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第4話 異世界から来た事を伝えたけど何も変わらなかった。

「おねーちゃん! えっとね? 今日は【能力(スキル)】について教えてほしいな?」


 俺の声を聞いた途端、メリアさんは恍惚とした顔をしてビクンビクンッとした。


「ッ!! ……ふう。いいよ! お姉ちゃんがしっかり教えてあげる!」


 俺が何を勉強したいか伝え、メリアさんがビクンビクンしてから知っている事を教えてくれる。

 俺が言葉を話せるようになってからの日課だ。

 ちなみにその都度メリアさんはモード切り替えが発生する。

 何モードかは男性諸君なら良くわかるだろう。あれだよあれ。

 女性にもあのモードがあるのかは知らんが、少なくともメリアさんには存在するようだ。


 今日の勉強は【能力(スキル)】について。


 俺が自分の【能力(スキル)】について確認してから一ヶ月ほど経過している。

 あれから俺は毎日【能力(スキル)】を使い続け、おおよそ個々の【能力(スキル)】の特性は把握できたので、今はその研鑽中だ。


 まず【熱量操作】。

 熱量の移動がかなり高速で行えるようになった。

 能力としての温度変化の限界は存在しないようだが、手で触れた物でしか発動できないため、振れ幅が限られている。

 今は何とかしてその振れ幅を大きくする事と、手から離れた対象の熱量を操作できないか試している。

 案はあるのだがなかなか上手くいかず、ちょっとやきもきしている。


 続いて【魔法適性(無)】。

【魔力固定】は色々試してみた結果、生物以外はほぼ全て作成できることが分かった。

 作成した物体の強度は、どれだけがんばってもイメージ元の半分以下にしかならないようで、そこは残念だが、作成した物体の種類に関わらず、重量が存在しないのはおもしろい。

 先日、ふと思いついて試してみた事が上手くいきそうなのでそれを継続して進めていく予定だ。


【身体強化】については持続時間が判明した。五分だ。

 発動してから五分経つと、前触れもなくいきなり終了する。

 使用する時は、時間管理をしっかりしないと危ないな、これは。

 終了後のクールタイムみたいなものは存在しないようなので、切れたら即再発動すればいいだけだけど。

 持続時間が長いに越したことはないので、なんとか延長できないか模索中だ。

 使用する魔力量を増やして強化率を上昇させる事はできないようだ。残念。


 最後に【金属操作】。

 この【能力(スキル)】では重要な事実が判明した。

『【能力(スキル)】を使用した金属の質量を変更することはできない』ということだ。

 適当な金属(そこらへんに転がっていた剣)を球体にしてみたところ、一定のサイズ以下にすることはできず、逆に、サイズを大きくすることはできたが、それは見た目だけで、中心部は空洞になっている、という感じだ。

 つまり、前回穴を塞いだ鍋は、あれは塞ぐ分の金属を鍋全体から移動して行われたらしく、全体の厚みがちょっと薄くなっていたようだ。

 なので、この【能力(スキル)】を有効的に活用するには、常時一定量の金属を持っていないといけない。

 なかなか面倒だが、それを補って余りある便利な【能力(スキル)】だと俺は思っている。


 という訳で、俺自身の【能力(スキル)】についての理解は深まった。

 だが、この世界にはそれこそ星の数ほどの種類【能力(スキル)】があるだろう。

 世界にはどんな【能力(スキル)】があるか知りたかったんだ。それ故に、今日のお勉強は【能力(スキル)】にしてもらった。


「【能力(スキル)】っていうのはね、この世界で生きる全ての生き物が持つチカラなの。基本、一つの生命に対して一つ【能力(スキル)】を持ってるんだけど、使えるようになるのは、人間族だと十歳くらいからかな?」


 そして、『だからそんなちっちゃいのに【能力(スキル)】が使えるレンちゃんはすごいのよー!』と言いながら頭を高速撫で撫でされた。

 熱い。摩擦熱で髪が燃えそう。


 だが、そんなことより気になる言葉が聞こえたぞ?


