回答、という意味だけではちゃんと答えてくれている。でも状況に対する説明がない。いつもは細かく突っ込んで聞かなくても教えてくれるはずなのに。


 今の睦月は、あえて説明を省き、端的な回答をしている。そんな感じがする。


「睦月」


「はい」


「ルナは今どうしてるの?」


「回答します。ルナは現在休止状態です」


 その答えはさっき聞いた。やっぱり質問には最低限しか答えないようだ。じゃあ質問を変えよう。


「いつから?」


「回答します。昨日の昼からです」


「……ぶっ続けで?」


「肯定します。昨日の夜以降、ルナが活動を開始したという記録はありません」


 まじか。これは結構問題なのでは?ちょっと疲労が溜まっていた、とかいうレベルではなく、何かの病気に罹ってしまったのかもしれない。


「昨日の昼!?丸一日以上寝たきりなの!?」


 メリアさんにとっても睦月の回答は予想外だったらしく、驚きの声を上げた。

 これは屋敷の主として、様子を見に行かなくてはなるまい。

 主はメリアさんなんだけど。いつも一緒にいるから同じ事だろう。多分。


「おねーちゃん。ルナの様子を見に行こう。もしかしたらまだ寝てるかもしれないけど、顔を見に行っておきたい」


「奇遇だねえ。私も同じ事言おうと思ってたんだよねえ」


 奇遇でもなんでもないと思う。今の会話の流れで、お見舞いに行く以外の選択肢は存在しないと思うよ?

 ……まあ、いいか。

 メリアさんと意見が一致した俺は、メリアさんに向けていた顔を睦月の方に向けなおした。


「睦月。そういう訳だから、ルナがいる所に連れてって」


「畏まりました」


 いつも通り無表情のまま踵を返す睦月。俺達はそのあとを追う。


「大した事ないといいねえ」


「そうだねえ。……ま、俺達が暗い顔してると、ルナも申し訳なく思っちゃうだろうし、明るくいこうね」


「そだねえ」


 そんな事を話しながら、睦月の後を追う。

 いつの間にか、普段俺達が来る事がない――――少なくとも俺は来た事がない――――屋敷の奥の方まで来ていた。

 屋敷の探検でもしておけば良かったなあ。位置関係は分かるけど、ここがどういう区画なのかさっぱり分からん。

 あれ、俺、自分の住んでる屋敷の事、知らなすぎ……?

 いや、大丈夫。今探検してる。今見てるからセーフ。


 初めて入る区画にちょっとワクワクしながら睦月の後を歩いていると、睦月は一つのドアを開けて入っていった。


 そこは空き部屋だった。


「……睦月?」


 ……実は睦月はルナと俺達を会わせたくないのでは?


 睦月は俺の問いかけに答えず、そのまま奥へ歩を進める。

 家具一つ置いていない、ガランとした部屋を突っ切り、一番奥に着いた睦月は、入口のドアとは逆側の壁に片手を当てた。

 すると微かな物音と共に壁に穴が空き、からに奥へと続く道が出来た。道はすぐ先が階段になっていろようだ。


「隠し部屋!?」


 やべえ超ワクワクする!


「なんで屋敷の中にこんな仕掛けがあるの…………?」


 メリアさんはワクワクしないらしい。心底疑問、といった様子で睦月に質問していた。

 浪漫でしょ!良く分からん変形機構とか、隠し部屋とか、浪漫だよ!

 うむ。この屋敷を作った人とはいい酒が飲めそうだ。


「回答します。ここより先の区画は、我々ホムンクルス以外は入る必要のない区画となっております。故に普段は目につかないよう、入口を隠蔽してあります」


「いや、仕掛けがある事そのものに対しての答えになっていないような……」


「回答します。男のロマン、だと造物主様は仰っておりました」


 本当に浪漫だった!


 睦月の予想外の言葉に、メリアさんはすごい微妙そうな顔になってしまったが、俺としてはワクワクが止まらない。睦月に目線で先を促すと、睦月は小さく一つ頷いてから、階段を下っていく。


 階段はそこまで長くはなく、二十段くらいで終わった。階段を下りきると、そこには一枚のドア。何の変哲もないドアを開けるとその先は直線の廊下が続いていた。ドアを開けた途端に、独特の刺激臭が鼻を衝く。

 壁や床は白っぽい石で作られており、廊下の左右には一定間隔でドアが備え付けてあるようだ。照明の数は多くないが、壁面が白いおかげか、少し薄暗いかな?といった程度だ。こまめに掃除をしているようで、床には塵一つ見当たらない。


 階段を下りきるまでは高かったテンションが、この廊下を見た途端、急速に下がっていく。

 俺は、前の世界で、ここに似た雰囲気の場所を、見た事がある。


 清潔な廊下。

 一定間隔で続くドア。

 この区画に入った時から鼻を刺激する匂い――――おそらくはアルコール。()()()()()()()()()()


「こちらになります」


 扉の一つの前に立ち、睦月は俺達に言った。


「室内には様々な機材がございます。お手を触れないようお願い致します」


 俺達が無言で頷いた事を確認して、睦月はドアを開けた。


 ああ。やっぱり。


 ここは、病院だ。

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