第36話 拉致された理由を説明された。
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俺達に対しては『外部に自分たちの情報を漏らすな』と言っていたにも関わらず、自身は組合長にその情報を提供していた。
俺には『人に教えるな』とか言っといて自分はそれかよ…………。
「あー、お前の怒りは尤もだが、あいつは悪くねえぞ。俺が組合長権限で無理矢理聞き出したんだからな」
ジャンの勝手な行動に怒りに震えていると組合長がそんな事を言ってきた。
ん?つまり、情報を出し渋っている冒険者に対して、組織の長が自身の権限を振りかざして、供出させたって事か?
……ふーん?
俺の感情を反映したように、体から白色の魔力が噴き出して部屋の中を白く染め上げる。それと同時に、【熱量操作】によって熱を奪い取られた室内は温度が急激に下がり、温度低下による収縮で部屋の至る所からラップ音が鳴り響く。
「っ!ま、待て、まだ話は終わってない!俺の話を聞け……っ!」
怒りの矛先が自分に向く事は理解していたが、ここまで反応されるとは思ってなかったんだろう。かなり焦った様子で叫んでいる。
凍える程の寒さのはずなのに、組合長の顔は汗でびっしょりだ。
冒険者登録の時に、俺が小型の竜巻を起こした所を見ているはずだから、そこまで驚く事もないと思うんだが……。
まあ、どうでもいい。
俺が〈拡張保管庫〉を作成できる事を知って、周囲の目のない個室に連れ込んだって事は……脅迫かな?
俺とメリアさんがいつも一緒に居る事もバレているだろうし、メリアさんを人質にして、〈拡張保管庫〉の作成を強要。入手した〈拡張保管庫〉を組合名義で売り出して莫大な収入を得る、とかそんな所だろうか。
もしそうなら、組合から抜けないとメリアさんが危ないな。
……抜けるだけで大丈夫なのか?冒険者組合って、確か結構でかい組織なんだよな?
「レン様!」
組合長の行動の理由ついて考えていると、それを遮るように、叫ぶような勢いの声が耳に入った。
声の方向に顔を向けると、寒さの為か、自身の肩を抱いてガクガクと震えながら、必死の形相でこちらを見るクリスさんだった。
「……何」
クリスさんは俺達に優しくしてくれたけど、組合側の人間だ。俺達の味方ではないだろう。
味方じゃないってことは……敵ってことになるんだよな。メリアさんを危ない目に合わせる可能性のある。
そんな気持ちが乗ってしまったらしく、我ながら驚くくらい冷たい声が出た。
クリスさんは、俺の声を聞いた途端に一際大きく体を震わせたが、震えを押し込めるように全身に力を込めてから口を開いた。
「わ、私には、組合長の言った事の、どこがレン様の逆鱗に触れたのか、理解しかねます!……ですが!ですが!まだ組合長の話には、続きがあります!せ、せめて、最後まで話を聞いてから、は、判断していただけないでしょうか……っ!」
……。
ふむ。
確かに、クリスさんの言う事も尤もだ。組合長自身も『話は終わっていない』と言っていた訳だし。
とりあえずその話とやらを聞いてみようか。
完全に敵認定して冒険者組合と袂を分かつのは、話を聞いた後からでも遅くはないだろうし。
「で?話の続きって何」
「あ、ああ……。だが、その前に、へ、部屋の温度を、あ、上げてくんねえか?さ、寒すぎて、口が、回らん……」
呂律が回らないらしく、途切れ途切れにしながら、組合長が懇願してきた。
俺とメリアさんの周囲には温かい空気を循環させているから問題ないけど、この部屋の室温はかなり下がっている。
歯の根をガチガチ言わせながら説明されても聞き取りづらいだけだし、しょうがない。戻すか。
「か、感謝する」
組合長は、室温が戻った事に心底安堵した様子で大きく息を吐いた後、キリッと表情を引き締めた。
「まず最初に、誤解を招く発言をした事を謝罪する。すまなかった」
組合長が頭を下げた。首を巡らせてみると、クリスさんも同様に頭を下げている。
特に反応しないでいると、説明を求めていると判断したようで、焦った様子で頭を上げた。