「ス、【能力(スキル)】を二つ以上持ってる生き物はいないの?」


 俺は【能力(スキル)】が三つあるぞ?

【熱量操作】と【魔法適性(無)】の二つに関しては、まあ分かる。女神様が『特別に~』って言ってたから、それだろう。

 だけど、【金属操作】はなんなんだ。こっちは女神様も何も言ってなかったぞ。


「う~ん……、私は会ったことないけど、昔、神様の強い加護があると、二つ以上【能力(スキル)】を持てる可能性があるって話は聞いた事はあるねえ。」


 あー、納得した。


 神様と会った場所から追放(そうとしか思えない出され方だった)される直前、女神様が『生命と輪廻の神である私、【レストナードの加護】もプレゼントしちゃいますぅ!』とか言ってたな。それか。


 ……その後に『間違っちゃったですぅ』とか言ってた事も思い出して、ちょっとイラッとした。

 にしても、生命と輪廻の神の加護で手に入れた【能力(スキル)】が金属を操るものって……どうなんだ?


 ま、あの女神様だし、『ああ!? 加護と関係ない【能力(スキル)】渡しちゃいましたぁ!?』とか言っててもおかしくないな。うん。


「なるほどー……。ちなみにおねーちゃんはいくつ【能力(スキル)】を持ってるのー?」


「私は神様の加護なんてないからね。一つだよー。魔法の勉強の時に教えた【魔法適性(火)】だねー。……まあ、体質のせいか上手く扱えないんだけどね……」


 魔法が上手く使えない体質? 魔力がない、とかか?

 いや、【魔法適性】があるのに魔力がないとか、どんないじめだよ。

 ありえないだろ、と思ったが、俺の【能力(スキル)】を決めたのはくじ引きだったな。ありえる、と言えばありえるのか。

 無駄に色々考えるより、本人に聞いた方が早いな。


「どんな体質なのー?」


「え? うーん……。うん、そうね。そろそろ教えておいた方がいいかな? 耐えられると思ってたけど、何度か危ない事もあったし……。知っておいてもらった方が危険も少ない、かな?」


 え? 危ない事って何? そんな危険な体質なの? なにそれこわい。


「そこの桶に水を汲んできてくれるかな? あ、外からじゃなくていいよ。水瓶からで大丈夫」


 メリアさんは、顔を洗うのに使っている桶を指差した。

 言われた通り、水瓶から桶に水を移し、メリアさんに手渡した。


「はい、おねーちゃん。その桶で何するのー?」


「うん……。見ててね」


 そう言いながら、メリアさんは桶の水に指を一本入れた。

 すると、桶の中の水が指の周囲だけ一瞬で沸騰した。まるで超高温の物をぶち込んだかの様に。

 唖然としながら桶を見ていると、メリアさんが口を開いた。いつもの明るく優しい声ではなく、少し硬い声音で。


「これが私の体質……いや、呪い、なのかな? ……二十歳の時だったかな? 急に体温が異常に高くなっちゃってね? あんまり熱すぎて、触れた物は何でも燃えるようになっちゃったんだ。こんなんじゃ、他の人と一緒に生活なんてできないでしょ? だから、それまで住んでいた村を出て、あちこち彷徨った後、偶然ここを見つけて住み始めたの。洞窟なら周りの物を燃やす事もないしね。村には旦那と娘もいたんだけどね……」


『髪と目の色も、その時に変わっちゃったんだ。』と彼女は自分の赤い髪をいじりながら苦笑した。


「で、でも、レンはぎゅってされても燃えてないよ? もう大丈夫なんじゃないの?」


 今まで俺は何回もメリアさんに抱きしめられている。その体温が熱く感じていた事は確かだが、『体温高いなー』と思う程度だった。当たり前だが、俺の体が燃え上がるような事も無かった。そんな事があったら、俺今ここにいないだろうし。

 という事は制御できているんじゃないのか?

 そう思いながらの質問だったが、メリアさんは寂しそうに頭を横に振った。


「いっぱい練習して、ある程度抑える事ができるようになったんだよ。でも、長い時間抑える事はできないの。それでもレンちゃんを抱きしめちゃうのは……レンちゃんってさ、村を出た時の娘と同い年くらいなんだ。当時は五歳だったかな? ……我慢してるんだけど、つい、ね。……ごめんね? 熱かったでしょ?」


「そんなこと……」


 無い訳ではない。確かに抱きしめられた時、熱く感じる事は確かだ。だがそれはあくまで『ちょっと熱い』程度。

 それはつまり、彼女が体温を抑えてくれていたからだったんだ。俺に火傷をさせないように。

 本当はもっと触れあいたいだろうに、それも一生懸命我慢して。


 ああ、俺は今まで、こんな優しい人を騙していたのか。

 俺の身の上について何も聞いてこない、その優しさに付け込み、見た目通りの子供の振りをして。


 俺はそんな自分に耐えがたい怒りを感じ。


 自分の頬を思い切りぶん殴った。


「ちょ!? 何してるの!?」


 メリアさんは俺の行動に愕然としている。そりゃそうだろう。自分の体質について話をしていたら、目の前の子どもがいきなり自分で自分の顔を殴り飛ばしたのだから。


 俺を介抱しようとするメリアさんを手で制した。殴った頬が熱く、口の中は血の味が広がっている。ちょっと強く殴りすぎたが、これは目の前の女性を裏切った自分自身への罰だ。甘んじて受けなければならない。そして、伝えなくてはならない。真実を。


「おねーちゃん……いえ、メリアさん。あなたにお伝えしなきゃいけない事があります」


「な、何? そんないきなり改まっちゃって……。なんか話し方も変わってるし……」


 そりゃそうだろう。今までが演技だったんだから。

 これ以上、この人に迷惑は掛けられない。掛ける事を俺が許せない。


「俺は、女神様……レストナード様に呼ばれ、異世界から来ました」


「……え?」


……


…………


 それから俺は、メリアさんと会うまでの事を話した。いきなり女神様に呼び出された事。そこで【能力(スキル)】と加護をもらった事。もらった【能力(スキル)】の内容。神様との話が終わった瞬間いきなり投げ出されて、気づいたら彼女と出会った場所に倒れていた事。もちろん、俺が記憶喪失などではなく、本当は三十路のおっさんだって事も伝えた。

 もう俺はこの優しい女性に隠し事はしない。


「……という訳です。……俺は、今まで、あなたを騙していました。あなたの優しさに甘えて、子供の振りをしていました。本当にすみませんでした!」


 勢いよく頭を下げた。

 俺は彼女から軽蔑されるだろう。ここから追い出されるかもしれない。だがそれは俺が自分で蒔いた種だ。しょうがない。

 万一追い出されなかったとしても、一通り叱責を受けたらここから出て行こう。彼女だって、今まで自分を騙していたような奴と一緒に暮らしたくなんかないだろう。俺だったら御免だ。しかも見た目はどうあれ、中身はおっさんだし。


 メリアさんは俺の話を最後まで真剣に聞いてくれた。

 そして、俺の頭をゆっくりと撫でながら、


「よく話してくれたね……。ありがとう。いきなり知らない場所に連れて来られて、こんなにちっちゃくなって、性別まで変わっちゃって……。辛かったでしょう?」


 と言ってくれた。


「何もわからない状態で初めて出会った人に、そんな突拍子もないこと言える訳ないよね? ……取り入ろうとするのはおかしい事じゃないよ」


 そこで、彼女はふんわりと微笑んだ。とても優しく、包み込んでくれるような表情。


「だから、騙されていた、とは私は思わない。一生懸命に生きようとした結果、言う事が出来なかった。それだけの事だよ。……それに、私もあなたを『娘の代わり』として見ちゃってた所もあるし、それをあなたに伝えていなかった。お互い様だよ。」


 ……。

 やばい。

 この人、天使……いや、女神だ。

 本物の女神に会ったことあるけど、あれより全然女神してる。

 あの残念美人のメリアさんはどこに行ってしまったのか。


「だから、いままでどおり、『おねーちゃん』って呼んで?」


「……え?」


 ここにいたわ。どこにも行ってなかったわ。

 俺のシリアスを返して!