「まず、組合ってのは、冒険者を管理、保護する組織だ。所詮冒険者っていったってならず者の集まりみたいなもんだし、管理しないとあっという間に暴走するし、そういう集まりだからこそ、厄介な事情を抱えた奴らも集まる。だが組合の資金も人員も有限だ。だから、どいつに、どれだけの規模で、管理や保護が必要かってのを調整する必要がある。そいつを判断するためには、そいつが抱える事情や【能力】について、組合側である程度把握している必要がある。より厄介な背景、より希少な【能力】を持つ奴らを優先的に保護するためにな」
で、それを隠している様子だった俺達の情報を得る為に、ジャン達から話を聞いた、と。
そしてジャン達がなかなか口を割らないから、組合長の権限を用いて無理矢理聞いたっつーことか。
そっか。ジャン達はちゃんと隠そうとしてくれたんだな。
組合長がその権限を利用してきたら、末端の構成員である冒険者は逆らえないだろう。
下手に逆らったら、冒険者としての活動ができなくなる可能性すら有り得るだろうし。
「それなら、なんで俺から直接聞かないの?そういうちゃんとした理由があるんなら、言ってくれれば教えたのに」
「一応それにも理由はある。ジャン達は、現状お前らと一番仲がいい。そういう奴らに教える情報ってのは、『秘密にはしておきたいけど、まあこれくらいなら大丈夫だろう』と本人が考えている程度の情報だ。いくら仲が良くなっても、自身の根幹に関わる情報ってのは話さないからな。で、その公開された情報のヤバさを元に保護の規模を決める訳だ。大体公開された情報よりさらに一段階上の保護をかける。つーかそれ以前に、ほとんど話した事のない相手に重要な情報なんて話さねえだろ?」
「それはまあ……確かに」
「ってことで、これがジャンから無理矢理話を聞いた理由って奴だ。納得できたか?」
「でも、いくらあんたが権限を使って無理矢理話を聞いたとしても、その話が本当とは限らないんじゃないの?」
いくら組合長としての権限を使っての強制的なものだって、相手の心を縛る事は出来ない。嘘を教える事だってあるんじゃないか?
「それはまあその通りだな。だが、組合長である俺がその権限を使ってまで話を聞くって事は、そこまでしなくちゃいけないくらい重要な話って事だ。冒険者としてのレベルが上がれが上がるほど、それが嫌と言うほど分かってくる。あいつは冒険者になって長いし、レベルも高い。だからこそ俺の問いに正直に答えたんだよ」
なるほど。
強引な手段を使ってまで俺達の情報を得ようとしたのは、そういう理由があったのか。
全ては冒険者を守る為。不当な搾取や攻撃から保護する為って訳か。
「……脅すような真似をして、すみませんでした」
放出していた魔力を止めて、俺は頭を下げた。
最後までちゃんと話を聞いていればよかった。これじゃ俺、ただの短気野郎じゃん。
「分かってくれたならいいさ」
その言葉に遅れて、頭の上からパシンッと何かを弾くような音が聞こえた。
疑問に思って頭を上げてみると、メリアさんの手が何かを払った後のような位置にあり、組合長の手が中途半端な位置で固まっていた。
二人の手の位置から推測するに、俺の頭を組合長が撫でようとして、メリアさんがそれを妨害したって感じか?
「…………」
「……おねーちゃん?」
この状況で組合長の手を払う意味が理解できなかった俺は、恐る恐るメリアさんに声を掛けた。
すると、組合長に向けていた冷々とした視線を切り、なにやら決意の籠った視線を俺に向けたと思ったら、力強く俺を抱き締めた。
「この変態!レンちゃんは渡さない!レンちゃんは私が守るんだから!」
「「「…………」」」
「………………え?なに?」
メリアさん。さっきの話、聞いてなかったの……?結構重要で、重い話をしてたと思うんだけど……。
……
…………
「なんだあ、冗談だったんだー!びっくりさせないでよ、もー!」
俺、クリスさん、組合長の三人がかりで説明して、なんとかメリアさんの中での組合長ロリコン疑惑は払拭された。
「………………話、戻していいか?」
部屋に入った時と比べて、五歳ほど老け込んだ組合長がそう切り出した。ご苦労様です。
「元はと言えばお前があんなこと言うからこんなことになったんだろが!」
「あははは……」
何も言ってないのに、考えてた事に対してピンポイントで怒られた。顔に出てたらしい。とりあえず笑っておく。笑っておけばなんとかなる!
そんな俺を見て組合長は大きなため息をついたが、埒が明かないと思ったようで、話を続ける事にしたようだ。
「とりあえず、俺とクリスはお前が〈拡張保管庫〉を作る事が出来て、そのコートのポケットがそうだってことは知ってる。それを踏まえて改めて聞くぞ?お前、あの料理まだ持ってんだろ。出せ」
「はい……どうぞ」
知られてるなら出し渋る必要も理由もないので、素直に〈拡張保管庫〉からクロケットを取り出して、組合長に手渡した。大皿ごと。
「…………こんなにあんのかよ」
「そりゃ、できるだけ沢山の人に食べてもらいたいからね。沢山作るさ」
〈拡張保管庫〉の中にクロケットが入っている事自体は予想していたようだが、量については予想外だったらしい。
ちょっとしか持ってきてなかったら、まず試食会なんて開こうと思わないだろうに。
「……まあ、いい。とりあえず、これは前もってこの部屋に運び込んどいた事にすりゃいいだろ。じゃ、行くぞ」
「え?手伝ってくれんの?」
「俺とクリスが、あいつらの前で美味そうに食っちまったからな。組合の人間も近くにいねえと危険だ」
下手すりゃ暴動起こるぞ?と、ちょっと怒った感じで言う組合長。
いや万一そうだとしても、わざわざ組合長がそんな事しなくても…………あ。
「……手伝ってもらっても、もうあげないよ?」
「…………んなわけねーだろーが」
そんなこと言うなら、ちょっと悲しそうな顔するんじゃありません。
「………………」
クリスさんも、無言のままそんな顔しないでよ。なんで微妙に泣きそうな顔してるのさ……これじゃあ俺が悪人みたいじゃんか。
「お手伝いしてくれるのはありがたいけど、もっと食べたかったら〈鉄の幼子亭〉にどうぞ。お高い料理じゃないし。たっぷり食べられるよ?別の食べ方も出来るし」
「べ」
「別の食べ方とはなんですか!?」
組合長に話してたはずなのに凄まじい食い付き具合でクリスさんが被せてきた。ちょ、クリスさん。めっちゃ顔近い!美人さんだし嫌じゃないけど、ちょっと怖い!
「う、うん。あれ、クロケットっていう料理なんだけど、本来はソースを掛けて食べるんだ。でもソースがべったり掛かった料理って、ちょっと摘まんで食べるってやりにくいでしょ?だから、中のタネの味付けを濃いめにして、ソースを掛けなくても美味しく食べられるようにしたんだ」
「そ、そのソースを掛けるとそんなに違うのですか!?」
「あ、う、うん。クロケットの表面が、ソースを吸って柔らかくなるんだ。ソースが掛かっている所と掛かってない所で歯触りも全然違うから、一粒で二度美味しい、みたいな?」
「一粒で二度美味しい……」
若干引きながらクロケットについて説明してあげると、夢見る少女、みたいな表情を浮かべるクリスさん。
……うわ。ちょっとよだれ垂れてる。
え?もしかして、クリスさんも意外と残念系……?
……まじかー。知りたくなかったわぁ。
自分の言った事にちょっと後悔していると、クリスさんがガッと俺の手を掴んだ。
「さあ、行きましょう!それを配り終われば、試食会が終われば、ここでやることは終わりですよね!?終わったらお店に案内してください!」
「え!?ちょ!?」
「わわ!?」
クリスさんは、俺の手を掴んだままズパーンッと勢いよくドアを開いて部屋から出る。で、地味に俺が服の裾を掴んでいたメリアさんは、クリスさんに引っ張られる俺に引っ張られる形で、バランスを崩しながら一緒に出る。
そして。
「これ、俺が持ってくのかよ……」
組合長は、俺から手渡された大皿を持ったまま部屋に放置される形になった。
「つーかクリス!お前の休憩はまだ先だろうが!何こいつらと一緒に食事に行こうとしてやがる!」
組合長は大きなため息をついてから、俺達を追いかけて部屋を出た。
組合長の言った通り、部屋を出た途端に、揚げ物の匂いに盛大に腹の虫を刺激された冒険者の大群に囲まれる事となり、クリスさんと組合長に守られながら試食会を開く事となった。
そんな勢いで詰め寄られれば、いくら大皿一杯にあろうと大して関係なく、あっという間にクロケットは売り切れ、好評の内に試食会は終了となった。
これ以降、〈鉄の幼子亭〉は冒険者で賑わい、人気店の仲間入りを果たす事ができたのであった。それに伴い日々の売り上げも激増し、無事赤字経営から脱却、毎日そこそこの利益を出す事が出来るようになった。
余談だが、組合長は、幼女、セクシー系お姉さん冒険者、クール系受付嬢という、まるでバラバラなラインナップの女性陣をまとめて部屋に連れ込んだという事で、『ストライクゾーンが滅茶苦茶広い絶倫』、『お眼鏡に適った女性冒険者は悉く密室に連れ込む』等の噂が冒険者の間でまことしやかにに囁かれる様になり、女性冒険者から距離を取られるようになったらしい。
うちの店でヤケ酒してる本人から聞きました。
俺達は悪くない、よね?