「い、いや、でも俺、見た目はどうあれ、本当は三十歳ですし……」


「ああ、そんな事? 別に問題ないと思うよ? 私、今年で三十五だし」


 …………。


 ……は?


 三十五歳?


「え……? いや、どう高く見積もっても二十代……」


 普通に十代でも通るぞ。

 俺の驚く様を見て、メリアさんは指でポリポリと頬を掻いた。


「いやー、こんな体になってから、全然見た目が変わらなくなっちゃってねー。むしろちょっと若返っちゃった? まあ、元々童顔ではあったんだけど……」


「…………えぇー」


 変わらないにも程があるだろ。高校生か大学生くらいの年齢だと思ってた相手が三十代、しかも子持ち。

 水浴びの時とかに裸を見たことはあるが、とてもそうは見えなかった。

 さすが異世界。見た目じゃ年齢が判断できないんだな……。


「まあ、そういう訳。実際の年齢でも私の方が年上なんだから、『おねーちゃん』でも問題ないよね? うん、問題ない! むしろあっても関係ない! レンちゃんは私の物!! 出て行こうとしたってそうはいかないからね!」


 俺、いつの間にかメリアさんの個人所有物になってたらしい。

 メリアさんの顔が、女神の微笑みから、人様に見せちゃいけない笑顔に変わっていく。いや、切り替え早すぎだろ……。あ、ハアハアし始めた。

 口に出してないのに、ここを出て行こうとしていた事もばれてるし……。


「いや、百歩譲って年齢的にはそうかもしれないですけど……俺、中身は男ですよ?」


 ほ、ほら! 恋人同士でも結婚してもいない男女が一つ屋根の下ってのは良くないと思うの!


「他人行儀な言葉づかいきんしー!」


「うぐぅ……」


 距離感を保とうと使っていた敬語も禁止されてしまった。


「逆に言うと、体は女の子な訳だよね? ってことはいきなり襲われたりって事はないってことだ? 私は気にしないけど! むしろレンちゃんならバッチコイだよ!」


「いや少しは気にしろよ」


 何がバッチコイだよ。

 つーか、『無い』からって襲えない訳じゃないぞ。少しは危機感持ってくれ。

 ……何が無いって? ナニがだよ、言わせんな。悲しくなるわ。


「と、ゆーわけで、レンちゃんが気にする必要は全くありませーん! そして私としては、これからもレンちゃんと一緒に過ごしていきたいと思う訳です! いかが!?」


 すごい勢いでグイグイ来る。有無を言わさぬ雰囲気。

 やっぱり、この人は優しい人だ。わざとふざけて、俺に回答しやすい空気を作ってくれていた。

 折角作ってくれたんだ。俺もそれに乗ることにしよう。


「はあ……。分かったよ。これからもよろしくお願いします。メリアおねーちゃん」


 ちょっとだけ『しょうがないなあ』という雰囲気を出してからにっこりと笑い、俺はメリアさんのお誘いに同意した。


「んぁッ!! …うん! これからもよろしくね!レンちゃん!」


 メリアさんはビクビクンッとした後、俺をムギュっと抱きしめた。


 ……いい感じに終わりそうだったのに、何ビクンビクンしてるの……。

 しかもなんでちょっとスッキリした顔してるのさ。


 そんな事を考えながらも、彼女の熱い体温と、優しい良い匂いに包まれてちょっと泣きそうになる俺だった。

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[気になる点] 夫、娘がいる村から離れ、この洞窟でどうやって、食べ物など、生活に必要な物を手に入れているのか気になります。
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